表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも彼が好きなので  作者: 三ツ巴マト
5/7

その5

数ヶ月が経ったある日、フローレンちゃんが私に相談を持ってきました。


「あの、実は先日、機会があって、私が育った市井にお忍びで出掛けたんです。幼なじみにあって話をしたりしたんですけど。」


私、それ知っている。逆ハーレムルートを途中まで進むと分岐して出てくる幼なじみルートですね。唯一の平民階級の攻略者で、パン屋の息子だったはずです。二人の間に身分差ができている上に、すでにヒロインは高位貴族に気にいられている状態。二人が禁断の恋の末に結ばれて、駆け落ちするエンドのシーンはゲーム内でも有名でした。


「久しぶりに話したら、やっぱりとっても居心地が良くて。幼なじみの彼にも戻ってこいって言われちゃって。」


「……そうなんだ。」


「それで、思っちゃったんです。私、貴族に向いていないって。平民に戻ってのほほんと暮らしたいって。」


「……人には向き不向きがある。無理しちゃダメ。」


「でも、簡単には戻れませんよね?」


「……生まれによるかも。」


「どういうことですか?」


「フローレンさんのお母さんってご存命?」


「はい!私が言うのもなんですが、一児の母とは思えないほどまだまだ若くて美人な自慢の母です。それで男爵様に見初められたんです!父は私が五歳になったときに死にましたが……。」


なるほど、フローレンちゃんは男爵の庶子ではなくて、お母さんの連れ子だったんですね。ゲームではそのあたり説明してくれなかったから知りませんでした。


「……なら、戻れるかも。」


「本当ですか!」


「……フローレンさんはあくまで連れ子だから、直接貴族の血をひいているわけじゃないでしょ?だから身分は平民のままで行けるはず。男爵に交渉すれば戻れるはず。」


「なるほど!早速相談してみます!」


「……でも、お母さんに会えなくなるかも。男爵がフローレンさんとの縁を切るかもしれないから。」


「えっ、そんなっ。」


「……多分、家出してもそうなる。この国だと、平民から貴族になるより、貴族が平民になる方が外聞が悪いから。フローレンさんは元々平民だから評判は大して悪くならないはずだけど。」


実際、家を取り潰された人の親族がその人と縁を切ったこともあるそうです。


「そうなんですか。母に会えなくなるのは辛いです。」


「……一度、お母さんに自分の気持ちを話したらいいと思う。フローレンさんの気持ちは大切だから。それで、お母さんを交えて男爵と話せばいい。男爵も鬼じゃないから。」


「わかりました!貴族になりきれなくて男爵様に迷惑をかけたくないんです。ちゃんと話し合って、一番いい方法を見つけてみます。」


フローレンちゃんの目に決意の炎がめらっとしました。王子を真っ白にさせたときもこんな感じだった気がする。


「……うん、頑張って。それから、その幼なじみにも相談したらいいと思う。平民に戻った後とか。」


もしかしたらお嫁さんにしてくれるかもよ。


「そうですね!いい人なんできっと相談にのってくれます!」


「……それと、」


「なんですか?」


「……平民になっても、友達。これは私の意思。」


フローレンちゃんに出会って数ヶ月。学園のなかで彼女は逞しくなりました。彼女は本当に純粋な女の子で、攻略対象に取り入ろうとは全然思っていませんでした。本当に良い子でした。


だから、友達になれて幸せでした。彼女が平民になろうとも関係ない。私にとって彼女は大事な友人なのです。


すると、フローレンちゃんは私の手をとると、ぎゅっと握りしめてくれました。


「はい!うれしいです!」


「……また、なんかあったら相談して。私の知識でよければ貸すよ?」


「ありがとうございます!でも、いいんですか?学年次席の頭を。」


「……もちろん。」


ちなみに首席は王子で、ジュークは私とタイで次席。ちゃんと攻略対象は優秀です。それでもフローレンちゃんは四位なので十分すごいです。






結局、そのあとフローレンちゃんは平民に戻ることになりました。周りの理解もあってすんなり認められました。男爵家からは離れますが、お母さんに会えなくなることはないそうです。良かったね。


一度、マライア様達も誘ってさよならの女子会を学園のサロンでしました。学園は貴族しか入れないので、フローレンちゃんは退学します。険悪だった二人もいまじゃ仲良しです。いくら友達とはいえ身分差ができてしまえば簡単に会えなくなるのが、この世界。しばらく会えなくなります。とてもとても寂しいです。




あれ、目の前にジュークがいる。そっか、女子会が終わったあと、私、廊下の隅で泣いてたんだ。ジュークのぬくもりがフローレンちゃんとの別れを思い出させて、余計に泣いてしまいました。


「オリー、帰らなきゃ。」


そう言って、ジュークが背中をさすってくれました。私、今きっと酷い顔なんだろうな。


「馬車に行こう。泣くのは馬車でもできるからね?」


「……うん。」



帰りの馬車で、私はジュークの手を握ったまま、ずっと泣いていました。

フローレンちゃんの口調は友達でも基本的にデスマス調。オレノアはそろそろ言い訳が効かないので口調を戻し始めました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