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それでも彼が好きなので  作者: 三ツ巴マト
2/7

その2

いました。ヒロインです。


私は故国に戻り、学園に入りました。正確には転入になります。留学先から戻る際、悪天候等にみまわれ、戻るのが遅くなってしまいました。ジュークに会いたくて、屋敷に到着してすぐに学園に来てしまいました。午後の授業から参加出来ましたが、選択授業だったのでジュークには会えませんでした。


そして放課後に見つけたのです。ふわっとしたストロベリーピンクの髪と垂れたガーネットの赤い瞳はいかにもヒロインという風貌でかわいらしい。彼女の周りにいる人達もカラフルで、王子は金髪碧眼だし、騎士団長の息子は赤髪で、インテリメガネ先輩は緑色の髪です。自分の黒髪が疎ましく思えてしまいます。お手入れは欠かしていないのでツヤツヤサラサラですが、前世とあまり変わらない色なのが気に食わない。どうせなら銀髪とかが良かった。でも、茶髪のジュークの方が地味でしょうか。

ジュークの茶髪が目に入り、しばらくぶりに見る彼がとても愛しく思いました。もう、早く話したくて、


ボフッ


抱きついてしまいました。気がついたら離れていた10mほどをダッシュして、横から彼の首に飛び付いてしまいました。近くに騎士団長の息子がいましたが、今のを止められないようでは王子の護衛として不安です。まあ、それはおいといて、


「オリー?」


それよりもジュークです。久しぶりに顔が見られて嬉しいです。でも彼は突然きた私にヒロインや王子達と同様に驚いているでしょう。でも、ここで普通に返事をしたら、ただの図々しい婚約者です。邪魔だと距離を離されてしまえば意味がありません。なので、


「……ジューク、久しぶり、会いたかった。」


不思議ちゃん作戦。声は出来るだけ抑揚を抑えて、言葉を時々切る。そして、顔はポスッとジュークの体に埋めてみます。ちょっと変な子だと思われればジュークにまとわりついていても、可哀想な目で見てくれるかもしれないし、王子達に口出ししても空気が読めないからしょうがないと思ってもらえるでしょう。


「一年振りかな?少し雰囲気変わった?」


でもまぁ、突然のキャラ変はジュークに違和感を持たれてしまいます。でも安心を、


「……こっちの言葉、話すの、久しぶり。だから、ちょっと変、かも。」


話すの久しぶりでワーカリマセーン作戦。昔からちょっと癖のある私だったので、ジュークは納得したらしく、わしゃわしゃと私の頭を撫でてくれる。…嬉しい、もう一度ジュークに頭でグリグリしておきましょう。

でも、それで全員が納得するわけなくて、


「ちょっと、貴方、だれですか!いきなりジュリアーク君に飛び付いて!失礼じゃないですか!」


ヒロイン様ご登場。プンプンという文字が見えそうな怒り方です。


「……貴方、誰?マライア様でも、スーザン様でも、エリシア様でも、アンジェリカ様でも、クリスティーナ様でも、レベッカ様でも、シャロン様でも、タチアナ様でも、ナディアナ様でもない…。貴方、誰?」


以上9名、この場にいるジューク以外の攻略対象の婚約者様達のお名前です。暗記してます。あなたが誰かわからないという感じで私はコテンっと首を傾げて見せます。婚約者でもないあなたが何でいるの?というのを無垢な雰囲気で伝えるのです。

ヒロインの反応を見ます。彼女が実は逆玉の輿を狙う策略家なのか、ヒロイン転生をした脳内お花畑ガールか、何も知らない純粋な可愛い女の子なのか見分けるのです。タイプによって対応は変えなきゃいけないし、最後のタイプならちょっと助けてあげたい。


ヒロインはじっと私を見て、


「あなたこそ、誰なんです!人に名前を聞くのなら自分から先に名乗れって親に習わなかったの?」


「別に、貴方に聞いてない。」


言われたので言い返したまでです。


「まぁまぁ、落ち着いて。オリー、彼女はフローレンさん。フェーレル男爵家のご令嬢だよ。フローレンさん、これが僕の婚約者のオレノア。デジール伯爵家の子だよ。この前まで隣国に留学していたんだ。」


