表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/76

第十五話「きたみけVSやまがみけ、決着!」③

 支援魔法や中継ユニットが無力化したのを確認したのか、お姉ちゃんも敢えてトドメを刺しに行くとかはせずに、そのまま振り返って、マキさんの目の前に歩み寄る。

 

「……ふむ、この様子からして、当たりだったみたいだね。あの子が一番やっかいだったけど、沈黙してくれたなら、なによりだ。さて、あとはもう君を残すのみだと思うんだが……」

 

「ううっ……あっという間に、私一人って、なんなのよっ! これは……ゆ、夢なら早く覚めて! こんな所で全滅なんて……そんな……ありえない……ありえないでしょ!」

 

 なんか可哀想になってきたよ……。

 

 受け入れがたい現実と迫り来る恐怖に、精神がぶっ壊れ気味になってきたらしく、マキさんはどこ見てんだか解らない感じで、ぶつぶつと小声で呟き始める。


「やれやれ、ちょっと追い詰められたくらいで、敵前で錯乱した挙げ句、現実逃避とか何やってるんだい? って言うか、ダメだろ……その程度のダメージで、泡食って治癒の支援なんて求めちゃ……。ユキちゃんも居場所をせっかく隠蔽してたのに、あんな風に治癒の光を飛ばしちゃ居場所もバレバレ。そりゃ速攻で潰されるさ……と言うか、すでに諦めムードって感じだけど、どうだろう……まだ続けるかい?」


 やたらと、爽やかな笑みを浮かべて、マキさんの側まで歩み寄ると、刺さってた剣を無造作に引き抜くお姉ちゃん。


 マキさんは、その光景をぼんやりと見つめながら、お姉ちゃんを見上げてる。

 

「あっ、あっ、あっ……い、痛くない? ……なんで? お腹に穴が空いたはずなのに……」


「勇者モードの身体で、痛いとか何を言ってるんだい? 痛いと感じたなら、それは君の思い込みだよ……。HPがある限りは、致命傷に見えるようなダメージを負っても、自動修復される……それくらい知ってるでしょ? 勇者の戦いでは手足が飛んだり、お腹に風穴が空くなんて、日常茶飯事……まさか、お腹に風穴開けられたのは、初めてなのかい?」


 お姉ちゃんがそう言うと、マキさんは力いっぱい首を縦に振ってる。

 お腹に穴が開くとか、死を覚悟するレベルの話だし、そんな日常、嫌過ぎるよ?

 

 けど、わたしも勇者モードで、かすり傷程度のならあるけど、そんな命の心配するような怪我とか経験ないんだけど、そんななのか……勇者モードって。 


 今のマキさんの様子からすると、勇者ってのは致命傷レベルのダメージ受けても、HPが残ってさえいれば、基本的に死なない……そう言う認識でいいのかもしれない。

 

 自分で試したことなんてないから、良く解らないけど。

 物理的に、手足が失われたような場合でも、まどかさんの使う治癒魔術なら、そう言う重傷でも再生したりするみたいだから、それくらいなら問題にならない……と?


 こえーっ! 勇者モード……あれって、人間やめてたんだ。

 気軽に使ってたけど、なんて代物なんだ……嫌過ぎる!


「そんな血みどろの戦い……。やったことも無いわよ……。けど、確かに……私達は一方的に蹂躙したり、勝てる戦いしかしてこなかった……。それでいきなり、こんな別次元の敵を相手にして、勝てるはずもない……」


「そうかな? 君らも捨てたもんじゃないよ。その勝利への執念と連携精度の高さは評価に値する。さぁ、戦いはむしろ、ここからだ! 立ち上がって、弓を取るんだ……君の命懸けってのは、そんな程度のものなのかい? さぁっ! この私に、死に物狂いの戦いを見せてくれっ……!」

 

 再び剣を構えるお姉ちゃん。

 実に楽しそうな感じ……ギリギリの戦いに喜びを見出すとか、そんなところ?


