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第十七話「素敵な平和主義」③

 

「あれ、そこですんなり肯定しちゃうんだ……。シズルのことだから、なんて無茶すんのよーとか、言うと思ったよ」


「いい加減、こっちでのお姉ちゃんのやり口もなんとなく、解ってきたからね。基本、気に食わないとうるさい黙れってブン殴る。考えてみたら、昔から、そうだったよね……」


「そ、そうだったかなぁ……? で、でも、帝国の件もその一件で皇帝陛下の権威が失墜してね。そこから内乱祭りになって、ななか大変な事になってたみたいなんだけど……。ユキちゃん達の話だと、内乱祭り続行中って事もなさそうだし、案外、まともな後継者が後を継いだのかも知れないね。確かにあの日、皇帝陛下が私の渾身のアッパー食らって、宙を舞った時、めっちゃ喝采浴びてね! これは天誅である! 立てよ国民! って皇帝の代わりに演説したら、すっごい反響あったんだ……まさに、私正義アイムジャスティスって思ったものさ」


 ……ああ、うん……。

 こ、これで良かったのだよ……姉の歩んだ道は、常にジャスティス……覇道王道、姉の前に敵はなし。

 姉に踏み潰された奴らは、ただのクソザコナメクジ。


 ……そんなものに、憐憫など不要なのですよ。

 

 そうなると、お姉ちゃんは帝国のガンを取り除くきっかけをくれたって事でもある……そう解釈出来るんじゃないかな?

 

 恨まれるどころか、大正義お姉ちゃん……帝国の人達も、少しは借りに思ってくれたりしないかな?


「なるほど、そうなると帝国については現時点では、敵リスト登録は保留かな……むしろ、味方になってくれる可能性もあると。次……北国の方は? こっちは何をやらかして、巨大戦艦沈めるとか言う話になったの? あれだよね……昔の日本軍で言えば、ちょっと軽く戦艦大和沈めてやったとか。アメリカ海軍の空母エンプラ沈めてやったじぇい! とか、そんなんだよね?」

 

 それなりの人的リソースと予算、資源を投入したであろう兵器が、最終兵器(笑)にされた気分ってのは、どうなんだろうね。


 どうやって、個人の力で巨大空中戦艦とか沈めたんだろ。

 むしろ、そっちに興味湧くし。


「……別に沈めてやったじぇいとか言わないしー。でも、あれは確かにそんな感じだったかな……。北国って割と科学とか、機械技術とかが発展しててね。自分たちの兵器で勇者を超えるとか息巻いてて、お試しみたいなノリで何度も喧嘩売られてさ。さすがについカッとなったんで、国に直接殴り込みかけて、軍勢軽く蹴散らして、一番強そうで、かつすごーく大事そうにしてた空中戦艦と対峙して沈めてやったのさ。ちなみに、あの手の巨大兵器っても、肉薄して中に入り込んじゃえば、案外脆いもん……やっぱ、兵器とか武器みたいなハードウェアに頼るってのは駄目、駄目! 人間、やっぱり素で鍛えなきゃ駄目だっての」


 ……断定してもいいや。


 帝国も北国も……どっちも手の込んだ自殺と変わんない。

 

 皇帝はどうせ、余に仕えさせてやるから、感謝しろとか、女は傅くものだろうだの、上から目線で迫ったんだろうし……。

 

 お姉ちゃんがしつこいってブチ切れたくらいだから、二度三度と繰り返し、執念深くモーションかけ続けたってところだろう。


 殴るに留めて、ぶち殺しにしなかったのは、お姉ちゃんのお情けだろう。


 まぁ、その後は生き地獄だったろうけど……知らんよ、そんなん。

 もし、わたしがその現場にいたら……誰の断り得て、お姉ちゃんに手出ししてんだって言って、グーパン殴る蹴る! ……だよね。

 

