第十四話「剣鬼招来!!」②
「……ユキ、鑑定! ステータスを確認! なにあれ……やけっぱちの突撃でもするのかと思ったら、変な口上ならべて、いきなり猫耳と尻尾生えて、雰囲気が変わった! サキ姉も遊んでないで、こっち来て……なんか、ヤバイよッ!」
ここで、泡食って仕掛けてこない辺り、マキさん割と慎重派らしい。
でもまぁ、マキさんがイケイケで仕掛けてくるタイプだったら、お姉ちゃんと交代する暇もなく、ボコボコにされてただろうから、その慎重さ、いや甘さに少しは感謝しないとだね。
「……姉さん達、気をつけて……ステータスの鑑定結果は、アンノウン……超級存在につき鑑定不可とか、見たこと無いエラーメッセージが出てるっ! 剣鬼招来とか何とか言ってたけど、私達の知らない未知の魔術なのかも……さっきの口上……まさか、憑依系? だとしたら、今まで通りなんて思わないほうがいい! マキ姉も、最大限の警戒を! まずは十分間合いを取って様子見、うかつに仕掛けたりしないでっ! サキ姉さんもメイスの相手なんてもういいっ! マキ姉とフォーメーションを組んで、連携っ! これは総掛かりでないと危険っ!」
……このユキって子。
結構、ヤバイね……大した情報与えてないのに、限り無く正解に辿り着いてる。
変な口上並べて、要らないコト言っちゃったかもしれない……。
けれど、まっさきにお姉ちゃんのヤバさに勘付いたらしく、サキさんを呼び寄せて、戦力集中の上で対応するつもりみたいだった。
まったく……状況の急変に即時対応出来るような指揮官とか、ホントこの娘達、実戦なれしてるし、何かと優秀なんだよね……。
「はっはっは! ステータスが見えないのは当然だよ。超級存在……魔王クラスやリミットブレイク級の上級勇者相手に、鑑定するとそうなるんだよ……理由は簡単、格が違うからさ。そんな事も知らなかったのかい? ならば、ここは絶望して震え上がるべきだな……我は、名もなき剣の鬼……剣に生き、剣に倒れし、剣の修羅……我が剣は無敵無敗の剣なりっ! いざっ!」
……自信満々って感じで、お姉ちゃんが言い放ちながら、剣を振り上げる!
ほぼ同時にサキさんが槍を構えたまま、空から降ってきて、お姉ちゃんが一手早く振り上げた剣を受け止めて、軽く弾き飛ばされる。
「嘘だろっ! このタイミングで? けど、まだっ!」
空中に見えない壁があるように、サキさんも、即座に跳ね返るように戻ってくると、ものすごい勢いで槍を連続で突きの乱打を放つ!
けれど、お姉ちゃんは片手で軽々とその尽くを打ち払う!
「ふむ、奇襲のタイミング自体は悪くなかったね……。気配の消し方もなかなかだった。けど、そんな空からの連撃なんて、軽過ぎて話にもならない……。そんな曲芸で、魔王クラスを倒せるなんて思わないほうがいい」
乱打をすべていなされて、お姉ちゃんがゆらりと剣を振り上げると、サキさんも空中で身体を一回転させて、何度か空中に足場を作りながら、あっという間にクルクルと空中で連続バク転をしつつ退いていく。
どうやら、これがサキさんの戦闘スタイル。
見えない足場を自在に生成して、空中からのハイスピード三次元戦法で相手を翻弄する。
……何より、サキさん……身体のキレの良さが尋常じゃない……これが槍の勇者、最速の騎士の実力……!
まどかさん相手の時は、こんな軽業師のような動き、見せていなかったけど……案外、手抜きしてたのかも……。
なんと言うか、人がいいんだか悪いんだか。
「じょ、冗談じゃない……死角から「流星落とし」での急襲、その上「五月雨突き」のコンボで繋げたのに、あっさり、それも片手でいなすなんて……と言うか、それ……生身で……なんだよね? ど、どうなってるの?」
言いながら、更に大きく飛び退いて、間合いを空けたサキさんも目に見えて動揺してる。
ちなみに、今のわたしは、勇者モードも解除した毛皮のブラと腰巻きだけで、猫耳としっぽ付き……。
剣聖って言うよりも、石斧とか持ってそうなワイルド系原始人キャラだよね……これ、どう見ても。
まだ勇者モードのピチピチスパッツ姿のがマシだったかも知んない……。
でもまぁ、相手も女の子だし、色々見られても、気にしないって事にしよう……そんな事言ってる場合じゃないし!
「……君、なかなか、スジはいいと思うよ。けど、そんな勇者モードのプリセット槍技程度で、私に当てるなんて出来やしないよ。どんな大技だろうが、当たらなければ、どうということもない……本来、そんなものだろう? 確かに君の言うように、今の私は生身の身体だ……その槍で穿たれれば、簡単に死ぬ。でも、だからと言って遠慮なんて要らない……全員で、持てる力の総力を結集して、かかって来るんだね」
……煩わしそうに、目にかかった髪を払いながら、優雅な仕草で正眼の構えで、剣を構えるお姉ちゃん。
ただし、それはあくまでわたしだ。
チンチクリンの原始人がカッコつけた所で、いまいち決まってない。
と言うか、この台詞……めっちゃ格上感いっぱいで、なんか……むしろボスキャラとかそんな感じっぽくない?
