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ニケ ー猫の時代ー  作者: 森島小夜
第一章
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ロビンとジュリーⅥ

 いつもの様に、ロビンとジュリーは庭の草取りに精を出していた。

この所、ロビンの母親が留守がちなので、ロビンとジュリーは大忙しだった。そんな日に限って、ツアー客が訪れたり(前もって、分かってはいるのだが)観光客が波の様に押し寄せてきた。

ふたりとも、くたくただった。

「ごめんよジュリー。ここ数日忙しすぎだねバイト代を出してあげられたらいいんだけど......この城を維持するだけで、精一杯なんだ......」

ロビンは力なくいった。

「気にしないって。あんたが謝ることじゃないから」ジュリーは笑いながらいった。

「でも......ジュリーは働きすぎだと思うんだ」

「それを言うなら、あんたも一緒でしょ」

「でも......ここはぼくの()だし......」

()()はね......あたしの居場所なの。だから......()()は、あたしの城でもあるわけ。だから働くのは当然のことなの」

ジュリーは白い歯を覗かせて笑った。

その時ロビンは、ジュリーの笑顔は、なんて素敵なんだろうと思った。

「なあにロビン?あたしの顔に何かついてる」

「ううん。君の笑顔が素敵だったから......つい」

「......えっ......」

ジュリーは、頬を赤くしながらロビンを見つめた。ロビンてば......女の子のハートを射抜く様な言葉を、さらっと口にだすんだから。

これって、天性のものなのかな。ロビンの言葉にはいつだって裏表はないし......心に思ったことをさらっと口にだせるなんて、ロビンじゃなきゃ出来ないわね、きっと。とジュリーは思った。

ジュリーが、いつまでも目を離さないでいるので、今度はロビンがドキドキしてきた。

「ジュリー、あんまりぼくのこと見ないで......」

「えっ、どうして?」ジュリーはからかう様な目をして、ロビンに近づいて行った。

ロビンは一歩横にずれた。

ジュリーが、さらに一歩近づいた。

ロビンがまた一歩横にずれた。

ジュリーは近づくのを止めて、叫んだ。

「ロビン!あんたって小学生?あたしが近づく度に、一歩ずれてくなんてありえない。小学生どころか、学校にも通ってない小さな子供みたいよ」

ジュリーは言ってから、すぐに後悔した。

ロビンの落ち込みようが、手に取る様にわかったからだ。

「あっ......ロビンごめんね......あたしってすぐに余計なことを口にしちゃうから......」

「いいんだよ......ぼくが学校に通ったことがないのは事実だし......君が気を使う必要なんてないよ」

「ロビンてば......ごめん......謝るから許して」

「......許してあげない」

「えっ......」

ロビンの意外な返事に、ジュリーは戸惑った。

「あたしのこと......許してくれないの?」

「うん。でもぼくに冷たい飲み物を渡してくれるなら、許してあげるよ」

ジュリーは〝ぱっ〟と顔を輝かせて、ナップサックの中へ手をすべりこませた。

ロビンの手に冷たいレモネードを手渡すと「ありがとうジュリー。君は本当にいい子だね」といって、ロビンは笑った。


 立場が逆転したことに気づいて、ジュリーが笑った。

「あんたには、かなわない」

「ぼくだって、君にはかなわない」

ふたりは顔を見合わせて笑った。

しばらくしてジュリーがいった。

「ねぇロビン。気づいてた?」

「えっ、何に?」

「ロビンのお母さん......まだ教師の仕事をしたいんじゃないかと思って」

ロビンは一瞬、驚いた顔でジュリーを見た。

「......そうだね。母さんは、教師になるのが子供のころからの夢だったって、言ってたから......そうかもしれないね」

ロビンは力なくいった。

「ねぇロビン。お母さんにまた学校へ戻ってもらうこと、出来ないの?」

「......」

「あたしに「あなたには何が出来るの?」って聞いてきた時の、あの人の目はキラキラしてたわ。ロビンのお母さんて、人に教えることが大好きな人なんだと思う。根っからの教師体質だと思うの」

「......」

「ねぇロビン。それって素敵なことじゃない」

「......」

「ロビン。どうしてさっきから、何も言ってくれないの?」

「......ジュリー」

「何?なに?なんでもいいから聞かせて」

「母さんはきっと......無理だと思ってるよ......あんなことがあったし......街の人達は母さんの復帰を喜ばないんじゃないかな......」

「えっ......なに?あんなことって......イライザから目を貰った他にも、まだ何かあるの?」

「............」ロビンは黙ってしまった。

ジュリーは〝あんなこと〟がどんなことなのか、ロビンから聞きだしたかったが、ロビンの様子がいつもと違ったので、今回は聞かないことにした。


 暑い日差しの中で、ふたりは黙々と草むしりを続けた。ジュリーはふいに、息苦しさを感じて胸に手をおいた。

暑さのせいかな......と思いたかったけれど......ジュリーは、この息苦しさが、熱い日差しのせいだけじゃないことを感じていた。

ロビンの背中を見つめながら、ジュリーは一抹の不安を覚えた。




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