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第十三話「きたみけ三姉妹VS」②

 まず、装備確認。

 サキさんはシンプルに赤基調の鎧と赤い槍と、予備の短剣と小物入れくらいしか身に着けてない。


 徹底して、赤に拘ってるらしいけど、戦闘には関係ないね。


 お姉ちゃん情報として、槍の勇者は基本、スピードファイター……全クラストップクラスの身軽さを信条にしてるから、シンプル装備ってのは、理にかなってる感じ。


 マキさんの方は、スコープみたいなのが付いた装飾過多な感じの弓とレオタード風革鎧……なんだけど、副武装っぽいのはやっぱり短剣だけ。


 まぁ、戦闘系勇者なら、武器は勇者の武器一択だから、そこは当然ってところなんだけど、マキさんの弓……。

 どうも折れ曲がったりすることで、短弓と長弓みたいな感じで可変機構とか付いてるむしろ、SF風の代物……なにこれ?


 他にも大量の矢が詰まった矢筒を両腰と背中、全部で三つくらい持ってて、ブレスレットとか、アクセサリーをジャラジャラジャラ付けてる……身軽そうにはとても見えない、物凄く重装備。

 

 腰と肩からたすき掛けにしてるベルトに、ズラッと細長い宝石みたいなのが並んでる……魔力が溢れてる様子から、マジックアイテムっぽい。


 用途は、良くわからないな……。


 ユウキくんは、矢玉は自前で魔力弾みたいなのを作り出して、矢玉切れとか縁ない感じなんだけど、この人は普通の矢を大量に持ち歩いて、普通の矢をバンバン撃つスタイルって感じみたい。


 魔力弾も生成するのに、それなりの魔力と時間がかかるから、手数勝負の弓矢だと効率悪いのかも。

 

 もしかしたら、あの宝石は弾頭みたいなもので、矢と組み合わせて、グレネードランチャーみたいな使い方とか出来るのかも。


 うーん、とにかく一撃の威力を追求しまくって、エラいことになってるユウキくんとは対象的だね。 


 お姉ちゃん情報でも、槍も弓も一応知ってる程度しか、情報ないから、今の時点で得られる情報は、そう多くない。


 ただ、やっぱり飛び道具系だけに、辺りの地形を観察することに余念がない様子。

 到るところに作られた煉瓦の壁のせいで、射線が通りにくいみたいで、少し困った顔してる。


 この辺は、ユウキくんを交えて、飛び道具持ちとここで戦うことも想定して、色々検討したから、守るによし、攻める側はかなり、やりにくくなってるはずだった。

 

 もうひとりのユキちゃんはどうも、ジャングルの木々の隙間にすり抜けるように着地して、すでに位置取りを済ませているらしい……。

 

 索敵スキル持ちのユウキくんがいれば、隠れてようが、位置もすぐに見つけられるんだけど、ちょっと見た感じ、どこに居るのか解らない。

 

 支援系だけに、むやみに姿を見せるほど間抜けじゃないらしい。


 その辺は、わたしもだからよく解るんだけど、ユキちゃんに関しては、戦うことになったら、全く情報がない状態で戦う事になりそうだった。


 もっとも、支援系なんて、バフバラ撒いたら、役目はほぼ終わり。

 チマチマと、援護くらいはするけど、味方からもソレ以上は求められてない。

 

 ささやかな援護と増援警戒、あと囮や陽動役……それくらいが関の山だから、わたしもだけど、まどかさんもこんな風に堂々と姿を見せるってのは、本来ならば避けるべきだって分かってるんだけどね……。

 

「まったく……ずいぶんと、賑やかな訪問者ね。一応、聞いとくけど、お二人は何者? 勇者仲間ってことで、合流希望とか、遊びに来ましたって雰囲気でもないよね?」


 まどかさんが、腕組みしつつ前に出て、ドンッと指さしながら告げる。

 

「ああ、そこのお姉さんは……あの時、王様にヒールかけて、気絶した看護師さんだよね。本職のヒーラーさん……なら話が早い。アタシらは、君達を迎えに来たんだ。一緒に来てもらえないかな? 王国の平和を守り、正義を為すために、共に戦おうじゃないか!」


 正義と平和を守るため……まんま、正義の味方って感じの口上。

 そして、いきなり、共に戦わないかと、来たか……。


 なんとも、胡散臭いと言うか……説明不足すぎると言うか……。

 なんかもう「あなたは、神を信じますか?」ってやってくる路上宗教勧誘とかと大差ないよ、これ?

 

 この子……やっぱり、おバカなの?