 北国もお姉ちゃんを兵器の実戦テストの相手にしようとしたとか、いやいや、馬鹿な真似をしたもんだよ……。


 まぁ、空中戦艦一隻で済んで良かったんじゃないかな。

 実際、もっと被害甚大だったのかもしれないけど、多いか少ないかの差……いわば誤差だ。

 

 どっちも知ーらない。

 まぁ、国自体を消滅させられなかっただけ、マシってところだろうねー。

 

 何故なら、姉が常にただしいから。


「……そうなると、やっぱり獣王国が一番マシなのかな」


「そうだね……。獣王国の連中って、殴ってKOされた方は負け犬って扱いだからね。強いヤツこそ正義って価値観は解り易いし、最初に一番偉いのぶん殴っとけば、全員大人しく言う事聞くようになるから、この辺の国では、一番付き合いやすい相手かもね。その代わり、文明レベルとか社会的には、一番の後進国だけどね」


 ……逆を言うと、最初にぶん殴っとかないと、全然言う事聞かないし、舐められたら無茶振りばっかりされるってコトか。

 

 でも、ユキちゃん情報だとすでに、6人の勇者が協力してるみたいだから。

 それにわたしらが加わったら、総勢10人……こりゃ確かに、王国も全力で阻止にもかかるよ。

  

 なんと言うか、情勢が見えてくるほどに、わたし達がどう動くかってのが、物凄く重要なのがよく解る。

 

 もっとも、今の所……把握できてる勇者は、わたし達をいれても28人?

 そうなると、残りは19人……要するに20人位勇者はいるはずなんだけど……。

 

 把握できてる王国外の勇者も、ユキちゃん達が直接相対したり、王国の諜報活動の末に把握してるだけだし、あくまでユキちゃんが知ってる限りではある。


 王国が秘匿してたり、他国の勇者もわたしみたいな後方生産系勇者なんかだと、前線なんて出てこないだろうから、所在の把握と言っても、かなり難しいと思う。


 なんにせよ……こうなってくると、その所在不明の19人はかなり重要ではあるのだよねー。 

 まぁ、間違いなくこれから始まるのは、勇者争奪戦。


 わたしもその争奪戦に巻き込まれるのは避けられない……。

 

「……どうでしょうか? 現状としては、シズルさん達が獣王国に付くってのは、それだけで情勢的にとってもまずい状況になるってのは、良く解ると思います。その点、わたし達と一緒に王国に来てもらえれば、王国側の勇者は一気に13人……戦力的にと言うよりも、対外的に勇者の人数ってのは極めて重要ですからね……。そうなると周辺国は、これまでのように強気で押してくる訳にもいかなくなるんで、少しは話し合いの余地が出て来るんじゃないかな……と、そう思いません?」


 お姉ちゃんとの相談タイムをまるで、見計らったようにユキちゃんから一言。

 

 ユキちゃんは、なんとなくわたしにお姉ちゃんと言う知恵袋が付いてるのが解ってるっぽい。

 

 と言うか、その憑き人の正体も……そもそも、直接相対したことで、桁違いの実力の剣の使い手だと実感してるだろうし、身内が剣王なんて呼び讃えられるユズルお姉ちゃん……なんてなったら、導かれる結論なんて一つしかないだろう。

 

 と言うか……ユキちゃんって、断片情報をつなぎ合わせて、正解に辿り着く……その程度には頭も切れるみたいだからね。


 敵に回したら、一番厄介なのは事実だと思う。

 

 ユキちゃんの希望としては、多分わたしとの共闘なり、同盟……要するに仲良くしませんかと言う提案。

 どうせなら、一緒に平和の為に戦いませんかと……これはこれで魅力的な提案じゃあるんだけど……。


「なるほどね……。でもさ……さっきも言ったけど、わたしは王国に敵対するに足る理由があるし、大臣とか、なんとか司教がいる限り、わたしは狙われ続けると思うよ? 王国に付くとしたら、その手のわたしの敵は皆殺しにする……それでいいならって話になるかなぁ……」


