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第一話「異世界召喚」④

「はぁ、わたし……そのハンマーの勇者が良かった。それと農業とか、衣服、食べ物事情はどんなもん? お風呂とかトイレなんかは? この辺割と重要だと思うのよねー」


「うーん、農村のゴブリン退治で行ったときは、牛やロバっぽい生き物とか、でっかい芋虫で畑耕すとかやってたよ。ご飯はパンとかジャガイモ煮たのがメインだったけど。私らみたいな冒険者とかは、アウトドアで自前調達が多かったかな。味付けは塩が基本だったけど、錬金術師の人って鑑定ってスキルがあるとかで、どうみても雑草みたいなのからハーブとか薬草見分けたりして、スパイスみたいなの調合してくれてね。あれがまた美味しくって……居なくなって一番困ったのがそれ。ちなみに内陸部だから、生水とか飲むのは厳禁……むしろ、薄いお酒とかが、水代わりだったよ」


 お姉ちゃんの話をまとめると、農業は機械化以前……農薬とか化学肥料とかもなさそう。

 そうなると、やっぱり食糧生産効率は低いって事。

 

 とは言え、小麦的なのとか、ジャガイモがあるってことは、ある程度食糧生産は、安定してるって思って良さそう。

 ジャガイモって意外と侮れなくて、特にヨーロッパ圏では飢饉から多くの人々を救ったとも言われてる……ある意味、チート植物でもあるのだ。

 

 なんで、そんなのが異世界に? って思うんだけど、多分昔、こっちの世界から転移した人が似たようなのを見つけて、普及させたのかも。

 

 でも、治水とかは駄目っぽい感じだから、ちょっとした長雨や干ばつで、不作になって、人がバタバタ飢えて死ぬとかそんなだろうな……。

 

 けど、錬金術師が、未知のアイテムを判別出来る、鑑定スキル持ちってのはいい情報。

 

 未知の世界の未知の植物や鉱物……それに様々なマジックアイテム。

 それが何なのか事前に解るってのは、かなり重要な気がする。

 

 薬草とかキノコとか、当たる覚悟でとりあえず、口にしてみるとか、さすがやりたくない。

 

 お酒は……さすがに飲んだことないけど。

 生水より安全ってのは、何となく解る。

 

 日本は島国だし雨が多いから、湯水のように、なんて例えがある程度には水は豊富だし、場所によっては、湧き水をそのまま飲めたり、簡単に綺麗な水が手に入ったりするけど、ユーラシア大陸の奥地とかって、本来飲める水自体が貴重。

 

 のどが渇いたら、井戸水や川の水を濾して、煮沸消毒の上でお茶とかコーヒーで飲むのが基本……そんな話を聞いたことある。

 ミネラルウォーターをそのまま飲むのって、あれって日本人くらいしかやらないんだそうな。

 

 ……そうなると、携帯浄水器とか持っていきたいな。

 と言うか、錬金術師なら、塩素浄水剤とかも作れそうな気も……。

 

 うーむ、ケミカル系の知識とか仕入れとかないと。

 もっとも、お酒が水代わりってのは、うちはウワバミの家系だから、きっと平気だろう。


 実際、姉も全然平気だったっぽい。

 と言うか、お姉ちゃん思いっきり未成年だよね? これは、聞かなかったことに。 

 

 ……こんな調子で、色々お姉ちゃんの話を聞きながら、夜が更けていった。

 

 なお、わたしが錬金術師になるって根拠は、姉の見た未来視。

 なんでも、ランタンを片手に途方に暮れるわたしのビジョンが見えたんだそうな。

 

 どっちにせよ、異世界召喚される事も、どのジョブになるかも、決まっちゃってる。

 戦闘力皆無のハズレジョブになるのが、わたしの運命。

 

 ……聞いてる限りでは、バランスも何もないクソゲー異世界以外の何物でもなさそうだけど、そこはもう甘んじる。

 一種の縛りプレイだと思えば……やるしかないなら、やるしかない!

