第十七話「素敵な平和主義」②
「……わ、悪い? 女子たるもの男子のために命賭けるとか、むしろ本望っていうんじゃないの? まぁ、男の子と付き合ったりとか、そんな経験ないけど……」
「マキ姉さんは、違う意味で男にモテモテじゃないですか」
「……ド付き合いは、モテるとか言わないっ!」
マキさんの非モテ、カミングアウト。
どうもそっち方面でモテモテだったらしい。
具体的には、拳と拳の語り合い的な?
なんと言うか、バイオレンスな青春送ってる女子高生ってどうなんだろね。
でも、色恋沙汰に命賭けるとか……そこまで出来るもんなのかなぁ……。
わたし、そう言うのって縁なかったし……。
恋する乙女ってのは盲目だって言うけど……。
こんなになるもんなんだ……なんと言うか、どうなんだろ?
これが、普通なのかなぁ……。
今は、クマさんとかユウキくんみたいな男性が身近にいるっちゃいるけど。
あの二人はもう家族同然……恋愛対象とかちょっと違うしなぁ……。
と言うか、ここに女子が5人もいるのに、全員男性経験は皆無だって解ってきた。
あっれー? でも、そう言うのは結婚してからでいいと思うから、問題ないと思う。
それはともかく、ユキちゃん達の事情は概ね理解出来た。
「ユキちゃん達が王国を裏切れないって理由はなんとなく解ったよ……。わたしも女子だから、その気持ちは解らなくもないよ……。とにかく王国軍が撤退したなら、あとは獣王国軍とわたし達の問題ではあるからね」
「確かにそうなりますね……。戦争は回避された……となると、王国側としては一旦出直しの上で、シズルさん達への対処を再検討することになると思いますけど、ここに居る限り、絶対に諦めることはないでしょうね……」
「やっぱ、そうなるかぁ……。でも、わたしとしては、もうちょっと修行しないと話にならないって実感したから、ここから離れるつもりはないよ……。獣王国とは、平和的に話し合って、不可侵条約と転移門使って買い出しとかさせてくれる程度の関係に留めるから、ひとまず、それで良しとしてもらえたりしないかな?」
まぁ、獣王国には助けを求めちゃったし、向こうもそのつもりで来てる。
しかも、転移門まで近くに設置してくれたって事は、この秘境の交通の便も良くなるってコト。
はっきり言って、わたしにとって、この拠点ってのは超重要。
色々試行錯誤してるうちに、こんなところを拠点化しちゃったけど……転移門や流星を活用すれば、僻地って問題もクリアできる。
そもそも、拠点を移すとなると、どうやっていいか判らんと言う事情もあるから、現状ちょっと簡単には動けない。
こればっかりは、お姉ちゃんの知識も当てにならないんだよね……。
「なるほど。この領域化がシズルさんにとって、その圧倒的な力の源泉になってるってのは、解りますからね。けど……それでよしとするかどうかは、王国次第ですね……。現状、王国側としては、あなた方の所在が判明していて、手の届く場所にいるということになれば、今度は十分な準備の上で、勝てるだけの戦力を用意して、再度侵攻してくる事でしょうね……具体的には、勇者マコトと光魔教団の強化兵あたりが相手になるかと」
ユキちゃんの冷静な分析。
……やっぱ、そうなるのかー。
向こうは、勇者はおらが国のモノって認識だから、必然的にそうなるし、長年の敵対関係の獣王国に持っていかれるとか絶対許せないってコトか……解る。
敵の戦力は、さっきも話に出てた勇者マコトってのと、光魔教団? ああ、あの骸骨司教の率いる教団かぁ……どうやら、そんな名前だったらしい。
そうなると、当然先鋒はユキちゃん達なんだろうなぁ……ユキちゃん達は、王国の命に逆らえそうもないし、今度はお姉ちゃん対策もちゃんと立ててくるだろうから、今回みたいに楽勝って訳にはいかないだろう。
思わず、ユキちゃんの言葉に考え込んでしまう。
正直、そうなるととってもやりにくい。
お姉ちゃんにアドバイス求めても、多分、王国とはとことんやり合えってなるだろうし……。
とにかく、個人的にはユキちゃん達と争うのはイヤ。
これ、どうすればいいんだろ……?
