第十九話「風雲シズル城」⑤
「ユキちゃん、とりあえず……そう言うことだからさ。そっちも王国を切れないのは解ってるから、お互い上手く立ち回って、かち合わないように……なんとかして! あ、でも、時々こっそり遊びに来るってのはありだからね!」
「それはもう、喜んで……王国攻めを始めるなら、一応連絡を下さいね……。あ、通信魔道具……一式、置いていきますんで、いつでも連絡して下さい」
「……そんな便利なのがあったんだ。是非、ください!」
「なるほど、さっきの戦いでも弩の勇者達となんで連絡を取らないのかと思ったら、そもそも通信符を持ってなかったんですね。では、どうぞ……これを……シズルさんなら、コピーも容易いでしょうから、一組分サンプルも置いていきますね」
そう言って、ユキちゃんは幾何学模様の描かれた木で出来た御札みたいなのを、4枚差し出してくる。
「これが通信用のマジックアイテム? えらくシンプルなんだね」
広げてみてると、ユキちゃんが一枚持っていく。
「要するに、二枚一組になって、相互に通話できるって感じです……一昔前の携帯電話みたいですよね。私に連絡を取りたい時はこれで……使い方はシンプルにこんな感じで魔力を通します」
確かに、長さ15cmくらいで細長い……今どきのスマホよりも細めだけど、一昔前のドラマや漫画に出てたから知ってる。
ユキちゃんが携帯でも持つような感じで、耳に当ててるので、わたしも真似してみる。
「聞こえますか? こんな感じで一対一で話すような感じです……ホント、携帯……ですよね」
御札から、ユキちゃんの声が聞こえてくる。
でも、携帯とかスマホみたいに、ボタンとか付いてないけど、電話番号みたいなので、通話相手選べたりしないのかな。
「……これって、他の人と通話は出来るの?」
「そうですね……これっていわゆる、ピアツーピア方式ですからね……。基本的に二枚一組で使うので、相手は固定です。その代わり、かなりの遠距離でも通じますし、混信とか盗聴もしようがないですからね。大きめの街では、通信屋ってのがいて、同業者経由で、遠隔地にメッセージを送るとか、そんな商売があったりもしますよ」
……ピアツーピア? コンピューター用語……かな?
ニュアンスは解る……一対一で通信するとか、そんな感じだと思う。
まぁ、一人一個渡しといて、もしも複数相手にって場合は、昔のダフ屋さんみたいに、この札をジャラジャラ首から下げてーってやる訳だね。
通話相手の名前書いとかないと、訳がわからなくなりそうだよ。
「よし、文明の利器一つゲットだぜ! ユキちゃんありがとね!」
ユキちゃんに改めて、お礼をする。
「ちょ、ちょっとまって! なんかさ……そこの二人で勝手に納得しあってるみたいだけど。アタシらは置いてけぼりなんだけど……結局、どうするっての? なんか、覇王の道がどうのとか、色々物騒なこと言ってなかった?」
サキさんが色めき立つ……。
うん、話聞いてなかったんだね……もう、説明するの面倒くさい。
「シズルさんは、全方位喧嘩売って回って、片っ端から従える覇王の道を選ぶそうです。私達は、上手く立ち回って、王国をカーライルくんのものにして、その後はシズルさんの覇道の助力でも……そんな感じで行きます」
……ユキちゃんが、物凄く雑にまとめてくれたのを聞いて、サキさん、マキさん、まどかさんまでも呆気にとられたような顔をしてる。
「うーん、は、覇王の道って……なにがどうなって、そうなっちゃったんだかなぁ……。けど、誰にも与さないけど、誰にだって助力はするとかなると、立場的には中立……中立ってなると、全部敵に回すか、いっそ全部、従えるかって……そう言うこと?」
まどかさん……ゴメン。
あとで、じっくり説明するよ!
「……よ、よく解んないけど、こうなったら最強の存在を目指すとかそう言う事だったりするの? な、なら、アタシも乗ってきたい! だって、それってめちゃくちゃデッカイ話じゃないか」
「最強の存在……けど、今のシズルさんと、剣鬼様の力があれば……それも不可能じゃない……?」
「まぁ、私はちゃんとシズルさんの考えも理解してますからね。姉二人には私から、納得行くまで説明しときますよ。ところで、シズルさん……気付いてますか? どうも、獣王国の連中、いよいよしびれを切らしたようです……3人ほど、こっちに近づいてますが、迎撃はしないのですか?」
ユキちゃんが後半は声を潜めてささやいてくれた。
……接近中の侵入者……人数は3人?
