その4
さらに、しばらく経ったある日の日の昼休み、フローレンちゃんを見つけてお昼に誘いました。攻略対象に囲まれていましたが、女同士の話がしたいといって引き抜いて来ました。いざとなった時に守れないと訴えてきた王子は、私が守るから、格好つけなくてもいいと言って置いて来ました。
学園には食堂があり、そこで昼食をいただきます。席数には余裕があるので、配膳を待ってから席に向かいます。今日の私のランチは照り焼きチキン定食。この世界が日本のゲームの世界だと思い出されます。フローレンちゃんは魚の煮付け定食。中々渋いですね。
「オレノアさん、どこの席に座りますか?」
「……ん、あそこ。」
「えっ?」
そりゃ、驚くでしょう。私が指した先には攻略対象の婚約者が勢ぞろいしていますから。彼女にとってはいじめてくる悪い人達でしょうから。
「……話、聞いて、すれ違い、多いと、思った。話し合い、必要。意見、共有、必要。しないと、どんどん、関係、悪くなる。」
「そうですか。私、みんなと仲良くなりたいんです!頑張ってお話ししてみます!」
「……頑張って。あと、マライア様達、敏感、だから、名前は、様付けで、呼んでね。」
「わかりました!」
この子、根は良い子なんだよね。こういう一生懸命なところを見ると、純粋な女の子って感じがします。
二人で席に向かうとマライア様達がこちらに気が付きました。
「ごきげんよう、オレノア様。昼食のお誘い、ありがとう。って、あら、フローレンさん?」
ビックリしていらっしゃいます。だって、素直にフローレンちゃんとくるって言ったらはじめから強く当たってきそうだもの。黙っていてごめんなさい。
「……話し合い、大事。私、間、取り持つ。」
「そうでしたの。そういうことなら仕方ありませんわね。どうぞ、お二人ともお掛けになって。」
「しっ、失礼します。」
オドオドしながら座るフローレンちゃんもかわいい。でも、彼女の目は、耐えてみせるという強い気持ちが宿っているように見えます。
「それで、まず、何を話したいのかしら?」
「えっと……。」
「……マライア様が、どうして、フローレンさんに、話しかけて、いたのか、教えて、あげて。あと、フローレンさんが怖がるから、マライア様は口調、気を付けて。」
「えっと、そうね、じゃあ、私の意見を聞いてもらってもいいかしら?」
「っ、はい!」
「まず、私とエミール王子は婚約関係にあるって知っているわよね。」
「えっ、そうだったんですか。」
「そうよ、貴方、そんなことも知らなかったの?!」
「ひっ。」
「……マライア様、その口調、ダメ。責められて、いると、思って、しまう。」
「あら、ごめんなさい。それでね、政略結婚とは言え、彼は婚約者なの。多少の情はあるの。そこで、フローレンさん、もし、貴方に好きな人がいて、その方が他の女性と親しくしていたら、どう思う?」
「ちょっとイラッとします。……あっ!」
「そう、私はそうやって貴方にイラッとしてしまったの。政略結婚だから、多少の浮気くらい見てみぬ振りをせねばならないのだけれど。それで耐えきれなくって、注意しようと、思ったの。」
「そういうことだったんですね。気づかなくてすみませんでした。それと、私は殿下とは何にもありませんから。ただのお友達です。」
「えっ、そうでしたの?」
「はい!」
今のところはね。ゲームの段階では親しくなってきたって感じだものね。相手がどう思っているのか知りませんが。
「では、気を付けた方が良いわ。貴族では、男女の友情はないこともないけれど、とても少ないの。それに王子の友人になれる人間も元々少ないから、そこに恋愛感情があると思われてしまって当然よ。それに貴方が友人だと思っていても、相手は何を思っているのかわからないわ。」
「そうなんですか……。」
「それに、普段貴方は大勢の男の方と一緒にいるでしょう?」
「はい、どうも女子の方とは仲良くなれなくて。今思えば、私の行動を貴族の皆様が気に入らなかっただけだからとわかるのですが。それで、孤立していたときに声をかけてくださるのが男の方ばかりだったので。」
