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第二十一話「薬師の勇者」①

 獣王ガダル……この小物っぷりは、もはや筋金入りとか、そんな感じ。 

 小物がうっかり、御大層な立場に付いて、その気になってたってやつなんだろうね。


 けど、配下として、従えるなら、こう言う小物の方がいい。

 

 下手な切れ者とか、勇猛果敢な命知らずの猛者とか、ある意味、爆弾抱えるようなもん……そう言うのは、むしろ互角の立場で付き合うに限ると思う。

 

「こいつは、先代の獣王の草履持ちで、腰巾着みたいなもんだったんだよ。どうも色々あって棚ぼた式に出世して、獣王になったとか、そんな感じだと思うよ。そんな獣王なんてガラじゃないからね。もっともコイツは自分より強いやつにはとことん、へりくだるから、今後は色々便利使いすると良いよ。ヨウジくんも、なかなかのやり手だ。多分、本気でやってたら、相打ちにくらい持ち込まれてたかもしれない……シズルの脇を固めるには、十分な強者だ。私は気に入ったよ……イイ男ってのは、ああ言うのを言うんだよ? ……覚えておくと良いよ」


 なるほど……獣王ガダル、話が早そうだった。

 なんとも横柄なやつだったけど、この様子だともう無害っぽいな。

 

 ヨウジさんも、義理で助太刀したって感じだったし……けど、お姉ちゃんも認めるほどってなると、やっぱ意外と侮れないんだね。

 

 さすが、ナイス筋肉だ……あの逞しい腕で腕枕してもらっちゃうとか……ちょっといいかも知んない。

 絵面的には、間違いなく事案だけど……。

 

「そうなると、一応一件落着かな? せっかくだから、旧友と少し話でもする? 一応、知ってるヤツなんでしょ?」


「まぁね……。前に獣王国に滞在した時に、世話係って事で、荷物持ちとかやってくれたからね。知らない仲じゃないけど、旧交を温めるような仲でもない。ここはさっさと選手交代としよう。あとは任せる……ここは、シズルの好きなようにやってみればいい」


 お姉ちゃんがそう言うと、視界が変わって、身体に戻される。

 

 今回は、ユキちゃん達相手にしたとき程、無茶な動きはしなかったし……と思ったけど、早速……足が……痛いよ。

 

 ふとももがヤバイほど痛い……。

 な、なんだこれは……未知の領域の筋肉痛……ヤバイっ!


 けど、ここは大物感を演出すべき場面。

 ダラダラと変な汗をかきながら、一歩前に出ようとして、足の痛みで膝から力が抜けて、カクンって感じでコケた……。

 

 無様にビターンと転ぶかと思ったけど、寸前のところで、ヨウジさんに抱きとめられる。

 う、うわぁああああっ! 近いってーッ!

 

「ととっ、何締まらねぇこと、やってんだよ……。大丈夫か? もしかして、さっきやりあった時、どっか痛めたのか?」


「だ、大丈夫……ちょっと無茶したせいで、揺り返しがががが……ちゅ、中途半端に支えるとか、むしろやめてーっ!」


 うぉおおおお……支えられながら、踏ん張ったせいで、腕が背中が、アキレス腱が……あっちこっちが痛い。


「ったくしょうがねぇな!」


 軽々とヨウジさんにお姫様抱っこ状態にされてしまう。

 な、なんですとーっ!


「おーい! 看護師さん、ちょっとコイツ、診てやってくれ! って言うか、これはさっきのハイパーモードの揺り返しってところか?」


「ま、まぁ……そんなところだね。ゆ、指先動かすのも辛い……悪いけど、このままゆっくりまどかさんの所に、運んで……」


 もう、ぐったりって感じなんで、ガッツリお尻抱えられちゃってるし、背中から脇に腕を回されてるから、もうちょっとでモニョっとやられちゃいそう……。

 

 あ、でもいいや……もうどうにでもして……。


 クレイゴーレムを作る要領で、ウォーターベッドならぬ、泥ベッドを制作。

 その上に寝かせてもらう……ああ、水に浮かんでるようにひんやりしてて、ふわふわしてていい感じ。

 

 やっぱ、お姉ちゃん憑依って相当、身体に負荷がかかるみたい。

 

「……タダさえ、身体のあっちこっちボロボロだったのに、無茶しちゃって……。まぁ、全身筋肉痛って感じ? こう言う時は、痛み止めでも飲んどけば、多少マシになるんだけど。薬って、あんまりないからね……。いっそ、勇者モードの高速治癒でも使ったほうがいいんじゃないの?」


