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第二十一話「薬師の勇者」②

「あ、とりあえずシズルさん。痛み止めですよね……。これをどうぞ」


 なんだか、黒っぽい錠剤みたいなのと白い錠剤を渡される。

 ちょっと形が歪な感じがするから、手作り品とかそんな感じっぽい。


「これ……なに?」


「そうですね……薬に詳しくないと解らないと思いますけど。ミオナールとアセトアミノフェンの錠剤ですね。癖になったりとか、副作用とかもほとんどない安全な薬物ですよ」


 ……アセトアミノフェンは知ってる。

 頭痛薬とかに入ってる成分で、なんで痛みに効くのかよく解ってないとか言う代物……だっけ。


「頭痛薬だっけ? でも、ミオナールは知らない……まどかさん知ってる?」


「ミオナールは……そうね……。筋弛緩剤って言えば解るかな? 低用量なら、むしろ肩コリとか筋肉痛にも効くから、処方箋としちゃ間違ってないわね。いきなりモルヒネとかブッこまないだけ、むしろ、割と普通?」


「おお、さっすが現役看護師さん、正解でーす! 少なくとも毒じゃありませんから。筋肉の過負荷でって事なら、その組み合わせが鉄板なんですよ。と言うか、シズルさんって万年肩こりじゃありません? わたしもなんで、解りますよー。ちなみに、原材料は麻痺毒持ちの巨大ハチの毒液で、それを原材料にして、ミオナール相当品が合成できちゃったんですよ……。まったく、この調薬スキルって、便利ですよね」


 ……よく見ると、この人も胸おっきい。

 これ、EとかFとかそんくらいだ……。


 わたしの場合、中学生にしてはって但し書きが付くけど、この人はナチュラルに巨乳。

 

 となると、普段から肩コリ対策に、このミオナールとか言うお薬も常用してたりするのかな?

 

 なら……信用してもいいかな。

 お水も差し出されたので、ゴックンと錠剤を飲む……。

 

 でも……。

 なんか、身体が痺れたようになって力も抜けて、痛みもスーッと無くなったんだけど、身体も動かせないって事に気付いた……。

 

「……な、なにこれ。身体が動かない……? まさか……は、謀られた?」


 わたしがそう応えると、キヌエさんが……まさに邪悪って感じの笑みを浮かべてるっ!!


 油断してたけど、このキヌエって人は、まだ味方だって確定してた訳じゃなかった。

 要するに、何をしでかすか解らない人……これは、マズい!


「少し身体の麻痺効果を強めて、しばらく動けなくなるように調整いたしました。わたし、薬剤師だけでなく、医師免許も持ってますからね。医師としての所見は、強制入院してもらって、しばらく安静にしててねってところですねぇ……。看護師さんの意見はどうでしょう? わたしの所見、間違ってます? あ、大丈夫だと思うんですけど、たまに呼吸困難になる場合もあるので、苦しかったら教えて下さいね。我慢してると死んじゃいますから」


 ……さらっと、とんでもないこと言ってる。

 教えて下さいって……舌も痺れてるから、しゃべれないんだけど……な、なんかホントに、息苦しいような気もしてきたっ!


「うーん、ヒールついでに状態確認した感じだと、いいから当分、大人しく寝てろって感じだったね。それくらいには全身ボロボロ……シズルちゃん無茶しすぎ……。まぁ、この様子だと呼吸は問題ないんじゃないかな。シズルちゃん、落ち着いて深呼吸」


 言われて、すこしゆっくりと息をしてみる。

 大丈夫っぽいし、感覚が鈍いだけで指とか手は動かせる……痛いよりはマシなのかな?


「はい、そう言うことですね。シズルさん、貴女が強いのは解りましたが。とりあえず、ちょっとばかり、大人しくしててくださいね。はーい、医療班の皆さん、急患ですよー! いつもどおりに、タンカに移して後送しますよー!」


 キヌエさんが通信札に呼びかけると、遠くから筋骨隆々のケモミミの人達がエッホエッホとタンカを持って走ってくる。

 

 泥ベッドから、まどかさん達も手伝って「1、2、3」と声掛けして、ヒョイッと移されてしまう。

 

 これって、医療ドラマとかでやってるやつだ。

 さすが、プロ……手慣れたもんだって……感心してる場合じゃないっ!

 

 これ……医療行為とか称してるけど、体のいい拉致なんじゃ?

 わたし、どこに連れて行かれるの? そこ重要っ!

