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第十七話「素敵な平和主義」④

「……ユキちゃん達だけじゃ、そこら辺の情勢はどうにもならないの? 地方領主とかって、ユキちゃん達の味方なんでしょ? 中央の連中が出張ってくるとなると、むしろ王都側は手薄になるから、他の地方領主たちと連携すれば、鬼のいぬ間になんとやらで、そのカーライルくんを奪還してもらったりとか、出来そうなもんじゃない?」


 ……ユキちゃんの話を聞いた上での、ユキちゃん側のベスト対応ってのは、まさにそんな感じだと思う。


 中央の騎士団とか、虎の子の勇者が出張ってくるなら、本丸は隙だらけになる……むしろ、それはチャンスなんじゃなかろうか。


「……内乱を起こせと? ソレも考えましたが、その場合、勇者マコトとその仲間達のみならず、司教の率いる不死兵団や人外揃いの騎士団連中を、最終的に私達だけで、相手取ることになりますからね……さすがに無理があります。何より中央軍は騎士団や近衛、王都防衛隊を合わせると、総勢三万もの大兵力を有しています……。各地の辺境軍を根こそぎ全部足しても、二万ちょっと程度なので、正攻法では勝ち目は薄いですね……。何よりカーライルくんを盾に取られたら、我々は白旗を揚げざるを得ませんし……チャンスがあるとしても多分一度だけですからね……」


「かなり分が悪い賭けとなる以上、誰も乗ってこない。である以上、ユキちゃん達も現状、奴らに従う他、選択肢がないって事なのね……」


 理路整然と納得の理由を並べられ、わたしもその結論にたどり着く。


 確かに、辺境軍の協力が不可欠となる以上、ユキちゃんの言う通り、少なくとも分が良い賭けって思えないと、誰も協力してくれない。


 なるほど、ユキちゃん達だけじゃ、強硬策が取れないからこそ、こう言う状況になってるわけで……。

 だからこそ、ユキちゃん達は、わたし達を説得の上で恭順させたいって思ってるんだろうね。

 

 確かにそうなれば、わたし達を王国に恭順させたことで、ユキちゃん達の功績になるし、発言力も上がり、王国内に味方が増えることになる以上、潜在的な地方側の戦力も増える……悪くない話ではある。

 

 でもなぁ……ユキちゃん達が味方になってくれるって前提でも、現時点での王国行きはリスクがあまりに高すぎるのですよ。


 なんせ、王国は完全にアウェーみたいなもの。

 

 いかんせん、わたしは大臣や司教様と言った王国のゴミ連中の敵ですから。

 

 宿屋で寝てたら、宿を焼かれて焼け出され、街を歩けば、どこからともなく毒矢が飛んでくる。

 食事をすれば毒を仕込まれるだの……街中で、一般人とすれ違いざまにいきなり刺されるだの。


 おちおち寝てもいられない二四時間営業の暗殺攻勢が待ってる……なんてのは容易に想像出来る。

 さすがに、そんなん嫌……その一言に尽きる。

 

 平和な村に滞在してしてたら、騎士団が村人もろとも殺しに来るとか、そんな可能性だってある。

 多分、王国に入る限り、安全地帯なんて無い……そう認識して良さそう。

 

 ……外の世界はとってもヤバイ。

 ぶっちゃけ、ここの方がわたしの拠点化してるだけに、世界一安全な場所って気もしないでもない。 


 でも、王国側は話を聞いてる限りだと、勇者マコトってのがキモになってる気がする。


 現状でも勇者マコトが王国に反旗を翻したら、情勢は一気に傾く……と思うんだけど。

 そこら辺も、聞いてみよっと……。


「勇者マコトを説得するってのは? どう考えても王国は色々間違ってるし、もう保身しか考えてないって感じで、どう見てもこのままじゃ、あんまりいい未来は待ってなさそう……。なんと言うか、誰もが不幸になる悲しい未来予想図しか見えない。でも、キーマンは恐らく、そのマコトって勇者なんでしょ? なら、そいつと話し合って動かせれば……」


 ……お姉ちゃんはとりあえず、ぶん殴っとけば? とか言いそうだけど、まずはお話し合いが出来るなら、それで。


 勇者マコトと話し合う事で打開策だって、出てくるかも知れない。


「……あれは、自らが救世の勇者となる事を夢見てる……悪い意味での唯我独尊系です。おまけに現時点では最強の勇者でもありますからね……。説得して味方に引き込むのは、難しいでしょう。何より、勇者マコトもですけど、中央のバカどもがちゃんと未来を見据えて動けるなら、今頃こんなややこしい状況にはなってないですよ」


 なるほど。

 勇者マコトってのは、色々承知の上でデブ大臣の下に付いたと。


 ……ただ、どうなんだろう。

 勇者の力を持ってすれば、隷属の首輪とか人質で、強制でもされない限り、あんな如何にも小物に従う理由なんて無いはず。

 

 となると、むしろ大臣とかがマコトの傀儡化してる可能性だってある。

 

 ……色々弱みを握ってるとか、いつでもぶっ殺せるんだから、死にたくなきゃ、キリキリ働けよとか言って、脅して、都合のいい弾除け代わりに使ってるとか。

 

 形だけの国の代表として生かしておいて、自分の代わりにヘイトを一身に受けさせて、都合が悪くなったら、悪を切るとか言って、切り捨てる。

 