 一方マキさんも、まさに絶望って感じの表情で、よろよろと立ち上がるんだけど、構えようとしていた弓から、ポロッと矢を落としてしまう。


「ははっ……ば、ばけもの……。こ、こんなの一人で勝てる訳がないよぉ……。もう勘弁して……」


 マキさん、完全に戦意を喪失したようで、泣き笑いしてるような顔でそれだけ呟くと、ガタガタと震えながら、武器を捨てて勇者モードも解除して、なんとも田舎っぽいデザインのセーラー服姿になると、ぺたんと腰を落として座り込む。

 

 あ、これ……完全に心折れたね。


 お姉ちゃんもあんま無茶言うな……相手が悪かったよ……マキさん。

 

 と言うか、お尻の下になんか水たまりが出来てるっぽいけど……これは見てみないふりをすべきだと思う。


 なんか……ゴメンね。


「なんだ、もう終わりなのかい? でも、勝てそうもないなら、潔く降伏する……それも勇気ある選択の一つだ。もう少し根性見せて見ろと言いたいところだけど、戦力差を悟った上で、生き残りを図るためであれば、悪くない判断とも言える。勇者ってのは、本来無力化となると、気絶させるか、手足を切り飛ばすくらいしないと無力化も出来ない……その程度にはしぶとい。だから、そうやって素直に降伏してくれると、楽が出来ていい。でもまぁ、総評としては、なかなか楽しかったよ……君達の勇戦を讃えさせてもらおう」


「こ、殺したりは……しないですよね? ほら、私、武器も捨てましたし、変身も解除しました……。今更、抵抗するつもりもありません……降伏します。だから、サキやユキは助けてやってください……もし誰かを殺さないと気が済まないって言うのなら、私が犠牲になります……。で、でも、捕虜の扱いに関する協定とか、それくらいありますよ……ね?」


 ……そんな協定なんてあるのかなぁ。

 奴隷制度とかあるような世界で、何ヌルいこと言ってんだろって思う。


「それは、君の態度次第かな。では、まず確認なんだけど、流星は3つ、先行して伏兵や斥候が忍び込んでた形跡もないから、君達が第一陣で、増援もしばらく来ない……この認識であってるかな? それといつまで、そんなだらしないカッコで座り込んでるつもりなんだい? 怪我だって、気のせいだって言っただろ? ……こう言うときは、まず正座っ! 背筋もぴしっと伸ばすっ!」


 一応、怪我人なんだけど、お姉ちゃん容赦ない。

 マキさんも、足を開いて腰を抜かしたような姿勢で座り込んでたんだけど、その迫力に押されたのか、お姉ちゃんの言葉に従って、正座して、背中を伸ばして、手も膝の上……真面目だね。

 

 ただ、お姉ちゃん……わたしの姿だから、マキさんよりも二回りくらい小さい。

 

「あ、はいっ! し、失礼しました……こ、これでいいですか? もうこれ以上、戦う意志も気力もありませんから、命ばかりはお助けください……こ、殺さないでください! どうかお慈悲をお願いします!」


 言いながら、スカートを整えて、正座して、深々と土下座までやってのける。

 なんか、台詞が思いっきり小物っぽいし、お姉ちゃんもそこまでしろなんて言ってない……。

 

 ……見た目は真面目系なのに、中身は小物元ヤンって……マキさん、それでいいの?

 湿っぽい苔の絨毯と出来たばかりの水たまりに手が触れて、物凄く嫌そうな顔してるけど……それ、自分のなんだし、我慢して欲しい。


「なんと言うか、潔いと言うべきか……。ま、まぁ、上出来な態度かな……しかしながら、自分を犠牲にしてでも、姉妹達の助命を願う、その心意気は悪くない……。私にも妹がいるからね……姉妹とはかくあるべきだ。少なくとも、今は誰も殺さないよ……素直に降伏してくれたのだから、それくらいは当然だろう? では、さっきの続きだ。君達の目的は? 我々の身柄の確保だって事は解るけど、それだけじゃないだろう」