領域に立ち入ってきた何モノかについては、私も感知してた。
獣王国軍については、近くにいるのを承知でこれまで完全に放置してた。
向こうの出方がよく判らんし……妥当な対応だと思うな。
迎撃システムは、敢えて動かしてない……問答無用で攻撃ってやるほどじゃないしね。
ユキちゃんに黙って、頷くと暗がりを凝視する。
領域内に意識を集中……ユキちゃんは3人って言ってたけど。
実際は、4人で、うち2人は、ユウキくんとクマさんだね。
なんとなく、動き方で解る……その程度には、二人はお馴染みなのよ。
もう二人は、少し離れたところを後ろから付いてきてる……なるほど、ユキちゃんにはユウキくんが見えてないんだね。
確か、ユウキくん、隠密ってスキルがあるって言ってたし、なるほど索敵スキルを掻い潜る為のスキル……そう言うもんみたい。
私がユウキくんを認識できてるのは、領域内に入ったら、誰だろうが問答無用で認識するから? 隠蔽スキル持ちでもわたしの領域では、その存在を露わにされるってことなんだろう。
……うん、領域ももっとガンガン増やそう。
でも、ユウキくん達の後ろの残り二人はなんか知らない感じ……誰だろ?
まぁ、どのみちもう目の前だしね……すぐに解るよ。
「……なんだ、なんだ……。どうなってんだ……こりゃ」
第一声は聞き覚えのある声。
暗がりから、上半身半裸の斧担いだ兄さんと、背の低いローブ姿のヤツがぬっと顔を出す。
と言うか、思いっきり知ってる顔……斧の勇者ヨウジさん!
「あ、あれ……? ヨウジさんじゃない……な、なんでこんなところに?」
ガラは悪いけど、男気あふれるナイス筋肉ヨウジさん。
一ヶ月ほど見ない間に、ちょっと日焼けしたし、その筋肉はますますパワーアップしたような。
……思わず、ガン見しそうになって、慌てて目線を逸らす。
これは、ちょっと直視してたら、ドキドキが止まらなくなりそうだった。
し、深呼吸だっ! ちょっと中学生には刺激強いよ……まいったね!
「ああ、シズルちゃんが王国の勇者共に襲われて、捕虜になってるっぽいってんで、オレが出向いてきたんだが……。どうなってんだか知らんが、そんな雰囲気じゃなさそうだな……。つか、サキ……てめぇ、そんなとこで何寛いで、飯なんか食ってんだよ! そろそろ、いい加減決着付けんぞ、コラッ!」
……どうも、この二人……悪い意味での知り合いっぽい。
そうか……ヨウジさんは獣王国に付いてたのか。
そうなると、獣王国の6人の勇者って……社長さん達だったのか!
名も知らない薬師さんと社長さん……他に三人くらいのグループと合流してとか、そんな感じかな。
「……やっぱ、アンタが出て来たんだね……ヨウジ……。相変わらず暑苦しいヤツだねぇ……。けど、わりぃねっ! アタシら、これでも捕虜の身なんでね……ここで、アンタとやり合うつもりはない……。すまないけど、そう言うこと」
「そうね……。さすがに連戦とかしんどいし、勇者モードのストックももう無いし。悪いけど、喧嘩売られても買えないの……今日のところは勘弁してよ……って言うか、来るのが遅い。今更、何しに来たんだかっての」
「……捕虜って、まさか……お前ら程の手練が三人がかりで、負けたってのか! シズルちゃんと看護師さんしか居ないって、クマ公から聞いてたのに……冗談だろ?」
「……ヨウジさん、やる気満々のところすみません。我々はお察しの通り、シズルさんと戦い敗退し、虜囚の身となりました。シズルさんの好意で拘束されてはいませんが。今回はヨウジさんと戦うつもりもないし、戦える状態ではありません。もしも、我々に危害を加えるつもりなら、それはそれでシズルさんが黙ってないと思いますんで、ここはひとつ穏便に……お願いします」
そう言って、ユキちゃんが丁寧に頭を下げるとヨウジさんも露骨に鼻白む。
「そだね……。ユキちゃん達は、捕虜だけど……。捕虜である以上は、わたしの保護下にあるのよ。目の前で喧嘩とか始めたり、連行するとか言い出したら、いくらヨウジさんでも承知しないよ。と言うか、ぶっ飛ばす!」
わたしがそう言うと、三人は苦笑し、ヨウジさんも困った顔で頭をボリボリと掻くと後ろを振り返る。
「わかったわかった! 助けに来て、ぶっ飛ばされるとか、んな、理不尽な目に会いたくねぇよ! ……ああ、良く解かんねーけど、そう言うことかい。クマの旦那、坊主……こりゃいったいどうなってんだよ!」
「……ぼ、僕にも何が何だか……シズルちゃん、無事だったかい? 遅くなってすまない!」
勇者モードの完全装備でヌッと出てきたのは、クマさん。
いつもは盾だけ持って、徒手空拳なのに、なんだか立派な剣を構えてるし、フルフェイスのメット付きで、もう誰だか解らないし、威圧感がスゴイ!
