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ニケ ー猫の時代ー  作者: 森島小夜
第二章
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魔法猫のサファイアⅡ

 図書室の窓から、柔らかい日差しが入りこんできた。ロビンは差し込む日差しに目を細めた後、ジュリーを見た。そしてサファイアの話を始めた。


 「サファイアは、ニケとイライザが亡くなった日から、まったく姿を見せなくなってたから、ぼくたちはとても心配だった。そんなある日母さんがバラの繁みの下でサファイアを見つけたんだ。サファイアのしっぽを最初、大きな毛虫だと思った母さんは、ほうきでバシバシ叩いたらしいんだけど......。

毛虫が少しも動かないから、毛虫だと思っているサファイアのしっぽを(大胆にも)素手で掴んでバラの繁みの中から、引きずり出そうと考えたらしくて......」

「本物の毛虫だったら、新種発見ってことになって大騒ぎしてるわね」

ジュリーが口をはさんできた。

「もし本物の毛虫だったら、母さんの手はグローブより大きくなってると思うけどな」

「グローブですめばいいけどね」ジュリーはおお怖い!といった仕草をして笑った。


 「ひきずり出して見てみたら、それは大きな毛虫じゃなくて、弱りきって今にも死にそうな顔をしたサファイアだった。母さんは、そのままサファイアを腕に抱き抱えると、一目散に病院まで駆け出して行ったんだ......」ロビンはため息を漏らした。

ジュリーは驚いて、身を乗り出した。

「サファイアは、あれから何日もの間(ニケとイライザが亡くなってから)食べ物を口にしてなかったみたいで......病院で点滴をうってもらった後、母さんはサファイアを家に連れて帰り、ぼくのベッドの上に寝かせたんだよ。ぼくはその日、サファイアを捜しにあっちこっち、ウロウロしていて、疲れきって......部屋のドアを開けるのもしんどい位だったのに、ドアを開けた瞬間、痩せ衰えたサファイアの姿が目に飛び込んできて......ぼくの体は恐怖で震えがとまらなくなって、その場で気を失っちゃったんだ......」

ジュリーが、やれやれといった顔をした。

「あの時ぼくは、六歳の子供だったからね......サファイアが死んでると思ったら、とても怖くて体中の震えがとまらなかった。気がつくと、ぼくはサファイアと一緒にベッドの中にいて、母さんはぼくの涙を拭いた後優しく抱きしめてくれた。

「ロビン......。サファイアはとても疲れてるの......大事な人達を、ふたりもいっぺんに亡くしたから......どうしていいのか、わからなくなってるのよ。でも、サファイアには、ロビン......貴方がいるわ。私もいるわ。

サファイアが元気を取り戻したら、きっとそのことに気づくはずよ」と母さんは言ったけど......母さんの目は、とても辛そうだった」

ジュリーは思わず、涙ぐんだ。

「母さんはぼくに「今は、このまま寝かせてあげましょうね」と言って、ぼくの部屋から出ていった。ぼくはベッドから起き上がると母さんの所へ行って、サファイアの為に、魚の干したのを用意してもらった。サファイアが目を覚ました時、すぐ食べれる様に枕元に置いててもいい?てぼくが聞いたら母さんは「ええ、いいわよロビン」て言ってくれたんだ」

「ロビンの母さんて......なんて優しいの......」ジュリーは母さんよりロビンの方がずっと優しいと思っていたが、照れくさくなりロビンには言わなかった。ジュリーは手の甲で涙を拭きながらいった。

「ねぇ、ロビン。話の続きがあるなら、もっと聞かせて。サファイアのことが知りたいの」


 ──サファイアは、眠りの中でニケとイライザにかこまれていた。イライザが魚の干したのを、皿にのせて目の前に置いた。

ニケがいった。この魚はお前のものだ。全部食べてもいいんだぞ。

サファイアは「わぁーーぃ」と声を上げながら飛び起きた。ベッドのよこで、うたた寝をしていたロビンが目を覚ました。

「ロビン......ここはどこ?」

「ぼくの家だよ。ここはぼくの部屋。お城みたいに広くはないけど、ぼくのベッドは寝心地が良かったでしょ」

サファイアはロビンの顔から、魚の干したのへと視線を移した。

「これ......全部食べてもいい?」

「うん。サファイアの魚だよ」

サファイアはまるで野良猫のような、唸り声を上げながら、魚の干したのを食べ始めた。サファイアの目頭が、キラリと光った。

お前は猫が泣かないとでも思っていたのか。ロビンの心の奥で......ニケの言葉が聞こえた。ニケ......猫も泣くことがあるんだね────


 黙って聞いていたジュリーは、椅子から立ち上がると、図書室の窓から見える、庭のバラに目を向けていった。

「ここからは、サファイアが隠れていたバラの繁みがよく見えるわね」

ロビンも立ちあがって、ジュリーの側までいくと「あの場所は、ニケのお気に入りの場所だったんだよ。ニケがでて行った後......

イライザはこの窓から、下の庭を見て、バラの繁みに隠れているサファイアに声をかけたんじゃないかと思うんだ。

サファイアは空を飛べるから、イライザに呼ばれたら、すぐにこの部屋へ入ってこられたし、それでこの図書室を気に入ってるんじゃないかな。サファイアの一番のお気に入りの場所は、君が今立っている場所だよ。この場所からだと、庭に咲きほこるバラが見渡せて、窓からは、バラの香りが入りこんできて、図書室をバラの匂いでいっぱいにしてくれるんだ。......ぼくも、サファイアも......この場所が大好きなんだ」とロビンはいった。

ジュリーは、ロビンが話終わるのを待っていたかの様に「あたしも、このばしょが好きよ」と言って、ロビンに微笑みかけた。

「ねぇジュリー。イライザの集めた本を見たかったら、あの()を手で押すといいよ。扉が開いたら、城の本当の図書室がそこにあるから」


 ジュリーは窓から離れて、ロビンの指さした方へ近づいた。ジュリーが()を手で押すと扉のきしむ音が聞こえた。開いた扉が、ジュリーの体を図書室へと押しこんだ。


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