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第十二話「憑依合体」①

「シズル、忠告しとくけど、このライブラの要求自体が相当な無茶振りよ。かなり辛い、厳しい戦いになるのは確実よ……ねぇ、悪いことは言わないから、今すぐランタンを破壊して、現実世界へ戻らない? 多分、それが一番楽な選択だと思うよ。別にこんな世界、滅んだってシズルの責任じゃないんだから、全部忘れちゃえば済む話じゃない」


 一番楽な選択ってなると、確かにそうだろうね。


 現実世界への帰還方法……シンプルにこのランタンを手放して自壊させるだけで、済むとなれば、まさに今すぐにでも出来る。


「……でも、そうなると、お姉ちゃんはどうなるのよ……」


「そ、そうですよ! お姉ちゃんさんも、なんだかんだで、この世界は気に入ってたんですよね? それこそ、我が身を犠牲にして、超魔王さんを封印したくらいなんですから!」


 ライブラさんの言うことももっともだった。

 自己犠牲すらも許容して、超魔王を討ち倒す……余程の理由がないとそこまで出来るわけがない。


 お姉ちゃんがそれに至った理由については、わたしも知り得なかった。

 まぁ、案外……物足りなくて、裏ボスに挑戦って……本当にそれだけだったのかも知れないけど。


「私は……シズルが現実世界へ帰還するのを見届けたら、それで満足かな……。私が今、ここにいられるのは、シズルの為なんだよ……シズルが無事に帰れたら、もう何も思い残すこともない。今度こそ、本当にお別れ……でも、それが自然なことなのよ。死者は決して帰らない……それが世の理。これは言ってみればボーナスゲームみたいなものさ……いずれ終わりが来る。私は本来とっくに終わってるんだよ」


 その言葉に、思わずじんわりと視界が曇る。

 そんなの絶対イヤだ……何より、希望があるって、知ってしまった……わたしは。

 

 無茶ぶりだろうが、無理ゲーだろうが、ここで投げるのは絶対にないっ!

 

「……却下、却下、却下ーっ! お姉ちゃんには悪いけど、それだけはない。お姉ちゃんも一緒に帰る為に協力してよ……わたし、ハッピーエンド以外は認めないんだから! 終わってるなんて悲しいこと言うなーっ!」


 うん、これはもう言い切ってもいい。

 困難で苦難に満ちた道のりだろうが、わたしは覚悟なんてとっくに決まってる。


 泣きたいんだか笑いたいんだか、解らない感じなんだけど、そんなわたしを見て、お姉ちゃんは苦笑する。


「ははっ、シズルは昔からこうだ。一度ワガママ言い出したら、何を言っても聞かない。そうだね……こんな無力な幽霊でよければ、担う限りを……ってとこだけどね。まったく直接手出しして、手伝えないのが残念でならないよ」


 そう言って、笑顔。


 そう、いつだってお姉ちゃんは一緒でないと……。

 現実世界に戻れるってのなら、お姉ちゃんが一緒って以外あり得ない。


 もちろん、お姉ちゃん自身が手伝ってくれたら、難易度は一気に下がるのだけど。 

 アドバイザーってだけでも十分助かってるんだから、多くを望むもんじゃない……。

 

「あ、あのお姉ちゃんさん……ちょっといいですかね?」


 唐突に、ライブラさんが口を挟んでくる。

 まだなんかあるのか……コイツ。


「何よ……せっかく、姉妹で意見が一致して、いい雰囲気なんだから、水を差さないでくれる?」


「まぁまぁ、聞いてくださいよ……。お姉ちゃんさんって、要するに生霊みたいなもんなんですよね。そう言う事なら、憑依とかも出来ると思うんですけど、なんでやらないのかなーと素朴な疑問が……」


「なにそれ……幽体って、そんな事が出来るの!」


 お姉ちゃんが素っ頓狂な声をあげる……うん、珍しいね。


「出来ますよ。相手が受け入れてくれるってのが、前提になるんですけど。憑依した相手の身体を乗っ取るような感じに出来るんですよね……。お姉ちゃんさんとシズルちゃんは、姉妹だけに魂の波長も近いでしょうから、かなり楽にできるんじゃないかなーと」


 ライブラさんの語る新事実……そうなの?