「あのさ……王国が正義とか、それ本気で言ってる? 思いっきりクーデター起こして、悪徳大臣が国を取り仕切って、邪教がはびこって、軍もやりたい放題とかそんな調子なんじゃないの? それに正義なんて言葉より、胡散臭いものはそうないよ……正義ってのは、立場や目線でいくらでも変わるからね……違う?」


「あ……うん、確かに、そうかも知れないね。お、お姉さん……なんだか、難しいことを言うね……。じゃあ、あれだ……これならどう? 王国は今、勇者が少なくて、各地に出る魔物や魔王軍の相手やらで、とっても困ってるんだ。一緒に来て手伝ってくれたら、アタシらも色々助かるんだけど、どう? 今なら、もれなくメイドさん付きのお屋敷住まいの貴族待遇、お金もたくさん貰えて、皆からも尊敬されるよ?」


 ……思わず、吹き出しそうになる。

 

 この子……なに? バカなの?

 てっきり、正義の定義についてでも、話すのかと思ってたら、いきなりバイトの勧誘みたいなノリになった……。


 確かに、メイドさん付きのお屋敷くれるとか、どんだけだよ。


 それに、この笑顔と毒気のなさ……。


 なんと言うか、こっちもやる気だったのに、ある意味出鼻をくじかれた……どうしよう、なんか普通に良い子っぽい。


「サキ姉……なに、バイトの勧誘みたいな事言ってるのよ。まぁ、概ね合ってるんですけどね……。王国は今、魔王軍や隣国の脅威にさらされて、極めて深刻な状況になりつつあります。前王がせっかく召還した勇者をあちこちにバラ撒いてくれたおかげで、要らない争乱のタネ増えまくって、大変なことになってるんですよ……。私達は国軍司令のアレキサ様の命で、各地に散らばった勇者を集め、まとめ上げる為に、日夜活動している王国特務部隊アークレインボウ所属の勇者です。いわば正当なる勇者ってところですよ」


「そうそう、正義の味方ってのは、大げさだけど。常々、そうありたいってアタシは思って、頑張ってるんだ。君らのいるこの森は、お隣の獣王国の領域なんだけど、あまりに深すぎて誰もここまで入って来れないし、君らもここから出れなくて困ってるんでしょ? いやぁ、流星に乗って、上から見て、もうびっくり……こんな広い森だったなんて……探すの苦労したよ。隣国っても海の向こうの国みたいなもんって聞いてたけど……そりゃ、交流も無いわけだよ……こんなところじゃ、色々大変だったでしょ? けど、アタシらが来たからにはもう大丈夫!」


 なんと言うか……。

 話だけ聞くと、普通に善意いっぱいで、自分たちも困ってるから、ちょっと一緒に仕事しないかい? ……とか、そんな風に聞こえる。


 何より、このサキって子……おバカっぽいけど、なんか普通に良い子……多分、これ打算抜きで本心で言ってる。


 こんなお人好しが敵に回るとか、とってもやりにくい……なんて言うか、良心がズキズキと痛むよ。

 

「……なるほどね。出迎えに来たってのは、嘘じゃないみたいね。ただねぇ……私らって、要はお留守番なのよね……。他に二人、仲間の男性陣がいるんだけど、その二人が出払ってるのに、私らで勝手にそんな大事な事、決めるわけにもいかないでしょ? 悪いけど、そう言う話なら、ちょっと待ってくれないかな? せっかくだから、お茶くらい出すよ? ……このジャングルって、色々美味しいものがあるし、クマさん……お仲間のひとりが、そう言うの見つけるの得意な人でさ……二人共、女の子なんだし、森のなかで勇者同士の女子会とかどう?」


 そう言って、まどかさんが前に出て、笑いかける。

 

 うーん、まどかさん、時間稼ぎの方便としちゃ悪くないけど。


 向こうもこっちも勇者モードに変身してやる気満々な以上、あちらさんとしては、ムダにするつもりはないと思うんだよね。

 そもそも、もうひとりは顔すら見せない……やる気満々。


 ……それに、今、この二人しか居ないなんて、バカ正直に言っちゃったら、向こうも強気に出てくるんじゃ……。


 実際、前に出てるサキさんって子は、ニコニコ笑顔で、嬉しそうなんだけど、後ろのマキって子は眉間にシワ寄せてて、難しい顔をしてる。

 

「そっかそっか、確かに、留守番の二人しか居ないのに、勝手に色々決めたら、後で怒られちゃうよね……。マキちゃん、ユキちゃん、どうだろう? このお姉さん、お茶でもしながら待ってて、なんて言ってるんだけど……。アタシも喉渇いたしさ、ここやたら暑いから、ちょっと一息くらい付けない? 向こうはそんなやり合う気も無いみたいだしさ……実際、平和的な感じで、お話し合いも出来てるじゃない。アタシ、実は女子会とかって憧れだったんだ!」

 

 なんと言うか……このサキさんって、ガチでお人好し過ぎる。


 まどかさんも、あわよくば時間稼ぎを……って感じで女子会とか言い出したんだと思うんだけど、意外と乗り気な様子を見て、あれーみたいな顔してる。

 

