第十六話「水晶玉の勇者」①
「そ、そうだったんですか……。剣王ユズル……王国ではもう伝説になってるような存在ですね。アーガイル卿もこの傷は、剣王と戦って、付けられた勲章のようなものだとか言って、むしろ自慢してましたね……」
「本人が名誉の傷だと言ってるなら、それでいいのかな……? 確かに間違っちゃいないか。なんだかんだで、彼はお人好しの愛すべきバカってヤツだったよ。実際、そんな悪い奴じゃないだろ?」
「そうですね……。部下にも慕われてるし、私達にも優しい、いい親父さんって感じの人です。髪型が奇抜だったんですけど、謎は解けました。そう言えば、シズルさんは剣王の妹だって話を聞いてますけど。その圧倒的な強さ……お姉さん譲りって事なんですかね……。けど、それだけの剣の腕があって、なんでランタンに選ばれたんでしょう……? 王国の大剣の勇者マコト・シラカワよりもよほど強いかも……」
……と言うか、むしろ本人です……それ。
伝説の存在とか言われて、気を良くしたらしく、ドヤ顔になってるお姉ちゃん。
いや、だから……わたしの姿なんだから、お姉ちゃんの話に我が事のように、反応しないで欲しい。
ホントは、何も考えてないんじゃないの?
「……そこら辺の事情については、ひとまずご想像に任せるよ……。それと、今の私は名もなき剣鬼……シズルであって、シズルではない。そう言わなかったかな? とにかく、次……君らの戦略目標は? 何を以って、君達は勝利とするかって事だね」
……その設定、まだやってたんだ。
さすがに、無理があるような気がするんだけどなぁ……って言うか、そろそろ、選手交代してもいいんじゃないかなぁ?
そもそも、なんでお姉ちゃんが捕虜への尋問みたいなことやってんだろ?
わたしがやっても、何聞いていいのか解んないから、とりあえずさっさと帰れってやっちゃうだろうけど。
けど、敵の情報を可能な限り入手しておく。
そう言う意味では、この降伏した捕虜から、情報を引き出すと言うのは、正しくも必要な事。
うん、わかりやすい。
「せ、戦略目標ですか……。我々としては、あなた方が獣王国に恭順して、王国に敵対すると言うのは、最悪の事態だと想定していました。すでに、王国側が把握できているだけでも、召喚された勇者のうち半数以上が獣王国や北の北国、東の帝国と言った周辺国に保護され、王国の脅威となっている以上、排除も想定した上で……接触の阻止を図るのは、むしろ当然だと思いませんか?」
「なるほど、王国側が過剰反応とも言えるほど、性急に動いたのは、そう言うことか。勇者の戦力は言ってみれば、戦略兵器としての側面すらあるだろうからね。国として、その対応は確かに正しい。けれど、すでにその目論見は、君達があっさり返り討ちにされた事で破綻している。君達が敗れたときの事、次善の策とか、その辺はちゃんと用意してるのかい?」
「……負けることを想定して、戦いに臨むと思いますか? この結果は不本意ですけど……現状、王国軍は私達が勝つことを想定して、むしろこの後に続くであろう、獣王国軍との戦いを視野にいれた上で作戦行動を継続しているはずです」
要するに、負けた後のことなんか考えてなかったと。
……駄目じゃん。
「なんとも愚かな話だな……国境警備隊をも動かしたとなると、もはやそれは戦争だ。そんな事をしている場合じゃないだろ。王国軍は、相変わらず変わってないな……戦略的見地の欠片もないとはな。君も奴らのやり口はわかったろ? そんな調子で、希望的観測の元に場当たり的に、勝ち目のない戦に挑まされて、いったい何人の勇者が無駄死にしたのやら……。いいかい? 私が王国に敵対的なのは当然だ……幾多の勇者を死に追いやり、国土を蹂躙され、それだけに飽き足らず、国民を生贄に性懲りもなく勇者召喚した挙げ句に、国王を殺害して、自分たちの利害を守るために、生き残りを図る? そんな腐った国……むしろ滅んで然るべきだっ!」
……珍しく、お姉ちゃんが激怒ってる。
わたしはこの世界でのお姉ちゃんの冒険のほんの一部しか聞かされてない。
断片的な……三年もの間続いた長い戦いの記憶。
それのほんの一部しか知らされていない。
……お姉ちゃんは、魔王軍との戦いの末、共に戦った仲間をすべて失い、最後の一人となりながらも、魔王軍との戦いを続けたと聞いている。
そんな絶望的な状況の中で、お姉ちゃんが何を思っていたのか。
