第十一話「混沌の魔王ライブラ」③
「まぁ、良いんじゃない。シズルならこの程度、ピンチにもならないさ。私もいるから、いっちょ派手に暴れて、勇者デビューしてみなよ! とりあえず、こう言う面倒くさい状況になった時は、軽く全員ぶちのめすってのがオススメだよ? 私も冒険者ギルドデビューした時は、テンプレ絡まれ食らったけどねー。結局、その場に居たやつ、傍観者も含めて、全員ブチのめしてやったもんよ!」
姉武勇伝……姉にテンプレ、もれなく血を見ると。
ぶっぶー! そんな全員、ぶちのめせって、わたしが無理ゲーです!
死屍累々の山の上で勝どきあげてーとか、なんか違うし。
と言うか、傍観者までなんでぶっ飛ばしちゃうの?
見てただけで、巻き添えって理不尽もイイトコ……だと思うんだけどな。
ん、あれか……イジメの傍観者も加害者と変わらんとか、そんな理屈なのかなぁ。
でも、そばで黙って見てただけで、ぶっ飛ばされるとか酷い話だけど……その辺は、お姉ちゃんだしねー。
とにかく……お姉ちゃんのやる事は常に正しい。
……でも、この程度ピンチにもならないって、なんなの、その強者扱いっ!
お姉ちゃんのやる事や言う事も、大抵の事なら許容できるけど、さすがにそれは、意義アリっ!
「はい、お姉ちゃん案は却下です! 出来るだけ、穏便に解決したいです! 人として! って言うか、わたしの弱さを考えてっ! この程度どころか、普通に大ピンチだっての! 認識を正しく、しっかりもってくださいっ! 我が姉よっ!」
過大評価とか死亡フラグだと思うのですよ?
自分の実力は、小さく見積もって、相手は過大評価……そんなんでちょうどいいんじゃないかって気がする。
「穏便に行くようなライン……とっくに突破してると思うんだけどなぁ……。シズル……アンタ、昔から自己評価低いけど、やれば出来る子なのよ? そこら辺はこの私が保証する! 納得行かない?」
「わたしはお姉ちゃんと違って、しがないふつーの女子中学生! 勇者ガチャでもハズレ引くような低レア子なの……お姉ちゃんみたいやSSRやLR級のチートキャラとは違うのよ!」
「はぁ……この話になると長いのよね。どっちにせよ、勇者っても、相手は所詮女子高生だし、武器のレベルも低そうだから、ユウキくんやクマさんがいれば、余裕で勝てるんじゃない? あの二人、コンビ組めば相当、強いはずでしょ」
わたしは、所詮女子中学生……女子高生より確実に格下だと思います。
でも、クマさん……強化月間のおかげで最近では、わたしやまどかさんの攻撃じゃ、後ろから殴りかかるとかでも、全然通じなくなってる。
唯一まともに通じるのは、ユウキくんのチャージショットくらい。
ちなみにチャージショットってのは、ゴリゴリ魔力チャージして、エネルギー充填120%くらいにして、ぶっ放すユウキくんの最大攻撃!
最大出力だと、10mくらいの巨岩が消えて無くなって、50mくらいのクレーターが出来たそうなので、さすがに最大チャージでクマさん撃つのは厳禁。
さすがのクマさんもそんな大砲もらったら、蒸発しちゃうかも……なので、短めチャージ10%とか30%くらいで撃たれると、クマさんもダメージ受ける感じ。
ユウキくんって、毎度そんな調子なんで、手加減しにくいって問題もあるような。
なにせ基本、デッド・オア・アライブ。
ついでにいうと、ユウキくんは戦いになるとかなり、容赦ない。
狙い所は、ほぼほぼヘッドショット。
大物相手だろうが、ヘッドショットバンバン狙っていく。
普段は、ぼんやりしてる癒し系なのに戦いになると、冷徹な戦闘マシーンみたいになる。
けど、そのクールさがいいんだよね……素敵なコです。
二人がいれば、確かに話早いんだけどね。
むしろ、ユウキくんに手加減するように厳命しないといけないと思う。
「あの二人がいれば、確かに話早いんだけどねぇ……。でも、なるべく……出来る限り、痛かったり、血が流れるのは勘弁で……。何より、わたし自身はとってもか弱い……お姉ちゃんみたいに最強じゃないしー」
「シズルは、自分が思ってる以上に、強いと思うんだけどなぁ……自信持っていいんだよ?」
お姉ちゃんの過大評価は、今に始まった事じゃないけど、乗せられるともれなく酷い目に会う。
「妹ちゃんのそのヘタレた感じの平和主義。むしろ、実にいいと思いますよ? ……悪くありませんよ。そう言う雑魚い感じの考え方」
……ホント、ヘタレ平和主義とか言ってくれるな、おい。
悪意がないってのも解るんだけど、雑魚い感じの考え方とか、言い方っ!
なんかもう、喧嘩売られてるとしか思えない。
……コイツ、やっぱ殴りたい。
「ライブラさぁん、もうちょっと言葉選ぼうね? いくら温厚なわたしだって、そんな毒吐かれたら、軽くキレるよ?」
そう言って、睨みつけるとやっぱりひぃいいいいっ! って言って、すごい勢いで離れる。
わたしもヘタレだけど、こいつには敵わないな。
「とにかく、そう言う事なら、早めに迎撃準備しないとだねぇ……忙しくなるわね。そいや、この時間停止状態っていつまで続くの?」
お姉ちゃんがそう言うと、ライブラさん……何やら、懐中時計みたいなのを引っ張り出す。
デザインは、なんか薄汚れたおもちゃチックな代物なんだけど、魔力がヤバイ!
