第十一話「混沌の魔王ライブラ」②
「そうなんですよね……。誰も悪くないのに、色々な思惑が重なって、何の意味もない戦いが始まるって感じなんですよね。なので……まずは、この無意味な戦争を止めるってのは、どうですか? これが最初のミッションって感じで……争いを止めるとか、なんかヒロイックファンタジーの定番って感じで、燃えるシチェーションですよね?」
諸悪の根源が、無益な戦争を食い止めろとか、どの面下げて……って感じ。
おまけに、この中途半端な仕切り屋感……なんか、とってもウザい。
と言うか、そんな戦争の景品とか、どっちに転んでも嫌過ぎる……。
この状況……どうしたもんか。
この拠点、それなりに住心地は良くなったけど……もうやむを得ない。
この広大な森を逃げると言っても、現状遭難の可能性はあるけれど、ここはもう、拠点を捨てて全力で逃亡すべきだとわたしは、思う。
今、こっちを狙ってるのは、王国と獣王国。
待遇良さそうなのは、勇者とあまり縁が無さそうな獣王国だけど、脳筋って時点で、なんかノリに付いていけそうもない。
積極的に、どっちにも与さない……かな?
なにせ、どっちの軍勢も真意が見えない……何考えてんだか、全然解んない。
獣王国軍側は、わたし達の救援と称してるし、王国のJK勇者三人組も同じようなことを吹き込まれてる可能性大。
王国側もあんな事があったんだから、JK三人組もまっとうな方法で動かされてるとは思えない。
洗脳とか、逆らったら死ぬようなアイテム装備させられて脅されてるとか。
多分、穏便に済ませるとか無理だと思う。
向こうも退けないし、こっちも譲れない……実力行使で決着を……もう、そうなるのは必然。
出来れば、ここは、お互い関わり持たずに済ませた方が、幸せだと思う。
なんせ、わたしは危険人物として、マークされてる。
定まりし運命を捻じ曲げる存在……とか言われたし……。
ああ、もう四方八方敵だらけじゃないの……。
何より、解らないことも多すぎる……こう言う場合は、敵とか味方とか区別するとか、めんどうだから、全部敵って考えたほうがいいって、お姉ちゃんも言ってた……。
なんせ、現状……王国側の思惑とかわたし達には、関係ない。
それと言った目的もないんだけど……この世界への思い入れも人との関わりもないんだから、しょうがない。
「と言うか、なんで、わたしらの預かり知らない所で、勝手に争奪戦みたいになってんのよ……もう、訳解んないじゃない……。確かにお前は危険だとか色々言われたけどさー」
まぁ、実際……わたしの事が、骸骨司教の信じる神様の予言にあったとかなんとか。
むしろ、どんな風に予言されてるのか、興味あるんだけど……。
でも、お姉ちゃんの存在も知られてる可能性もあるんだよねー。
影が見えるとか言ってたし……。
あの様子だと、もう血眼になって探してるだろうし、出会ったら最後、問答無用で襲いかかってくるっぽい。
要するに、危険人物扱いされてたのが、所在不明になって向こうも困ってた所に、要らん事した馬鹿が居て、要らないところへ情報がリークされた。
その結果がこれ……。
JK勇者ズがどんな思惑で送り込まれたのか知らないけど、世界の敵だとか吹き込まれてる可能性だってある。
その辺は、直接会って話を聞かないと解らないんだけど……。
まぁ、穏便に済むと思えるほど、わたしは楽観的じゃない。
まさに、善意で塗り固められた地獄へ続く道の入口が、目の前で口を広げてる……そんな状況だった。
「やれやれ……。私達の時も勇者の力を自分達の都合よく利用しようって輩が、次から次へと出てきて参ったもんだけど……何も変わってないんだなぁ……」
「お姉ちゃんたちは、どうやってそいつらをあしらったの? 個人レベルの相手ならともかく、国レベルの相手とかいちいち相手してたら、キリがないでしょ? それに人質取られたり、街の人脅したりとか、手段選ばないようなケースだってあったんじゃないの?」
人質作戦は間違いなく有効。
残念ながら、わたし達みたいな現代人のメンタリティでは、人質作戦を取られたら、対応はかなり厳しい。
逆らったら、全然関係ない村を一個丸ごと滅ぼすとか言われたら、理不尽だと解っててもやっぱり、従っちゃうと思う。
「まぁ、そう言うのは、あったけどね。そこら辺はアレよ……実力行使で解決? 閉じ込めたり、無力化しようとしたり、色々やられたし、万単位の軍勢使われたり、何気なく立ち寄った街が突然丸ごと全部敵に回る……なんてのもあったよ」
「万単位の軍勢とか、街まるごと敵って……そんなの、どうすんのよ?」
驚きの事実……世界を救う勇者を都合よく使う為とはいえ、そこまで無茶やられたのか……。
なんと言うか、ひどい世界だった。
「どうしたもこうしたも……万難を実力で排除? 武器の封印術式だのは、力技で粉砕。万単位の軍勢も街一個が相手だろうと、いくら数揃えたって、勇者の力に及ぶ訳がない……ドッカンドッカン、片っ端から粉砕? 人質作戦なんかは基本無視……非道かも知れないけど、人質取っても効果ない……むしろ、そう言う真似をしたら、容赦なく一兵残らず、国単位で殲滅されるって、恐れられるようになったら、誰もやらなくなったね」
これは酷い……あらゆる問題を力技で解決。
お姉ちゃん、無茶苦茶だった。
「……要するに、勇者に手出ししても、無駄だって、思う存分教訓を得てもらった……そう言うことか」
なるほど、姉の提案がいちいち暴力的なのも納得。
力こそ正義な世界で、正義で居るためのシンプルな方法。
敵を確実に粉砕する圧倒的な暴力を遂行する。
逆を言うと、要するにわたし達の代は、完全に舐められてるって訳だ。
手出しする気もなくなるくらいの力を示すこと……それが出来れば、問題もない。
まさに、力こそ正義っ!
