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第十四話「剣鬼招来!!」④

「……二人共、準備できました……血霧の陣、発動します……。地の底に眠る、瘴気の霧……本来は邪法と言われた禁忌の術。土地を蝕み、生きとし生けるものの生気を奪い、死に誘う……魔界の霧。こうなったら手段なんて選ばない……」


 ……地面から、赤黒い霧が吹き出してくる。

 それはたちまち辺りを覆い尽くすと、視界も数m程度になる。

 

 わたしの広場限定、どこでもゴーレム&壁生やし放題が城塞の陣だとすれば、こっちは霧でめくらましをかける霧の陣って感じかな。

 

 ……いや、地形支配系とでも言うべきだろうか?

 

 ちなみに、この広場一帯でなら、ゴーレムや壁を自在に出し入れできる遠隔錬成が出来るってのは、割と最近気付いた。


 まだ、全容は把握してないんだけど、自分の魔力を地面に注ぎ込んで、自分の領域にするって言うランタンの勇者のユニークスキル「工房化」とか言うらしい。

 

 工房化したエリア内では、HPやMPがじわじわ回復するとか、ゴーレムやレンガみたいな錬成物を好きな所に湧き出させるといった様々な恩恵が受けられる……。

 本来は、生産拠点みたいなのを作るのを想定してるっぽいんだけど。

 

 創意工夫次第で、様々な防衛機構などを設置した上で、難攻不落の要塞くらい作れる……そんな感じらしい。

 ちなみに、投石機なんかもメニューにあったヤツで、本来は人力……なんだけど、ゴーレムで代役。

 

 クレイゴーレムはルーチンワークしか出来ないから、定点爆撃しか出来ないので、この際なんの役に立ってない。

 勇者相手とか、こっちも想定してなかったよ。

 

 でも、この工房化のおかげで、幽霊になっても地縛霊化することで、成仏を免れてる……他のところだったら、こうはいかなかっただろう。

 

 てか、これって解除できるんだよね? こんな秘境に自分の拠点作っちゃってどうするんだっての。

 

 この血霧の陣ってのも限定的ながら、自分の領域化するとか、属性チェンジとか、そう言うのなのかも。

 

 瘴気の霧とか言ってる様子から、むしろ魔族とかが使うような邪法?

 ……そんなのまで使いこなすとか、ユキちゃんって、ホント色々やってるんだなぁ……。

 

 ホント、ユキちゃんって……同じ支援魔術師だけにいちいち、やること為すこと被ってくるし、この分だと、互角どころか、わたしの上を行ってるかもしれない。

 

 そりゃ、こんなのに加えて、戦闘系の弓矢の勇者と二人がかりで挑まれたら、勝負にならない訳だよ。

 ……この調子だと、クマさん達がいても、互角どころか、結構危うかったかも知れない……。

 

 でもまぁ、お姉ちゃん相手じゃ、どんな頑張っても無駄だと思うけどね。

 

 申し訳ないけど、君達が相手してるのは、理不尽なバランスブレイカーそのものだから……RPGとかで言えば、初心者フィールドにラスボス降臨って感じじゃないかな?

 

 でも、わたしを……ここまで追い詰めた君らが悪い。

 お姉ちゃんも、手加減くらいはしてくれるだろうから、上には上がいるって思い知れっ!

 

「……瘴気の霧の召喚陣とはまた……ハッ! 魔族の邪法まで使うとは、まったく恐れ入った。……なかなか、どうして味な真似をしてくれる。だが、悪いけど、瘴気なんか慣れっこだから、こんなもの問題にもならないな……。けれど、手段を選ばず……強敵相手に諦めずに、あらゆる手を用いて勝ちに来る……か。いいなっ! 実に素晴らしい気概だ……むしろ、賞賛に値するッ!」