……それを垣間見たような思いがした。
それは紛れもなく、怒りと絶望。
そんな思いを胸に秘め、お姉ちゃんは最後の最後まで、戦い抜こうとした。
それがそんな途中から、手抜きイージーモードみたいになったのなら。
そりゃ、ゲームマスターを殺しにだって行くだろう。
……わたしは、お姉ちゃんが「魔王を統べるもの」を倒そうとしたのは、間違いなく確信犯なんだと思った。
「わ、私達が間違ってるとでも言いたいんですか! 私達は王国に召喚された勇者である以上、王国の為に戦う……それが当たり前じゃないんですか? あなたのお姉さん……ユズルさんもそうだったんですよね? 王国のために、最後の最後まで戦い抜いて、魔王と相打ちになった……立派な方じゃないですか……」
自分達を全否定されるような言葉を浴びせられ、マキさんも黙っていられなかったようだ。
でも……言葉は選ぶべきだ。
それは間違いなくミスチョイス……お姉ちゃんがすっと無表情になって、口元だけほほ笑みを浮かべる。
コレは……お姉ちゃんがブチ切れた時のアルカイックスマイル!
「……それは違うよ……剣王ユズルは、あくまで、この世界の全ての為、そして散っていった戦友の思いを受け継ぐ為に、最後まで戦い抜いたんだ。王国みたいなちっぽけな存在の為に戦ったのでは、断じてない……。こんな話……君としても無駄だろうけどね……。一応、言っておくけど、この話を続けて、君が自分は王国に忠義を誓う勇者だと主張し続けるのなら、最終的に、私は君を殺さなきゃいけなくなる……その理由は解るかい?」
お姉ちゃんが冷たく言い放って、剣を抜くと、マキさんも息を呑む。
そして、その言葉の意味を悟って、たちまち顔面蒼白になる。
「……あ、あなたはあくまで王国の敵である以上、私達姉妹が王国に忠誠を誓っていて、変節の余地がないなら、無事に帰すという選択肢がなくなる……から、です……か? 敵にしかならないなら、生かしておく理由はない……と? わ、私達……同じ勇者なんですよね……そ、そこまでしなくても……」
「なんだ、解ってるじゃないか。でも、そう言うことは、解ってても黙っていた方がいい……。けど、合理的に考えるとそうなるのは、むしろ当たり前だ。私は、戦いに敗れた君達に生きるチャンスを与えられるように、話し合いをしてるつもりなんだがね。忠義に厚いのは立派だが、そう言う手合はいっそ殺してやるのが慈悲……そんな風になる。君も生き延びるためには、本音と建前を使い分けて、変節漢を演じるくらいはするべきだ……まったく、こんな事を言わせないでくれよ……」
よ、よかった……問答無用で、なら死ね! とかならなくて……。
意地を張って、バカ正直にツッパてると、こっちも殺すしかなくなるから、この場は腹芸でもして誤魔化しとけ……要するに、お姉ちゃんはそう言ってる。
敵は殺すしかないって、物騒な言い分も理解は出来るし、そうするのが合理的なのも解る。
同じ奴と何度も戦うなんて、向こうもレベルアップするのだから、御免こうむりたい。
であれば、見敵必殺……相見えた敵は、必ず殺せ。
このシビアな考え方がベスト……となる。
けど、裏切りくらい平気でするような変節漢相手となれば、そこまででもない。
お金で裏切ったり、命惜しさに裏切る手合なら、利用価値ってものが出て来る。
そう言う抜け道もあるんだから、こう言う時は、そうしといた方が長生きできると、お姉ちゃんは暗にそう忠告してる。
……お姉ちゃんも優しいだか、容赦ないんだかね。
ちなみに、サキさんは、勇者モードもとっくに解除されてるんだけど、完全に意識を失ってるらしく、動く気配もない。
ユキさんは復活してるみたいなんだけど、何か企んでるみたいで、さっきから横の草むらに隠れ伏してる。
ただ、支援系勇者の水晶玉の勇者一人で何が出来るかと言えば……多分、何も出来ない。
ユキちゃんと一対一で戦うなら、多分わたしの方が上だと思う。
おそらく、マキさんが何らかのアクションを起こした時や、お姉ちゃんがマキさんに危害をを加えようとした場合に、すぐさまフォローできるようにしてるんだと思う……。
もっとも、わたしが気づいてるくらいなんだから、お姉ちゃん、その辺とっくに勘付いてるはず。
つまり、ユキさんも含めて暗に、お前ら変な意地を張ってると全員殺すぞって、脅してるって事……ひぃいいいいっ! その笑顔、止めようっ!