ジュークが彼女の名前を教えてくれた。フローレンさんか、名前までヒロインっぽい。挙動も今のところ純粋な感じがする。


「……よろしく。」


紹介されたので挨拶はします。


「オレノアさんって言うんですね!ジュリアーク君の婚約者だとは知らなかったんです!ごめんなさい!」


「……わかってくれるなら、いい。ジュークは、私の婚約者。私、ジュークと一緒にいるの、好き。だから、久しぶりに、会えて嬉しかった。驚かせて、ごめんね?フローレン様。」


遠回しにジュークを取るなと伝えてみる。ジュークへの愛もここでいっておけば、堂々とジュークに近づく女豹もいないでしょう。おっ?ジュークがこっちを見てくれない、恥ずかしがってんの?それとも私が鬱陶しいの?でも、黙ったまま再び私の頭を撫でてくれるので、また頭をグリグリしておいた。


「いえいえ、気にしないで下さい。それにフローレン様はやめて下さい、ちょっと恥ずかしいです。」


フローレンちゃん、流石。そこはいい子だよね。


「……じゃあ、フローレンさん。」


「はい!」


「……ところで、どうして、ここにいるの?ここにいる人たち、婚約者様方、いる、から、近づきすぎると、不評買う。」


「えーっと……。」


「オレノア嬢、それについては私が説明しよう。」


ここで、王子がでて来た。サラサラの金髪のアクアマリンの瞳はいかにも王子様な風貌です。


「実はフローレンはいじめを受けているんだ。」


「……いじめ?」


あれか、乙女ゲームのイベント。今はまだそんなに酷くなっていないはずです。


「あぁ、いじめだ。全くフローレンは悪い事をしていない模範生徒だというのに。それで、私達でかくまっているんだ。」


それって余計にいじめが酷くなりませんでしょうか?という思いは心に秘めておきます。


「……それが、事実なら、とても、問題。なんとか、しないと。」


「あぁ、そうだろう。」


「……いじめ、対症療法、ダメ、酷くなる。原因療法、大事。いじめ、解決、手伝う。」


「本当か!ありがたい。」


やったね。これで私はヒロイン側にまわったまま問題の解決に当たれる。これも他の婚約者達のため。私は平和的解決を望みます。そのためにはこっちとも仲良くなければならないのです。


「……ここで、話す、良くない。」


「じゃあ、サロンに行こう。」


学校には生徒が何人かで借りられるサロンがある。個室なので密談にはピッタリですね。





サロンを借りて、みんなで中に入りました。各々備え付けのソファーや椅子に座ります。私はジュークと一緒に二人掛けのソファーへ。フローレンちゃんは王子と二人で向かい側のソファー。


「……フローレンさん、いじめ、具体的に、どんなの?」


「えっと、廊下でキツイ事を言われたり、机の中に脅迫状入れられたり、教科書がなくなったりしました。」


「……そう。」


「あぁ、まったくひどいものだ。フローレンは何もしていないというのに!なんとかフローレンをいじめる奴らに罰を与えてやりたい。犯人の目星はもうついているというのに!」


王子うるさい。そうやって断罪イベント起こすんでしょ。


「……そしたら、証拠、大事。証拠、あると、裁くの、有利。」


「証拠ですか?どうすればいいのでしょう?」


「……これ、メモ帳。使って、いない、から、あげる。」


「えっ、いいんですか!」


私は鞄の中からメモ帳を出して渡します。こういう時のために用意しました。一頁目を捲って、簡単な表を書く。


「……ここに、いじめられた時の、日付、時間、場所、詳しい内容、書く。犯人は、直接やられて、はっきりしている時、だけ、書く。たぶんあの人、は、絶対、ダメ。後、脅迫状、全部とっておく。」


