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第十九話「風雲シズル城」①

 それにしても、考えれば考えるほど、なかなかに難しい状況じゃあるんだけど。


 もうちょっとゆるく考えても良いかも知れない……そんな風に思い始めてきた。

 

 考えてみれば、王国という国自体について言えば、別に敵視する理由もないし、滅ぼさなきゃいけないかと言うと、別にそうでもない。

 

 住んでる人達には、別に罪も恨みもないし、わたしがここにいるのも、名も知らない誰かの犠牲の上で召喚されているからこそ。

 

 名もなき人々の純粋な願い。

 

 ……この国を、世界を救って欲しい。

 

 そんな人々の命を懸けた願い……それが私達がこの世界にいる理由。


 あのアレキサの妹さんとやらだって、その一人。

 あの人は、洗脳も強制もされず、えこ贔屓で自分が除外されても、敢えて自らが犠牲になる道を選んだ。

 

 その行為が正しかったのかは、結果的には何とも言えないけれど。

 

 少なくとも、彼女はソレが正しいことだと信じてた。

 だからこそ、他の多くの人々と共に、願いに殉じることを良しとした。

 

 わたし達は、そう言う人達の想いを無視しちゃいけない。

 

 王国は……わたしですら、簡単に滅びの道筋が描ける程度には追い詰められている。

 ユキちゃん達や王国を影で支える勢力なども頑張ってるみたいだけど、ギリギリの均衡で生きながらえてるだけだ。


 ほんの僅かなきっかけで、一気に雪崩を打つ用に崩壊へと向かう。

 

 そのきっかけは、わたし達との抗争かもしれないし、或いは本命の魔王軍の強襲……かも知れない。

 現状、ユキちゃん達三人の勇者が降伏して、戦線離脱中と言う状況すらも、他国に知られたら、マズいことになる。

 

 ユキちゃん達も多分、ギリギリの状況を自覚した上で、緩やかに交渉を持ちかけている。

 わたしがこの状況を理解し、最良の判断を下すと踏んだ上で……ホント、切れる子だね……ユキちゃんは。

 

 王国を救う道……。

 多分、ユキちゃん達が慕ってるカーライルくんとやらが、鍵になると思う。

 

 カーライルくんが、王様亡き後の王国の後継者としては、かなり理想的な人物ってのは解る。

 

 中世とかでは、物凄く重要な血筋って面でもクリアしてるし、領民に慕われるような善政を敷けるだけの政治力と、大勢の貴族を味方につけるだけのカリスマもあって、この三姉妹がゾッコンになる程なんだから、相当な人物。

 

 王国も大臣やら骸骨司教一派、アレキサのヤツ、連中を全員叩き出すなり、ぶっ殺すなりすれば、邪魔者は居なくなる。


 いや、叩き出すとか半端な情けかけても、後々の災の元だから、連中はきっちり殺しとこう。


 死人に口なし、幽霊になって呪いに来ても、お姉ちゃんがいれば返り討ちだ……ここはもう容赦なくいっちゃう。


 どうせ、色々恨まれてるだろうから、街の広場にでも括り付けて、どうぞ恨み晴らしちゃってくださいとか、立て札でも掛けて、石でも山盛り積んどくってのでも、良いかも。


 一晩もほっとけば、誰かが始末してくれるでしょ……自分の手を汚さず、石を投げる民衆も誰がトドメさしたかなんて解らないから、誰の心も傷まない。


 おお、なんと素晴らしい処刑。


 なんかそう言う処刑方法があった話も聞いた事あるし……うん、そうしよう。

 

 って、なんかダークな思考が……私もなんだかんだで、結構アイツ等の事、腹に据えかねてるんだなぁ……。


 ……けど、実際にそのカーライルくんとやらを助け出すとなると、王国軍に所属してる三人でも奪還は不可能っていうんだから、正攻法じゃ多分、不可能に近い。

 

 もちろん、お姉ちゃん憑依状態で真正面から、殴り込みって手もあるんだけど。

 

 勇者モードが使えないお姉ちゃんだと、ワンミスがわたし含めて、命取りになるし、そのカーライルくんを盾に取られたりしたら、いくらお姉ちゃんが最強でも手も足も出ない。

 

