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ニケ ー猫の時代ー  作者: 森島小夜
第一章
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ロビンとジュリーⅤ(2)

 ロビンが突然「これから君の母さんに、会いに行こう」と言いだした。

ジュリーは、パンケーキを食べるのが先よといった。

「君の母さんが、君の言った通りの人なのかぼく、会って確かめたいんだ」

「ロビン!確かめる必要なんてないから」

「ねぇジュリー。コンビニにコーラを買いに行こう。この城には自動販売機が置いてないから......たまにはコーラもいいかなって」

ロビンの笑顔に、抵抗なんて出来る筈がなかった。

ジュリーはロビンの手を取ると「いいわよ。あたしの母さんに会わせてあげる」と言うなり駆けだした。

「ジュリーちょっと待って。城の玄関、開いたままだよ......」

「大丈夫よロビン。あんたの母さんが、鍵を閉めるとこ、あたしちゃんと見てたから」

「えっ......」

ロビンは感心して、ジュリーの横顔を見た。

ジュリーは茶褐色の髪を、肩の上でなびかせながら、口元には微かな、笑みを浮かべていた。


 ジュリーの母親は、ジュリーが言ってたよりは太っていたし、ジュリーより、もっと背の低い女の人だった。ジュリーと同じ様に白い歯を覗かせて笑った。そして客が店に入ってくると「いらっしゃいませ」と、愛想のよい笑顔を客に向けた。

「君の母さんは、客の相手が上手いね」

「まぁまぁだと思うけど」

「君に似て、笑顔が素敵だね」

「それは、ちょっと認めるけど」

ジュリーの母親は、次々に入ってくる客と話しながら接客もこなしていた。

「君の母さんて、客に人気があるんだね」

「そうかな......この店長いからね」

「長いって、どれ位?」

「そうね......あたしと父さんを捨てて、家を出て行ってから、ずーーーーっとね」

ロビンとジュリーは店内のイスに腰かけアイスクリームを食べながら、ジュリーの母親を観察していた。

ジュリーはアイスクリームを一口舐めてから「ロビン。はやく食べないと、アイスが溶けちゃうよ」といった。

「ねぇジュリー。ちょっと聞いてもいい?」

「なんでもどうぞ」といって、ジュリーはアイスを一口舐めた。

「君の母さんの恋人は、今どうしてるの?一緒に暮らしてるの?」

「そんなわけないでしょう。そいつとはすぐに別れたんだって。よくある話よ。それから、ずっとこの店で働いてるの。食べてく為には仕方ないでしょ......選り好みなんてしてられないしね」

「ぼくは、この店が好きだよ。母さんがイライザから目を貰って、目が見える様になったとき......ぼくと母さんが一緒に入った店がこのコンビニなんだよ」

ジュリーは驚いて、跳び上がりそうになった。

「じゃあ、じゃあ、もしかしてあたしの母さんとも会ったことあるの?」

「うん、そうだよ。ぼくとぼくの母さんが初めて店に行ったとき、君の母さんに勧められたのが、()()アイスクリームなんだ」

ロビンは言い終わると、()()のアイスを口にほおばった。

「ロビンてば、なんで教えてくれなかったのよ」

「それは無理だよ。だってその時、あの人が君の母さんだなんて、ぼくは知らなかったんだから」

「ああ......そうか。そうよね。あたしって......すっごーーくまぬけ」ジュリーは笑いながら、アイスを二口舐めた。

ジュリーの笑い声を耳にして、ジュリーの母親の目が細められ、口元に笑みが浮かんだ。

ジュリーの母さんて......ジュリーに似ていい人だなと思いながら、ロビンは最後のアイスを口の中に入れた。

「アイス、おいしかったね。またふたりでここにこよう」

「うん......そうだね」

ジュリーはイスから立ち上がるとき、ちらっと母親に視線を送った。ジュリーの母親は、客に釣銭を渡すと同時に、ロビンとジュリーに声をかけてきた。

「ジュリーまたおいで。その子と一緒にね」母親に声をかけられたジュリーは、眉間にしわを寄せながら、ドアが開くのを待ちきれないといった顔をして、足早に店を出て行った。ロビンも、あわてて店を出た。

ジュリーは店から数メートル先まで歩いていた。

「ジュリー待って!そんなに急がないでよ」

ロビンは、なかば走る様にして、ジュリーに追いつくと、「もしかして......ご機嫌ななめのジュリー?」と息をきらしながら尋ねた。

「ええ、そう。お客の前で、あんなこと言うなんて、デリカシーがないんだから」

「どうして?」

「どうしてって?あんたには解らないの?」

「うん、解らないよ。君の母さんは、君に挨拶しただけじゃないか」

ジュリーは呆れた顔でロビンを見つめた。

「あんたって......本当に嫌になる位、いい子ね」

ジュリーは笑顔をみせた。

「ご機嫌がなおったみたいだね」

「ええ、そうよ。たった今ね。あんたと話してると調子がくるっちゃう......」

「えっ、そうなの。気がつかなくてごめん」

「謝らないでよ。あんたは悪くないんだから悪いのは......あたしなの......ちょっとしたことで怒ったり、急に悲しくなったり淋しくなったりして......自分でもどうしてなのか......よく解らない............」

「うん......そうだね。ぼくも時々だけど、とても悲しくなるときがあるから、君の気持ち少しなら解るよ」ロビンはいった。

「ロビンあんたって最高」ジュリーはいった。

「ジュリー......」ロビンは照れ笑いを浮かべた。ジュリーは突然、ロビンの首ねっこに腕を回すと思いっきり抱きついた。

「ジュリー......恥ずかしいから、その手を離してよ」

「あたしは、ちっとも恥ずかしくないけど」

「でも......ぼくは恥ずかしいんだ」

道行く人の、クスクス笑いを耳にしたジュリーは、あわててロビンに巻きつけた腕を離した。「わかったわ......ロビン。あたしも、ちょっとだけ恥ずかしいかも」

ふたりは、顔を見合わせて笑った。

「ジュリー、急いで帰らないとパンケーキを食べる時間がなくなりそうだ」

「えっ、まだ食べるの。あたし、もうお腹いっぱい」ジュリーは満足気な声でいった。

「駄目だよジュリー。全部食べてしまわないと......母さんに怒られる」

「じゃあ、怒られちゃえば」といって、ジュリーは笑った。

「君って......ちょっとだけ意地悪な所があるね」ロビンは眉間にシワを寄せていった。

「今頃気づいたの?ロビンて気づくのが遅いんだから」と言うなり、ジュリーは駆けだした。

「歩いてる暇なんてないよロビン。ツアー客に出すレモネードも作んなきゃならないんでしょう」

ジュリーはロビンの前から、どんどん遠ざかって行った。

ジュリーって走れたんだ......ぼくは走るのは苦手だけど......と思いながらロビンは、遠ざかって行くジュリーに「待ってよ」と手を振り叫んだ。

ロビンはコーラを買い忘れたことに気づいた。コンビニに引き返したい衝動を抑えながらロビンは、必死でジュリーの後を追って走り始めた。






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