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ニケ ー猫の時代ー  作者: 森島小夜
第一章
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ロビンとジュリーⅤ(1)

 ロビンの母親に認めてもらったジュリーは毎日城へと出かけて行き、城の庭でひがな一日、ロビンと共に過ごしていた。


 ジュリーは、ますますロビンのことが好きになっていた。ロビンは相変わらず、さわやかな笑顔をジュリーに向けていた。

「ジュリーおはよう。今日もはやいね。朝ご飯は食べてきたの?」

「あっ、まだだけど大丈夫。近くのコンビニでおいしいサンドイッチを買ってきてるから」

「そう......残念だな。母さんの作るパンケーキはもっとおいしいんだけど」ロビンがいった。

「それって、あたしのこと朝食に誘ってるの?」

「もちろん、そのつもりだけど」といってロビンが笑った。

「わぁー、ありがとう。喜んでいただくわ。コンビニのサンドイッチは昼食に食べることにするわ」

ジュリーは白い歯を覗かせて笑った。

「それじゃ、仕事を始める前に、朝ご飯にしようよ」

「ええ、そうね」

そこへ、ドナがこっちへはやく来る様にと両手を上げて大きく振りかざしているのが見えた。

ロビン!ロビン!と、母親は大きな声で名前を呼んでいた。

「今そっちに行くから、大きな声で呼ばないでよ」ロビンは照れくさそうな顔でいった。

ロビンは急ぎ足で母親に近寄ると「なあに母さん」と聞いた。

「ロビン、あなた達ふたりに頼みたいことがあるの。いいかしら?」

「ジュリーとぼくに?」

「ええ、そうよ。母さん午前中に急な用事が入ってしまって......午後の一時位にツアー客が訪れる予定なの。ふたりにお客様の相手をしてほしいんだけど。いいかしらジュリーお願いしても?」

ドナは、イライザの両目をキラキラ輝かせて「NO(ノー)」とは言わさない雰囲気を、プンプン漂わせながら聞いてきた。

「え、ええもちろん。あたしとロビンのふたりに任せてください」

母親はロビンの方に向き直ると「母さんなるべくはやく帰ってくるから、お客様のことをお願いね」といって微笑んだ。

「母さん、どこへでかけるの?」

「それは内緒よロビン」母親は、ジュリーの方にちらっと視線を送りながらいった。

「それじゃロビン、母さんもう行くわね」

ドナは、待たせていたタクシーに走りこむと、窓から顔を覗かせてロビンの名前を呼んだ。

「ロビン!おみやげは、あなたの好きなマカロンよ」ドナを乗せたタクシーは、あっという間に、城から遠ざかっていった。

「母さん......声が大きいから」

ロビンは呟くようにいった。

「ロビンのことが大好きなのね。ちょっぴり......羨ましい......かな」

「ジュリーの母さんは、何をしてる人?」

「なにも」

「働いてないの?」

「働いてるわよ......近くのコンビニでね......。あたしのこと、養ってかなきゃならないから......あと数年はね」

「なんか、まずいこと聞いたかな......」

「どうして?」

「ちょっと君が......不機嫌そうに見えるから」

「ああ......ごめんねロビン。あたし母さんの話するのは、ちょっと苦手なんだ......」

「母さんと、上手くいってないの?」

「そんな訳じゃないけど......。母さんとは、小さい頃別々に暮らしてたから......どやって近づけばいいのかが......わからないだけ」

ロビンは驚いた顔でジュリーを見つめた。

それで......毎日()()()来てたんだね......ロビンはそういう代わりに、別のことをいった。

「君の母さんて、どんな人?」

「どんな人って......普通の人だけど。髪が赤くて、肌の色はあたしと同じ位かな。ちょっと太ってて、背はあたしより少し低い位かな。よく笑うし、よく泣くし、それに結構おしゃべりな人」

「母さんのこと、よく解ってるんだね」

「............」

ジュリーはロビンの顔を凝視したままで、口をひらいた。

「ちっともわかってないわよ......母さんは......。あたしのこと、何も解ってない......小さい頃あたしがどんなに淋しい思いをしたかってことも......母さんがいなくなって......前の学校でいじめにあってたことも......母さんは、あたしのこと何も知らないんだから............」

ジュリーの目は、涙で溢れそうになっていた。ロビンはあわてて、ポケットからハンカチを取り出すと、涙を拭くようにといってジュリーに渡した。

「君が嫌じゃなかったな......どうして母さんと別々に暮らしてたのか教えてくれる?」

「......」

ジュリーは、涙を拭いたハンカチを、」ロビンに返そうとして思い直すと、自分のポケットにしまった。

「......あたしがまだ小さかった頃......七歳位だったかもしれない......それ位の時に、母さんは職場で働いていた男の人と恋をして......あたしと父さんを残して......家を出ていってしまったの......。しばらくして父さんは、お酒を飲むようになって、アルコール中毒って......ロビンも知ってるでしょう」

「ああ......うん」

「父さんは......アルコール中毒ってやつで入院しちゃって、あたしはひとりで暮らしていけないから、父さんの母親があたしのことひきとって、育ててくれたの......」

「つまり......祖母(おばあさん)だね」

「ええ。おばあさんは優しくて、いい人だったわ。父さんの様にお酒は飲まなかったし......あたしが学校へ行きたくないって言った時......行かなくてもいいよ......って言ってくれた。でも......おばあさんは体が弱い人で、まだそんなに年寄りじゃなかったのに、突然倒れて......そのまま亡くなってしまったの......それが半年程前のことで、今あたしは実の母親に引き取られて、今一緒に暮らしてるって訳──」

ジュリーは言葉を選び選び話をしていた。

話終わると、ジュリーは小さく、ため息をついた。

「ありがとうジュリー。話してくれて」

「......ロビン......」

ロビンは優しい......。

あたしなんかには、もったいない位、素敵な男の子......。

ロビンの母さんに聞かれた時、あたしは幸せな女の子だと答えたけど、あれは本当の気持ち......あたしは今、幸せな女の子なんだと思う。......だって、こんな素敵な男の子があたしの側にいてくれるんだもの。



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