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第十五話「きたみけVSやまがみけ、決着!」①

「……駄目だ。何をやっても掠りもしない……。ギリギリ紙一重で避けられてるように見えるけど、実際は完全に見切られて、最小限の動きで避けられてるってだけだ。こっちが動くと、向こうはすでに動いてる感じで、何をやっても先を行かれてる……マキの方はどう?」


「駄目……ゼロ距離のサキでも、当てられないんだから、こっちはもっと無理っ! 全然、当てられるイメージが沸かないし、そもそも隙がない! 動きやスピードはそこまで早くないんだけど、サキ姉の言うように、何をやっても先読みされてる……。おかげで、距離を取るとちっとも当たらないし、うかつに近づくと、さっきみたいにカウンターで一瞬で詰められる……。今のだって、ギリギリ……勘弁してよ! 頑丈な勇者の武器だから命拾いしたってだけ……普通はこんな弓で受太刀とか、スパッと切られておしまいよ!」


 二人して、絶望的なコメント。

 ……なんだけど、お姉ちゃんが圧倒してるかと言えば、そうでもない。

 

 お姉ちゃんも少し、動きに陰りが出てきてる……やっぱ、わたしの身体だと持久力に難があるみたいだし、そもそもわたし自身が明らかにパワー不足。


 支援魔法だって、変身解除したどさくさで、切れちゃってるから、お姉ちゃんは完全に素のままで戦ってる。

 

 サキさんの槍にしたって、まともに打ち合うと、パワー負けするから、間合いを調整して、軽く穂先に当てて逸した上でギリギリで避けてる。

 

 片手を目一杯伸ばしたフェンシングみたいな構えで戦ってるのも、リーチの長い槍に合わせてるのもあるけど、多分リーチ不足を補うため。

 

 未来視だって、使わないと厳しくなってきたから、使ってるってだけの話……。

 お姉ちゃん、あんまり余裕ぶってないで、そろそろ、ケリ付けた方がいいんでないかい?

 

「こうして、間近で観察していると良く解りますね……。本当に、瘴気をものともしていない……。それにあの片目だけが青く輝くようになってから、先読みの精度が更に向上してます。なんてヤツ……正真正銘、化物ですね……。ですが、脚さばきに若干のフラつきが見えますし、息も荒くなってますし、支援魔法もきれてるようですね……。けど、憑依系の魔術であるのならば、依代の身体能力の限界というものがあるはずです。恐らく持久力に難があるのではないかと……それに瘴気の影響だってゼロじゃないはず。サキ姉、マキ姉……ここは、相手を休ませちゃ駄目。致命傷を貰わなければ、相打ちだって構わない……。肉を切らせて骨を断つ……そんな感じで、お願いします!」


 やっば。

 お姉ちゃん……勘付かれたよっ! と言うか、ユキちゃんも大したもんだな。

 

 確かに、憑依とかって、本人の身体能力の限界ってのが、ネックになってくるってのが、定番。

 根比べや相打ち上等って感じで挑まれたら、さすがに苦しいんじゃ……。


「さすが、ユキね……目の付け所が違う。確かに憑依系の術なら、術者の身体能力までは変わり無いはず。あのシズルって子に瘴気の耐性とかある訳ないし、基礎体力とか高いようには見えなかった……相手を休ませない手数の応酬で、相手の体力を削り切る……この方針で行ってみましょう! まぁ、結構な長丁場になってるから、こっちもシンドいんだけど、相手も一緒っ!」


「……マキは怖くはないのかい? アタシなんて、こうやって、向き合ってるだけでも膝が笑って、ぶっちゃけ、今すぐにでも背中を向けて逃げ出したい……。でも、ここで逃げたらアタシは勇者を名乗れなくなる……。怖くて逃げ出したくても、その思いを押し殺して、立ち向かう……それが勇気! マキ、ユキ……行くぞっ! ここが正念場……全部出し切ってやる!」


 なんか、思わず応援したくなるような事を言ってる。

 怖くて逃げ出したいけど、それでも逃げずに立ち向かう……まさに勇者ってヤツだ。

 

 ……わたし自身がその恐怖の源じゃなければ……なんだけどね。

 

 むしろ、頑張ん無くていいよって、思う。

 

 体力ないとか、瘴気の耐性ないとか言ってるけど、実はその辺思いっきり図星。

 だって、所詮はわたしですから……。

 

 お姉ちゃんちゃっかり、わたしの領域化してるのをいいことに、自分の周りに魔力プールみたいな結界を作って、力技で瘴気を寄せ付けてないってだけ……。


 瘴気なんて慣れとか言ってるけど、実はハッタリ……行動範囲も激しく制限されてる上に、体力面に難があるのも、事実。

 

 実はお姉ちゃん、さっきからあの場所から殆ど動いてない。

 追撃しても、すぐ退いてるのは、長時間結界の外に出ていられないから。

 

 あの縮地って怪しげな移動方法も、意外と体力使うみたいで、背中とかにすごい汗かいてるし、呼吸も落ち着いてるように見えてるけど、ゆっくり大きく呼吸する独特の呼吸法で誤魔化してる。


 休み無く延々仕掛けられたら、さすがに息切れしちゃう……もっと身体鍛えとけばよかった。

 要らない苦労かけて、ゴメン……。

 

 でも、そんな弱みをこれっぽっちも見せずに、むしろ強者演出をしつつ、完全に相手の心理をコントロールして、戦いの主導権をガッツリ握ってる……。

 向こうは、むしろ持久戦を挑むべく局面なのに、後先考えない全力投入の上で、ここで決戦を挑む構え。

 

 お姉ちゃん……単純に強いだけじゃない、心理戦にも長けた、とんでもないタヌキだ。

 ああなったお姉ちゃん相手にいくら勝利フラグ並べたって、まとめてヘシ折られるだけだっての!


