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第十三話「きたみけ三姉妹VS」④

 一方、まどかさんは、さっそくサキさんと打ち合ってる。

 

 けど、まどかさんは本来、回復特化の勇者……近接戦闘系のガチ本命、槍の勇者相手で、しかも素手で戦ってるから、リーチと基礎スペックの差で、圧倒されて、防戦一方って感じ……。


 おまけに、サキさんは、明らかにわたしからまどかさんを引き離そうとしてるような感じに動いてる。

 

 まどかさんの援護に向かおうにも、マキさんの矢が次々飛んでくるので、遮蔽物から頭をあげられないし、身動きも取れない! 完全に足止めされてる! 


 時より、明らかに威力がおかしいのが混ざって、防壁も次々崩されていってる。

  

「あら、意外と避けるのね……と言うか、遮蔽物の使い方が上手いし、壁もかたっぱしから壊してるのに、一向に減らない……壊された矢先に自動復旧してる感じ? ここはあなたの城……地形が味方って事か……なるほど、こりゃ、やりにくいわ……」


「ご名答……こう言う真似もできるよ? 「牢獄ザ・プリズン!」」


 言いながら、マキさんの周囲に壁を一斉に生やす!


「あらやだ……閉じ込められちゃった! けど……こんなもの……うらぁっ!」


 まぁ、そうなるね。

 軽く足蹴にされただけで、壁は崩壊してあっさりと脱出されてしまったようだった。


「三秒か……足止めとしては、十分でしょ? 非戦闘系の勇者だからって、舐めて貰っちゃ困るね……」


「そうね……この場に、弩が居たらって思うとゾッとするわ。けど、さすがにアンタ一人じゃ、飛び道具相手、為す術ないと思うよ……だからって、手は抜かないけどね……。嫌になったら、いつでも白旗上げていいよ? まぁ、簡単に勝負投げられちゃったら、むしろがっかりなんだけどさ!」

 

「……だから、舐めるなっての! いでよ! ゴーレム!」


 ゴーレム召喚で、マキさんの背後にゴーレムを召喚。

 会話しつつ、こっそり召喚準備してたんだよ……この間抜けめっ!

 

「んなっ! いきなり、泥人形? どこから湧いたの! くそっ……コイツ! 離しなさいっ!」

 

 不意打ちが決まって、地面からいきなり湧いたゴーレムに、背後から抱きつかれる形になったマキさんが喚く。

 

「……この広場の中なら、クレイゴーレムは、どこにでも湧くからね! 泥人形でもこんな風に使えば、十分戦力になるのよ! そっちこそ、わたしの城の中で、安全地帯なんてあると思ってたら、大間違いだよっ! さらにお替り追加! 悪いけど、残さず全部平らげてね!」

 

 更に、二体召喚して、スクラムを組ませて、サンドイッチ状態にする……マキさん、顔までゴーレムの身体に埋まってるから、この調子なら窒息して、無力化出来るかも!


 ……ここは、文字通りわたしの城。

 この拠点の防衛機構をフル活用して、ハメ殺す! それがわたしの勝機……!


 このまま、押しつぶしてやるんだからっ! いけーっ!

 

「くそっ……何こいつ! 意外とハイパワーだし、ベタベタして引き剥がせない! ね、粘土? く、苦しいっ! この……放しやがれっつってんだろっ!」


 なにげに、クレイゴーレムも今回は、ちょっとイイやつを使ってみた。


 マキさんに抱きついてるのは、雑務用の1mくらいの粘土人形……「ベーシッククレイゴーレム」じゃなくて、1.5mくらいある重作業用で、頭にミドルって付く。


 穴掘りなんかに使うちょっとパワフルなやつ……脆いから、すぐ壊れるし、鈍くさいってのは、変わり無いけど、あんな風に抱きつかれたら、素材が柔らかいだけに、振りほどくのは至難の業。


