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ニケ ー猫の時代ー  作者: 森島小夜
第一章
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ロビンとジュリーⅡ

 ジュリーは汗で貼りついたTシャツを肌からひき離す為に、バラの繁みの前から立ち上がった。

そして思いっきり背伸びをすると、斜め後ろにいるロビンに顔を向けた。

ロビンの額から流れ落ちる汗がキラリと輝いて、ジュリーは目を伏せた。

「ねぇロビン。ちょと休憩しない?」

「ぼくはいいよ」

ジュリーはさっきも休憩したことを思い出しながら、せっせと手を動かすロビンの横顔を見つめた。

「あんたは、疲れないの?」

「今日は、君が手伝ってくれてるから大丈夫かな」ロビンが微笑んだ。

ジュリーは戸惑いながら、ロビンに頬笑みを返した。

「ねぇロビン。このお城もこの庭も、昔は全部『魔女』のものだったんでしょう」

「うん......。今は僕たちの()だけどね」

「魔女は......どうしてこの城を、あんたたちにあげようと思ったのかな」ジュリーがいった。

「それは......」ロビンは口ごもった。

「それは?」ジュリーが聞いてきた。

「長い話になるけど......」ロビンは手を休めずにいった。

「その話聞きたいな」

「今は無理だよ。まだ仕事が終わってないから」ロビンは眉をひそめた。

「じゃあ終わったら、その話を聞かせて」

「うん......いいけど」ロビンは気のない返事を返した。

「あたし、ちょっと休憩するね」

ジュリーはそう言いながら、バラの繁みに近づいていった。

ジュリーはバラのつぼみに、訳の判らない挨拶をして回っていた。

「このつぼみ......もう少ししたら、白くて綺麗な花を咲かせるのね。あたし、あんたが咲く瞬間を見ていたいわ」

ジュリーはうっとりした顔で、バラのつぼみを眺めた後、開きかかったバラの花びらにくちびるをあてた。

ロビンの視線は、偶然にも、その瞬間を捉えた。

ロビンは手を止めて、ジュリーのくちびるとバラのつぼみを見つめた。見られていることに気づいたジュリーは、はにかんだ笑顔を見せながらロビンを呼んだ。

「ロビン、この()()()、夕方か明日の朝には開くわよ」

ジュリーの顔は、日の光をあびて、キラキラと輝き、ジュリーの亜麻色の髪は、肩で波打ちながら風に揺れていた。

ジュリーの瞳は、まっすぐにロビンに向かって注がれていた。

「風が......出てきたね」ロビンは照れくさそうな顔をして、ジュリーの側へやってきた。

「これは、なんてバラ?」

ロビンはさっきまで、ジュリーのくちびるが触れていた、バラのつぼみを指さしていった。

「きっと、オールドローズの一種ね。オールドローズはほとんどが一季咲きと春と秋の繰り返し咲きなのよ。あと四季咲きもあって、原種に近いのよ。花の形や花の色が、とても美しくて、香りだってとってもいいの......。こっちのバラはフェンスやアーチ仕立てにすればとても綺麗だと思うな」

ジュリーはうっとりした顔でいった。

ジュリーは......きっと、いい庭師になれるかも......とロビンは心の中で思った。

「ぼくはこっちのバラの方が好きだな。これもオールドローズなの?」

「そうね多分。このバラは茎の部分が小さなトゲでびっしりと覆われてるから要注意ね。小さな子が手で触れたりしたら危ないわよ」

ロビンは感心した様に、ジュリーを見つめた。

「君って...優しいんだね」

「うん。よくそういわれるんだあたし」

「えっ、誰に?」

「あんたにね、今言われた」ジュリーは照れくさそうな笑顔を向けていった。

「......ぼくに」ロビンは何故か顔を赤らめた。

「そう、あんたにね。今言われた」

ジュリーは悪戯っぽく笑った。

「ねぇロビン、あんたも知ってると思うけどリルケって......バラのトゲに指をさされて、死んじゃったんだよね......」

リルケなんて子、近所にいたかな......とロビンは心の中で思った。

「バラはちっとも悪くないのに。リルケだってバラにトゲがあることを知ってた筈なのに......どっちも可哀想だと思わない?」

「どっちもって?バラもリルケもってこと?」

「ええ、そうよ。トゲにさされて破傷風で死んじゃったリルケも......トゲだらけのバラも......どっちも......」

「君って......詩人なんだね」

「あたしが、詩人?リルケみたいに?」ジュリーは目を丸くしてロビンを見つめた。

「そんなこと言われたの初めてだし、あたしにそんなこと言ったのも、あんたが初めてよ」

「君って、なんだかややこしいんだね」

「......あたしのこと、嫌いになった?」

「ううん、ちっとも。君とのおしゃべりは楽しいよ」

「あたしも......あんたとのおしゃべりは楽しい」


 バラの繁みが楽し気に揺れて、一匹の猫が姿を現した。サファイアの様な青色の瞳をした猫は、全身まっ黒で、ふさふさしたしっぽをピンと立てるとロビンの足元に擦り寄った。

「サファイア」

猫はロビンが名前を呼ぶと同時に、腕に抱かれて喉を鳴らした。

ジュリーは目を輝かせ、ロビンに抱かれたサファイアの体に触れた。

サファイアはジュリーをチラッと見た後、何事もなかったかの様に、ロビンの腕の中で毛づくろいを始めた。

「この子の名前はサファイア。ニケの子供だよ」ロビンはいった。

挿絵(By みてみん)

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