 

「うぉおおっ! キヌエ、てめぇ、大殊勲だぜ! この怪物娘をだまくらかして、薬飲ませて、動けなくさせたって事だよな! へっへっへ……そう言う事なら、こっちのもんだぜっ!」


 そ、そう言うことなのね……だ、騙されたっ!


 案の定、調子に乗ったらしいガダルがガラリと態度を変えて、前に出てこようとしたんだけど。

 速攻で、シュタッと両手を上げる。 


 医療班と称するマッチョケモミミ達も、引きつった顔でタンカにわたしを乗せたまま固まってる。

 

「……今、なんて言いました? シズルさんが動けないのを良いことに、妙な真似をしようとするなら、僕が、この場であなた方を始末します……。獣王だか何か知りませんが、僕は貴方のようなヘラヘラしたお調子者が一番キライなんです。キヌエさんでしたっけ? シズルさんが望んでもいないのに、訳の解らない所に勝手に連れ去ろうとしないで下さい」


 ……ちょっとおこ気味な感じのユウキくんの一言で空気が凍る。

 

 ユウキくん、割と有言実行のコ……なんか、トラウマスイッチでも入っちゃったような……。

 詳しくは知らないけど、この子……小学生にあるまじき、ハードな世界に生きてたような気がしてならない……。

 

 キヌエさんも、その気迫に怯んだみたいで、ガダルに向き直ると、テヘペロみたいな仕草をする。

 

「あはは、ガダルさん……このまま、後方へ移送、拘束とか狙ってましたけど。やっぱ、そんな小細工、無理っぽいですね……。ヨウジくんもあの感じだと、反対っぽいですし、どうしましょうか……この少年、やると言ったらマジでやる系ですよ。これは、参りましたねぇ……とりあえず、拘束はないにせよ、入院してもらって、ちゃんと見てあげたいんですけどね……」


 悪びれた様子もなく、こっちをチラッと見るので、精一杯睨み返してやる。

 

 がうーっ!


「む、むしろ病院が来いって感じ? あにょさ、ここはわたしの領域でもありゅのよ……。こ、ここにいりゃ方が回復も早いし、イザって時の対応も楽……悪いけど、強制入院とかは勘弁してよぉ」


 一応、しゃべるくらい出来るみたい……噛み噛みだけど意思表示は出来た!

 

 と言うか、治療法としては合ってたみたいだけど、騙し討の拘束狙いだったとか、思いっきり白状したっ!

 ……この人、油断も隙もないっ! 

 

「はははっ! やだなー、弩の坊っちゃん! あっしは剣王様の一番の舎弟を自認してんですぜ? と、とりあえず、ここじゃなんですから、後方のあっしらの野営地へお連れしようって思ったんスけど、ホントそれだけ……拘束したりとか、イケナイコトしようなんて、これっぽっちも思ってなかったですぜ! むしろ、誠心誠意の接待! そうっ! 皆様方を歓迎すべく、接待の宴をですねーっ!」


「……だが、断るってヤツよ……ホント、調子いいのね……アンタ。まどかさん、ぶっちゃけ、このまましばらく、寝てりゃ、良いんでしょ? 確かに痛いのも無くなったし、どっちみち動けないことに変わりはなかったからね……」


「そうね……。キヌエさん、さすがに、それはないわね……。人を騙して、監禁しようとか……医者として一番やっちゃいけない事じゃないかしら?」


「患者さんの意志とか、家族の意見だの、そんな事気にしてるから、助けられる人だって助けられなくなったりするんですー! 医者とは、患者にとっては生殺与奪を握る神……ソレくらいでないとやってられませんよ」


「医は仁術なりって、格言知ってる? アンタみたいなのをヤブ医者って言うのよ! その性根……叩き直してあげようか?」


 まどかさんとキヌエさんがにらみ合いを始めるんだけど、キヌエさん、そっこーで目を逸らす。


「そ、そうですね! うん、医は仁術なり……医は、人命を救う博愛の道である……まさに名言ですね! やだなー冗談ですよ。はいっ! 人に優しく、慈愛の心で!」


 まさに、真逆の手のひら返し! ああ、この人って……弱いんだなぁ。


「な、なかなか、壮絶な手のひら返しだね……。ガダルと気が合うっぽいけど、納得だよ……いやはや、まさかこんな結果になってしまうとは……すまないね、シズル」


「お姉ちゃん、今回すんなり抜けたのって、身体がヤバイって気付いたから?」


「あ、あはは……さすがに、連戦は無理があったかなぁ……みたいな?」


 お姉ちゃんがバツの悪そうな顔で、目線を逸らす。

 まぁ、無理したら、こうなるってよく解った。

 

 と言うか、お姉ちゃんもヨウジさんに喧嘩売るとか要らないコトやってくれたし、ガダルなんて、立ってるだけで、白旗あげてたんじゃないかな……。


 いきなり、お姉ちゃんに丸投げしちゃったけど、次からは、もうちょっと頑張ろうっと!