 

 お姉ちゃんをチラッと見てみる。

 向こうも知らなかったみたいで、首を傾げてる。

 

「なにそれ? 初耳……と言うか、幽霊の先輩とか居なかったし、シズル相手にそんな事、試そうとも思わなかった」


「……いやいや、そんな幽霊に取り憑かれたりなんかしたら、それなりのデメリットあるんじゃないの?」


「そうですね……。デメリットとしては、お姉ちゃんがシズルちゃんの身体に入る以上、そのかわりにシズルちゃんが身体から追い出される形で、幽体状態になっちゃいますけど……。長い時間入りっぱなしにしなければ、大丈夫だと思いますよ。なんなら今、試されては? とりあえず、二人で密着してみてください」


 お姉ちゃんに向かって頷く。


 お姉ちゃんにだったら、身体を受け渡すのだって、全然平気。

 

 何より、お姉ちゃんにわたしの身体を預けて、お姉ちゃんの我が身として使ってもらう……これは、十分わたしの切り札になり得る。


 もちろん、身体能力の差があるから、お姉ちゃんそのものよりも劣るだろうけど。

 少なくともわたし一人で戦わざるを得ない状況なんかでは、格段に生存率が上がるだろう……。

 

 ……試して見る価値は充分ある。

 

 背後にお姉ちゃんが立って、背中からそっと抱きしめてくれる。

 

「こ、こんな感じでいいの? なんか普通に抱っこしてもらってるだけって、感じなんだけど」


 とりあえず、めっちゃ近い。

 傍から見たら、ベッタベタで、むしろ百合姉妹って感じ……?


 まぁ、お姉ちゃんの胸の感触とかあるのか無いのか解んないけど、そこは黙ってよう。

 

「ねぇ、シズル……なんか変なこと考えてない?」


「いえいえ、全然何もでございます……姉上」


 さすが姉……鋭すぎる! でも、肩の上にお姉ちゃんの顔があって、ギュッとされてて……やっぱりこれ、落ち着くなぁ……。


 よく一緒のお布団でこうしてたっけ……。


「そうそう、そんな感じです。昔は、この世界にも巫女やシャーマンみたいな人達とかがいて、私もそんな人達に、一時的に身体貸してもらったりとかしてたんですよね。何より、私もこの幽体状態が基本で、数百年は現界してますからね……昔は、これでも神様同然に崇められたりしてたんですよ。なので、幽体の扱いに関しては一日の長があると思ってくださいな」


 ライブラさん「崇められてた」って過去形で語ってることについては、触れないのが多分優しさだと思う。


 まぁ、要するにライブラさんって、今は崇められてないって事なんだろう。

 

 理由は想像付く……神様にしては、ポンコツすぎるから、信者に呆れられたとか。

 数々のやらかしで、邪神扱いされるようになったとか……ロクでもない理由がありそうだった。


「そっか、私なんかより全然幽霊キャリア長いってことか……。と言うか、向こうにいた時も、一緒の布団で寝たり、一緒にお風呂入ったりとかしてたから、この程度の密着なら何度もあったんだけどなぁ……」


 うん? 三週間の現実世界でのお姉ちゃんとのイチャラブ生活。

 楽しかったなぁ……もう、わたしが三年分溜め込んでたお姉ちゃんラブ全開って感じだった。


「うん、それが魂が触れ合ってる状態、そこが入り口なんですよ。その状態で、身体同士が触れ合ってる感じはしますよね? それ触れ合ってるんじゃなくて、微妙に混じり合ってる状態なんですよ。ここからが肝なんですけど、受け入れ側は、自分自身の存在を薄めて、空っぽにするって聞いてます。シズルちゃんやってみてっ!」