 それに、この拠点で戦う分には問題なかったけど、外だとわたしがどうなるか解らない。

 

 幽体状態でこの世に留まるには、この世への強い執着か、土地との繋がりが不可欠……前者はわたし自身のメンタル的な問題だから、クリアは相当難しいと思う……執着、未練……うーん、美味しいご飯が食べたいとか、そんなじゃ弱いだろうしなぁ。

 

 ここはやっぱり、滝行とか、座禅とかしないと駄目かなぁ……。

 

 まぁ、結論としてお姉ちゃんの力はあくまで切り札、最後の手段。


 ユキちゃん達に見せ札ということで、その戦力を誇示したものの、今の所外では使えない……となると、あまり強気にも出れない。

 

 お姉ちゃんは、むしろ勇者モードに頼らない方が強くなれるとか言ってるし、実際に勇者を生身で圧倒するとかやってくれた……お姉ちゃんさえ、出陣してくれれば、勇者マコトだろうが、騎士長アレキサだろうが、鎧袖一触で終わるだろうけど……。

 

 いっそ、攻め込んでくるのを待って、拠点で迎撃ってなれば、話は早いんだけど。

 そうなると、前哨戦として決死の覚悟を決めたユキちゃん達と戦う羽目になる……。

 

 改めて、厳しい情勢だと思い知る。

 

 それに王国の持つ軍勢は、なんだかんだで脅威だった。

 一人一人は瞬殺できるってのは、なんとなく解るけど……千人とか万単位。

 

 そんな大虐殺……こっちの精神的に保たないし、やりたくもない。

 何より、時間もかかりそう……長丁場ってどうなんだろ?

 

 王都駐留の防衛戦力は三万……住んでる住民だって、お姉ちゃん情報だと数十万人……その人達を巻き込むのは、不本意もいいところ。


 軍勢やユキちゃん達と戦わずして、王都を丸裸にして、大臣たちの心をヘシ折る……となると。

 

 やっぱ他力本願? 四面楚歌状態で勇者の力を手に入れて、グイグイ迫ってる周辺国家……そこに所属する同じ勇者達と渡りをつけて、これらの国々をまとめ上げることが出来れば、あるいは?


 となれば、同盟とは言わずに、タイミングを揃えて攻め込むだけで十分、いや……実際に攻め込まないでも圧力だけでも十分じゃないかな?


 問題は、どこの国が引き受けてくれるか……帝国は王国の東側、北国は王国の北で遠い。


 となると、やっぱり獣王国……こいつらが後ろ盾に付いてくれるだけで、十分圧力にはなる……どんな連中なのかすら定かじゃないけど。


「……国レベル相手に喧嘩売るんだったら、国家レベルの後ろ盾と協力の元に、外圧をかける……となると、獣王国軍とじっくりきっちり話し合って見る価値はある……かな」


 思わず、思考がダダ漏れになって、そんな物騒な独り言を言ってしまい、全員が一斉に固まる。

 

「……シ、シズルさん……いきなり話が飛躍しましたね……何がどうなって、そうなったんですか? それは、あくまで王国と敵対する道を貫く……そう言う事でしょうか?」


 ユキちゃんが、カレー皿片手にポカーンと見てる。

 ああ、もうっ! なんてタイミングで何を口走ってるんだ……わたしは!

 

「ああ、その……カーライルくんだっけ? なら、いっそその人を王国の王様にしちゃえばいいって……けど、その障害となるものが多すぎる……そう言う事なら、四面楚歌って状況を利用して、外圧を借りて、外から突き崩しちゃえばいいってそんな事を考えてたのよ……。けど、獣王国にわたし達が付いちゃったら、それこそ泥沼になりかねないし、王国と獣王国がやりあってるうちに、周りから寄ってたかって、攻め立てられてガチで滅亡ってなりかねない……ごめん、考えがだだ漏れたってだけだから、忘れて……」


 そうは言ったものの……なんだか、お姉ちゃんはポンと手を打ってるし、ユキちゃんもすっごーいって感じでキラキラした目でこっち見てる……なんでそうなるの?


