第十三話「きたみけ三姉妹VS」③
「チョット待ってよ! そんな力づくで制圧とか、そんな事ばっかりやってるから、アタシらの評判が悪くなってるんだっての! ゴ、ゴメン……ふたりとも! マキちゃん……妹は、どうも力づくとか問答無用とか、いつもそんな調子でさ。アタシは……出来れば、平和的に話し合いで解決したいと思ってる! とにかく、一緒に来てくれないかい? 王国は一人でも多くの勇者を必要としている……さっきも言ったけど、待遇だって悪くないよ? アタシらも王都に帰れば、メイドさんとか執事さんが居るお屋敷生活してるんだ。こんなジャングルの奥地で、自給自足ってのも凄いけど……。お風呂だって入れるし、美味しい食べ物だっていっぱい食べれるよ?」
サキさんの熱心な勧誘に、まどかさんがどうしようって感じで、こっちを見る。
わたしもこれ以上、だんまりで一任って訳には行きそうにない……まずは、きっちりお断りっ!
どのみち、彼女達に大人しく同行するなんて選択はない。
た、確かに……お風呂とか惹かれるけどさ……。
お風呂? 入りたいに決まってるっ! 日本人なら、基本だよねー。
「……なんにせよ、同行は出来ないね。わたしにとって、王国は明確な敵だからね。ゴメン……サキさんだっけ? 君がいい子で多分本心から言ってるって事は解るんだけどさ。わたしにも、相応の理由があるからね。王国の手先になって戦うとか、そんな事やるつもりは毛頭ない。悪いけど、わたし達と戦いたくないのなら、このまま回れ右して、帰ってくれるかな? それが一番平和的解決ってやつよね」
「ええっ! そ、そんな……話を聞いてよ! 別に悪い事とかさせたりなんかしないし、王国も問題だらけで、勇者だって、全然足りてないんだ。せめて、拒否する理由を聞かせてよ……そんな問答無用で拒絶とか、アタシだって、納得できない!」
「シ、シズルちゃん……ちょっと身も蓋もなさ過ぎるんじゃないかな……。わ、私は……もうちょっと条件とか、待遇を聞いた上で、クマさんとかも交えた上で、お互い納得できるまで、話し合いとかするべきだと思うな。せっかく出迎えに来てくれたのに、ここでこの子達、追い返すとか、そんなんじゃ、いつまで経ってもここから出れないでしょ……? それともずっとこんなジャングル暮らしを続けろっていうの?」
なんか、まどかさん……ブレてるっぽいな。
王国とは敵対するって話は、とっくに既定路線だと思ってたんだけど……。
「ああ、まどかさんには、説明し忘れてたけど、ここはもうじき、南の獣王国軍に包囲されるみたいなのよ……。ひょっとしたら、もうクマさんとか接触してるかも知れない。どうせ、味方するならそっちの方がまだマシ。落ち目の王国に付き合って、心中とかもっての他だと思わない?」
「そういや……クマさん達もケモミミの商人さんと出食わして、助けを呼んでくれる事になったとか、そんな話してたね。ホントに来てくれたんだ……意外といい人たち? なんだ……どう転んでも助けが来るって事か。となると、これはどっちに行くか迷うところよね。順番的には、ケモミミさん達の方が先約だし……軍勢率いてとか、そんな大所帯でお迎えってのも凄い話よね」
……そりゃまぁ、勇者が自分たちの領域に飛び込んできてるなんて知ったら、向こうも血相変えただろうなって、容易に想像できる。
獣王国も王国の横槍とか、わたし達が拒絶した場合とか色々考えて、出迎えに軍勢を出して来たんだろう。
その程度には、気合を入れてる感じ……おそらく、向こうの将軍クラスとか、高級文官とか、相応の人物も同行してると思う。
