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第二話「ゼロタイム」③

 携帯ゲーム機持ってスウェット着た眼鏡のお兄さんと、膝の擦り切れたボロボロな赤いジャージ着た、ボサボサツインテールにそばかす顔の女の子が、何事か交わしあったと思ったら、二人して、イエーイみたいな感じでハイタッチしてる。

 

 他にも、ガッツポーズしてたり、ニヤニヤしてたり、なんだか嬉しそうな人達もチラホラと。

 その人達も、バタバタ人が死んでるのとか、見てたはずなのに……全くもって、我関せずと言った様子。

 中には、スマホでムービー撮ってるようなヤツすらいる。


 ……何考えてんだろ? 目の前で事件とか事故起きて、通報とか介抱もせずに、真っ先にムービーで撮って、SNSへ投稿とかやる人がいるって話は、わたしも聞いたことあるけど、実物見るとドン引きだよ。


 やがて、眼鏡の根暗そうなお兄さんと、引きこもりっぽい猫背ツインテの女の子が揃ってドヤ顔でちょっと通りますよ……みたいな仕草をしつつ、わたし達と酔っ払いジャージの間に割り込んでくる。

 

「んだっ! テメェらはっ! ザッケンナコラーッ! 邪魔すんじゃねぇっ! ウラァッ!」


 暴発寸前って感じだった酔っぱらいさんが怒鳴り声を上げて、眼鏡さんに掴みかかる。

 まどかさん相手に気迫負けしかけてた所に、ちょうどいいカモが来た……そんな感じだったんだろう。

 そっこーで矛先変えてって……なんと言うか、節操ないなぁ。

 

 ……声大きいし、乱暴で……。

 女子相手に手を挙げなかったってのは、感心するところだけど、こう言う人ってなんか駄目。

 

 まどかさんも、ターゲットが向こうに移ったとわかったらしく、構えを解いて、一歩下がるとわたしの頭を撫でながら、ニコッと微笑んでくれる。


 なんか、お姉ちゃんみたい……女の人だけど、カッコ良かったっ!

 

「ありがとう……怖かった。まどかさんって、結構強いのです? かばってくれて凄く頼もしかったです」


「こう見えても、趣味でオフの日とか、空手道場に通ってるのよ。ストレス解消も兼ねてるんだけどね。実は黒帯の有段者……まぁ、あんなチンピラ程度なら、なんとでもなってたと思うけど。眼鏡の彼に押し付けちゃったみたいで……どうしたもんかな」


 黒帯って……。

 なんと言うか、ガチ過ぎる人だった。

 

 白衣の天使ならぬ、黒帯の天使って……ナニソレ怖い。


 チンピラ兄さんは、眼鏡さんに八つ当たりするような感じで、殴りかかったりはしてないけど、襟首掴んで、ンダコラとかオラァとか、怒鳴り散らしてる。

 

 とりあえず、日本語話して欲しい。

 なんか3パターン位のをエンドレスで喚いてる感じ。

 動物の威嚇じゃあるまいし、あれじゃ何が言いたいのかすら、解らない。

 

「まぁまぁ、お兄さん、とりあえず落ち着きましょうよ。実を言うと、僕らはこのパターンを知ってるんですよ。これから、何が起こるのかも多分、説明できますよ?」


 襟首掴まれて凄まれてるのに、割と平然としてる眼鏡さん。

 ひ弱そうだけど、何故か余裕たっぷりって感じ。


「そうそう、いやぁ……待ちに待ってた待望の異世界転移イベントってヤツですなー! ふひひっ!」


 ボサボサツインテールさんが、楽しそうにそんな事を言う。

 

 ……何言ってんの、この人?


「これって、そうですよね? ……やっぱり。ぐふふ……30超えても、魔法使いにもなれず、いい加減人生諦めの境地に入ってましたが。これは思わず、ニヤけちゃいますな。ああ、そこの威勢のいいお兄さん、異世界転移系ラノベとかって、読みますかな?」


 Tシャツにトランクスなんて、恥ずかしいカッコで、落ち武者みたいな長髪で無精髭だらけの小汚いおじさんが頭をボリボリ掻きながら、二人に続いて、割り込んでくる。

 

 他にも、ルームウェアとかジャージ姿の男女が、ぞろぞろと続いて来る。

 

 人数は10人位、何となく共通してるのは、猫背だったり、髪の毛ボサボサとか……あんまり、自分たちの見た目にこだわってる様子がないところ。

 

 メガネ率もやたら高いような……。

 妙に疲れたサラリーマン風な年行った感じの人もいる……なんだろう、全体的に覇気が無い……それが共通点と言えば共通点だった。

 

「はあっ? おい、なんだ……そりゃ。お前ら何言ってんだ? なんか知ってんのか? つか、揃いも揃ってだっせぇカッコしやがって、ああ、あれか……お前ら、アキバ系ってヤツか? 舐めてんじゃねぇぞ! コラアッ!」


「まぁまぁ、落ち着いて。ひとまず、暴力反対……そろそろ、離してもらえません? 服が伸びちゃうじゃないですか……。って言うか、僕の説明、聞きたくないんですかぁ? そんなギャンギャン怒鳴り散らしてるだけじゃ、何も解決しませんよ?」