「シズルさん、心配しましたよ……。か、彼女達が王国の勇者……こ、こんにちわ! ぼ、僕はユウキって言います」
ユウキくんが木の上から、軽々と着地しながら登場。
割と近くに出てきたもんだから、ユキちゃん達に注目されて、真っ赤になって固まってる。
相変わらず、ウブなんだねぇ……お可愛いことで。
「嘘……私の索敵にかかってなかった……。この子がもしかして……」
「弩の勇者……ユウキくん! 言っとくけど、かなり強いのですよ?」
「ま、まさかのショタボーイ! って言うか、このプレッシャー……なんなの、この子! 魔力もスゴイし、強者感半端ないっ! 陰気野郎のセタなんかより、よっぽど、腕利きなんじゃない……絶対、強いよ……この子」
マキさんが色めきだってる……セタってのは……向こうの弩の勇者かな?
「そ、そうね……。この距離まで来てて、ユキですら気付けなかったなんて……この子がその気だったら、アタシら終わってたね……こりゃ、やばい」
「ご、ごめんなさい! 思いっきり、隠蔽スキル発動しながら来ちゃってました……! 皆さんは、僕と戦う気はないんですよね?」
「ないないっ! ヨウジにも言ったけど、私達は降伏して捕虜! 捕虜だから、戦う気なんてゼロ! け、けど、半ズボン美形少年って、思った以上に破壊力あるわね……。あ、ユウキくんだっけ! 私、マキって言うの……年上委員長系女子高生とかって、仲良くしたくない? 大人のアダルトな世界とかって興味あったりする?」
そう言って、なんだか太ももチラリとか始めるマキさん。
「あ、マキずるいって! いやいや、少年……黒スパッツが似合うスポーティお姉さんってどう思う? 胸の大きさなら、そっちのシズルちゃんにも負けてないよ!」
こっちはこっちで、スカートをたくし上げて、スパッツ姿を見せつけて……。
と言うか、何アピールしてんの……この二人。
君ら、カーライルくんとやらにお熱じゃなかったの?
ツカツカとユウキくんの隣に歩いていくと、その腕をギュッと掴んで胸の間に抱きこむ。
「……そこの二人! 何、いきなり、セクシーアピールとかやらかしてんのよっ! ユウキくんはうちの子なんですー! 誰にも渡したりなんかしませんですよーだ! なんせ、わたしなんて、ユウキくんに上から下まで見られてないところはないし、わたし、ユウキくんのアレだって見たことあるしー! とにかく、そんなとっても深ーい仲なんだからね!」
二人の後ろでアワアワしてたユキちゃんがブゥッ! って感じで吹いてる……。
まどかさんは、知ってるから、苦笑してるだけだけど。
マキさんもサキさんも、色々ピンク色の妄想でもしてるらしく、真っ赤になって、顔を隠して座り込んでる。
うん、勝ったね……虚しい勝利だけど。
ユウキくんっも相変わらず、からかい甲斐のある子ですこと……なんだかシナを作って、照れてるんだけど。
むしろ、女の子っぽい仕草で萌えます。
クマさんは、いつもの事なのでやれやれって感じで、変身も解除して、タバコに火をつけて、燻らせてる。
なお、タバコはちゃっかり現地調達品で自前で作ってたと言う……。
ヨウジさんも一本もらって、男同士のヤニタイム……みたいなことを始めてて、なんとも微笑ましい。
ああ、なんかいつものメンツも揃って、いつもの日常が戻ってきたって、感じだよ……。