 魔界の霧……瘴気の中でお姉ちゃんは平然と言った様子で立ってる。

 その光景を見た三人は、愕然としている。


「冗談っ……瘴気が効いていない? まともな人間なら、この濃度の瘴気……生身では、呼吸するのもままならないはずなのに……」


「そ、そうよ……勇者モードならともかく、コイツ生身なんでしょ……? まさか、本当に魔王か何かだっていうの……? これが……私達、勇者の敵? こんなのに勝てるの?」


 ……マキさん、それ違うって。

 どうしよう……死の森を統べる魔王とか、変な二つ名が付いたら……わたし、まだまだ人間やめてないよ。


「なるほど、君らは勇者モードだから、瘴気自体はさしたる影響もない。私が生身だと知った上で、瘴気を呼び出し弱体化を計った……そう言うことだね。でも、魔族達の領域……魔界ってのは、いつもこんなだからね。要するに慣れだよ慣れ……魔界での魔族との戦いを想定するなら、この程度の瘴気で動けなくなってるようじゃ、話にもならない。今度、魔界帰りの古参兵あたりにでも話を聞いてみるんだね。瘴気の中で昼寝したとか、色々おもしろい話を聞けるはずだよ?」


「……冗談ですよね? 魔界で生身のままで、平然と活動できるっていうんですか? ね、姉さん達……ごめんなさい。もはや万策尽きました……血霧の陣ですら、効果がないのでは、今の私ではこれ以上、打つ手がありません……。こんな化物……どうしょうもない……。出来るかどうか解りませんが、撤退を視野に入れた上で対応すべきかと」


「いや、気にするなよ。思ったようにならないってのが、戦ってもんだ。ユキは頑張ったよ……でも、諦めるな。お姉ちゃん達はこれから、あいつに死に物狂いの戦いを挑む。決して目を逸らさないでくれよ……たとえ、力及ばずとも、ユキなら、アタシらの戦いを通して、攻略の糸口を見いだせるかもしれない」


「そうね、珍しいじゃない。ユキが万策尽きたなんて、気弱なこと言うなんて……。打つ手が無いってのなら、無いなりに、ここは私達に小細工抜きで、死ぬ気で戦えって命じるところじゃない? このまま、尻尾を巻いて逃げるなんて、冗談じゃない! せめて、一矢くらい報いてやるからさ……最悪、私達が負けても、アンタだけでも逃げ延びるのよ……アンタは、北見家姉妹の要なんだからさ!」


「そうそう……たまには、お姉ちゃん達を頼ってくれていいよ? 妹に頼られるってのは、姉としては冥利に尽きる……さぁ、マキ、これがラストチャンス……ひとつ、派手に行こうかっ!」


 ユキちゃんも二人の言葉を噛みしめるように、黙りこくってる。


 勝ち目が薄いってのは、全員一致で悟ってるみたいなんだけど……二人は、ユキちゃんに望みを託し、最後の戦いを挑む事に決めたようだった。


「いえ……私も姉さん達と最後まで戦い抜きます……。すみません、柄にもなく弱気になってました!」


 折れそうになっても、お互いの背中を叩きあって、諦めずに前を向く……か。

 ホントに、良い姉妹なんだな……この子達って。

 

 わたしみたいに、お姉ちゃんに頼り切りじゃなくて、お互いを思って、お互いを頼りにして、支え合う……か。

 わたしもそうなりたいよ……弱い自分が情けないなぁ。


「……互いを思い、互いを奮い立たせ、不利を承知で一歩も退かず……か。悪くない……私は、君達を侮っていたかもしれない。いいだろう、いいだろう……ならば、こっちも本気で君達全員、まとめて切り伏せるとしようじゃないか。……なぁに、勇者モードなら、手足を失おうが、首をはねられたって死にはしないさ! さぁ、気軽にかかって来るといいよっ! 二度と訪れないプライムタイム……互いに華麗に美しく、盛大に咲き誇ろうじゃないかっ!」

 

 二人共、お姉ちゃんの言葉には答えない。

 

 サキさんは、ほんの僅かだけ、口の端をニヤッとつり上げる。

 

 けど、その膝は傍から見ても解るくらいに、ブルブルガタガタと震えてる。 

 恐怖し、畏敬すらも感じながらも、それでも退かずに立ち向かう……サキさんも正真正銘の勇者なんだなって思う。

 

 でも、お姉ちゃんはいよいよ本気だ……その片目が青く輝いてる。

 あれは、未来を見通す未来視の目……お姉ちゃんは、数秒先を見通し、その未来を絶ち切る!

