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第十五話「きたみけVSやまがみけ、決着!」②

「とにかく、体力はあるに越したことはないよ。私もいくつか身体強化魔術くらいなら使えるけど、あれって割増って感じで強化されるからね。勇者モードもやっぱり、割合で増強されるから、素の身体スペックってのは、かなり重要なんだ……。それに、この瘴気を使った戦術も対人想定だとかなり有効だね……。このユキちゃんって子も、王国公認でこんな邪法を習得してるのだとしたら、色々厄介なことになってるのかも知れないね」


 うーん、やっぱそんなもんなんだね。

 要するに、素の体力が100だとすれば、2割増しとかそんな感じ。


 この場合、体力100だと120だけど……。

 120だったら、144。


 同じ様に、強化しても素で弱いと相応に弱くなる……そう言うことか。

 確かに基礎パラメータ、めっちゃ重要だ。

 

 そうなると、今かかってる瘴気の陣?

 デバフの場合どうなるんだろ? そもそも、こんな煤みたいな空気。

 吸って大丈夫なのかなぁ……。


「基礎体力とかの重要さは、解ったよ。けどさ、現在進行系の問題。そんな瘴気の中にいて、大丈夫なの? わたしの身体、瘴気への耐性とかあると思えないんだけど。毒ガスみたいなもんなんだよね? 後々、ゲロゲロになったりしない?」


「毒ガスとはちょっと違うなぁ……でも、似たようなもんかな。ただ、この一帯はシズルの領域でもある。だから、少しばかり周囲に魔力をかき集めて、結界を構築した……体力もこんな息継ぎタイムをくれるなら、丹田呼吸の法でかなり回復できそうだ。私は領域化なんて縁がなかったけど、これはなかなか便利でいいな。シズルも自分の長所は目一杯活かすべきだよ? そして、その上で基礎体力や地の戦闘力の向上……こればっかりは地道な努力が必要だけど、自前の能力は、勇者のクラスとかお構いなしだからね。ランタンの勇者だって、剣術とか鍛えれば、十分最前線で戦えるようになるはずだよ。私の使ってる仙術だって、勇者のスキルとは別モノだけど、極めればかなり強いからね。今度、色々教えてあげるよ」


 仙術……仙人の使う魔法みたいなもんだったっけかな。

 そういや、あっちでもお姉ちゃんたまに座禅組んで、気功とか言って妙なことやってたけど……。


 こっちでも続けて、どうも魔法レベルのものに進化させたっぽい……?

 

「なるほど……なんか、色々やることが多すぎて、少しづつやって行こうって思ってた。色々課題があるのは承知してるよ。だからこそ、もうちょっとゆっくり、のんびりさせて欲しかった……。何もかんも足りてないって、痛感してるよ」


「そいつは、私も同感だね。だからこそ、この子達の心を徹底的に折って、シズルのことを絶対強者として、認識させるんだよ……。そうすれば、当面の安全は確保されるだろうし、この子達も慢心を捨てて、将来的に強力な戦力になるかも知れない。実際問題、勇者って言っても、武器や勇者システムに頼ってるうちは、まだまだ全然だからね」


「さすが、お姉ちゃん……。なんだかんだで色々と考えてくれてたんだね。いずれにせよ、この勝負……もうお任せだけど、いい加減遊んでないで、決着付けたら? と言うか、身も蓋もなくワンパンで決めちゃったってよかったんじゃない?」


「いやいや、勇者相手ともなると、再戦や共闘の機会だってありそうだからね……。出来れば、恨まれるようなズルい勝ち方はしたくない。全力出しきって負けるのと、訳も解らず、ワンパンで負けるのとじゃ、気分が違うだろ? どうせ勝つなら、相手も気持ちよく負けられるように配慮くらいしたいものだ。でも、あんまり無茶したら、シズルが揺り返しで大変なことになりそうだしね……。じゃあ、そろそろ決着付けるとするかな」


 お姉ちゃんがそう言い残すと、ゆっくりと剣を脇構えで構える。

 剣道じゃほとんど意味ないんだけど、実戦だと、剣のリーチを隠せるから、意外と有効だと言われてる。

 

 サキさん達もその様子を見て、迎撃の構えを取る。


「さて、どうだい? そろそろネタも出し尽くして打ち止めって感じだね。ならば、そろそろ決着と行かないかい?」


 良く解らないけど、ユキちゃんも、サキさんとマキさんにありったけの支援魔法を付与したらしく、なんか色んなものがくっついてる。

 

 支援魔法も考えながら、付けないと……手当たり次第に盛ればいい訳じゃないと思うんだけどなぁ。

 