「そりゃまた……思い切った手段ですね……。でも、いいですよ……シズルさんがどんな結論にたどり着くのか、正直不安でしたけど、その考えに辿り着いたのであれば、悪くない。獣王国側と我々辺境側が連合した上で、中央と相対することが出来れば……中央対辺境の対立構図でも、十分勝機が出てきます……」


「……ちょっとまって、そこまで手回しできてるっての?」


「はい、元々カーライルくんって、辺境の一領主なのに、民心を集め過ぎちゃって……おまけに末席とは言え、王族の一人……辺境諸侯は元々カーライルくんを神輿にするつもりだったんですよ」


「なるほど……。と言うか、今の王国って新しい王様とかっているの?」


「一応、前王亡き後適当な王族を国王認定して、摂政の大臣が国を取り仕切ってはいるんですけどね。もうやりたい放題な上にあの大臣の無能っぷりはお察しって感じです。なので、むしろ、カーライルくんを次期国王に推す声があちこちであがって、辺境の王……なんて呼ばれたりもしてたんですよ。そう言う経緯があって、中央から目をつけられたんです。だからこそ、叛意がないことを示すって事で、王都の召還にも応じたんですけどね……バカ正直過ぎですよね……」


「確かに……向こうからすれば、自分たちの権力を脅かす有力者を拘束できて、勇者を脅すネタにもなって、勇者という強大な武力も気軽に使える……こりゃ、一石二鳥どころか、一石三鳥とか四鳥くらいで、王都の連中も笑いが止まらないって訳ね。そうなると、地元の領民とか、貴族達も相当不満溜まってるだろうね……」


「そう言うのもあったから、近くて遠い隣国の獣王国と一戦交えて、戦勝と共に勇者を取り戻したと言う実績を掲げて、不満を少しでも解消……そんな目論見だったんですよ。でも、起こるはずだった獣王国との戦争そのものが、王国軍の総撤退で、無くなってしまった。……王国側としては、色々勝手に勘ぐって、獣王国に勇者をも打ち破る戦力があって、私達も獣王国の捕虜になった……そんな風に思ってる様子でしたね。私もなんで負けたかとかは、言えないようにされてるって言ったんで、向こうは完全に疑心暗鬼でしたよ。他にもなにか要求があれば、善処するとかそんな事も言ってました。実を言うと、シズルさんはそう言う選択をするだろうと、私も想定してたので、色々と伏線を張っておきました」


「え? なんでそうなるの? ユキちゃん達が負けたのは、事実だけど、獣王国はまだ関係ないんじゃ……」


「考えても見てくださいよ。フリーランスの勇者なんてのがいて、勇者が軽く返り討ちになって、軍勢もビビって尻尾を巻いて逃げました……なんて、言い訳が通じると思いますか?」


「通じない……よね。国境警備隊のもっと上や、中央側もブチ切れ……だよね? 相手がフリーなら全軍挙げての総力戦とか無茶苦茶やる可能性も出て来る……そう言う事ね」


「まぁ、そうなりますよ。仮にも国軍を動かした以上、メンツの問題ってもんがあるんで、我々北見家三姉妹が敗北したからと言って、簡単に引き下がれない……であれば、もうそう言うことにしておいた方がカドが立たないし、要らない犠牲者だって出ない……。余計な事とは思ったんですが、中央からの監督官もいて、ちょっと妙な話の流れになりそうだったんで、そう言う話にしてきました。もっとも、あくまで私の憶測って前置きの上ではありますけどね。向こうもそう思いたかったみたいですから……なにせ、国境警備隊を出しちゃってる以上、万が一負けたら、最悪王都まで一気に進軍されて……なんて可能性もありますからね」


 この子……しれっと言ってるけど、多分、そのまんまの話を王国軍の幹部連中にしたんだと思う。


 あくまで憶測と言っておきながら、事実と可能性を取り混ぜることで、相手の思考すらコントロールした……いわば、高度情報操作……ユキちゃん、恐ろしい子!


 しかも、私が色々考えたのに、それすらも想定内だったとか、この娘……どんだけーっ!

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