第十八話「勇者マコト」③
ちなみに、クマさん達は……と言うと、結局まだ戻ってきてない……。
こんな外が真っ暗になっても、戻ってこないなんて、これまで一度もなかったから、何かあったのは、確実なんだけど……。
あの二人が安々と負けるとは思えないから、平和的に獣王国側と接触したと考えてる。
おかげで、現状の戦力に関しては、むしろ捕虜になってる北見家三姉妹の方が強力なんだよね……。
そもそも、わたしとまどかさんの二人じゃ、この三人には全く歯が立ってなかった。
現状、拘束もしてないし、武器だって取り上げてない……完全フリーダム状態。
逃げようと思えば、力づくでいつでも逃げれる状態ではあるんだけど。
お姉ちゃんに完封負けした直後だし、こっちも信用するから、拘束や武器の没収をしないと言ったら、その信用に応えるために、勝手な真似はしないし、虜囚の立場に甘んじると言ってくれた。
まぁ、何より……戦い終わって、ノーサイドって、まどかさんの言葉とその甲斐甲斐しい世話焼きっぷりとすっかり緩んだ空気。
その上で、皆で、御飯作ったりしているうちに、なんか皆、すっかり馴染んでしまった。
元々、同じ現代日本の10代女子……結果的に誰かが死んだりする事もなかったし、ユキちゃんに至っては……むしろ、百合百合な感じになっちゃったし……。
ああ……うん、二人っきりで一緒のお布団で寝たりとかしたら……わたしがどうなっちゃうか解んないよーっ! ユキちゃんと一緒になるためには……じゃなくてさっ!
……それはともかく! ともかくだねっ!
話を聞く限りだと、王国の内情はあまり……いや、かなりよろしくない。
勇者だって47人も召喚して、掌握できてるのはユキちゃん達をいれても、9人しか居ない上に、事実上勇者マコトに乗っ取られてるような有様。
挙げ句に他国の手に渡って、四面楚歌になりつつあるとか……バッカみたい。
……ホント、王様殺しちゃったせいで、何もかもグッダグダになってるじゃないの……。
お姉ちゃんは、王国は滅びの道を歩むって言ってたけど、このままだと確実にそうなる。
もっとも、お姉ちゃんの代は、今回に負けず劣らずグダグダだったらしいから、今に始まったことでも無いって感じだけど。
当時の勇者は16人、最初の迷走、試行錯誤の段階で、色々あって3人が脱落。
無茶な王国の防衛戦の過程で、更に7人が討ち死に……この時点でお姉ちゃんとその仲間以外は全滅。
お姉ちゃんグループは弩とメイス、短剣の3人の仲間ともに、王国の支配下から、完全に離れて独自に活動するようになったとかで、最終的に王国にはお姉ちゃんの後方支援のために敢えて残る道を選択した……生産職の薬師と鍛冶師の二人だけしか残らなかったらしい。
その二人もあくまで、お姉ちゃん達のバックアップ要員として残っただけで、王国には全く非協力的。
最終的にその二人がどうなったのかは、お姉ちゃんも知らないらしくて、詳細は解らないし、ユキちゃん達もその辺のことはあまり詳しくないみたいだった。
ひょっとすると、その二人は生き残って、どこかに潜伏してる可能性もあるんだけど……長居は無用とばかりに、現実世界に帰っちゃった可能性もある……。
多分、今回はその辺の反省もあったから、とにかく数が居ないと話にならないってことで、47人も揃えたんだろうけど。
相応の犠牲を払って、欲出して無茶やろうとして、四散させて……王国も色々ツイてない。
無茶しやがって……そんな感じではある。
「なんだか、ちょっと聞いただけでもかなり、難しい情勢みたいね。結局、どうするかって話なんだろうけど……シズルちゃんは、もう決めてるの? 一応、言っとくけど私は、シズルちゃんがどんな決断をしても付いていくからね。まぁ、家族同然とか言われちゃったら、当然だよね」
まどかさんが優しげな笑みを浮かべながら、隣に座り込むとバンバンと背中を叩く。
なお、ユキちゃんは甘々モードでピットリ寄り添いながらも隣をキープ中、なんだけど、今も難しい顔して色々考え込んでる。
どうも、ユキちゃんなりにどうすれば、わたし達と敵対せずにお互い妥協できるかって、一生懸命考えてるみたいだった。
「……私としては、シズルさん達を王国に招きたいです。その後のことはこの私にお任せを……とにかく、悪いようには絶対しませんし、皆さんという強力な味方が私達に付けば、むしろ逆襲のシナリオだって描けると思うんですよ」
ユキちゃんの直球要求。
確かに、ユキちゃん達とわたし達が組めば、ユキちゃん派が総勢七人になる。
パーティの内訳も、槍、大盾、弓、弩、メイス、水晶玉、ランタン……。
攻撃魔法の使い手が居ないだけで、回復と支援が分厚い、遠距離攻撃と接近戦にも長けたかなり強力な編成になる。
マコトパーティも、バランスは悪くないんだけど、あっちとガチンコで激突するとなると……。
マコトの相手は、サキさんとクマさんの二人なら抑えられると思う。
いくら、覚醒融合と言っても、数のアドバンテージを覆せるほどじゃないだろう。
クマさんは、攻撃力は微妙だけど、とにかくデカイしパワーもあるから、足止めに徹したら、ちょっとやそっとじゃ負けないはず。
その上で、サキさんがアタッカーに専念すれば、十分勝機はあるだろうし、別に倒せなくても問題ない。
取り巻きを潰した上で、総掛かりで挑めば、なんとでもなる。
なにより、大剣の勇者相手の練習相手としては、お姉ちゃんと言う問答無用の最強がいるからね。