 回復ポーションの類の研究は、まどかさんがいることもあって、あんまり重視してなかったんだよね。

 それに、痛み止めとか解毒剤みたいな普通の薬なんかも……。


「剣鬼様……痛み止めなら、コイツがオススメっすよ! コイツに火を付けて、プカっと燻らせれば、痛みなんぞたちまち消えちまうし、気分も高揚して、ハイになれやすぜ! けど、吸いすぎると空を飛んでる気分になったりするから、慣れないうちはほどほどに、加減するのがコツでやんすよ」


 そう言って、揉み手しながら、ガダルが葉っぱをクルクル巻いて干したようなのを手渡しに来る。

 

 ……と言うか、お前誰? って感じ。

 もはや口調まで変わってるし……。

 

 ホント、強い相手にはトコトンへりくだるって言ってたけど……。

 と言うか、当たり前のようにしれっと仲間みたいになってる辺り、獣王様……何か憎めないキャラだね……。

 

「……って言うか、それって、なに? めちゃくちゃ怪しいんだけど! でも、痛くなくなるってのなら、使ってみてもいいかな? ちょっと貸してもらっていい?」


 まるで捧げ物でもするようにガダルがタバコみたいなのを手渡そうとしてくれるんだけど、まどかさんやクマさんがはっとした顔をしてる。


「「「駄目っ!」」」


 ……なんか、三人くらいから同時に怒られた。

 

 まどかさん、マジおこです。

 それとお姉ちゃんも……全員、揃って腰に手を当てて、お怒りな感じ。

 

「多分、それ乾燥大麻……マリファナの一種だと思う。敢えて、黙ってたけど、実は麻ってそこら中に生えてたからね……アレって元々、繁殖力とか尋常じゃなくて、どこにでも生えるよう植物なんだけど……。やっぱり、異世界でもそう言う利用方法に辿り着いちゃうもんなんだね。確かに痛み止めにはなるだろうけど、間違っても未成年には勧めたくない。麻薬駄目、絶対っ!」


 クマさんが怪しい葉っぱをわたしから取り上げながら、厳しい顔でそんな事を言う。


 ……前言撤回……やっぱ、このガダルってやっぱバカだ。 

 なんつーもんを人に吸わせようとしてんのよっ!


「……ガダル、アンタ……随分と姑息な真似やってくれるじゃない。なに? わたしをヤク漬けにでもする気だったの?」

 

「め、滅相もない! べ、別にコイツは、そんな毒なんかじゃないっすよ。俺らみてぇに、戦場に赴く奴にゃ必需品! 昔から、獣人の戦士が戦に赴くときには、こいつで景気付けしてから、怖いもんなしの気分でわぁってやるのが当たり前だったんすよ!」


 ……まさに、蛮族。

 実際、そんな感じで薬でキマっちゃって、バーサーカー状態になって、斧とか手槍片手に、銃持った軍隊に突っ込んでいって、銃でバンバン撃たれても全然怯まずに、粉砕しちゃった……なんて話もある。


 もっとも、痛みと恐怖がなくなるってだけで、別に不死身になったりとかはしないから、実際はバタバタ撃ち殺されてたらしいけど……。

 

 うーん、薬って言っても、まさに紙一重。

 この調子だと、食べるとトリップするようなキノコとか、植物のタネとかありそうだよね。

 

 けど……そんな怪しい薬じゃなくていいから、普通の痛み止め……バファリン的なお薬とかないかなぁ。


 あれって、頭痛や筋肉痛、肩こりにも効くんだからさ。 

 なお、わたしは割と年中肩こり持ち……こんなデッドウェイト、年中ぶら下げてたら、肩もこるよ。


 一応、持ってきてるけど……数が限られてるから、代替品の目処が立たないうちは、最小限にしようと思ってたけど……使い所は今! 確か、倉庫部屋にしまってるはず。


 でも、取りに……行けないっ! 焼け石に水かもしれないけど、無いよりはマシだーっ!


「あ、すみませーん。お薬とか入り用なんですよねぇ……。良かったらぁ、ご用意しますけどぉ」


 なんだか、凄くか細い声が聞こえた。

 声の方を見ると、和服の上から、白衣みたいなのを着たお尻のおっきい眼鏡の女の人が、壁の裏から、こそーって感じで出て来て、こっちへ歩いてこようとしてるところだった。

 

「……忘れてたぜ。そいや、キヌエさんも来てたんだっけ……もう戦は終わってっから、こっち来てくれ。アンタのスキルが役に立ちそうな感じみてぇなんだ」


「あ、はいはーい。ええっと、わたしぃ……多分、お役に立ちますよ。うん、がんばりまぁす!」


 トコトコと、白衣の袖をお化けの手みたいにした感じでこっちに来るもんだから、なんと言うかうらめしやって感じ……。


 でも、この人見覚えある……ギクって動けなくなった社長さんを介抱してた人だ。

 

「や、薬師さんだったかな? その分だと思いっきり、非戦闘員だから、そこら辺に隠れてたって事? でも、領域内の侵入者反応もないんだけど……」


 いれば、解る……この領域内なら、隠蔽スキル持ちでも関係ない……そのはずなんだけど。

 そこにいるのが分かってるのに、この人の反応だけは見えない……なにこれ?