 引きつった顔をしながらも、ヘラヘラと笑いながら、手を振る眼鏡お兄さん。


「……クソッ! 舐めやがって……。解ったよ……何か知ってるなら、さっさと話せ。……フカシだったら、ただじゃ済まさねぇぞ! ザッケンナコラー!」


 悪態をつきながらも、酔っぱらいさんは、眼鏡さんを解放してくれる。

 意外なことに、最後まで暴力は無し。


 良かったぁ……喧嘩沙汰とかならなくて……。


「はぁ、無知はこれだから困るよね。僕はさっきまで部屋でゲームしてたんだけどさ。それがいきなり、こんな魔法陣の上に瞬間移動……。スマホは、WIFIもLTEも圏外、現在地はもちろん、GPSやコンパスすら、動かないなんて普通、あり得ない。つまり、ここはもう地球ですらない……となると、これって、異世界に転移してチート能力やチート武器を授かって、大冒険。……定番異世界テンプレパターンで決まり。まったく、そんな事も知らないなんて……ヤレヤレですな」


 何を言い出すのかと思ったら、眼鏡さんそんな事をドヤ顔で言いだした。


 んー、これって異世界テンプレなのかなぁ……? なんか違わね?


「そうそう。まぁ、とりあえずカッカしないで、落ち着こうよ。そこのチビちゃんは大方二周目とか、知り合いが異世界転移して帰ってきたとか、そんなんじゃないの? だったら、そんな風にでかい声出して脅かすよりも、むしろ仲良くなることを考えるべきでしょ。フヒヒ……この子に嫌われちゃったばっかりにハメられたり、初見殺しでゲームオーバーとか、ああ、とっても可哀想だにゃー」


 ニートさん、見るからに、ポンコツ臭漂ってて、目元もクマ出来てて、酷い姿だけど、解ってはいるみたい。

 自分の知らない情報持ってる相手を脅すより、懐柔するのが得策……ちょっと考えれば解ること。

 

 って言うか……酔っぱらいチンピラ兄さん、とっても態度悪いし、暴力的だし、こう言う人嫌いっ!

 

 多分、この二人も、ここで割り込んできたのは、わたしが事情を知ってるって理解した上で、恩を売る気満々って事なんだろう……打算が見え見えで、気分悪いっ!


 後ろでスマホ構えてムービー撮ってるヤツも苛つくけど、不機嫌顔で睨んでるオッサンもムカつく!

 もう、全員片っ端から、ぶん殴って回りたい!


 ……けど、味方や仲間がわたしには必須。


 ここは、ニコニコ笑顔で対応……第一印象でいい子だなって思わせないと。

 

 ……実は、そう言うのって苦手。

 学校でもいつも不機嫌そうって言われてるし、気がつくと眉間にシワが寄ってたりもする。


 けど、こちとら命懸けだって解ってるから、なんだってやってやる!

 

「まぁ、こいつDQNっぽいし、むしろ爆発しろって感じですな……。って言うか、ロリっ子とDQNだったら、ロリっ子に味方するに決まってますぞ。ちなみに、そこのDQN君は、むしろ真っ先に死ぬタイプ……死亡フラグ乙っ! こりゃおかしかのぉうっ! ウヒョヒャヒョッ!」


 ボサボサおじさんがゲタゲタと笑いながら、ちらっとこっち見る。


 その下卑た顔を見て、本能的にゾワッとして、まどかさんの背中に隠れる……。


 怒りの対象にされるのは、まだいいけど、今みたいな性的な願望の入り混じった視線は……さすがに気持ち悪すぎる。

 いや、偏見なんだけど……視線が胸とかお尻を撫で回していったってのが、なんとなく解った。

 ああ言うのって、結構解るもんなんだよなぁ……。


 あのオジサンの頭の中で、わたし、色々されちゃってるのでは……なんて思うと、もうゾワッと鳥肌が立つ。

  

「……ああ、この人達。たぶん、あれだよ……ラノベとか読んで、異世界に憧れてたとか、そんな感じなんだと思う。私の時もいたけど、いろいろ勘違いしてて、割と真っ先に死んじゃった……。勇者っても、最初は弱いし、無敵でもなんでもないんだけどね……。主人公が死ぬわけがないとか、訳解んないこと言ってて、人の忠告とか制止も聞かなくって、どうしょうもなかったわ」


 お姉ちゃんが呆れたように呟く。

 

 異世界系ラノベ……一応、知ってる。

 無料のWeb小説サイトとかで大人気のジャンル。

 

 アニメや漫画なんかでも、その手の作品が次々出てて、今流行のって枕詞が付く。

 実際、わたしも何冊か読んでるから、知らない訳じゃない。

 

 でもまぁ、確かに小説なんかで主人公死んじゃったら、その話はお終い。

 だから、何が起きても絶対死なない……もっともな理屈だけど、そこで重要なのは、果たして自分は主人公なのか?

 

 モブとか噛ませだったら、普通にサクッと死んじゃう。


 多分、この異世界はヤバイ。

 主人公属性で完璧超人だった姉だって、幽霊になって帰還したような有様なのだ。


 色々話聞いた感じだと、この世界はスローライフだのまったりとか、そんなヌルゲー異世界じゃない。

 むしろ、難易度ベリーハードとか、ルナティックとかそんな感じ。


 そもそも、この異世界召喚の時点で、50人もの人間が犠牲になってる……そんなのが許される時点で、もうまともな訳がない!


 わたしだって、いつ死ぬか解らないし、果たしてこの中の何人が生き残れるか……。

 たぶん、これはそう言う極悪なヤツだ。


 ううっ、お姉ちゃん……助けてっ!

まぁ、実際はシズルちゃんが主人公なんで、彼女だけは何があっても死なないんですけどね!(笑)

いくら私でも、その程度のお約束は守ります。


ピンチ演出とかは、ありますけどねー。

そんなのに、いちいち目くじら立てないで欲しいなぁってのが、作者からのお願いです。

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