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第二十話「だって、けだものだもの」①

「ったくよー! おい、ヨウジ! わざわざ、この俺が出向いてきたのに、なんなんだよ……この弛緩しきった空気は! おい、そこのガキども! なんか、勝手に和んでるようだが、さっきから俺様のことを無視してんじゃねぇよ!」


 日常が戻ってきた……なんて思ってたら、背の低いローブ姿のやつがフードを外して、怒鳴りだす。

 

 ……なんと言うか、真っ黒いチビ犬人間?

 そんな感じのヤツがそこにいた……と言うか、完全に空気だったよ……コイツ。

 

「……っと、すまねぇ! ガダルの旦那……。シズルちゃん……紹介するぜ! この犬っコロ野郎は「黒耳ガダル」って野郎だ。またの名を獣王ガダル……こう見えて、ここらを仕切る大ボスって感じの野郎なんだぜ」


「ああ? もうちょっとマシな紹介しろってんだ! おい、王国の勇者共……てめぇら、誰の許可を得て、こんな所まで、入り込んでんだっつの! 挙げ句にこんなチビ助に返り討ちにされるたぁ、笑わせてくれるぜ! おうおう、そこのデケェ胸のチビ嬢ちゃん……わりぃがそう言う事だからな。そこの勇者共の身柄はこっちで確保させてもらう。いいな……解ったな?」


 ……何このワン公……。

 いきなり、やってきて、横暴な……って言うか、コイツが獣王? え、嘘でしょ?

 

 獣王って普通、もっとおっきくって強そうだと思うんだけど……全ッ然、弱そうに見える。

 けど、なんか、こっちが言う事聞くって前提なのが、とっても気に食わないんですけどー。

 

「チョット待って! 何、後からのこのこ出て来て、勝手に仕切ろうとしてんのよ……」


「ああ? 仕切るも何も、俺はここらのボス……獣王様で、ここらは俺らのシマだっつってんだろ? 嬢ちゃんこそ、何様のつもりだ? こちとら、お前らがこんな死の森の奥地で遭難してるって言うから、手助けに来てやったんだぞ? 聞けば、ヨウジのヤツの知り合いみてぇじゃねぇか……そう言う事なら、歓迎はしてやるよ。だが、そこのクソガキ共は別だ……これまで、俺らと散々やりあって来た奴らだからな。丁度いい機会だ……ふん縛って連行して、俺らなりのしきたりで、これまでの借りをまとめて、返してやるって話だ」


 ……我ながら沸点低いなーって思うけど、ちょっとイラッとしたよ?

 どうせ、コイツをぶっ飛ばすのは既定路線だから、もうスパッとやっちゃおう!


 不穏な空気を察したのか、ユウキくんがスススっとわたしの背後に移動して、いつでも動けるように身構える。


 クマさんやまどかさんもお互い頷き合うと、わたしの側に移動してくる。

 

 いいね……さすが、マイ・ファミリーズ。

 もう、何も言わずとも、これから、何が起きるか、理解したっぽい。

 

 それを見たユキちゃん達も無言で立ち上がると、それぞれ武器を取り、フォーメーションを展開。


 ヨウジさんもわたし達の様子を見て、引きつった顔をしてる。

 

「な、なぁ……ガダルの旦那、ちょっと洒落にならない空気になってんだが。もう少し言葉、選んで言ってくれねぇかな? お、お前らもここは俺に免じてだな……穏便に、穏便に行こうや! な?」


「あ? ヨウジ……おめぇもガタガタうるせぇぞ? こっちもこの勇者共には、散々煮え湯を飲まされてんだ……まぁ、命までは取らねぇけど、たっぷりと配下の奴らの相手でもしてもらうってのはどうだ? この嬢ちゃんたちだって、おめぇの後輩って事になるんだからよ。もっとシャンとしろっての……なんだったら、男ってもんを教えてやってもいいんじゃねぇか? コイツ、なかなか、いい体してるじゃねぇか、チビのくせに……」


 クマさんとまどかさんが、揃って頭を抱えてる。

 

 解った……このガダルってヤツ。


 ただのバカだ……うん、殺そう……。

 

 いや、でも……相応の立場みたいだから、殺すのは問題ありそうだ。

 とりあえず、半殺しにするか、お姉ちゃんの言葉を借りれば、ベキベキに心を折って、存分に恐怖を刻み込んで、二度と歯向かう気が起きないように徹底的に痛めつけてやる。

 

「……ねぇ、ガダルさん、そろそろいい加減、聞き捨てならないんだけどさ。と言うか、悪いけど、この土地はもうわたしが占拠したの。ここにはわたしの城塞がそびえ立つことになるんだよ……。それと、この場を支配してるのは、このわたしなのよ……。そんな初めて会った、くっさい犬人間なんかに、偉そうにキャンキャン吠えられる筋合いはないの、お解り?」


 獣王ガダルさんとやら……いつの間にか、むしろ七人もの勇者に取り囲まれつつあることに気付いたみたいで、目を見開いてる。

 