向こうが紳士的かどうかは会ってみないと分からないけど……向こうからしたら、何が何でも味方にしたいって感じだろうから、交渉次第では、悪くない待遇を引き出せるかも知れない。
と言うか、完全にこれ……争奪戦待ったなしの状況なんだよね……。
獣王国の手がかかるギリギリのところで、このサキさん達と言う王国側の手先が間に合ったって感じ。
このサキさんって娘もまずは話し合いを持ちかけてくる当たり、意外と良心的……本来は、軍勢けしかけて、問答無用で拉致とかそんなんでも、おかしくない。
敵国に持っていかれるくらいなら、問答無用でぶっ殺せとかそんな乱暴な対応だってあり得る。
間に合ったのが勇者でもあるこの子達だったってのも、あるんだろうけど……話し合いが出来てるだけでも、ずいぶんマシな状況と言える。
「と言うか、王国ってわたしにとっては、完全に敵なのよ……。わたしから、お姉ちゃんを奪った挙げ句に、死なせた……。それだけに飽き足らず、今度はわたしを便利使いする? 冗談じゃない……それに、わたしは、あの骸骨司教から、危険人物扱いされてる。そんなんで、王国に連れて行かれたら、間違いなく生きて帰れない……まどかさんも、サキさんも、この説明で、納得してくれるかな?」
まぁ、まどかさんとか完全に巻き込まれたって感じなんだけどね。
もっとも、まどかさん知らないだろうけど、思いっきり骸骨司教たちに殺されそうになってたからね……まどかさんにとっても、王国行きは超危険。
なにせ、本来あのまま死ぬはずだった王様を助けちゃったからねぇ……。
あれで、向こうの計画は台無しになった。
当然ながら、恨みも買ってるだろうし、向こうもまどかさんを殺す気満々だった。
当人は、気絶してたから、いまいち解ってないみたいだけど……向こうの思惑とか関係なく動く危険人物として、認識されてると思ってよかった。
クマさんとかも、思い切り戦ってたし……とにかく、わたし達全員、この子達と一緒に行くって選択は論外だと言っても良い。
リスクがあまりに大きすぎる……むしろ、完全に敵とみなして、王国の敵に味方した方がマシ。
ちなみに、中立の立場で……とか調子のいいことを言い出すつもりは毛頭ない……中立って言葉は良いけど、周り全てを敵とするってのと同義語だからね。
「もういいでしょ? サキ姉が説得してみせるとか言ってたから、やらせてみたけど、この調子じゃ説得して、投降させるとか絶対無理。このシズルって子には、王国に敵対する十分な理由がある……私がこの子の立場なら、やっぱりこうなる……。仮にサキ姉とかユキだけがこの世界に先に転移してて、後から来たら、二人とももう死にました代わりに頑張って……なんて言われたら、私だって、王国滅ぼすってなる。彼女の気持ちは良く解るわ……。けど、私達にも立場と理由がある。サキ姉、ここは力づくで制圧するしか無い……いいから、もう覚悟決めなさい……。お人好しなのは知ってるけど、時と場合によるわ」
それまで、黙ってたマキさんが、告げる。
この人もそんな悪い人じゃない……わたしの置かれた状況や立場を考えて、敵対するのは当たり前だって、解ってくれてる。
同じ姉妹持ちだから、自分に当てはめたら、すんなり解る……それでも、彼女達にも与えられた任務を遂行する理由がある……だから、退けない。
まぁ、そんなもんだよね……。
お互い立場や信条も、解り合ってても、決して相容れない……双方、譲れないものってのは確実にある。
なら、戦って勝ち取るしか無い。
それがこの世界のルール。
「まどかさん! やるよ……「筋力強化2!」「炎の拳」「倍加速」「鋼の守り2」「光の盾」! フルセット大盤振る舞いでまとめがけっ! ドーンッ!」
……立て続けに、支援魔法をまどかさんと自分へ発動!