 

 心を空っぽに……無の境地って奴? 幽霊キャリア長いとか言っても、肝心な受け入れ側のことは、また聞き知識とか。

 なんとも雑な説明で、投げっぱなし感が凄い。

 

 巫女さんとかシャーマンって……そう言う人達って、長年修行を積んで、心身ともに鍛え上げてるからこそ、霊体の受け入れ先になれるとか、そんなじゃないのかな?

 

 とにかく、身体から力を抜いて、目を閉じる。

 空っぽ……何も考えずに、周囲の感覚からも意識を逸していく。

 

 深く深く……心を空っぽにして、何も考えない。

 すると、背中に感じていたお姉ちゃんが、沈み込むようにわたしの身体に重なってくるのが解る。

 

 次の瞬間、不意に身体が軽くなって宙に浮いてるような感覚が……。

 

「あれ? なにこれ……どうなってるの? どんどん浮いてくよぉ……」


 まるで、浮き輪を抱えて水の中にでも居るような浮揚感に思わず目を開けると、なんか床から2mくらいの高さにいて、自分自身を見下ろしてる……なんて光景が飛び込んできた。

 

 ……なんか、上の方から、引っ張られるような感触がする。

 ふっと、身体を楽にするとゆるゆるーと上へ上へと、上がっていく。

 

 3m、4m……どんどん高くなっていく。

 

 あ、これ……なんかすっごい気持ちいい。

 何もかもからも解放されたような……物凄い開放感。

 

 ああ、なんだか意識がぼんやりとしてくるな……このまま、目を瞑って眠りたい。

 

「ダメダメーっ! 妹ちゃん、逝っちゃうよっ! ストーップ! ストーップ!」


 うつらうつらとしてたら、いきなり、ライブラさんが足にしがみついてきて、強制的に地面近くまで引きずり降ろされ、まどろみかけていた意識が鮮明になる。

 

「おおぅ……今のが天に登る感覚……あっぶなっ!」


 文字通り地に足がついた瞬間、正気に戻った!

 

 おおお、何だ、今の……超気持ちよかった。


 あのまま、空の彼方へ浮かんでいくのに、全て委ねたいって心底、思ってしまってた……。

 

「シズル……幽体状態では、現世への執着を強く保つ必要があるのよ。ソレがないと今みたいに、空の彼方にフワフワ飛んでいっちゃう……。そうなったら、たぶん二度と戻ってこれない。危ないとこだったね……」


 眼の前の「わたし」が、お姉ちゃんの口調と声で、そう告げていた。


 どうやら、上手く行ったらしいんだけど、危うくわたしが昇天しかけた……どうも、そんな感じみたいだった。

 

「……あ、あれ? わたしがもう一人……?」


 うん、見慣れたタレ目、タレ眉。

 

 チビっちゃいくせに、お胸とお尻はご立派なアンバランス体型……。

 一歩間違えれば、タダのおデブだけど、肩幅ないし、手足や腰は細いから、いわゆるトランジスターグラマーって感じ。


 ……なんだけど、雰囲気がいつも鏡で見慣れた感じと違って、妙に強気っぽく見える。

 髪の毛もなんか長くなってるし、目もこんなキリッとしてなかったんだけど……。

 

 何より、独特の風格……強者オーラみたいなのが漂ってる。

 わたし……なにごと?


「これがシズルちゃんの身体……。なんか妙にしっくり来るんだけど、視点低いし、色々重たいような……」


 なんかもう、思いっきりあちこち触られてる。

 胸をタユンタユンさせられたり、お尻をさわさわされたり……。

 

 飛んだり跳ねたりするのは良いけど、今のカッコはノーパンミニスカみたいなもんだから、程々に……ね?

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