「結構細かいですね。でも、それだとメモは証拠にならないのでは?」


いいこと気づきますね。流石ヒロイン。


「……直接、証拠、ならない。けど、アリバイ、とか、確かめられる。細かい、記録、訴えるの、便利。」


ブラックバイトの対策で、勤務時間の記録をとるのと同じ感じ。


「なるほど!細かい記録はメモでも証拠になりうると!」


「……そういう、こと。次、脅迫状、残して、いる?」


「いえ……。見るたび悲しくなるので捨てていました。残さなければなりませんか?」


「……うん。」


うん、フローレンちゃん、それは馬鹿な行動だと思うよ。まるでそこを突いてくれと言わんばかりの穴ですよ。


「おい!デジール!フローレンがつらくなるようなことをさせるな!」


「エミール様!」


ぎゅっと王子がフローレンちゃんの肩を抱き寄せます。ここで二人の桃色空間作らないで下さい。てか、王子ってエミールって名前だったんだ。あと、王子だけ様付けなんですね。


「オリー?それは脅迫状も証拠になるってこと?」


エミール王子に睨まれていたら、ジュークが助けてくれました。私の目を覗きながら、ちゃっかり手をスリスリ撫でてくれる。昔から、私を落ち着かせる時はこうしてくれるんだよね。惚れ直してしまいます。そして、久しぶりによく見ると、見ない間に顔が成長して、大人っぽくなっています。攻略対象だけあってイケメン。


「……そう。辛くても、我慢した分、証拠。訴える、力に、繋がる。」


「そうですよね!脅迫状を送られたって訴えて、じゃあ証拠を見せろってなった時に、ありませんじゃ説得力ないですものね!わかりました!私、耐えて見せます!」


わー。凄く物わかりが良いですね。


「フローレン!」


王子は黙って欲しいです。不敬罪とか言われそうなので言いませんが。


「……フローレンさん、頑張って。みんな、やって、いること、だから、きっと、出来る。」


「はい!……って、あれ?みんなって、オレノアさんもやっているんですか?」


「……やっている、よ?コレ、メモ。最近、いたずら、減っている、けど。」


私は自分のメモ帳を取り出して、見せました。


「本当ですね!最後の記録は……。え?一週間前、『留学先の寮の自室の前に、蛇の入った箱が置かれる』!!どういうことですか!?」


とても驚いてくれて嬉しいよ。優しいね。私も前世の感覚だったら異常かもしれないけど、今やもう日常なんです。


「……?蛇、野生に、帰した、よ?でも、食べて、みたかった。」


そのせいで、私、最近、色々ずれている気がします。


「食べる……のですか?」


しまった。フローレンちゃん及び王子達が引いている。


「オリー……。蛇なんて食べられるの?」


でも、昔から私を知るジュークは私がちょっとおかしな発言しても優しくしてくれる。そんなところも好きなんです。


「……と、ある地方で、食べて、いる、って、聞いた。飢饉の、対策、なる、かも。」


「なるほど。その勉強のために食べようとしたんだね。偉いね。」


違うよ。好奇心ですよ。でも口には出しませんよ。


「……そういう、こと?」


「じゃあ、オリー、何故疑問符がつくのかは置いといて、その嫌がらせについて教えて?どうしてそんないたずらされていたのに、黙っていたの?手紙を最後に書いてくれたのは四日前だよね?」


「……よく、ある、こと、だから。見れば、わかる。」


私は出したメモ帳をジュークに見せます。表紙に『妨害記録表 No.3423』、そして最初のページの日付が三ヶ月前であることを確認させました。


「オリーはそんなに嫌がらせされてたの?言ってくれなきゃわからないよ?というか妨害ってどういうこと?」


「……ジュークの、婚約者、だから。」


「え?」


「……ジューク、家柄、良い。しかも、嫡男。玉の輿、優良物件。」


「オリー、その言い方は地味に傷つくよ?」


「……それに、最近、眉目秀麗、成績優秀。国内、国外、女の子、嫁ぎたい。親、繋がり、欲しい。双方、意見、一致。余計、嫁ぎたい。でも、出来ない。私、いる、から。」


「そりゃそうだ。婚約者だからな。」


「……それで、思う、アイツ、邪魔。そうだ、やめさせよう。」


「つまり僕とオリーの結婚を妨害しようと嫌がらせがなされるってこと?」


「……そう。でも、婚約者、ふさわしいか、確める、意味も、ある。だから、あって、当然。ジュークと、一緒に、いる、ため、耐えられる。だけど、万が一、のため、記録、とる。小さい、時、婚約、すると、こういうの、多い。」


