第十一話「混沌の魔王ライブラ」①
「い、妹ちゃんはいいの? そんな無茶苦茶で……」
「なにか問題があるの? まぁ、色々事前に教えてくれた事は感謝かな……いきなりだったら、詰んでた。んで、王国側の追手は、少数精鋭みたいなのが、空から早めにやってきそうなのね? そこら辺、詳しく説明してくれる?」
うん、戦いとか苦手ってのは変わんないから、我ながら掌返しな話じゃああるんだけどね。
けど、お姉ちゃんが戦えって言うんだから、もう仕方がないし、喧嘩売られるのもそんな理不尽な話じゃないって、納得は出来た。
別に、無抵抗の相手を虐殺とかする訳じゃないし、ぶん殴らないと話し合いも出来ない……なんて手合を相手にするんだから、こっちも相手の流儀に合わせるだけ。
「えー、妹ちゃん……もっと優しい子だと思ったのに……超引くんだけどー」
微妙に、イラッとするね。
このライブラって、誰だろうがこんなバカっぽい感じなんだろな。
そりゃ、クソ魔王呼ばわりもされるわな。
「わたしにとって、お姉ちゃんの言葉は絶対なのですよ……神の言葉とお姉ちゃんの言葉でも、お姉ちゃんの言葉信じるくらい? とりあえず、君のせいでわたしらは、軍勢単位で包囲されるとかピンチなんだから、せめて情報提供くらいしてくんない? それと、情報提供の際に、いらない願望とか希望的観測は混ぜ込まない……これの理由の説明も居るなら、穴掘って埋まりたくなるくらい、ボロカスに言うけど?」
情報はもらう、ただし言うことは聞かない。
判断するのも実施するのもこっちなんだから、文句は言わせない。
ヒィイイイと情けない悲鳴をあげて、壁際まで逃げるのでこっちも追っかけて、壁ドンの体勢で追い詰める。
なんだ、この精神的優位感……これが壁ドンする側なんだ。
「解ったら、返事……あんまり、反抗的だとお姉ちゃんにやらすよ? こんなもんじゃ済まないだろうけど……」
まぁ、お姉ちゃんが徹底的にこのライブラの心をヘシ折る光景ってのも見てみたい気もする。
……そんなお姉ちゃんもきっと素敵なんだろうな。
胸がトキメクッ!
「あうあう……えっとですね……。王国軍は100にも満たない小勢みたいなんですけど。森林戦特化の特務部隊が出撃してるみたいだし、どうも妹ちゃんのお仲間の勇者さん達が組み込まれてるような感じなんですよね……」
なにそれ? でも全員逃げ切れた訳がないからねぇ……。
近くに転移させられて、追手にあっさり捕まったり、長いものには巻かれろ……みたいな感じで、自主的に協力してるのもいるだろうし……。
そこら辺は、さすがに責められない。
勇者と少数精鋭の特殊部隊の組み合わせ……となると、王国軍、あなどれないなぁ……魔王国との最前線の国って話だけど。
魔王の脅威がなくなったら、それなりの強国とかになりかねない……。
獣王国も勇者ゲットのチャンスってことで、目の色変えてるってのも頷けるわ。
「そんなのが追手なんだ。けど、勇者が組み込まれてる部隊となると、厄介そうだね……どんなのだった?」
脅威としては、むしろその勇者って気もする。
軍勢については、100人程度なら余り問題にならないような気もする。
なんだかんだで、この拠点……周囲はトラップ地獄だし、投石機とかも大量にあって、わたしの意志で自在にレンガの雨を降らせられる。
まともに攻め込んできても、普通の兵隊程度なら、死屍累々ってなるのが関の山だと思う。
「えっと……セーラー服って言うんですよね? そんなの着た女の子三人組がいたから、そうなんじゃないかと……。強い弱いってのなら、強いんじゃないですか? 勇者なんですから」
なんと言うか、情報提供してくれるのは良いけど、雑っ!
セーラー服着てたから、勇者って……なんだそれ。
でもまぁ、勇者に勝てるのは、魔王の使徒か勇者だから、この状況からすると、女子高生勇者相手って見ていいだろうね。
なんか、むしろ向こうが主人公っぽいな……。
「いや、だから……セーラ服とかどうでもいいんだけど。武器の種類は? 勇者なら装備で、大体戦力も解るんだけど……」
「はぁ……そんなもんなんですか? 槍と弓矢、後もうひとりは手ぶらっぽく見えましたけど……」
槍の勇者と弓矢……。
遠距離と中距離の攻撃型勇者……コンビ組まれたら、厄介そう。
もう一人は……軽装?