「……わざわざ、こちらの準備や息が整うのを待ってくれるとか、舐められたものですね。ですが、瘴気すらも無効化する時点で、相当な実力者……本来ならば、この時点で我々も撤退あるのみ……ですが。ここは退けません……せめて、一矢報いる……いえ、ここは勝たせてもらいます!」


 二人の代わりに、ユキちゃんが応える。


「強敵相手に勝ちを諦めないその執念は、嫌いじゃない。ユキちゃんだっけ? 君、結構頭回るみたいだけど、ここは下手な小細工を弄するよりも、むしろ、真正面から挑んでくるべきだったんじゃないかな? なんだかんだ言って、小細工無用の正攻法ってのが、最強だったりもするんだよ?」

 

「……ごもっとも……。でも、あなたみたいな化物の相手、アタシら姉妹全員の総力を挙げて……ありったけをぶつけないと、勝ち目なんか無い……いくよっ! これが正真正銘、北見姉妹の総力だ! マキッ! もう矢玉の残りとか気にするな! ここで魔石全部、使い果たしたって構わない……そのつもりでいけ!」


「応ともさ! 行くよ!私達の連携奥義「夢幻殺陣」……視界ゼロの瘴気の中からの終わりなき猛撃! 避けれるものなら、避けてみろってんだっ!」


 一瞬で真横……左側に回ったサキさんの槍の一撃……更に、右側に回り込んだマキさんが一斉に放った10発近い魔弾の矢が迫る。

 

 どっちも凄い……サキさんの動きは、もうわたしには見切れないほどの速さで、一足飛びの弾丸のような動きで、あっという間に槍の間合いに飛び込んで、慣性の法則すら無視したような直角ターンを決める!

 

 マキさんも一瞬で5mほどの至近距離に迫って、飛び上がりながら、同時に幾多もの矢をつがえた上で、次々と乱射する! その全てが魔石をはめ込んだ魔弾……ひとつひとつが必殺の威力を持つ、恐るべきもの!

 

 霧で視界を奪った上で……超スピードの槍の一撃とタイミングを合わせた矢の乱撃による挟撃っ!

 

 三姉妹全員、持てる全てをつぎ込んだ、超スピードの高精度同時攻撃……。

 凄い……一糸乱れぬ統制の取れたその一撃は、まるで機械のように無駄のない完璧なタイミングで仕掛けられた!

 

 けれど、お姉ちゃんの姿が一瞬ブレたと思ったら、次の瞬間、サキさんが槍を地面に突き刺して、更に鈍い音が響く。


 そのまま、サキさんは力なくばったりと前のめりに倒れ伏す!

 

 そして、お姉ちゃんはそのまま、クルリと回転しながら、振り向くと、次の瞬間手ぶらになっている。

 

 マキさんも飛び上がりながら、矢を撃って、いったん地面を蹴ろうとしていたのに、まるでそこに石か何かがあって蹴躓いたように、もんどり打って地面にゴロゴロと転がったと思ったら、お腹に剣が突き刺さった状態で、ゴロリと横たわっていた。

 

 ……文字通りの瞬殺だった。

 

 そして、一瞬遅れて、お姉ちゃんに掠りもしなかった魔弾が一斉にあらぬ所に着弾して、雷撃やら爆炎を無意味に撒き散らしていた……。

 

「うわぁ……い、今……何が起きたんです? お姉ちゃんさんの本気の戦い……もう、私には何がなんだかです……」


 邪魔にならないようにって、近くにあった煉瓦の壁の上に腰掛けてたんだけど、いつの間にか隣りにいたライブラさんが呆然と呟く。

 

 うん、ここはひとつ、解説役でもやるとしよう。

 

「……まず、お姉ちゃん……槍の一撃を踵落としではたき落として、後ろから飛んで来た矢の雨も、振り返りもしないで、軽く剣を振っただけでまとめて、逸しちゃった……あの剣、風の魔剣なんだけど矢避けの効果があったみたい。で、そのまま動きの停まったサキさんの側頭部を剣の柄でゴツンってやって、振り向きざまに、マキさん目掛けて剣投げて……なんかもう、早すぎてよく解かんなかったけど、多分そんな感じ?」


 ……僅か四手で、二人がかりの総攻撃をあっさり回避して、挙げ句にカウンターで二人を瞬殺。


 なんだこれ……レベルが違うよ?