 いけいけーっ! 頑張れ、お姉ちゃん!

 お姉ちゃんは絶対に……負けないんだっ!

 

「サキ姉はとにかく、足止めに専念! マキ姉は、間合いを取りつつ、三次元で常に動きながら、あらゆる方向から攻め続けて! 相手を休ませないで、手数で押し切る……! マキ姉が攻めの要! もう一回、強化魔法……それも魔石潰して、増強オーバーフローした上で、フルセットMP10倍がけで掛け直します! 三倍速もかけるから一気に決めて! もう後のことなんて考えなくていい!」


「うぇ……三倍速かぁ……。アレ早くなり過ぎるし、揺り返し酷いし、増強強化とか、むしろデメリットの方が多いんじゃない? 出来れば遠慮しておきたいんだけど……」


「それは承知です……多分、これで私は打ち止めになります。けど、ここは相手の予測を超えるスピードとパワーで、初見殺し狙いで一気に畳み掛けるしか、勝機はありません……イチかバチかの賭けにはなりますが、このままだと打つ手がなくなっていって、ジリ貧になります」


 相変わらず、どこから聞こえてくるのか解らないユキちゃんの声が響く。

 けど、三倍速って……倍速の更に上ってことか。

 

 そこまでスピード上げたら、制御だって至難の業だろうに……それに、倍速でも結構揺り返しキツイのに……。

 なにより、わたしですら、まだ使えない三倍速をさらっと使いこなすなんて……。


 それに……増強モード。

 一時的に最大MPを超えるくらいまで、MPを跳ね上げさせて、その上でMPありったけつぎ込んで、強化魔法を更に上乗せする……多分、そんな感じ。

 

 実際、強化魔法ってそんな使い方もできる……二倍の消費で3%効果増強とか、そんな調子でとにかくコスパ激しく悪いから、まず使わないんだけど……10倍消費ともなると……。


 五倍で5%アップくらいで、コスト上げれば挙げるほど、コスパ悪化すること考えると、8%とか、よくて1割り増しくらい? いくら支援術士がMP余るからって、さすがに微妙。


 なんか、ポイント五倍セールみたいだけど……MPの消費と効果って、必ずしも比例しないから、そんなもんだ。

 

 でも、その消費税レベルの能力向上が、相手の予測を狂わせる誤差になる……そう考えると、本来ならばこれは警戒すべきもの。

 

 こう言う状況では、後先考えずに、全て使い果たすってのは、支援魔術師としては、やれる最大限の援護……そう考えると、やっぱユキちゃんは優秀な支援職だ。

 

 スタートラインが同時で、わたしだってサボってたなんて、思いたくないけど、どうやら向こうの方が少し先を行っていたらしい……ちょっと悔しいけど、同時に尊敬の念も湧いてくる。

 

 わたしも勇者のランタンのレベルアップにばっかりに夢中になってたけど、魔術の改良や独自魔術の開発とか、こう言う奥の手の用意とか、そう言うことに力を入れるべきだったのかもしれない。

 

 要するに、地力を鍛えろって……お姉ちゃんもそんな感じのことを言ってる。

 

 でも、この環境、なんでもかんでも自前でやんなきゃいけなかったからね……先生とか、文献資料とかあれば、一ヶ月程度でも、これくらい出来るようになってたのかも知れない……。


 やっぱ、文明が……人里が恋しいよぉ……。


 世界全てを敵に回しても……とか、そんな覚悟すらもあったけど、やっぱ味方は欲しい。


 ただし、王国以外で……!

 

「うん、どうも向こうは……ラストアタックを仕掛けてくるみたいだ。まったく、さすがにあの動きに先読みで合わせるのはちょっとキツかったんだけど、勝負を決めに来るのなら、むしろありがたい。それにしても、瘴気を召喚するとか、魔族や魔物相手には何の意味もないんだが、対人、対勇者想定となると、話は別だからね。平然と邪法に手を出すとか、あのユキって術者も相当突き抜けてるね」


 お姉ちゃんとわたしの、思念通話ホットライン。

 さっきから、全然だんまりだったんだけど、相手の準備待ちと休憩で、手持ち無沙汰になったらしい。


「……お姉ちゃん、お疲れ。そろそろ、体力の限界が見えてきてない? なんかすっごい汗かいてるよ……」


「ああ、問題はないよ……汗がすごいのは、まだこの蒸し暑さに慣れてないからだね。こんな破廉恥な格好、正直どうかと思ってたけど、身軽な上に涼しいから、まんざらじゃない。……ただ、シンドくないって言ったら、嘘になるね。シズル……課題、もっと身体鍛えろ。こう言う、長丁場だと基礎体力とか、そう言うのがモノを言うんだからね」


「……そうだね。こんな風に自分の体張る機会もあるって考えたら、後方支援魔術師だからって甘えてられない。まどかさんの言う通り、筋トレとか励んで見るようにするよ」


 なんだかんだ、理由をつけて、その手の体力トレーニングとかサボってたのは事実だからねぇ……。

 優先順位の問題だし、勇者モードなら人並み以上の体力にはなるからって、自分に言い訳してたけど、お姉ちゃんの話だと、自前の身体能力ってのは、かなり重要みたいだし、実際問題、思いっきりお姉ちゃんの足を引っ張っちゃってる……。


 こうなったら、素で体鍛えないと……駄目だね。

 でも、腹筋バキバキとかなったら、どうしよう……。


 そ、そこまで頑張らなくてもいいよね?

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