お姉ちゃん相手に勝てとは言わないけど、二人がかりでそれなりに粘れるようになれば、むしろ楽勝なんじゃないかって気がするな。
双剣と小盾の相手はまどかさんとマキさんの二人で当たり、とにかくマコトから引き離す……これで、前衛はほぼ封殺出来る。
残りは、魔杖、弩、メイスの三人だけど。
ユウキくんは、普通に考えて同業者を圧倒するくらいには強いと思うし、魔杖の相手もわたしとユキちゃんなら、無力化は十分可能。
メイスは……本来、回復特化だから、初めからさしたる戦力にはならない。
魔術支配で妨害かければ、ユキちゃんと二人がかりなら、魔杖諸共無力化が可能。
ユウキくんが、敵の弩との狙撃戦を制すれば、一気に形勢は傾くはず。
わたしとユキちゃんがユウキくんを支援すれば、狙撃戦も有利に運べるだろうから、勝算は十分にある。
なるほど……ユキちゃんが必死にスカウトしようとしてる訳だよ。
むしろ、このわたし達を引き込もうという動き、ユキちゃん達だけじゃなく、辺境軍の判断って可能性も否定できない。
ただ、問題はそう言う話じゃないんだよね……。
わたしに与えられた課題は、そんな王国一国だけの問題じゃない。
あっちこっちに湧いてるプチ魔王共だって、どうにかしないといけないし、各地にばら撒かれた勇者達だって、なんとかしないといけない。
そして、最終的にはお姉ちゃんが封印した「魔王を統べるもの」と何らかの形で決着付けないといけない。
お姉ちゃんだって、いわば人質に取られてるようなもの……ある程度は向こうの要望とか飲まないといけないだろう。
どんな無理難題が出てくるやら……正直、王国のゴタゴタなんかに構ってられないってのが正直なところなんだよね……。
「ごめんね……ユキちゃん。気持ちは解るし、嬉しいんだけど……。この世界では今、プチ魔王みたいなのが続々と湧いてるし、魔族の脅威だって相変わらずなんだよね?」
「そうですね……魔王国からの侵略は、年中行事らしいですからね……。本来、私達勇者はあれをなんとかするのが優先……そう言いたいんですよね?」
「まぁね……本来、そっちの対応が先決で、人間同士で無益な争いとか、人質取って権力争いとか、そんなんやってる場合じゃないからね……。わたしとしては、王国に関わるなんて、うんざりだから、あんまり関わりたくないってのが正直なところかなぁ……」
……むしろ、王国を滅ぼす方がよっぽど話が早かった。
そう言う事なら、簡単なこと……同じタイミングで王国に攻め入るように、周辺国に吹き込むなり、国境線を脅かすとかして、軍勢を誘導するだけでいい。
四面楚歌で全周一斉進撃なんてされたら、王国がどれだけ軍事力があって、勇者を少しくらい多めに抱えててもあっさり詰む……そう言う薄氷の瀬戸際状態にいるってのも、王国に付くのを拒む、十分な理由だと思う。
けど、その王国の勇者……ユキちゃん達が思ったより、イイ子達だったってのが、わたしにとっては、困った難題を突きつけられることになってる。
「……そうですね。私がシズルさんの立場だったら、王国からは全力で距離を置きますね。可能な限り、関わっちゃいけない……今の情勢では、そうなるのが必然です」
なるほど、ユキちゃんもそこら辺、解ってるって事なんだ。
だからこそ、強くは言わないんだろうね……。
実際、彼女は説得は無理だろうから、力づくで制圧した上での話し合いしか無いと判断した。
ユキちゃん達が、わたし達に速攻で挑んできたのは、全くもって正しい。
ホントに、難しい状況だなぁ……。
どうすりゃいいんだろ……こう言うときって。
「……すまないね。アタシらにもう少し力があれば、もう少しスマートな解決案を出せたかも知れないんだけどね……こうして、戦いに負けちゃった以上は、アタシらは君らにお願いをするしか無いんだ……難しい決断になるってのは、承知してるし、虫のいい話だとは思うよ」
「私達の力不足……か。あの剣鬼サンに言われた、ビギナー勇者って言葉も言い得て妙って感じよね……。実際、私達……自分達は十分、強いとか思ってたけど、実際はあんな程度。想定外の強敵と出食わしたら、まるっきり歯が立たなかった。むしろ、情けを掛けてくれるようなお優しいのが相手で、まだ良かった……そう思うべきね」
そう考えると、お姉ちゃんの対応はあれでも優しい方だったのか。
確かに、あそこまで差があると、もう問答無用で皆殺しになって全滅ってなるのが普通。
お姉ちゃん遊んでるように見えて、後輩に当たるサキさん達を指導してる……つもりだったんだろうな。
わたしもこの一ヶ月……ランタンのレベル上げたり、色々な魔術を開発したり、領域化とか色々覚えて強くなったつもりだったけど、結局イザ実戦に及んでみたら、同業者のユキちゃんに終始圧倒されっぱなし。
その程度には、ユキちゃん達は手練だった……。
負けたのは、私の実力不足……まったくもって、困った話だった。
お姉ちゃんが言ってた勇者の武器の力に頼ってるうちは、ビギナーって言葉は、わたしにだって当てはまる。
お姉ちゃんにおんぶで抱っこでズルして、勝ちを拾ったってだけ……支援系だからって、甘えてないでわたしも、一人で戦えるようになりたい……なんか、強さへの渇望ってのが、わたしの中にも生まれつつあった。
実際のところ……本音を言えば、わたしだって、ユキちゃん達の力になってあげたい。
ついさっきまで、敵対して戦ってたような相手なんだけど。
そこら辺は、もう水に流すって決めた。