「理由は、わかった。でも、今度からは僕にも定期的に話してね?僕はオリーを守る義務がある。後、オリーは僕のところに来たいの?」


ずっと撫でられていた手がジュークの手で包み込まれます。顔を覗きまれて、彼の色気にあてられてしまい、一回頷くのが限界でした。あぁ、今頃私の顔は赤くなっているでしょう。



「二人とも?話を戻して良いか?夫婦漫才始めたと思ったら、二人の世界を作らないでもらいたいな?」


パッとジュークが元の姿勢に戻ってくれました。王子、ありがとう。私、このままじゃ耐えられませんでしたよ。たまには役に立つね。


「……話、戻る。それで、みんな、記録、やって、いる。良い家の、婚姻、特に、嫌がらせ、多い、から。」


「それはジュークが人気者だからってことだけじゃないってこと?」


王子、その質問、幼稚ではありませんか?私の発言聞いてましたか?


「……良い家、人気、ある。ターゲット、見た目、気に入らなくても、婚約、邪魔、したい。」


「ターゲットって……。」


「だから、マライア様も、スーザン様も、エリシア様も、アンジェリカ様も、クリスティーナ様も、レベッカ様も、シャロン様も、タチアナ様も、ナディアナ様もやっている。」


「「えっ?」」


声、被り過ぎじゃありませんか?この部屋にいた皆さん、身を乗り出していらっしゃいます。そして口々に、


「そんなの知らない!」「聞いてない!」「そんなわけない!」


馬鹿ですか。


「……みんな、受ける、試練。だから、言うまでも、ない。」


「でも!あいつが、俺を慕っているとは思えない!オレノア嬢が耐えられるのはジュークのためだろ?俺は政略結婚だ!最低限の交流しかしていない!じゃあ、なんで耐えられるんだ!」


叫んだのは騎士団長の息子の赤髪少年。


私、懐は深い方だと思っていますが、ちょっとイラッときてしまいました。


「……何て、こと、言って、る?もしかして、頭まで、筋肉?」


かろうじて、口調は保てましたが、結構声が低くなってしまいました。私のイライラオーラを感じとって、ジュークがまた手をスリスリしてくれます。


「オリー、彼は座学の成績も、優秀だ。脳筋じゃないよ。だから、抑えて、抑えて。なんで怒っているか、教えてくれるかい?」


私、ジュークの頼みは聞く女。長いため息は出ましたが、説明して差し上げましょう。


「……政略結婚、必要、だからする。破棄、なったら、親に、怒られる。家の、ため、維持、当然。それと、私と、ジューク、も、政略結婚。政略でも、夫婦、なる、仲良くする、当然。相手に、歩み寄ろうとも、しないで、政略結婚、語るな。アンジェリカ様も、貴方のこと、それなりに、慕ってくれて、いる、はず。」


「ウソだろう……!」


アンジェリカ様はここで嘆いているやつの婚約者様です。


「……みんな、一生懸命。ないがしろ、したら、怒る。女の子、大事にね?」


私は部屋を見渡して、そう言っておきました。

あとから言われたことですが、この時の私の威圧がとても怖かったそうです。


その日はそれで解散しました。ジュークは帰りを同じ馬車で送ってくれて、いっぱい謝ってくれました。いまいち何を謝られているのかピンと来ませんが、一緒にいられて幸せでした。



言葉使い(敬語とか)、深く考えるのやめました。オレノアが王子にタメ口でも許される!だって学園だから!

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