ロビンとジュリーⅣ(2)
ドナは、とても素敵な顔をして笑った。
「この目はね、イライザを通して色々な物を見ることが出来るのよ。時には見たくないものまで見えてしまうけれど......もうすっかり慣れてしまったわ」ドナはいった。
「見たくないものって?たとえば......幽霊とかですか?」
ジュリーは言った後で、生つばをゴクンと飲みこんだ。
「ええ、そうよ。幽霊とかね。一度だけ......イライザが目の前に現れて......とても素敵な笑顔で私に微笑みかけてきたの......。ニケって猫とこの城で暮らしてた時が、イライザの一番幸せな時間だったのかしらね............」
「......イライザは、まだこの城の中に?」
ロビンと一緒にいた時聞いたのは......やはりイライザの声......。
「ええ......いると思うわ」
ジュリーは思わず息をのんだ。
「イライザの魂は、この城と共にあるから......城がイライザの居場所なんだから、いるに決まってるでしょう」
ジュリーは、真っ青な顔をして、ロビンの母親を見た。
「母さん!ジュリーのことあまり驚かさないでよジュリーは幽霊が怖いんだから」
「あらっ、そうだったの?ごめんなさいね気づかなくて」
ドナは、茶目っ気たっぷりの顔をして、クスッと笑った。
「............」
ジュリーは、この時悟った。
この人を相手にするには......私ひとりじゃ足りないと......。
「イライザが、この城の中でたったひとりで過ごしてきた年月は......とても計り知れないけど、イライザは決して不幸だった訳じゃないと思うの。イライザの側にはいつも、ニケという猫がいたから。そしてロビン────あなたに出会えたから......。イライザはそのことを告げる為に、私の前に姿を現したんじゃないかしら。ふっとそう思う時があるの......なにが不幸で、なにが幸せかなんて......本人でなければわからないものね」
「............」
ジュリーは、何て答えたらいいんだろうかと言葉を捜した。
「ねぇジュリー。今の貴女は不幸な女の子?それとも幸せな女の子?」
ドナの問いに、ジュリーはたじろいだ。ジュリーは助けを求めて、ロビンに視線を走らせた。
ロビンは母親の態度に慣れているみたいで、ジュリーの向けた視線に微笑みを返した。
「あたしは......あたしは多分、今は幸せだと思います......」
ドナは、ジュリーの熱い視線を受けとめると「よかったわジュリー。貴女が幸せな女の子で」といった。
「この城は今のところ、私とロビンの二人だけで運営してるけど、遠くない将来は数名人を雇って、もっと沢山の人達がこの城を見にこれる様にと思案中なの。私はね、もっと沢山の人達に、この城を訪れてほしいと思っているの。この城の素晴らしさを、もっと沢山の人達に伝えたい......そう思っているのよ。それが......私からの、イライザへ贈れるたった一つの......プレゼント(お礼)だと思っているから」
ドナは、数秒の間視線を彷徨わせると、再びジュリーへ視線を戻した。
「ねぇジュリー、聞いてもいいかしら?」
「あっ、はい」
「ジュリー、貴女は何が得意?貴女は何が出来る?」
「えっ?」
この人......なんだか、学校の先生みたい......。そう思った時、ジュリーはロビンの母親が昔教師をしていたことを思い出した。
「あたしは......庭師になるつもりです。あたしには、ここを、素敵な庭に作りあげていく自信があります。だから、あたしをここでこのお城で働かせてください。お願いします」
腕組みしながら黙って聞いていたドナは、腕の前で組んでいた両腕をほどくとジュリーの顔に触れて、その顔を優しく包みこんだ。
「そう......貴女は庭師になりたい女の子なのね。でも、貴女にこの城の庭を任せるのは早すぎるわね。そう......ざっと、三百年ほど早いと思うわ」
「母さん......ジュリーが可哀想だよ」
「ロビン......大丈夫よあたし......」
「ジュリー貴女に、この城を、イライザのえがいた様な素敵な庭に作りあげるだけの腕が(力が)あるかしら?」
「............」
ドナの言葉に......ジュリーはくちびるを噛み締めた。
「母さん!ぼくからもお願いするよ......ジュリーが学校へ戻る決心がつくまでの間だけでも......この城で働かせてあげて」
ドナは、驚いた顔でロビンを見つめた。
「まぁロビン......あなたは、あなたは本当にいい子に育ったわね。あなたは、私の自慢の生徒よ。あなたに二重の花丸をつけてあげるわ」
この人って......ほんと根っからの教師体質だわ。ジュリーは感心した様に、親子のやりとりを聞いていた。
「いいわよロビン。じつはね最初っからそのつもりだったのよ。ジュリーが毎日の様にここへ通って来てることは、最初っから気づいてたわ。もちろん、学校へ行ってないこともね」
ドナはそう言って、ジュリーに右目をつぶった。
顔が赤くなったのに気づいたジュリーは、うつむいたままで「ありがとう......」といった。
「母さんありがとう!」
ロビンが嬉しそうな声を上げた。
「よろしくねジュリー。早く学校へ戻れるといいわね。それまでよろしく!」
ジュリーは差し出されたロビンの母親の手を強く握りしめた。
ドナが、後でこっそりとロビンに近づき「あの子、意外と力持ちね」と言っているのが、ジュリーの耳に聞こえた。