「……わ、我々は、あなた方……はぐれ勇者相手に戦って、その戦力判定を下し、可能なら捕縛……。最低限、戦力評価とその後の対応を見据えた付近への転移ゲートの設置が目的でした。サキ姉は何故か、説得できるって自信満々でしたけど、私とユキは、説得する気なんて、一切ありませんでした。強敵と思わしき、大盾と弩の不在はまさに好機……一戦交えた上で、あなた方二人を捕虜にし、撤退するつもりでした……。想定外だったのは、あなたの戦力が我々の想定を遥かに上回っていたこと……ですね」


「……威力偵察……つまり、端から喧嘩売るつもりだったって事か……なかなかに、怖いもの知らずだね。まさに蛮勇……世の中、そんなイージーモードには出来てないだろう? 何より、威力偵察にしては引き際ってもんがなってない……勝てそうもないと判断したら、余力のあるうちに、逃げの一手……これが常識だろう?」


「こ、こっちもあなた方の情報が少なくて……ユキの遠隔視の情報からは、弩と大盾、ランタンとメイスと言う支援系勇者ばかりの編成だと言うことしか……。弩の勇者が強力だという情報は、私達にもありましたけど、使い手は小学生くらいの子供だと言うことで、戦力的には私達の方が優勢だと判断していました。それに戦いが始まってしまった以上は、そう簡単に引き上げられる訳がありません……よね?」


 なるほど、こっちの情報をどうやって入手したのかと思ってたけど、遠隔視なんて、ユニークスキルがあるんだ。

 これは、水晶玉の固有能力なのかも……。

 

 情報収集能力に優れた勇者の武器って話だったけど、支援魔法と回復を揃えて、索敵にも強いとなると、使い方次第ではかなり有力だってのは、想像に難くない。

 

 この姉妹……近接、遠距離、後方支援とバランスの取れた強力なパーティ……チームワームも抜群だったから、普通に戦ったら苦戦は免れなかっただろうね……。

 

 ただ、所々に慢心や明らかな経験不足があったのは、間違いない。

 まぁ、経験不足ってのは、わたしも変わり無いんだけどさ……。

 

 なにより、色々と想定が甘かった……この拠点だって、もっともっと外敵への備えってもんをしておくべきだった。


 お姉ちゃん憑依のおかげで、この北見姉妹を撃退出来たけど。

 普通に戦ってたら、全く話にならなかったのは、多分事実だよね……。


「戦力的に優勢だから、難癖つけて、問答無用の武力行使で制圧の上で連行するつもりだった……そんなところかな。だが、希望的観測で、戦略を立てるとこう言う事になる。情報は戦において極めて重要だ……せっかく、情報収集能力に優れた水晶玉の勇者が身内に居るのだから、今後の教訓にするといい。けど、君らが先行威力偵察ということなら、本隊……それも軍勢がいるんだろう? 規模と指揮官は?」


「後続の軍勢は、ここから100kmほど離れた街道上に、拠点を設営した上で待機中です……規模は100人程度ですが、総指揮官は千人長のアーガイル卿という騎士で、私達三人の支援を主任務とする特務部隊です。更に増援として、国境警備隊5000が後続してますが、合流にはあと数日はかかる見込みです。もっとも、指揮官の名前とか、あなたに言っても、意味ないと思いますけどね」


「そうでもないな。アーガイル卿なら知ってる……。あの口ばかり達者なヘタレ中年だろ? そうか、千人長に出世してたのか。知ってるかい、あいつの髪型が逆モヒカンなのは、その昔、剣王と呼ばれた勇者に喧嘩売って、一撃で脳天かち割られたからなんだ……。興奮したり、酒を飲むと傷跡から血が吹き出すことがあるらしくてね……気の毒な話だよ」


 お姉ちゃんがそんな軽口を叩くと、マキさんもツボに入ったらしく、俯いて肩を震わせてる。

 と言うか、お姉ちゃん……今、わたしの姿だってこと、忘れてない?

 

 そんなドヤ顔で物騒な武勇伝、語るな……それも一人称で!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