「……やらせない。スペル・インターセプトッ!」


 茂みの中から、純魔力が飛んできて、ゴーレム達を包み込む。


 ……操作権限の強制奪取? そんなことまでっ! こっちも急いでゴーレムに魔力を注いで、操作権限の争奪戦を始める。


 魔力効率の面では、領域内かつ製作者なだけ、わたしが上のはずだけど、要はオークションみたいなもんで、魔力をより多くつぎ込んだほうが勝つ。


 生成段階で、魔力を多く注げば、簡単には乗っ取れなくなるんだけど、ここは数が必要だし、魔力の節約……とか考えて、最低ラインで生成したのは失敗だった。


 けど、相手にとっては、これだけで十分……争奪戦中は、ゴーレムも棒立ち状態……ユキさんもあっさりとゴーレムの縛めから逃れる。

 

「ナイス、ユキ! ゴーレムなんて、迷宮に居るようなやつと一緒で、乗っとっちゃえばいいのよ! こっちは一気に本体を潰す! 正面から無理でも、真上から撃たれるってのは想定してないでしょ? レイン・アローッ!」


 ほとんど真上に向かって、雨のように矢が放たれる……しかも、多弾頭式の魔力弾!

 

 一気に物凄い数に膨れ上がるこれは、マズいっ!

 超曲射弾道の矢の雨なんて、想定外、おまけに回避なんてとても間に合わない! ……けど!

 

「ゴーレム来てっ!」

 

 四体目のゴーレムを目の前に召喚して、身体の上に覆い被させて、即席のシェルターとする……矢の雨が降り注ぐんだけど、クレイゴーレムって、要するに土嚢みたいなもの。

 ライフル弾も防ぐくらいの防御力はあるので、弓矢程度なら難なく防ぎきったようだった。


 もっとも、ゴーレムのHPがなくなったみたいで、ただの土塊に戻ってバッサと身体に被さってくる。

 

「ぺっぺっ! 泥まみれとか……ホント、嫌んなるね……悪いわね、飛び道具対策は身内にいるから、割と念入りなのよ……このゴーレム、土嚢程度には防弾性能があるんだから……。それにしても、ユキちゃんとやら……色々とやってくれるね……」

 

 今の攻防でゴーレム召喚とかしてる間に、最初のゴーレム達の権限が全て奪われてしまった。


 ユキちゃん、支援系だから、何も出来ない戦力外なんてとんでもないよ……後出しジャンケンの要領で、こっちの策を一つ一つ確実に潰していってくれる!

 

 マキさんに抱きついてたゴーレム達は、完全に乗っ取られてるらしく、ドスドスとこっちに向かってくる。


 移動する壁みたいな感じで、その背後にマキさんが隠れながら、時より矢を撃ってくる!

 当然ながら、距離が詰まると精度も威力も上がる……ゴーレムの乗っ取り対策とか、こっちも想定してなかったからなぁ……厄介だなぁ!

 

「いくらでも湧くって言ったでしょ? これで相殺してやるっ!」


 向かってくるゴーレムの前に更にもう三体召喚っ!

 ……六体のゴーレムが一斉に正面から激突して、どちらも、あっけなく土塊に帰る。

 

 いっそ、ゴーレムを大量に召喚して、スタンドアロンで一斉に襲わせる……なんてコトも考えてたけど。


 どうもユキって子……MPを惜しんでる様子がない。


 攻撃魔法や回復と違って、湯水のように連続使用とかしないから、支援魔法特化って、基本MP余る。

 当然、向こうも事情は同じで、余裕もありそうだし、MP回復薬とか魔石使い潰せば、MPなんていくらでも補充できる。


 魔術の同時並行展開も造作もなくこなせる様子から、こっちと同程度かそれ以上の使い手。

 こうやってる今も、強化魔術の効力が切れそうになるたびに、片手間みたいにジャンジャンかけ直ししてる。


 こっちもかけ直しの手間がないってだけで、しっかりジリジリMPは減っていってる……長期戦となると、こっちもちょっと厳しい……ランタンの自然回復強化で、多少マシとは言え、長丁場となるとどうだろう?