「んだこらっ! このクソガキ……てめぇら……まさか、獣王たるこの俺様に逆らおうってのか……? おい、ヨウジ……どうなってんだこりゃ! 話が違うぞ!」


「だ、旦那、悪いことは言わねぇ……。このシズルちゃんって子は、アンタが思ってるような甘いヤツじゃねぇ。はっきり言って、ヤバイ……大方、サキ達ともグルなんだろ。軍勢も動かさねぇ方がいい……マキの奴が本気になったら、軍勢程度軽く消し飛されるし、あのユウキって坊主も相当やばい。ここもシズルちゃんの城塞とか言ってるから、何があるか解らん。言っとくが、この子らとやり合うつもりってんなら、俺は背中を向けて、アンタを見捨てて迷わず、逃げる! こんなのやってられんぞ! なぁ、クマの旦那! シズルちゃんを止めてくれ! ここは俺に免じて勘弁してやってくれよっ! この犬っコロには、俺がきつーく言っとくから! なんなら、2、3発ぶん殴っとく……ケジメは付けっからよ! な?」


 ヨウジさん……脳筋っぽいけど、判断力は確か。

 ここでわたし達と一戦交えるほど、無茶じゃないみたい。


「ごめん、ヨウジくん……。シズルちゃん、こうなると徹底的にやる子なんだ。とりあえず、この場は、君だけでも逃げてくれ……さすがに巻き込むのは忍びない。なるべく、このガダル氏も命だけは助けるようにするから、まどかさん、頼んだよ」


「任せて……! シズルちゃん、死なない程度に済ませてくれるなら、全身の骨とかバッキバキになっててもきっちり治すよ! 今のは当然、怒っていいところだから、私も止めないよ! むしろ、やっちゃえー!」

 

 大人二人もここで止めるほど、野暮じゃないらしい。

 なんだかんだで、色々あったから、この二人もわたしの気性ってもんを解ってるらしい。

 

 ……良き理解者って感じだよね。

 

「へへへっ……そう言うことかい。まったく、面白くなってきやがったぜ! おうおうおうっ! シズルとか言ったな! そこまでタンカ切るってことは、俺らの流儀も弁えてるって事だよな? 上等だ……オメェがこの場を仕切るボスだってんなら、この俺と一騎打ちだ! ランタンの勇者とか聞いてるが、どうせ一人で戦えるようなタマじゃねぇんだろ? こいつを見て、まだ偉そうな口聞けるなら、かかってきやがれ! ションベンちびるんじゃねぇぞ!」


 そう言って、やたらと刺々しい感じの剣みたいなのを抜くと、ワオーンって感じの咆哮をあげる!

 

 図体小さいかったのに、メキメキとか音を立てながら、みるみるうちに巨大化していって、あっと言う間に2mくらいの毛むくじゃらの筋肉だるまみたいなヤツになる!

 

 あたりの空気が震えるようなプレッシャー。

 

 ユウキくんが、冷めた目で弩を構えるのを手を差し出して、首を横に振って止める。

 

 なるほど、わたし相手なら、一騎打ちを挑めば勝てるって、踏んだ訳か。

 確かに、これ相手に一人で勝つとか、厳しいかも……。

 

 でも、一騎打ちでの勝負って事なら、こっちは遠慮なく切り札を使わせてもらうだけのこと。

 

「シズル姉さん、僕もちょっと腹が立ってきました。一騎打ちってことなら、僕が代わりにこいつの相手します。こんな奴、シズルさんが相手するまでもありません。僕にまかせてください!」

 

「……ユウキくん、ありがと。でも、この場はわたしに任せて! 一騎打ちだからってわたしは負けない……。ここはわたしがコイツを一人で打ち負かすことに意義があるんだから……お姉ちゃん、ここはひとつ頼んだ……剣鬼招来ッ!」


 背中に回してた風の魔剣を引き抜いて、幽体離脱モード。

 何も言わずとも状況を理解してくれてたお姉ちゃんが、わたしの身体に乗り移る。

 

 後はお任せです……はいっ!

 

「やれやれ、獣王ガダル様……とはまた。あっはっはっ! こりゃ、傑作だ……はははっ! いや……笑ってすまない。うん、獣王相手とは、相手にとって不足なし。上等、上等……まさに、この剣鬼がお相手するに相応しい相手……では、いざ、尋常に勝負と行こうっ!」


 お姉ちゃんが剣を構える……もう初っ端から未来視発動で、ガチモード。

 ゆらりと剣を上段に構えると、やる気満々って感じになってる。

 

「おいっ! こ、この気配……ま、まさか……てめぇ、け、剣王か! じょ、冗談じゃねぇぞ! そんなもん、勝てるわけが……うぉおおおっ!」


 例の縮地で一瞬で間合いを詰めて、問答無用で、振り下ろした剣をダガルはかろうじて受け止める。

 

「ガダル……先代獣王のパシリだったお前が獣王とは、大出世じゃないか。私が誰かとか、皆まで言ってくれるなよ。それはまさに無粋ってもんだ……。とりあえず、軽く……そうだな、20合ほどばかり、打ち合ってくれよ……と言うか、獣化したのは、失敗だったんじゃないかい? そんな鈍くさい動きじゃ、お話にならないよ……」


 お姉ちゃん、容赦なく、剣を振り下ろして、ガンガン獣王の身体に当てていく。


「うぉおおおっ! こ、こなくそーっ! 20合とかふざけんなっ! こんなもん、やってらんねーぞ!」


 ガダルのヤツ……全然防げて無くて、ザクザク切られて、盛大に血飛沫とかあがってる!

 

 でも、回復力がやたら高いらしく、切られた矢先に傷も治っていっているし、お姉ちゃんも致命傷は避けて、ざっくり深く切りつけたりはしてない感じ……。

 

 もしかして、知ってる相手だったのかな? でも……いけいけーっ! やっちゃえーっ!

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