ロビンとジュリーⅣ(1)
突然座りこんだジュリーを見て、ロビンはワゴンを押す手を止めて、顔を覗きこんだ。
「ジュリー?どうかしたの?今度は顔が真っ青だよ幽霊でも見たの?」
「幽霊ですって?あんたさっき......この城に幽霊はいないって言わなかった?」
「ジュリーは座ったままの状態で、顔だけ上げると、ロビンの目を、ちょっとだけ睨みつけた。」
「うん言ったけど......。でも時々は出てくるんだ。母さんが、この城の中にいない時とか......ハロウィンの日だったりとか......ね」
「もぅーーっ。早くそれを言ってよね。あたし本当は生きてる人間より、幽霊の方が怖いんだから」
「なんだ......そうだったの。それなら大丈夫だよ。ぼくと一緒にいれば怖くないよ」といって、ロビンは座りこんでるジュリーに手を差しだした。
ロビンは、ジュリーの手をとって立たせた。
「ロビンは怖くないの?幽霊が......」
「ぼくには、母さんがいるからね。母さんの目には、まだイライザの力が宿ってるみたいなんだ......。だから、少しも怖くないよ」
「この城には、イライザがやって来るずっと前から、悪い魔女が暮らしてたんでしょう。その人の霊は......この城に住みついたりはしてないの?」
ジュリーは恐る恐る聞いた。
「うん。それなら心配いらないよ。この城は魔女アンジェリカが亡くなってから、長い年月をかけて生まれ変ったんだ。イライザがそう教えてくれたから......だからきっと大丈夫......心配しないでジュリー」
「............」
ジュリーはイライザの声が聞こえたことを、ロビンに話そうかどうか迷っていた。
ロビンあのね......と言いかけてジュリーは思いとどまった。
「この城に現れる幽霊たちは、人間に悪さはしないよ。ただ、この城が大好きで遊びにきてるだけだから」といって、ロビンは笑顔を見せた。
なんて......爽やかな笑顔なんだろう。このままだと......ヤバイかもしれない。ロビンのことをどんどん好きになってしまいそう。
ううん、もう好きになっちゃってるかもしれない......とジュリーは思った。
イライザの声を聞いたことは......ロビンに内緒にしておこうと、ジュリーは思った。
ふたりがレモネードの乗ったワゴンを押して広間に入っていくと、グレーのスーツに身を包んだ女の人が、足早に近寄ってきて、ロビンの耳元で囁いた。
「おそいぞロビン!」
「ごめん母さん。ちょっと手間どっちゃって」
ロビンの母親は、ジュリーにちらっと視線を走らせた。
「ロビン。レモネードを早く、お客様に渡してちょうだい」
ロビンの母親の視線が、今度はしっかりとジュリーを捕えた。
「そこの貴女も、ボーーッと立ってないでレモネードをお客様に、配ってちょうだい」
ジュリーは、あたしのこと?と自分を指さしながら、ロビンの母親を見た。
「そう貴女よ。あなた以外に誰か側にいるの?たとえば幽霊だとか......」
ロビンの母親は悪戯っぽい笑みを、浮かべていた。
ジュリーは心の中で「幽霊だとか......」と呟いてみた。それに気づいたロビンが、心配そうな視線を送ってきた。
ジュリーは明るい笑顔を、ロビンに向けて〝大丈夫だよ〟のサインをロビンに返した。
観光客を乗せたバスが城を去った後、ロビンの母親がヒールの音を響かせながら──
ジュリーの所へやって来た。
ロビンの母親は、片方の耳にだけピアスを付けていて、それはとても素敵なピアスだな。と、ジュリーは思いながら近づいてくるロビンの母親を見ていた。
「貴女、さっきの子ね。貴女名前は?」
「ジュリーです。ジュリー・ハウエン」
「そう、ジュリーね。ジュリー先程はありがとう。とても助かったわ。私はロビンの母親のドナ。ドナ・ウェストールよ」
ドナはスカートの下から見える両足を大きく広げて立つと、胸の前で両腕を組みながらいった。
とても......ロビンの母親とは思えない......。
さっきは、あのピアスがちょっとだけ素敵かもと思ったけど、あれはなかったことにしようと、ジュリーは思った。
ちょっとカッコイイとこもあるけど......目の前で腕組みして立っているこの女の人が、ロビンのお母さんじゃなかったら......きっと、あたし今頃ここから飛び出していってると思う......。
ドナは真っすぐに、ジュリーの目を見てきた。
ジュリーは(なるべく)、ドナと目を合わさない様にと(皆が知ってる方法で)眉毛と眉毛の間を見ることにした。
「それで、ジュリー、あなたはいつ頃学校に戻るのかしら?」
ジュリーは思わずのけ反った。
「いつ頃って......まだ決まってないけど......」
ジュリーは思わず返事を返した。
なんなのよ......この人。あたしは〝登校拒否〟してるのよ。いつ頃戻れるかなんて......そんなこと......あたしにも解らないわよ......。とジュリーは心の中で叫んでいた。
「じゃあ、貴女、学校へ戻る日が決まるまでの間フリーってわけね」
「ええ......確かに......そうだと思います」
ジュリーは意地悪そうに体を動かすと、どこかにロビンの姿が見えないかと、周りに視線を泳がせた。
ロビンは母親の斜め後ろから、こちらに向かって歩いてきているところだった。
ロビン!ジュリーは、さりげなくロビンに視線を送った。
ドナはジュリーの顔に、自分の顔を近づけて「貴女、綺麗な目をしてるのね」といった。
ドナの目は、この瞬間、イライザからもらった目なのだと、ジュリーは確信した。
イライザの目は、ドナの目を通してジュリーの心の奥深くを、覗きこんできた。心の奥深くを、覗きこまれてジュリーはたじろいだ。
「母さん!」ロビンが怒った声を出した。
「あら、ロビン」
ロビンの姿を横目で見た後、ドナはすぐにジュリーの方へ顔を向けた。
「あらっ、ごめんなさい......。驚かせちゃったわね」
ジュリーの目頭に浮かんだ涙を見て、ドナは、すまなそうな顔をした。
「この目のこと......ロビンに聞いてなかった?この城に住んでたイライザから貰ったものなの。私の両目は魔女と呼ばれた少女のものなのよ」
「ええ......その話なら、ロビンから聞いてます。あなたは......怖くないんですか?魔女の目にはまだ少しばかり、魔力が残っているって......ロビンから聞きました」
ジュリーは、やっとの思いでそれだけいった。
「怖くはないかって、聞いてるの?」
「は......はい」
ドナは、声をたてて笑った。
「私はね......イライザに目を貰うまでの間......暗闇の中で生きてきたの。光ある世界へ戻れたのは......イライザのおかげなのよ。この目はイライザが私にくれた最初で、最後のプレゼントだと思っているの。イライザにはとても感謝しているわ......。だから、怖いはずないでしょう」といってダナは笑った。