「そうですね……。とにかく、シズルさん一人だけを、そちらの後方に連れ去るってのなら、我々も黙って見過ごす訳にはまいりません。ここに留めるのであれば、一応中立地帯なんで、まだ言い訳が立ちます。お互い、穏便に、かつ誠実に対応したいと思いませんか……キヌエさん。今の情勢はギリギリだという事を理解してますか?」


 それまで、やり取りを見ていたユキちゃんが、不機嫌そうな感じでキヌエさんへ詰め寄る。

 

 現状、おこな人……ユウキくん、まどかさん、ユキちゃん。

 この三人は、全員お怒りモード。


 ヨウジさんとクマさんも、直接は何も言ってないけど、キヌエさんに文句のひとつやふたつはありそうだった。


 サキさんやマキさんも、荒事なら受けて立つって感じだし……。

 むしろ、キヌエさん……四面楚歌だね。


「ちぇー、なにこれ、全員一致でこの子の味方じゃないですかー。どのみち、わたし一人じゃ戦えないし……。ここで、勇者全員敵に回したら、さすがに詰みって奴ですよね。と言うか、領域化かぁ……確かに、ここって超A級物件みたいだしね。こんな土地を領域化とか羨ましい話ですよ……そりゃ、ここから離れたくないって、言いたくなる気持ちも解りますね。はいはい、万事了承しましたですよーだ」


「……なにそれ、詳しく……超A級物件って?」

 

「あれ、知ってたんじゃないですかぁ? この土地、なんかスゴイのが埋まってるみたいで、魔力生産量が尋常じゃないのですよぉ……。多分、ものっそい勢いでMP回復とかしてたと思うし、ゴブリンとか、めちゃくちゃ攻めて来なかったですか?」


 ……そう言えば、まどかさんもお姉ちゃんの話だと、MP枯渇後は半日は動けないって話だったのに、1-2時間くらいで復活するようになってたし……。


 MPも使った先から、ゴリゴリ補充されてたんだよね……もしかして、MPの自然回復って、本来もっと遅いのかな……?


 考えてみたら、わたし……MP消費とかお構いなしだったけど、ユキちゃんとか回復アイテム、ゴリゴリ使ってたしなぁ……。


「隔日ペースでオークとかキマイラとかまで、ガンガンに攻めて来たし、MP枯渇からでも1-2時間くらいで復帰してたね。まどかさんとか、まどかさんとか」


 ランタンのMP回復強化が強いとか思ってたけど、そう言う理由もあったのか。

 こりゃ、ますますここから離れられないなぁ……。


「なるほど、それは素晴らしいですねぇ……。ここは言ってみれば、無尽蔵に湧く、魔力の泉みたいなものなのですよ。でも、当然それを求めて、魔物たちも押し寄せる。なるほど、だからこんな城壁みたいなのが並んでたり、ゴーレムがわんさかいるわけですね……」


「な、なるほど……要するに、パワースポット的な?」


「その通り……だから、言いましたよね? 優良物件って……。ねぇねぇ、シズルちゃん……同じ非力な生産系勇者のよしみって事で、わたしの工房……ここに引っ越したっていいかなぁ? 悪いコだったら、こっそり毒盛って、人知れず始末しちゃえーとか考えてたけど。なんだか、思ったより、お人好しで割と良い子みたいだし、こんな強い人達を次々と味方につけてるとか、ズルいっ! そうなるとむしろ、共存共栄? 長いものには巻かれたいっ! そんな訳で、ここはひとつ仲良くしませんか?」


 あ、なんかこの人の事、解ってきた。

 この人も、戦場で躊躇いなく敵を撃てる系の人だ。

 

 ユウキくんは、そう言う感情を超集中で意識から追いやることで、引き金を引けるコだけど。

 この人は銃口の先に誰かがいても、それが自分にとって得なら、お構い無しで引き金を引ける……そう言うタイプ。

 

 要するに、自分中心で世界が回ってて、他人なんてどうでもいいと思ってる……。

 こう言う人は、基本信頼しちゃいけない。


 でも、逆を考えると、利益を共有している間は、絶対に裏切ったりもしない……。

 付き合いが難しい手合だけど……どうしたもんかなぁ……。

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