 うーむ、悪党の利用方法としては、まんざらじゃない。

 なんと言うか……なかなかやるじゃん。

 

「大剣の勇者……キラキラした感じの生徒会長系? みたいな男子高校生だったっけ……」


 大剣の勇者は、わたしとしても注視してたから、どんな奴だったかとか、ちゃんと覚えてる。

 なんか、学ラン高校生みたいなのが二人して、お揃いだぜーみたいな感じで肩組んで、笑い合ってたのを覚えてる。


「ああ、それですね。何かと言うと、フフンとか鼻で笑ったり、人のことをモブキャラ呼ばわりするようなヤなヤツ……ですね」


「……白河財閥の御曹司とか言って、こっちでもエリート風吹かせて、金持ち気分が抜けないとか、感じ悪いやつ……つか、普通に外道よ……アイツは」


 吐き捨てるように言うマキさん。

 話題にするのもイヤ……そんな感じだった。


 白河財閥……車からIT、銀行さんと、何でもありありの総合商社。


 最近は、昔ほど派手じゃないし、車も家電製品も見かけなくなったらしいけど、それでも日本でも十指に入るくらいの巨大複合企業だったと思った。


「まぁ、アタシらって、基本貧乏暮らしだったから、やっかみ入ってるのは確かだけど、どうやっても好きにはなれないタイプかな。札束積まれたって、恋人とかにはなりたくないね」


「私は……札束積まれたら、ちょっと考えるかも……」


「マキ姉さん、そこは即決で拒否りましょうよ……」


 勇者白河マコト……なんと言うか、自信満々でエリート人生確約お坊ちゃまとか、そんな感じ?


 まぁ、思いっきり偏見だけど、ユキちゃんやマキさん達の反応を見る限り、鼻持ちならないヤなヤツだって事は解る。


 うーん、権力と財力をセットで持ってるエリートくん?

 生徒会長とかやって、リムジンとかベンツで送迎してもらったり、メイドとか執事がいつも張り付いてるとか?

 

 ……思いっきり、少女漫画なんかのテンプレだけど、大体あってそうな感じ。

 

 ああ言う手合は総じて頭もキレるし、スペックも高いってのが相場。

 よりによって、そんなのが面倒くさいのが、王国の黒幕みたいな立場に収まってるのか……うわ、最悪。

 

 まぁ、黒幕に収まってるってのは、あくまでわたしの仮説だけど、そんなのが人の下に付くなんて考えられない……行動力や実力もある完璧超人みたいな奴だとしたら、それくらいこなしてみせるだろう。

 

 要するに、お姉ちゃんと同系統……主人公タイプと言えなくもない……。


 でも、お姉ちゃんとそのマコトって奴は全然違う。

 お姉ちゃんは、驕りもなければ、人を見下したりもしない。

 

 そんなの、さっきの戦いを見れば明らかだよ……圧倒的だったのは確かだったけど、お姉ちゃんはユキちゃん達の実力を認めた上で、真正面から戦って、全力を出させた上で勝った。

 

 だからこそ、ユキちゃん達も負けたのに、笑っていられる……。

 

 何よりも、お姉ちゃんは借り物の力を極端に嫌う。

 お姉ちゃんは、いつだって、自前の力とド根性だけで、たった一人でもいかなる困難をも乗り越える……そう言う人なんだ。

 

 ……違う意味での唯我独尊。

 そんな金持ちボンボンとは、住んでる世界……次元が違うのですよ。

 

 権力だって、財力だって、所詮は借り物……勇者の武器だって、お姉ちゃんに言わせれば、借り物にすぎない。

 ずっと借り物に頼ってきたような奴と、お姉ちゃんを比べる時点で、それはもうお姉ちゃんへの侮辱。


 似てるようで、もはや根本から違うよねー。

 

 勇者マコトってのが、どんな奴かは良く知らないけど……コイツとは、どうやっても相容れない予感がする……と言うか、わたしの敵?

 

「……なるほど、やっぱり勇者マコトってのが厄介な存在になってるって事ね。そいつをどうにか出来れば、情勢も一気に変わってくるけど……そこまで行くには、いくつもハードルがある……そう言うことね。そして、ユキちゃん達も王国を完全に裏切るのは出来ない選択……。嫌だね……こう言うのって、わたしユキちゃんと戦うとか気がすすまないよ」


 わたしがそう言うと、チラッと周りに視線を送って、ユキちゃんも隣に来るとわたしの肩にもたれかかってくる。


「……私も……シズルさんとだけは敵対なんてしたくないです。だから、色々考えてみたんですけど。やっぱり、お互いの立場とか考えると、難しいんだなって……本当に……ごめんなさい」


 要するに、ユキちゃんも難しい状況の中、色々考えてくれてはいたんだけど。

 ベストの選択肢ってのを見いだせなかったみたい。

 

 結局、わたし達の今取れる選択は、王国に恭順するか敵対するか。

 このままだと、そうなってしまう。

 

 力づくで強制的に引き込むと言うのは、ユキちゃん達の敗北と和解で無くなった以上、決断するのはわたし達次第って事だった。

ストック枯渇しましたっ!

ストック貯まるまで、ペースダウンを余儀なくされてますが、無い袖は振れんのです……スマヌ、スマヌ。

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