蘇るトラウマ……あんなコトや、こんなコト。
逆さ吊り、枕の刑、電気あんま、etc、etc……数々の刑が、あのアルカイックスマイルと共に執行されたことか。
もはや、それはわたしにとっては、トラウマ以外何物でもないよっ!
「は、はい……そ、そうですね。わ、私も、こんな若い身空で、死にたくないですから……。さ、さっきのは無しで! 私、王国のために死ぬとか冗談じゃないですからっ! 命ばかりはお助けを!」
「……そうそう。始めから、そう言う態度なら、こっちもやる気を削がれるからね……。まぁ、上出来かな?」
「ユ、ユキちゃーん……聞いてるんでしょ! もう、止めようっ! と言うか、私にこんなの相手に、一人で交渉とか無茶振りしないでっ! 起きてるなら、こっちきてーっ! 私、もう降伏するって言っちゃったんだけどさっ! この人怖すぎっ! 出てきて……お願いだからーっ!」
涙目でマキさんがそう言うと、オデコにでっかいタンコブ作った白い肌と青白い髪のボブカットの、水晶玉を抱えた背の低い小さい子が不貞腐れたような顔をしながら、立ち上がって茂みから出て来る。
ムクイヌみたいに、目元を髪の毛で隠した……なんとも根暗っぽいおとなしそうな雰囲気の子。
むしろ、なんとも子供っぽい感じがして、拍子抜けする……。
ちなみに、服装自体は腰の片側から大きくスリットの入った青基調の占い師みたいなカッコなんだけど、上から緑味がかった枯れ草色のくっそ地味なマントを身に着けてる……完全に迷彩色なんで、これで茂みに潜んでたら、もう解らない……。
……自分が戦闘には不向きだって、解ってるからこそ、隠蔽に最大限気を使ってるって事だった。
逃げ隠れする気が全く無さそうな全身真っ赤なサキさんとは、対照的だった。
「……何、あっさりヘタれてるんですか? このバカ姉貴……まったく……。けど、この状況でもはや逆転勝利とかありえないし、マキ姉が降伏するって言ってるのに、それを反故にして悪あがきしたら、今後、あなた方相手に何を言っても、信用されなくなってしまう……そう言うことですよね?」
「そうだね。この世界には、戦時協定なんて無いからね。捕虜への対応や白旗を掲げた相手にどうするかなんてのは、前例に従うか、現場の気分次第になる。である以上、降伏すると宣言したなら、その言葉に責任をもつべきだ……。それが戦場で守るべき最低限のルールってヤツだね。戦場では、裏切りも騙し討ちも常套手段だけど、なんでもアリって訳でもないからね……。ユキちゃんだっけ? そこら辺、良く解ってる君がリーダーって思っていいのかな?」
「そうですね……一応、サキ姉さんが長女で、一番年上だから、建前上はリーダーだけど。なんだかんだで、末っ子の私が状況判断して、色々指示出ししてますから、裏リーダーってところですね……。って言うか、こんな中坊がリーダーとか笑ってもらって結構ですよ?」
そう言って、ちょこんとユキさんもマキさんの隣に正座して、変身も解除したようだった。
マキさんとはちょっと違うデザインのセーラー服の学生服姿……妙にダボっとしてる感じからして、身体が大きくなることを見越して、敢えて大きめのを買ったとかそんな感じ。
……中学生って男子も女子も成長期だから、あっと言う間に背が伸びて、制服パツパツになっちゃったりするから、こう言うのって、入学したての一年生とかでよく見かける。
ただ、やっぱりデザインがちょっと古臭い……今どきセーラー服なあたり、田舎住まいの子達なのかも。
ちなみに、私は中二……別に厨ニ病真っ盛りって訳じゃないけど。
高校生ってだけで、何となく大人って感じがする……この子は、見た感じ高校生にはとても見えないから、もしかして同い年くらいかな?