 

 そんな訳で、姉と二人三脚での異世界攻略の下準備の日々が始まった。


 ……期間は、三週間。


 その根拠は、三週間後が満月だから。

 

 なんでも、召喚される直前のビジョンで、窓の外に満月が映ってたんだとか。

 時間もすでに解ってる……深夜零時ジャスト。

 

 ひょっとしたら、もう一周先かもしれないけど。

 双方の世界の月の巡りなどの関係で、チャンスは半年に一回程度なんだとか。

 

 いずれにせよ、その時が来れば、問答無用で召喚されるのは、もはや確定だった。

 

 なお、持っていけるものは、基本服とか身につけてるものだけ。

 ノートPCやらスマホと言った電子機器とかは、電気がないし、電波の中継局も無いから、役には立たないだろう。


 そもそも、ネットに繋げられないスマホとか、電卓とかメモ帳、カメラくらいにしか使えないし、バッテリーが切れたら終了のお知らせ。

 

 非常用の手回し発電機能付きバッテリー、あるいはソーラー充電モバイルバッテリー持ってけば……?

 でも、それが壊れたらアウト……結論、要らね。

 

 山登る人とかも、スマホ頼みとかって、まずやらないって聞く。 

 結局、地図とコンパスみたいな、昔ながらのアナログな機材が一番信頼できるんだとか。

 

 けど、ソーラー電卓とかソーラーチャージの時計くらいは持っていく。

 向こうでも10進法の計算とかはあるみたいだし、時間もこっちとは一日の長さが違ったりしてそうだけど。

 目安があるのと、ないとでは大違い。


 どっちも10年、20年は持つようなタフな物だし、お父さんのを拝借……無期限で。

 

 あとは、化学の教科書やら、ネットや図書館を駆使して、ウィキペディアの解説、銃火器の図面やらもプリントアウトして、束にしてカバンに詰め込み。

 

 農薬とか、毒物、肥料……各種化学薬品の分子式とか、調合式。

 もちろん、それが何の役に立つのかとかもちゃんと覚える。

 

 大人じゃないから、薬局で劇薬買えたりとかはしないから、現物持っていくのは限度があるけど。

 そう言う知識があるだけで、色々役に立つかも知れない。


 実際、科学知識を得てから、ホムセンなんか巡ると、結構ヤバイのが普通に買えるって事に気づいた。

 

 姉の話だと、通学カバンくらいは持ち込めたって話なんで、大きなリュックを買ってきて、厳選して色々詰め込んだ。


 肥料とか農薬とか小分けにして少しづつ、他にもアウトドア系の便利かつ、嵩張らないものをいくつか。

 釣り糸や10徳ナイフ、折りたたみスコップとか。

 ポケットだらけのベストとか、頑丈そうな作業服。


 お小遣いじゃ足りなくなったけど、お姉ちゃんが部屋に隠してたへそくりを使わせてもらった。

 机の引き出しに細工してて、本人でないと絶対解らない隠し場所……。


 一緒にしまってあった日記は、姉の黒歴史とかで燃やせと命じられて、灰にした。


 ちょっとだけ見たかったけど、見たら殺されかねないので、その誘惑に耐えきった。

 まぁ、わたしも秘蔵のBL本とか処分した……居なくなったら、絶対家探しされるからね!