「気に入らない生徒が異性の人気の的になれば、嫉妬の一つもするでしょう。それに最近貴方の周りにいる男性達は私含むここにいる女子生徒の婚約者達で、優秀で、人気のある人達です。貴方にその気がなくても、男をたぶらかす女狐と思われても仕方ありません。」
「うっわー。そう聞くと、私、とんでもない女ですね。」
「ええ、それに貴族って妙に高いプライドがあるから、ますますひどくなるの。ごめんなさいね。」
「いえいえ!マライア様達が怒って当然です!私こそ全然理解していなくてすみませんでした。」
「……和解、できた?」
「「はい!」」
二人の声が重なりました。マライア様以下のご令嬢も、納得できたらしく、首肯してくれました。
「……じゃあ、冷める前に、ご飯、食べよう。」
みんなお腹が空いていたみたいで、そのあとはひたすらフォークとナイフを動かしていました。急いでても優雅なその所作は感嘆いたします。
その後、何回かそのような昼食会をして、フローレンちゃんは令嬢達と仲良くなって行きました。男どもが教えてくれない、令嬢の知識を学べて、フローレンちゃんは喜んでいます。
そして、和解したことを含め、その事を王子達に伝えたとき、
「私、女の子の友達がずーーーっと欲しかったんです!だから幸せです!エミール様ったら、全然女の人紹介してくれないし、マライア様が婚約者だなんてちっとも教えてくれないんですから!私、オレノアさんに紹介してもらえて、本当に良かったです!」
彼女のド天然発言が炸裂しました。遠回しに王子が悪いって言っているようなものですもの。王子は小声で謝りながら頭抱えちゃっています。それを見ていたら、ペシッと軽くジュークにはたかれました。
「……私、何も、悪いこと、してない。」
「そうだね。じゃあ、なんとなく。」
「……ムッ。」
フローレンちゃんは、そんな私達のやり取りに気付かぬまま、語り続けています。
「それで、私、気付いたんです!貴族の女の人って、守ってもらわなくてもいいくらいに強くなければならないってことに。弱過ぎて男の人に守ってもらっているようじゃダメだって。もちろん、全部がそうだとは思いませんけれど。つまり、私、今までぬるま湯に浸り過ぎていました。それによくよく考えればエミール様達と一緒だから、他の子達に嫉妬されていじめられていた訳です!そういうわけで、自分のためにもしばらくエミール様達とは距離を置こうと思います!!それでは!!ついてきたら怒りますから!!!」
おお、言い切りましたね。フローレンちゃんとても清々しい表情です。私もなんだか気持ちがすっきりしました。
ところで、なんで私はジュークの膝の上に乗せられているのでしょうか。いつの間にこんなに体格差ができたのでしょう。
「……ジューク?」
「ねぇ、オリー。フローレンさんの問題を解決してくれたのは嬉しいよ?でもね、男心も考えて欲しかったかな?」
そう言ってジュークが指を指していった先には去っていくフローレンちゃんを目で追っていって、そのまま真っ白になった男達。ジューク、王子を指差すのはどうかと思います。
「……ざまぁみろ、だよ?」
「でも、彼らは一つの大きな春を終わらされたんだよ?」
「……失恋も、経験、すべき。婚約者、大事にしない、から、バチが、当たる、べき。」
「オリーは、はじめから、こうするつもりだったよね?」
「……誰の、せいだと、思って、いる?」
「うっ。」
そうだよ。ジュークのせいですよ。他の男どもも自業自得です。
「……ジューク、許して、あげようか?」
「え、いいの?」
「……但し、条件、ある。」
「えっ何?なんでもするよ!」
翌日、ジュークが右頬をガーゼで隠してきたことは学園中で憶測を呼んだけど、誰もあそこに赤い平手打ちの痕があるとは思っていなかったようです。
オレノアちゃんは前世もちょっとズレた子だったので、不思議ちゃんを演じても、違和感がないのです。