もしかして、それがこの時間停止を実現してるアイテムとか? ほ、欲しいっ!
「えっと……そうですね。もうすぐ、解除されます……あ、そっか、そっか、もうそんな時間だったんだ……。んじゃ、あらかた説明したと思うんで、あとはよろしくです! ご縁があれば、またお会いしましょうね!」
そう言って、慌てたようにシュタッと片手を上げて、唐突に立ち上がるライブラさん。
思いっきり、これにて失礼って感じ……。
なんか、言うだけ言って、後はよろしくとかちょっと無責任すぎやしない?
「ちょっと待てーっ! ミッションとか言って、問答無用で厄介事、押し付けていくなっ!」
とりあえず、お尻のところの犬尻尾をガッツリ掴んでやる。
ゴースト状態っても、触ろうと思えば、触れるのは知ってるんだからねっ!
そこにあると気合を込めると、ガッツリ掴めたっ!
そのモフモフの奥深く……尻尾本体、手応えありっ!
でも、そこに到達して握りしめてグイッとひっぱると、ライブラさん、いきなりビクンビクンして、やたら内股になって、お股を押さえてる……。
「ふにゃああああんっ! そ、その……あれですよ! せ、世界平和の為に……ってのは駄目ですかね? あの……し、尻尾ギュッと掴まないでーっ! 尻尾は弱いのっ! ゾワゾワ、キュンキュンしちゃいます……あっ! ダメですぅっ!」
真っ赤な顔になって、おまけになんだか凄くだらしない顔……アへ顔って言うんだっけ? コレ。
尻尾、掴まれただけで、なんでこんなんなってるの?
尻尾なんてないから、わたしにはそんな尻尾握られた感触なんて、解りようがないんだけど、なんか凄くいかがわしい事してる気になってくるリアクション……。
とりあえず、お股さすったり、腰をクネクネするなと言いたい。
「うるさい、そろそろだまれ……この犬女っ! 大体、アンタ無責任すぎやしない? 状況掻き回しまくって、人を煽るだけ煽って、後はよろしくって……なにそれ?」
背後のお姉ちゃんを振り返って、頷くと任せろと言わんばかりに、お姉ちゃんが腕組みしつつ前に出る。
「うはぁっ! 妹ちゃんもしかして、怒ってます? いやああああっ! お姉ちゃんさん、いじめないでーっ!」
頭を両手で抱えて、ガード体勢……。
自分の身に危機が迫ってると解ったら、真っ先にこうなるあたり、なかなか筋金入りのヘタレ具合。
「と言うか、わたし……普通に無力なんで、無茶振りすんなら、なんかチートくらい寄越したり、助け船くらい出そうよ……」
お姉ちゃんと言う、チートはあるんだけどさー。
勇者とプチ魔王が群雄割拠してるような、こんなカオスな状況をなんとかしろとか、ラノベ主人公クラスの理不尽チートの一つもないとキツイ。
実際問題、ジャングルから脱出するのだって、もうひたすら歩くしか無いとか……せめて、移動手段とかなんとかならないかなぁ……とか思うわけですよ。
この世界……お姉ちゃんくらいのチートがあって、ちょうどいいくらいの勢いだと思う。
「チ、チートを授ける……ですか! あの……そんな事、出来れば、もうやってるって思いませんか?」
……ごもっとも!
「確かにそうだね……。ライブラさんにそんな誰かにチートを与える能力とかあったら、この世界……もっと酷いことになってそうだ」
「……身も蓋もない言い草ですが……。そこら辺は否定出来ないですね……我ながら……。神狩りの魔王様も下手に干渉力を与えるとロクな事にならないって言ってました。超魔王……魔王システムの管理者にしたって、あれはあくまでただの管理システムですからね……」
否定できないとか……ポンコツなんですって認めてるようなもん。
やっぱり、コイツ……ダメな子だ。
「なら、せめてご褒美は? 無茶をやらされる以上、なんか相応のメリットとか無いと、やってらんないって思わない?」
本来、そんなもんだと思う。
無償でいきなり呼びつけられて、世界を救えとか、どんなRPG主人公って感じ。
「世界を救え勇者よっ!」とか言われて、ハイ解りましたと引き受けるとか、どんだけ従順なんだよ。
少なくとも異世界人なんて、元々この世界に縁もゆかりもないんだから、そんな事いきなり言われても、普通に困ると思う。
まぁ、それだけに信用ならないってのが、この世界の人達の思いなんだろうけどね。
「そ、そうですよね……。なら、これは今のうちに言っとくべきだと思うんですけど。まずお姉ちゃんさんの身体は、超魔王さんの計らいで無事だったりするんで……。全ての問題を解決してくれたら、お姉ちゃんさんの魂を身体に戻して、復活の上で現実世界へ帰還……これが、シズルちゃんへのご褒美ってのはどうでしょ?」
「……やる」
……もう即答だった。