 MPの消耗戦……こっちもかなり高い部類に入るし、拠点から魔力を回収すれば、物量勝負なら競り勝てるかもしれないけど……一時間とかそんな長丁場、こっちも経験ない。

 精神的に、そこまで緊張が続くかと言えば、微妙だった。


 攻撃をゴーレムに頼るのも、作った矢先に権限取られていったら、向こうに戦力を提供するようなもん……おそらく、この拠点もハッキングみたいに、じわじわ侵食されてるような感じがする……。


 ……こりゃ、まいった。

 完全に八方塞がりだ……いちいち相性悪すぎる……。


 同じ支援魔術の使い手を敵に回すと、ここまで厄介だなんて……。

 勇者相手の緒戦でこんなのとぶつかるなんて……ツイてないなぁ……。


 用意してた策やこっちの長所を次々潰されて、確実に圧倒されてる……手強いなぁ。

 

「……ごめんなさい。二人がかりなんて、まるで弱い者いじめみたいで、気がひけるんですけどね。こっちも簡単には退けない理由があるんです。ホントは、どうせ敵にしかならないだろうから、殺せって言われてたんですけど。降伏してくれたら、悪いようにはしません……そこだけはお約束します」


 ユキって子の声が響く、この子もそんな悪い子って訳じゃないんだろう。

 それに、何らかの弱みを握られてる……その言葉からは、そんな裏事情が透けて見える。

 

 けど、良いやつだろうが、ヤなやつだろうが、立場が違って、双方の目的が相容れないならば、戦うしか無い。


 降伏は論外、ユキちゃんはああ言ってるけど、まぁ、捕縛されたら殺されるね……確実に。

 けど、やっぱ……わたし一人の力で勝つのは、無理っぽいなぁ……。

 

 支援魔法の身体スペック向上のうえで、ゴーレムとか上手く使えば、勝てるかもって思ってたけど……。

 向こうにも同等レベルの支援魔法の使い手が居た時点で、単純な頭数と地力の勝負になってしまった。

 

 まどかさんにしたって、槍の勇者と互角に戦えてる時点で十分凄いんだけど……回復魔法を使ってのしぶとさで、手傷を負いながらも、なんとか、足止めできてる程度で、わたしが押されてる以上、二人のうちどっちかが本格的に加勢に入ったら、まどかさん一人じゃ、もうどうにもならない。

 

 三対二じゃ圧倒的に手が足りない……せめて、クマさん達がいれば……なんだけど。

 この調子じゃ、そこまでとても持ちこたえられそうもなかった。

 

 向こうが時間稼ぎに乗らず、速攻に拘ったのは、そう言う事だったんだ……今更、だけど。


「お姉ちゃん……ごめん。やっぱ、わたしじゃ、厳しいみたい……こりゃもう、無理だわ」


 思わず、弱音が溢れる……どう考えても、このままだと詰む。

 相手の戦力、チームとしての練度、クラスの相性……戦略レベルの段階での劣勢……。


 言い訳はいくらでも考えられる……もう少し狡賢く時間稼ぎに徹した交渉って手もあったんだけど。

 たら……れば……ああっ! もう、今更どうしょうもない事ばかりだ。


「……みたいだね。こんなのシズル一人で、二人を相手にしてるようなもの……弱い方へ戦力集中するのが当然って、解るけど……。こんなのただの弱い者イジメじゃないか。ちょっと、さすがに私も我慢の限界。そろそろ、選手交代する? さっきみたいに空に飛んでちゃったりするようなら、考えるけど……」


「何とか踏ん張ってみる……この場、お任せしていい? 正直、かなり厳しい状況……向こうも相当、手強い……。まさか、相手にあそこまで手練の支援魔法の使い手が居るなんて……」


「支援魔法使い同士の激突って、普通の冒険者とかだとよくあるみたいなんだけど、勇者同士だと珍しいからね……。でもまぁ、ここまでよく頑張ったよ。相手の手札をすべてオープンにしてくれたってのは、お手柄だ。こっから先の事は、もう任せておきなさいっ! なにせ、お姉ちゃんは最強なんだからさ! ああ、とりあえず、丸腰じゃキツイから、剣の一本でも錬成しといて! やっぱ、武器って言えば、剣よね……いっちょ、最高の出来のやつを用意してね!」


 そう、まだ終わってない……わたしには、最強無敵のお姉ちゃんがいる!


 文字通り、わたしの持つ最強の手札……切り札だった。 

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