 パソコンのデータも可能な限り、処分……と行きたかったけど、とりあえず暗号化して、パスワードロックをかけておいた。

 専門の業者が匙投げたって話がある程度には、強固な暗号化アプリだから、大丈夫だろう。

 

 他に持っていくもの。

 下着は重要……姉の話だと、向こうの女性は、基本ノーパン、ノーブラ。

 

 勇者仲間には当然女性も居たみたいなんだけど、姉を含めて、皆それで色々苦労したらしいので、予備を出来るだけ詰め込む。

 

 特に、わたしは無駄に胸がデカいから、ブラは重要。

 まぁ、下着なんて消耗品だし、サイズ合わなくなったりで、すぐ使えなくなると思うけど。

 

 現物があれば、異世界でも再現できるんじゃないかな……。

 異世界だって、絶対需要ありそうだし。

 

 シャンプーやリンスも手作りのやり方調べて、実際作ってみたりとかしてみた。

 この辺は、重要です……わたし、女の子だし女子力は、常に高くありたい。

 

 トイレはいわゆるボットントイレ的なもの……。

 まぁ、これは昭和のあたりまでは、割と普通だったらしいし、水洗トイレが当たり前の現代っ子には、ちと辛いけど……慣れるしか無い。

 

 お風呂も期待できないけど、高級宿屋とか王侯貴族の屋敷なんかではあったりするし、天然温泉とかもあるらしい。

 服の汚れとか、清潔な水なんかも、魔道具と呼ばれるマジックアイテムと組み合わせる事で、誰でも使える生活魔法って言う便利な魔法があるから、それなりになんとかなるらしい。

 

 むしろ、そう言うのがあるから、化学や科学が発展してないんじゃないかって気がする。

 

 科学や化学の発展ってのは、快適にしたいとか、便利にしようってのがスタートラインになる事が多いから。

 こっちの世界では、それを技術の力で解決ってなるんだけど。

 魔法があると、なんでも魔法で解決ってなる。

 

 だからこそ、科学と魔法は両立しない……そう言うものなんだと思う。

 

 そして、これは重要なポイントなんだけど。

 その生活魔法を使うためのマジックアイテム作ってるのも錬金術師。

 

 その上位互換の錬金術師の勇者って意外と使えるのかも。

 

 ん? もしかして、異世界の人々の暮らしとかを変革する可能性もあるんじゃ……。

 ちょっと、わたし……始まったかも知れない。

 

 

 そして、三週間があっという間に過ぎた。

 

 背後霊状態の姉との生活は……そりゃあ、もう色々あったけどね。

 三年間の空白を埋めるように、いっぱいお話をしたし、一緒にお出かけもした。

 

 やっぱり、お姉ちゃんがいると、世界が違う……なんか、もう実感した。

 

 学校なんかでも、急に明るくなったとか言われたし、隅っこを猫背でコソコソ歩くような事もなくなった。


 と言うか……この三年間。

 まともに人と話もしてなかったし、何をやっても面白くなかった。


 世界から色が消えてしまったような……そんな毎日だった。


 けど、お姉ちゃんが側にいる……それだけで世界に色が戻ってきた。


 わたしには、お姉ちゃんが必要不可欠……そう言う事なんだろう。


 ちなみに、お姉ちゃんとは、別に声出さなくても、姉に話しをしようって思うだけで、意思の疎通が出来るので、何も居ないところに向かって、ブツブツ独り言を言う危ない人にはならずに済んだし、両親に病院に連れて行かれるようなこともなかった。

 

 でも、お父さん達には、お姉ちゃんの最後の言葉を伝えておいた。

 夢枕に立ったって事にしといたんだけど、二人共それが姉の言葉だって解ったみたいだった。


 二人共、ずっと姉が突然行方不明になった事を悔やんでたから。

 

 自分達が厳しくしすぎたとか、家をいつも空けて、家のこととか押し付けてたからとか。

 色々と後悔してた……ずっと。

 

 姉はただ一言。

 

「ありがとう」って伝えてと。

 

 とても短い言葉。

 

 わたしは、それだけを伝えたんだけど。

 二人共憑き物が落ちたように、号泣すると、長らく見てなかった笑顔を見せてくれた。

 

 こんな事しかしてあげられないけど……。

 わたしはたぶん、孝行娘になれたと思う。

 

 ……だからこそ、わたしは、絶対にこの世界に戻る!

 

 さぁ、どんと来やがれ異世界っ!

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