 

 静寂……お姉ちゃんは上段の構えで、微動だにしなくなる。

 

 この構えは、剣道に於いては、自らが格上であることを宣言する構えでもある……なんと言うか、威圧感が半端じゃない。

 今のわたしは幽霊なのに、それでも解るくらいの強烈なプレッシャーが辺りを支配してる。

 

 けれども、その重圧の中、先に動いたのはサキさん達だった。

 サキさんが先陣を切って突撃し、マキさんが横に回りながら、牽制の矢を放つ。

 

 けれど、もはやお姉ちゃんは、殆ど動かずに二人がかりの連続攻撃を避けきってみせる。


 いや……違う。

 二人が攻撃を放つ直前に、すでに回避行動に入ってるんだ……先読みの精度が尋常じゃない。

 

 これが未来予知の戦闘応用……。

 紙一重の最低限の動きだけで、二人の攻撃を凌ぎ切ってる……。

 

 二人共、ただでさえ、動きが早いのに、倍速までかかってるから、もはや超スピードと言える猛烈なスピードで動いてるんだけど、それでもあっさり、見切られてる。

 

 あれは、もうスピードの問題じゃない。

 すべての攻撃がワンテンポ早く対応されてしまっている……何の意味もなさそうな動きが、予備動作になって、攻撃を放った瞬間には、もう避けてる。

 

 二合、三合……要所、要所で打ち込む程度なのに、サキさんもマキさんもお姉ちゃんの攻撃を必死で防いでる。

 

 また、サキさんの渾身の一撃が、紙一重でお姉ちゃんの突きとすれ違い、サキさんも鼻っ面ギリギリで避けて、そのまま大きくバク転を繰り返して、間合いを離す!

 

 と思ったら、お姉ちゃんはもうサキさんに追いついて、無言で剣を振り上げる。

 サキさんも体勢が崩れて、避けようがない……これは決まるか?

 

 ……と思ったら、マキさんが横合いから矢を連続で打ち込む。

 けど、お姉ちゃんも一手早く飛び退いて、矢が飛んでくる頃には、もう居ない。

 

「……はぁはぁ、マキ……済まない。今のはさすがに終わったかと……」


「また、撃つ前に反応された……。何なのこれはっ! あいつ、どこ行った! って……ひぃっ!」


 瞬時に今度はマキさんの目の前に移動したお姉ちゃんが軽い動きで突きを放つ……マキさんもとっさに弓本体で、その一撃を払うと、そのまま背中を向けて、全力疾走で距離を離す……もう、なりふりなんて構ってないらしい。

 

 二人共……一連の攻防で激しく消耗したらしく、早くも肩で息をしてる。

 これが、「倍速」の欠点……長期戦やこう言うハードなノンストップバトルともなると、普通に戦うよりも格段に体力を消耗する。

 

 まどかさんも、倍速がかかってると、敢えてモーションを抑えめにして、コンパクトに動くようにしないと、勢いが乗りすぎて、無駄な動きが増えて、あっと言う間に息切れするって言ってた。


 わたしも自分にかけてみたけど、二倍速になると身体を動かすときの慣性ってものを意識して、コンパクトに動かないといけない……結構、これって扱いにくいのだ。

 

 サキさんも一旦引いて、再び防御の構えに戻り、マキさんを背にして、守りに入ったようだった。

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