戦ってる途中で、ほったらかしにされたまどかさんも、すっかり息切れしてるらしく腰を下ろして、ぜーぜーとやってる。
一応、フリー状態なんだけど……ここまで、サキさんを足止めしてくれたんだから、文句はないよね。
服もあちこちズタボロで、あちこちから血が出てて……むしろ、サキさん相手に、良くここまで持ちこたえてくれたって感じ。
お疲れ様、あとは……お姉ちゃんにお任せだよっ!
「サキ姉、マキ姉! 正面からまともに挑んでも、おそらくコイツには勝てないっ! コイツが言うことが本当なら、今のコイツは魔王クラス……今の私達では単独で挑んでも、絶対に勝てない! こうなったら、私の切り札! 血霧の陣を敷きますっ! サキ姉はコイツの足止め! マキ姉は援護射撃っ! とにかく、倒そうなんて思わずに、時間を稼いでください!」
ユキちゃん……完全に、隊長さんとか、司令官って感じ。
北見家姉妹とか言ってたけど、わたしらと違って、妹が優秀な姉妹なんだね……。
お姉ちゃん達二人も妹を信頼してるってのがよく解る。
その判断を微塵にも疑ってないらしく、二人共、緊張した様子で、ジリジリと後退して、間合いを取り直す……。
でも、わたしは、ユキちゃんと違って、お姉ちゃんにお任せなのですよ。
頑張れお姉ちゃん! 負けるなんて、これっぽっちも思ってないよ! お姉ちゃんは無敵なんだからっ!
……ユキちゃんの指示通り、二人共積極的に攻める気はないようで、間合いを離した上で、サキさんも槍を斜めに構えて、迎え撃つ構え……マキさんも後ろに下がって、遮蔽物に身を隠して、いつでも撃てる体勢で待機。
完全に待ちの構えのようだった。
血霧の陣とか言ってたけど、なにか強力な支援魔法でも使うつもりなのだろうか?
いかんせん、この世界の既存の魔術に関する知識が足りないから、わたしからお姉ちゃんに対して出来ることは、祈るくらい。
でも、大丈夫……お姉ちゃんは、負けないっ!
そして、お姉ちゃんはと言うと……無言で動かなくなってる。
……お互い、武器を構えたまま、にらみ合いが続く。
こう言うときは、先に動いたほうが負ける……。
でも、お姉ちゃんは相変わらず、余裕って感じで、フッとため息を吐くと、正眼に構えていた剣を、腰の横で剣先を後ろ向きに構える脇構えで構え直す。
「なるほど、ちょっとしたサプライズを仕掛けてくるって事か。それまでは、待ちの構えか……この調子だと、そっちから仕掛けてくる気はなさそうだね……。確かにこう言うときは、それが正解だ。でもこのまま、大人しく睨み合ってるのもなんだから、サキさんだっけ? 君、ちょっとばかりお相手してくれないかな? 久々の実戦だから、アップ代わりに、ちょっと色々試してみたいんだ……曲がりなりにも槍の勇者なんだから、あの程度で、終わりとかないでしょ? さぁ、行くよ……仙術「縮地の法」!」
お姉ちゃん……言い終わるなり、一瞬で、サキさんの目の前に移動してる。
脇構えの体勢のまま、身体をほとんど動かさずに、スイーって、ミズスマシが水の上を滑るような、キモい動きしてたけど、なにそれ……?
つづいて、流れるように脇構えから、剣を振り抜いて、サキさんの首筋の横でピタッと止める。
「え? えっ? な、なんで、もう目の前にいるんだよっ! って、うわぁあああああっ!」
サキさんも、いきなり目の前まで一瞬で間合いを詰められて、剣が首筋のすぐ横にあることに気づくと、一瞬でパニックを起こしたらしく、大きく飛び退いてデタラメに槍を振り回してる……。
けれど、その様子を見てお姉ちゃんは、チッチッチと舌打ちをしながら、口元で指をふるジェスチャーを見せる。
「……うん、甘い……実に甘いねぇ。私がその気なら、君は今頃、首と胴体が生き別れになって、倒れ伏していただろう。まぁ、勇者システムが発動中だから、それでも死なないだろうけど……まずは、軽くワンナウトって感じかな?」
「ははっ、な、なんだよ……それ……。それに手加減なんて、随分と余裕なんだね……。い、今の動きはなんだい? 10mは離れてたのに、気がついたら目の前に居るなんて……」
「無拍子とも言うんだけど、聞いたことないかな? 相手の認識の外で動く体術の一種だ。これって、普通に初見殺しだからね。そんなので、あっさり決着が付いちゃ、楽しくないだろ? 今のは、チュートリアルってところだから、ノーカンにしておいてあげよう。まずは、深呼吸……そして、ゆっくりと構える……そうそう、こう言う時は、慌てちゃいけない。さぁ、仕切り直しだ! シャル・ウィ・ダンス!」
……お姉ちゃんに言われるがまま、深呼吸して槍を構え直す、サキさん。
完全にお姉ちゃんペースだ……なんかもう、完全に初心者扱い……これは酷い。