 毒霧での視界悪化とかも、全く意に介してない……。

 

 サキさんもマキさんも、強力な支援魔術の支援を受けていたのに、もう鎧袖一触って感じで軽く返り討ち……。

 

 サキさんは、テンプルクリーンヒットで、一撃で気絶させられたみたいで、もうピクリとも動かなくなってるし、マキさんは、自分のお腹に深々と剣が刺さってるのを見て、泣きそうな顔になってる。

 

 勇者モードでも頭を強打とかすると、意識が飛んだりするんだけど、サキさんがやられたのはまさにそれ。


 霧で視界が塞がれた状態にもかかわらず、お姉ちゃんは、槍と矢の同時攻撃を見切った挙げ句、どっちもカウンターで叩き潰してしまった。

 

サキさんなんて、多分首を跳ねるとかも出来たはずなのに、殴って気絶させるに留めるとか、思いっきり手加減されてる……。

 

 ……お姉ちゃんも、わたしの身体で、しかも勇者モードにすらなってない……完全に、生身状態なんだけど。

 それで勇者モードの二人を瞬殺……さっきも無造作にあしらってたけど、結局、まるっきり勝負にならなかった。

 

 なんと言う、圧倒的な強さ……。

 この二人も、決して弱くないはずなのに、まさに片手であしらってる辺り、尋常じゃない。

 

 さすが、お姉ちゃん……掛け値無しで、最強だわ。


 これ……勇者同士の戦いと言うよリ、バランスのおかしいボスキャラ戦って感じ。

 正直、相手をする羽目になった三人には、同情を禁じ得ないよ……。

 

「……ユキィ! か、回復お願いっ! サ、サキ姉がやられたっ! 何なのっ! コイツ……それに剣が、剣がお腹に刺さって地面に縫い付けられて……。い、痛いし、これじゃ動けないよぉっ! し、死んじゃうよぉ……私っ!」


 泣きわめくマキさん……確かに、お腹にブッスリ突き刺さって、背中にまで貫通してる……。

 こんなん見たら、普通に錯乱するよ。


「じょ、冗談……ッ! ランタンの勇者……変身すらしてないのに……! サキ姉とマキ姉の連携攻撃を、こんなあっさり……とにかく、一度立て直さないと! 即時回復ファーストエイド!」

 

 癒しの光が森の木々の間から飛び出して、マキさんとサキさんを包み込む。

 

 わたしより上の支援魔法に加え、回復魔法まで……戦場のバックアップのすべてを担う最強の後衛ってことかな……。


 ユキちゃん、凄い……けど、ここでこれは失策だって、わたしでも解る。

 

 支援魔法は、地面を通して魔力が走っていくので、自分の居場所は同業者でもない限り、動き続けていればまず解らないんだけど、治癒魔法は本人から治癒の光とでも言うべきものが、飛び道具みたいに打ち出される。


 射線が通ってないと届かないって事でもあるんだけど、まどかさんの話だと、曲射やある程度誘導したり出来るので、本来は、そこまで問題にはならない。

 

 とは言え、それは治癒魔法を使うと自分の位置が露呈する事でもある。

 まどかさんみたいに最前線で、前衛と一緒に暴れまわるならともかく、後方で隠れながらとなると、それは状況次第で致命的な結果を招く。

 

 お姉ちゃんがそれを見逃すはずもなく、癒しの光が放たれた位置めがけて、一気に走り出す。

 

「……そこだっ! すまないけど、これでも食らって、しばらく寝ててくれ!」


 何するのかと思ったら、いつの間にか手にしてたレンガを思いっきりぶん投げた……。


 まぁ、暇さえあれば錬成してたから、もうそこら中に転がってるしね。

 

 ちなみに重量……軽く2kgはある……ペットボトルのデカいヤツくらいの重さ。

 ……あんな軽々って感じで、投げられるようなものじゃないと思うんだけど……まぁ、いいか。

 

 多分、お姉ちゃん……わたしの身体の潜在能力ギリギリまで使いこなしてる……要するにリミッターカット状態。


 絶対、後で筋肉痛とか肉離れとか酷いことになってそうだった……治癒魔法とかで治せるかな……。

 

 そして、レンガはゆるーくクルクルと回転しながら、放物線を描いて、茂みの中へと飛んでいくと、バゴンとか言う鈍い音がして、むぎゅーなんて感じのうめき声と共に、ガサガサと木の枝が折れる音が響いて、それっきりパタッと静かになる。

 

 なんと言うか……エゲツない……。

 あんなレンガが当たったら、下手すりゃ死んじゃうよ……。

 

「あああっ! ユキッ! ユキッ! まさか、今のでアンタまでやられちゃったのっ! 返事してよっ!」


 涙目状態で喚き散らすマキさん。

 どうもユキちゃんは、お姉ちゃんのレンガブロック攻撃の直撃をもらったらしく、完全に沈黙状態……。

 

 多分、この分だと支援魔法も効果を失ったことだろう。

 上空に居たクリスタルもヒュルルって感じで落ちてきてるし、赤い霧も見る間に晴れていく……。

 

 ユキちゃん、リタイア……これはもう勝負ありって感じかな?

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