メイスとか杖なら、目立つから水晶とか短剣みたいな小型の武器の支援系かな?
ランタンのメリット、実はこれ……小さいし目立たないから、しれっと一般人に紛れ込める。
まぁ、武器として役には立たないけど。
……とは言え、支援系の勇者侮るほど、わたしもバカじゃない。
なんだろな? 天秤、ランタン、短剣、水晶、小盾……。
懐に収まっちゃうほどのコンパクトタイプってなると、こんなもん。
ライブラさんがもうちょっと注意深かったら、付け回してもらって、特定できるんだけど。
武器で戦力が解るってことすらも理解してない相手にそんな贅沢望めないだろう。
むしろ、武器見てて覚えてたってだけでも、大殊勲。
「お姉ちゃん、相手の戦力評価としては、どんなもんかな。一ヶ月の期間、槍と弓、推定支援系も交えて三人で、実戦込みで活動してきたって考えた場合。わたし達と比較して、どれくらい強いか……お姉ちゃんなりの推論を聞かせて」
「槍と弓矢のコンビってなると、どっちもスピードファイター系。まともに互角の条件で戦ったら、ソロじゃキツいね……支援系もいるってなると、弓矢が支援の護衛と前衛支援って感じで、要になるのは間違いないからね。弓矢をどうやって落とすかがキモになると思う。でも、ぶっちゃけクマさんとユウキ君がいれば、多分余裕であしらえると思う。大盾の勇者って物理職にとっては、厄介過ぎる相手だからね。単独ならともかく弩とのコンビとなると負ける要素はほとんどないと思っていいよ」
なるほど、さすがお姉ちゃん。
個々の戦闘力とか考えるよりも、ユニットとしての戦力を判断。
確かに、その編成だと弓矢がキモになる。
弓矢は、弩ほど命中率も高くないし、火力も低い……その分、身軽だから派手に動きながら、戦える。
槍とか完全なスピードファイターだから、コンビ組まれると厄介そうだった。
でもまぁ、クマさんとユウキくんのコンビなら余裕ってのは、納得。
あの二人、その程度には強い……と言うか、シンプルに相性がいいんだよね。
クマさんが前衛を拘束してる間に、ユウキ君が後方からの強撃で確実に敵の戦力を削っていく。
相手側の対抗策としても、弩の長射程に対抗ってなると、同系統の弓矢くらいしかないんだけど、ユウキくんは超集中の持ち主で、1kmくらい離れてても当ててくるようなチートスナイパー。
どっちにせよ、二人が戻ってきたら、こっちのもん。
こりゃ、なんとか時間稼いでって展開かなぁ……。
「なるほど……。となると、やっぱりクマさん達が戻ってくるまで粘るってそんな感じかな。わたしとまどかさんの二人じゃ、三人相手は厳しいよね……」
「まどかさんもメイスの勇者にしては、十分強いと思うし、シズルもランタン……非戦闘系の割には、いい線いってると思うんだけどね。本職の戦闘系勇者相手となるとさすがに厳しいかな」
お姉ちゃんに言わせると、わたしはそんな悲観するほど、弱くはないらしい。
実際、ゴブリン程度相手なら、余裕で勝てるし、まどかさんと組み手……模擬戦やった感じだと、有段者のまどかさんから見ても、いい動きしてるとか言われてる。
と言うか、昔から先読みの鬼だったお姉ちゃん相手にしてたから、大抵の相手の動きは読める。
後の先を制するってヤツ? 多分、そこはわたしの強み。
けど、実戦で戦闘系勇者相手に、互角以上に戦えるかと言えば微妙。
ユウキくん辺り相手だと、もう居場所も解らず一方的にやられるし……。
「けど、勇者まで出て来てるとなると、獣王国軍と王国軍の戦争は、もう待ったなしだね……。わたし達って、そんな事やってる場合じゃないって、思うんだけど……」
ここらは、中立地域っぽいけど、そこに勇者なんて大戦力送り込まれて、おまけにわたしらなんてのまで、居座ってる。
獣王国としては、わたし達がそこにいると解った以上、介入するには十分過ぎるって、解るんだけどね。
けれど、王国も獣王国の動きから、わたし達の所在を察して、動いてしまった。
ホント、ライブラ……諸悪の根源。
コイツ、どうしてやろうか。