 さらっと皆殺しとか言ってるけど、これだけは妥協は絶対にしない。

 大臣と司教は、どっちも絶対に殺す……こいつらは、お姉ちゃんが居なくなって清々したなんて、言った。


 この時点で、こいつらは生かしておけない。

 お姉ちゃんの仇……絶対に許さない。

 

 それに、どうせわたしは邪魔者にしか見てないだろうから、仮に王国に恭順したとしても、暗殺者を送り込んできたり、勝ち目のない戦いに送り込むとか、そんなやり方でわたしを亡き者にしようとしてくるだろうしねぇ……。

 

 だから、こいつらが代表である以上、王国とは和解も妥協も一切あり得ない。 

 それに、お姉ちゃんを追い詰めていったこの世界の全てをわたしは許さない。


 もし王国を許せる時が来るとしたら、それら全てを叩き潰した上でってなる……これは、絶対譲らないよ!


「そうですねぇ……やっぱり、そうなりますよね。なにせ、王国を事実上動かしてるのは、あのポンコツ無能大臣とその子分達と魔王の使徒の疑惑すらある司教ですからね……。こいつらが居なくなりさえすれば……そこら辺は皆、解ってはいるんですよ。なので、我々は彼らを排除するために密かに動いてはいるんですよ」


「……王国も一枚岩でもなく、ユキちゃん達はむしろ、反中央派とかそんな感じだったりするの?」


「お察しのとおりです。王国は各国との国境線を守る地方領主達と中央とで、二分状態でもあるんですよ。ただ地方領主達はそれぞれ隣接国や魔王軍との攻防にかかりきりで、近隣国に勇者が出て来た関係で中央の力を必要としているし、お互い切るに切れないって感じなんですよ……。あ、私達はカーライルくんのお世話になってるので、どこの所属なのかなんて、もう言うまでもないですよね?」


 なるほど、ユキちゃん達三姉妹は、地方勢の最先鋒ってとこか。

 後続の軍勢も国境警備隊って言ってたから、中央の大臣も顎骨司教も関係ない純粋に国を守るための軍勢……その一員だと言いたいんだろうね。

 

「そうなると、別にわたしと積極的に戦う理由なんてない……そう言いたいの? まぁ、わたしとしてもユキちゃん達と戦うなんて気が進まないから、そう言う事なら、助かるんだけど」

 

「はい、そう言うことですね。アーガイル卿がすんなり撤退を受け入れてくれたのは、私達姉妹と何度も共闘したり、それなりの交流があることもありますけど。死の森で獣王の軍勢と戦うなんて、洒落にならないって理解してるからってのもありますよ……。もちろん、軍勢のみでシズルさん達勇者とやり合うなんて、自殺同然だって理解もしてますからね。撤退というよりも私達が敗れたことで全力で逃げるとか、そんな感じでしたよ」


「なるほど……そう言う事だったんだ。けど……そうなると、ユキちゃん達がこのまま帰っても、今度は別口の勇者が来るとかそんな調子だったりする?」


「そうですね……確実にそうなりますね……。次は、中央軍と勇者マコトが出て来るでしょうし、そうなると私達も配下として動員されるでしょうから、次はこんな風に簡単に降伏も許されない。下手したら、どちらかが死ぬまで戦わされるかも……」


 ユキちゃん達は、人質を取られてるから、中央の命令には逆らえない。


 すんなり引き上げが決まったのも、前線の連中が物分りが良いからってだけの話で、王国が本腰入れたら、そうも言ってられなくなる。


 困った……こりゃ、完全にジレンマだな。

 情勢的には、獣王国に付くってのがよさそうなんだけど、そうなると今度は、王国との泥沼の戦いになるって訳か。


 ライブラさんの要請は、このカオス状態を少しでもマシにして、この世界を安定化して欲しいってところだから、泥沼の戦乱とか起こしてちゃ駄目だろう……どう考えてもね。


 こりゃ、つくづく、よく考えないといけないよね……まったく。

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