あっちを立てればこっちが立たず……まさにジレンマ待ったなし。
逡巡するわたしの様子に、ユキちゃんも申し訳なさそうにする。
「これは……難しいところだね……ホント、困った」
そう返すと、ユキちゃんも解ってますよと言いたげに微笑む。
「ええ、シズルさん達の立場も状況もわかりますよ。だから、どうでしょう? 一度、形だけでも、王国に戻ってきてもらう訳にはいかないですかね? 王国は、これまで勇者の力を背景に威張り散らしてきたツケが溜まって、その反動で四面楚歌みたいな感じになってるんですよ。今、正式に王国に所属してる勇者は、大剣の勇者とその5人の仲間達と、私達三姉妹だけ……。対する他の国々の勇者は、北国に5人、東の帝国に4人、獣王国には6人ほど……。これは現時点で確認されてる最低限の数字なので、今後増える可能性もありますね」
「……具体的な数字を教えてくれてありがとね。でも、なんと言うか、微妙な数字だねぇ……」
どうもユキちゃんは、意図的にわたしに判断材料を与えてくれたようだった。
ただ、ものすごく微妙な状況だってのは、その数字を聞くだけで、詳しく説明されずとも解る。
王国側は現在、9人の勇者が所属。
周辺国に、15人……わたし達も入れたら19人。
これが王国の置かれた状況って訳だね。
ちょっと考えれば、かなり厳しいってのはすぐ解る。
普通に、戦力比では倍……。
仮に周辺国が、全て結託して一斉に攻め込んできたら、普通の軍勢は勇者にまるっきり歯が立たず、勇者に対抗するのは勇者しかありえない以上、勇者の数で劣る王国は普通に負ける。
でも、そうなってないのは、周辺国同士が連携できてなくて、バラバラに動いてるから。
一国同士となると、王国は周辺国のどれと対峙しても、勇者の数では圧倒できる。
要するに、王国が現状を保っているのは、周辺国側が手を組んでないからにすぎない。
もっとも、これは偶然の産物ではなく、なんだかんだで全方位敵国、四面楚歌とならないように、外交や諜報関係者とかを上手く使って、敵国同士を噛み合わせるとかやって、巧妙に立ち回ってるとかそんなところだと思うな。
案外、情報操作とか巧みな奴が裏で色々動いてるのかも知れない……この辺は、長年魔王を相手にガチでやりあってきただけに、王国の老獪なところって気もするね。
上が少しくらいポンコツだろうが、王国を守る見えない影の力のようなものあるのは、確かのようだった。
でも、この感じだと……三つ巴どころか、最低でも四つ巴。
魔族なんかやその他独立系勢力なんかも入れたら五つ、六つ巴くらいになってるのかも。
……何この、カオス。
少なくとも、王国を守る影の力は異世界情勢を安定させようとかそんな気はサラサラない様子だった。
「うわぁ、私の頃は帝国も北国も日和って、後方でコソコソしてる程度だったのに……なんだか、とんでもないことになってるようだね。ちなみに、王国の周辺国同士はどこもめっちゃ仲悪いよ。前回の魔族との戦争でも、この二国は王国が盾になる位置だった関係で、コソコソと暗躍したり、うちに来ない? とか使者やら送り込んできたりしたもんよ。中には力づくで、後方の非戦闘系勇者を拉致ろうとしたってのもあったしねー」
「……一応、確認するけど……お姉ちゃん、他所で色々やらかしてたりしないよね?」
「帝国は……皇帝陛下ぶん殴って泣かせたし、北国はご自慢の巨大空中戦艦を沈めてやったりしたかなぁ……」
またこのパターンか。
……思った以上に、やらかしてた。
皇帝殴って泣かせたとか、未来永劫語り継がれるクラスの国辱級のやらかしだし……。
巨大空中戦艦ってのがどんなのか知らないけど……そんなもん、個人で沈めるなって話。
「なんで、そうなったのとか、もう敢えて聞かないよ。向こうもそれなりにやらかして、お姉ちゃんがキレた……要約するとそう言うことなんでしょ?」
「さすが、我が妹……理解が早くて助かるよ。けど、ここは敢えて、言い訳させてもらいたい! どっちもそれなりの理由があるのさ。まず、皇帝はなんか無駄に気に入られちゃってねー。なんか、求婚とかされたんだけど、断っても断っても迫られて、いい加減ムカついたから、国民いっぱい集めて、演説してるところに顔見せて、もう二度と近づくなって言ってブン殴った」
「……なるほど、お姉ちゃん的にはまさに、ジャスティスだね」
……バカだねーとしか思えない。
逆を言うと、その程度に空気が読めないバカが皇帝とか、そりゃもう国自体が駄目だよ。
結論、帝国とやらはギルティ。
次行ってみようかーっ!