「サキ姉……何、お気楽な事言ってるのよ。この場に、この二人しか居ないってのなら、逆に制圧するチャンスじゃない。見たところ、手強そうな大盾も弩も居ない……。でも、このメイスの勇者が本当のこと言ってるかどうかは解らない。私が弩なら、変身解いて油断しきってる所を狙撃するとかして、無力化を図る。ねぇ、そんな見え透いた罠に私達がかかる程、間抜けだと思ってるのかしら?」


 ユウキくん達が近くに居ない。

 これは、ほぼ確実なんだけど、相手にそれは解らないだろうし、近くには居ないと相手に証明する術なんてない。


 実際、このマキさんの危惧してるように、油断させておいて、密かに忍び寄ったユウキくんの一撃で仕留める……騙し討ち以外の何物でもないけれど、この手なら、この二人が相手でも、ほぼ確実に倒せるだろう。

 

 ただ、その手はあくまでユウキくんと連絡がとれる事ってのが前提になるから、現実的じゃない……でも、正直に言っても、信用はされないだろうな。


 でも、ちょっと気になるのは、こんな秘境じみた所に引きこもってるわたし達の情報を、向こうが持ってるって事。


 わたし達はユウキくん達の存在を告げたけど、クラスまでは言ってない。

 けど、マキさんは弩と大盾とまで特定……極めて、正確な情報を持っている。


 もちろん、あの召還の間で、わたし達が一緒に行動することになったって事は、王国の兵達も見ていただろうから、それくらいの情報はバレてるとは思うんだけど、あの混乱の中で、ついでみたいな感じで拾っていったユウキくんの事まで、正確に把握できたとは、ちょっと思い難い。


 何より、彼女たちは、極めて正確にこの広大な森から、わたし達の拠点を上空から見定めてきた。

 実際問題、上空から見たら、この拠点一目瞭然かと言えば、そんな事はない。


 数百キロ四方とかあるような広大な森……空から、こんな数十m程度の広場と建物を見つけるなんて、何度も上空を飛び回って、何枚も写真を取って、時間をかけて分析するとか、それくらいやらないと無理。


 ベトナム戦争とか、ゲリラの拠点がいくら空から探しても見つからなくって、だったらジャングルをなくしてしまえとばかりに、枯葉剤をバラ撒いた……なんて話もあるくらい、深いジャングルってのは上空からの捜索を困難にさせる……そんなもんなんだ。


 人工物と言っても、この森には遺跡みたいなのがいくつもあるって、クマさん達も言ってたから、こんなレンガ作りの建物みたいなのだって、いくつもある。


 空か見て特定ともなると、相当な困難だってのは、想像に難くない。


 斥候による目視偵察って可能性もあるけど……これも上空偵察ですら、苦労するのに、徒歩で当て所無く彷徨って……とか論外だから、その可能性は除外していい。


 なんと言っても、そんなのが来てたら、痕跡とか残るし、ユウキくんの索敵網に余裕でひっかかる。


 いずれにせよ、向こうには、広大な森の中から、わたし達の居場所のおおよその当たりをつけられる程度には、高度な広域情報収集能力があると思ってよかった。


 お姉ちゃんも知らない勇者の武器の固有能力とか、お姉ちゃんの未来視みたいな個人のユニーク能力とか。


 可能性が高いのはその辺……やっぱり、王国ってあなどれないな。

 未来視なんてチート能力があるんだから、遠隔視とか、念写みたいなのがあっても不思議じゃない。

 

「いやいや、罠にかけるとか……この看護師さん、めっちゃいい人っぽいし、こっちのちっちゃい子もそんな悪どい騙し討ちとかしないと思うよ。マキは、もうちょっと人を信用したほうがいいんじゃないかなぁ……」


「信じるも何も、私達の目的は、ここにいる勇者の身柄確保でしょ。結論なんてとっくに出てる。彼女たちも勇者モードでやる気満々……こんな露骨な時間稼ぎに乗るよりも、支援系勇者二人相手なら、一気に制圧して、後はこの二人を人質にして、残りの二人に降伏を迫る……実に、合理的なやり方だと思わない?」

 

 なんと言うか、凄く対照的な姉妹だ……サキさんは、お人好しで正々堂々とかそんな感じの人。


 対して、わたし達を人質に取ってとか……このマキさんって、どう見ても、初めからやる気みたいだし、手段を選ぶ気もないらしい……。

  

 むしろ、こっちの方がやりやすい……笑顔で憎めない敵とかこっちもやりにくい。

 いいね……良くも悪くもの敵役のテンプレって感じで……やっぱそう来なくちゃだよっ!

加筆改稿してたら、文字数がオーバーしてしまったので、①の内容の一部をこっちに回して、未公開分を追加してます。

でも、やっぱり、文字数いっぱい……やっちまったぜ!(笑)

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