「シズルさん、気をつけて……この人も隠蔽スキル持ちです。それもかなりハイレベルです。まったく、一日に二度も私の索敵スキルを上回るほどの隠蔽スキル持ちに出くわすなんて……。獣王国の薬師の勇者キヌエ……直接、相まみえるのは初めてですね」

 

「はいー、どうもですー。えっとガダルさんとぉ……ヨウジさん。もう戦いの決着は付いてるんですよね? となると、やっぱり、わたしのぉ……出番って感じなんですよね? えっと、そっちのおかっぱ頭ちゃんは、王国勇者のユキちゃん? 他の二人は何度か見てますけど、君は毎回隠れて顔出さないから、見たことなかったけど……やっと、顔見れたね……はじめましてぇ!」


「……は、始めまして……ですよね? 少なくとも、これまで一度も会ってないと思うんですが。何なんですか、貴女は……後方で引きこもってるんじゃなかったんですか?」


「こう見えて、毎回、ヨウジくんのフォロー役で、戦場に同行はしてたんですよ。もっとも、戦いになると全部、ヨウジくんや兵隊さん達にお任せだったんですけどね。生産系の勇者って本来、そんな感じで後方支援に徹するくらいでいいんじゃないですかね。どうせ、わたし……直接攻撃も支援も全然駄目ですからね。だからもう、逃げ隠れするスキルに、全フリくらいの勢いなんですよ……。けど、索敵キングの水晶玉を出し抜けるとなると、私の「存在希釈」のユニークスキルもなかなかのモノって事でですね」


 ……戦闘始まったら、逃げ腰モードで隠れてて、兵隊さんドーピングしたり、後方で臨時野戦病院みたいなのを作って、傷ついた兵隊を即時戦線復帰させる……そんな感じで支援する勇者ってとこかな。

 

 薬師さんとか、錬金術師以上に正面戦闘向きじゃないらしいから、納得ではある。

 

 でも、ユキちゃんやユウキくんですら、このキヌエさんに気付いてなかった様子から、ホントに逃げ隠れ特化とかそんな感じのスキル構成にしてるみたいだった。


 と言うか「存在希釈」ってなにそれ?

 究極レベルまで影を薄くして、存在感ゼロに近づくとかそんななのかも。


 こう言うのって、侮れないな……なんだかんだで、器用貧乏化してるわたしと違って、方向性がはっきりしてるだけに、勇者としては向こうの方が上手かも……。

 

「薬師の勇者……。なんだっけ、回復も使える生産職だって、シズルちゃんから聞いてるけど……。なんとなく、同業者の匂いがするような……どうなんだろ?」


「おお、あの時のメイスの勇者さん! 覚えてますよ、本業、看護師さん! 全く医療業界はどこもハードですよねぇ……」 


「はぁ……えっと、キヌエさんだっけ? そう言う貴女も医療関係者?」


「そうですね。一応、こう見えて薬剤師。お薬のプロなんですよぉ。この大麻タバコも製造法は簡単なので、私が改良を施し、普及させました。これを投与した兵士は、痛みをほとんど感じなくなって、通常戦闘不能になるようなダメージを受けても、戦い続けられますからね……。普通は動けないほどのダメージでも動けて、ショック死なんかも避けられるから、生存率も高くなって……いい事ずくめですよ」


「……うーん。いや……さすがに、コレはヤバイでしょ……だって、麻薬よ? 日本だったら、持ってるだけで、速攻逮捕されるじゃないの……」


「別にここは日本じゃないですからねぇ……。それに、日本の病院とかでも、モルヒネとかバンバン使うじゃないですか。あれと一緒ですよ。人間、痛すぎても死んじゃいますからね……。薬物は使い方を間違えなければ、大変有用です。ガダルさん、実際獣王軍の死傷率って劇的に下がってますよねぇ?」


「ああ、キヌエさんが大量に供給してくれるヤクのおかげで、俺の軍団はますます最強になった。流行り病や難病も薬配ってあっさり治しちまってくれたし……。それに、あの植物がガンガンに成長する薬とか、虫が付かなくなる薬も大いに役に立ってるぜ」


 おおぅ……まさに、それ……わたしがやりたかったことだ。

 ……現代化学の知識チート……。

 

 薬師は、特に薬物生産に特化してる上に、本人が薬剤知識のエキスパートともなれば……。

 ……中学生がこんなジャングルに引きこもって、にわか知識で、試行錯誤してるより、先に行ってても不思議じゃない。


 なんと言うか、まさに戦略級勇者? むしろ、ヤバそうな手合って気もするよ……この人。

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