赤い魔力のラインがいくつも地面を走って、まどかさんに伸びると、わたしと接続……持続時間の問題をクリアした半永続型の支援魔法!
この広場内限定なんだけど、効果が切れるたびにいちいちかけ直さなくて済むと言う便利過ぎる代物!
この一月で一部の支援魔法自体もワンランクだけど、上がってる。
光の盾は防御魔法の一種だけど、人魂みたいな輝点が周囲をランダムに巡ることで、遠距離攻撃で狙い撃ちとかやろうとすると、眩しくて激しくウザい。
近接戦でもいきなり光が目に飛び込んできて、隙が出来る……仲間内での模擬戦を通じて自前で開発してみた。
魔術って、色々組み合わせたり属性付与することで、こう言うオリジナルエディットみたいなことが出来るんだよね……。
まどかさんも前に出て、半身になって腰のあたりに拳を構える。
炎の拳は、まどかさん用にわたしが作った独自魔術。
拳に炎をまとって、攻撃力向上……更に一度だけ、炎を一気に大きくして爆発させることも出来る。
似たような応用型の支援魔術で「燃えあがれクマさん」なんてネーミングでクマさんが全身火達磨になると言うのも開発してる。
……シンプルにクマさんが抱きつくだけで、相手はこんがりローストされると言う。
オークあたりが相手だと、絵面が究極レベルに暑苦しい。
攻撃が苦手なクマさん用に作ってみた……本人は嫌そうな感じだったけど、抱きつかれた相手はもれなく死ぬ、攻防一体の防御魔法?
一応、模擬戦とか、婦女子相手に使っちゃ駄目とは言ってあるし、まどかさんには「これは、要らない」って拒否られた。
わたしは……どうにもなくなって、死なばもろともってやるなら、ありかなーって思う。
とにかく、まどかさんと二人だけで、戦いになったときの段取り通り……。
支援魔法をありったけかけて、まどかさんが前衛、わたしが後衛、遊撃として走り回る。
まどかさんも、倍加速の世界を何度も体験してるから、それだけで並みの戦士なら圧倒できるし、この広場の中なら、ゴーレム召還とか即席で壁生やしたりも出来るから、なんとかなる!
お姉ちゃん憑依は、もうちょっと練習しないとリスクが大きすぎて、こんなぶっつけじゃとても使えない……ここは、自力でなんとかしないと!
「……やるしかないか。ユキ、向こうは支援魔法を使ってる。倍加速使われたんじゃ、素の能力の時点で相手がメイスだって、圧倒されかねない。ひとつ、支援を盛大に頼むよ……」
「解りました……想定Dで行きます」
どこからともなく、女の子の声が聞こえてくる。
音源が良く解らない……上の方から聞こえてくる感じ。
声を出して、居場所を特定させるような間抜けじゃないらしい。
「想定D……ガチでやるってことか。やれやれ、結局こうなるのか……。いいさ、こうなったらこっちも全力で行くよ……悪いけど、恨みっこなしだ! マキ、ユキ……二人とも手を抜いたりしたら、相手に失礼だ……出し惜しみとか、容赦はするな! 北見家三姉妹総力戦用意っ!」
サキさんの雰囲気がガラリと変わる……。
これまでもどことなく、お人好しでユルッとした雰囲気だったのが、鋭い目つきの戦士の目付きになる。
ブワッと広がる……殺気。
剣道なんかで、有段者クラスとかが持つ独特の気配……この人、強いっ!
対勇者……それもチーム戦ともなると、相手にも同じ支援魔法の使い手がいる可能性は十分あった。
こうなると、同じ支援魔法の使い手同士……お互いの研究と研鑽の積み重ねがものを言う事になるだろう。
いいね……悪くない。
ユキちゃんとやら、お手並み拝見だねっ!