「そうね……。やっぱ、そう言う事なんじゃないかな。向こうは、私らの代で成長した勇者が手に負えない存在になるって、思い知ってるからね」
「ああ、そんな事も言ってたね。だからこそ、力を付けてないうちに囲い込みたかった。まぁ、それも台無しになったんだけど……早いうちに対応すれば、まだ間に合うってんで、ムキになってる……そう言う事?」
「まぁね……。レベル100くらいになれば、並大抵のヤツは相手にならなくなるけど。今のシズルたちじゃ、精神的にも実力的にも厳しいと思う。だからこそ、なんだかんだ理由付けて、潜伏して、強化しまくり生活送るってシズルの選択、悪くないって思ったんだけどね……。ホント、ライブラって悪意がないだけに、タチが悪い……注意してても、こんな斜め上のバカのおせっかいで台無しとか、やってらんないわ」
「え? 私がわるいんですかっ!」
それまで、わたしとお姉ちゃんの話を黙って聞いてたライブラが唐突に素っ頓狂な声をあげる。
「自覚ないってとこが余計ムカつくんだけどさ……。なんで、要らないコトしたかなぁ……わたしら、人知れずパワーアップすべく、敢えて、ここから無理に出ないって選択にしてたんだけど」
実は、この辺はお姉ちゃんやクマさん達とも話し合って、決めた事。
武器のレベルアップ自体は、別に強いモンスターとか相手にしなくても、日々の反復練習や仲間内のド付き合いでも出来る。
当面の生活は、わたしの錬成術や森の資源がある以上、なんとでもなるから、最初にやりすぎなくらいパワーアップしてから、余裕を持って森から脱出。
そんな感じで行くつもりだったんだけどねー。
「……ええっ! 皆さん、遭難してたんじゃないんですか!」
「逆に聞くけど、シズル達がそんな困ってるように見えたの? シズルのランタンのレベルが30とか行ってたのは驚いたけど。この子、こう言う反復作業大好きだから、この調子なら半年もしないで、かつての私と同レベル……レベル100超えとかなってたかも。はっきり言って、このまんま放置しとけば、クマさんとかも順当にパワーアップしてたはずよ……。0時前のクマさんフルボッコタイムだっけ? あんな酷いレベルアップ方法……やる方もやる方だよね」
クマさんフルボッコタイム。
ユウキくん、クマさんをガンガン撃って、どっちの武器のレベルアップ!
クマさんがぼろぼろになったら、今度はまどかさんのスーパー回復しまくりタイム。
以上、ワンセット……変身残り回数一回まで、ループと言う酷いレベルアップタイム。
わたしは、生活必需品とか素材の精製やら、生産しまくって、ランタン回復を繰り返すのが日常。
変身回数とMP余ってたら、レンガ作りでひたすら経験値稼ぎ。
それがもう日課のルーチンワーク状態。
こんな酷いレベルアップ方法で、わたし達の勇者の武器は全員レベル30超え。
お姉ちゃんの代でもこんなやり方は、知ってたけどやってはいなかったらしいんだけど……。
人知れず強くなるためにって言って、クマさんには犠牲になってもらった。
本人も最強の守りの力が得られるならって、快諾してくれたんだけど。
毎回、気の毒なくらいボッロボロにされてる……。
「まぁ……確かにあれは、人前ではあんまりやりたくないね。どんなイジメって感じだし。笑って受け入れてくれたクマさんが凄いよね……」
「……あれって、そうだったんですか。いつまで経っても実績を出せないクマさんを皆で、寄ってたかってお仕置きしてるのかと……。私、皆……遭難生活で精神病んでるのかとか、思ってました……それで……」
傍から見たら、確かにそんな感じ。
勇者の大盾を鍛えるには、ただひたすら攻撃を受けることあるのみ。
クマさんは守りの要だから、クマさんが強くなれば、強敵が来ても最悪時間は稼げる。
だからこそ、最優先で鍛えるため……こんなクレイジーなやり方を考案したんだけど。
ユウキ君もやたらとパンチ力あるから、クマさんも毎回あっという間に満身創痍になる……。
勇者最高の防御力を誇る大盾の勇者のHPをあっという間に危険ラインまで追い込むとか、ユウキくんも相当やばい。
いずれにせよ、ライブラも善意だったのは、間違いない……。
でもねー。
ぶっちゃけこっちの話、聞いてくれた上で、色々助け舟のやり方ってもんを考えて欲しかった……。
どう考えても話持っていく順番がおかしい。
けどまぁ、善意だったのは確かだから、少しはフォローしてやってもいいか……。
「とにかく、ライブラちゃんを責めちゃダメだよ……お姉ちゃん。悪気はなかったんだからさ……。でも、それで許されるとか、思わないほうが良いけどね! こう言うの、独善って言うんだよね……」
熟考の末、上げて落としてやった。
わたしのフォローの言葉にぱぁっと笑顔になったんだけど、続く容赦ないわたしの言葉とゴミを見るような視線に、ライブラさんはズーンと落ち込んで涙目状態。
「ど、独善……わ、悪気はなかったんです……信じてくださぁい……」
いや、実際ダメダメだし……何やってくれてんのって気持ちは、晴れそうになかった。