「解りました。サキ姉さんも気をつけて……「倍加速」「筋力強化」「鋼の守り」「そよ風の守り手」「水鏡の盾」!」
どこからともなく、女の子の声が響くと、空から輝く砂のようなものが、サキさんとマキさんの上に降り注ぐ。
「倍加速」「筋力強化」「鋼の守り」の物理強化三点セット……残り二つは知らないし、プリセットにないヤツだ。
しかも、これだけ一気に同時展開とか、わたしと同じかそれ以上かも!
それに、魔力ラインを伸ばすタイプじゃなくて、どうも一度拡散させて、上から降らせる……そんな回りくどい、魔術付与方式にしてるらしく、魔力ラインを辿ろうとしても、術者の居場所が解らなくなってる。
なんとも念が入ってるな……見つかったら、最後って解ってるから、隠蔽も徹底してるってことか。
「や、やるじゃない……ユキちゃんだっけ? 同じ支援魔法の使い手がいる相手と戦うなんて初めてだけど……」
「……私も、支援魔法の専門家ですからね……条件は、私も同じです……。シズルさんでしたっけ? なかなか面白いじゃないですか。それだけ一気に強化魔法を展開した様子から、かなりのやり手のようですが……この勝負、支援魔法のアドバンテージで押し勝てると思ってたんでしょうけど、そう甘くはありませんよ? 支援が同レベルとなると、シンプルに戦力差の問題。質、量の両面でそちらの勝ち目はありません。マキ姉……メイスの相手は、サキ姉にまかせて、速やかにランタンを制圧……現状、向こうは二人だけ、増援が戻ってくる前にカタを付けましょう!」
同じ支援魔法を使われる……そうなると、こっちのアドバンテージが完全に相殺されると思ってよかった。
何より、切り札と思ってたチート魔術の「倍加速」……これを相手にも使われたのは、完全に想定外だった。
でもまぁ、確かに強力とは言え、デフォルトで使える基本魔術だし……同じ支援魔法使いなら、真っ先に使うよね……長時間使わせられると、筋肉がズタボロになるって話も聞くけど。
いずれにせよ……戦いの火蓋は切られた! こうなったら、徹底的にやりあうのみ……負けるなんて、これっぽっちも思わないっ!
「……思ったより、厄介そうなパーティね……。槍の勇者は、大剣と同格の三騎士ってよばれる強クラス。弓は中、遠距離戦のエキスパート、手数の多さからインファイトだってこなせる。この組み合わせの時点で相当な脅威。もうひとりは戦闘に直接参加する様子がない……となると、支援魔法特化タイプ……消去法でおそらく水晶玉の勇者じゃないかな。攻撃手段は持たないけど、支援と回復、索敵持ちの後方支援タイプ。でも、敵に回すと物凄く厄介。おまけに木霊の術と遠隔サテライトを使った魔術付与と、徹底的に自分の居場所を隠蔽してる。この様子だと、かなりの使い手だね……。シズル、どう? 勝てそう?」
お姉ちゃんが話しかけてくれる。
さすがお姉ちゃんだ……たったこれだけの事でもう相手の武器をほぼ特定しちゃってる。
水晶玉の勇者……情報収集と支援特化の非戦闘系勇者だって話は聞いてたけど、ユウキくんの索敵レーダーと、まどかさんの回復、わたしの支援魔法をミックスした感じ?
それに遠隔サテライトって……あの上の方をウロウロしてるクリスタルみたいなのかな? アレを経由して支援魔法を飛ばしてるのか……なにそれ! 厄介過ぎるっ!
「なにそれ? ずるいっ! って、めっちゃ撃ってきてる!」
雨あられと放たれる弓矢……とっさに、煉瓦の壁に隠れる。
手数が多いって聞いてるけど、こんなの機関銃とか変わんないっ!
けど、この遮蔽物だらけの広場で戦う限り、飛び道具相手でもそこそこやれるはず。
この手合との戦いだって、わたしは想定してる。
こうなったら、地形やゴーレム、あらゆるものを総動員してやってやる!




