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第十話「勇者&魔王システムはお手軽簡単」②

「……もしかして、その辺って……全部、私のせいだったりする?」


 お姉ちゃんがさすがに居心地が悪そうな感じで、つぶやく。


「敢えて、断言しますけど、そう言うことなんですよ……。なんで、勇者の立場で神性存在に比肩する「魔王を統べるもの」にまで喧嘩売って、封印までしたんだか。あなた、私が言うのもなんですが、デタラメです!」


「それしかなかったんだ……。あの無限復活なんてチート持ちとの、終わりなき戦いを終わらせるためにはね……」


 遠い目でなんかカッコいい台詞を呟く姉。

 

 無限復活ってどんだけなんだか……あれか? 残機無限湧きとかそんなんか。

 そりゃ、勝てるわけがない。


 でも、素朴な疑問……撤退の二文字はなかったのだろうか?


「……ライブラちゃん、いいこと教えてあげるよ。もうお姉ちゃんだから、仕方ない。これで納得しろ……以上」


 姉だから仕方ない……。


 昔から、姉のやらかした事を受け入れる時のキーワード。

 

 こう言えば、何となく諦めが付く。


 何故なら、姉は常に正しいから。

 

 ……でも、魔王と戦ってとか言ってたけど、倒せなかったのも当たり前。

 本来、裏ボス的な存在とか、表に出てこないのを、引っ張り出して……封印までしちゃった。


 これが事の真相……。 

 何してくれてんの、この姉?

 

「……この際なんで、ネタバレしますけど、あの表向きの魔王を倒した時点で、魔王軍はすでに壊滅状態……ユズルさんの勇者としてのお役目はおしまい。現実世界へ強制送還って流れだったのに……お姉さん、ホント何やらかしてくれたんだか」

 

 衝撃の事実! 実はお姉ちゃん……ホントだったら、普通に帰ってきてたはずだった……。

 なんで、クリア状態でいつでもエンディング突入状態だったのに、裏ボス戦までやろうと思ったのさ!


「お、お姉ちゃん……? それってホント?」


「だって、魔王軍のボスとか、一騎打ちに持ち込んだらあっさり勝てちゃったんだもん! ラスボスのくせに雑魚すぎっ! こりゃ、絶対隠しステージか、裏ボスいるねってんで、魔王城を上から下まで探し回って、次元門ってのを見つけて、潜った先の宇宙みたいなとこで、ようやっと黒幕っぽいの発見したんだけどねー。そっか、アイツ……そんなんだったんだ。そりゃ、勝てない訳だよ……。向こうも散々、もう止めない? とか言ってたけど、そう言うことか……ゲームマスターに喧嘩売ってたんだね……私」


 ラスボスが弱すぎたから、色々いらない深読みして、本来戦わなくていい、真のラスボス、ゲームマスター様に喧嘩売ったと。


 ……これは酷い。

 裏ボスさんは、泣いていいし、お姉ちゃん、ゲーマーの人達、全然笑えないよっ!


「ユズルさんが倒したのは、自称魔王の頂点……でしたけどね。けど、まさかのワンパンKOとか、意味わかりません! シズルさん一人で、魔王軍壊滅って……」


「いや、そこまで弱くなかったよ。結局、一緒に戦った仲間達も誰ひとり助けられなかったし……。でも……なんか、急にイージーモードになったって、そんな感じだったんだよね。そりゃ、何かあるとか、これは罠だって、勘ぐるくらいするでしょ」


 なるほど……それまで生きるか死ぬかのデスゲーム状態だったのに、急激に難易度低下。


 自分が規格外のパワーアップしたって可能性もあるけど、むしろ、罠の可能性もあるって、お姉ちゃんなら考える。


 例えば、円満解決無事帰還と見せかけて、現実世界側でドエライ厄災が発生とか。

 多分、お姉ちゃんは……現実世界側に何か影響や厄災が及ぶのをなんとしても防ぎたかったんだろう。


 だからこそ、その可能性をもつ超魔王だかを捨て身で封印した……。


 この姉らしい話だった……。


「えっとですね。あの時の仲間全滅覚醒イベントでユズルさん、完全に振り切っちゃったんですよ……。なので、超魔王さんは急遽イージーモードにして、クリアさせて、とっととお帰りいただくって事にしたみたいなんですよ」


「はぁ? なにそれ……バカにしてる? あんな突発ヌルゲー化して、もう帰っていいよって言われたって、信じる訳ないでしょ……」


 まぁ、そうなるだろうね。

 超魔王様とやらは、間違いなく対応を間違えた。


 変に手心なんて加えずに、容赦なくベリーハードなりルナティックモードで、続行してればよかったんだよ。

 要らないコトしたから、姉に目を付けられた。


 雉も鳴かずば撃たれまいってヤツだね。


「だからって、次元の狭間まで「魔王を統べるもの」を探しに来なくたっていいじゃないですか! しかも、勝てそうもないからって、捨て身の自爆特攻封印術とかありえないっ! おかげであの方もしばらく、強制退場……。それだけに飽き足らず、自分は、幽体化して次元の狭間から脱出して、異世界転移も平然とやらかすって貴女……一体、なんなんですか? 私もこの世界を長く観測してますけど、こんなの前代未聞です!」


 多分、超存在っぽいライブラさんが泣き入れてるとか。

 ほんと、お姉ちゃん……しばらく見ない間に、何があってこうなったんだか。


 もうね……さすが、お姉ちゃんっ!


「……ああ、その……あれよっ! 妹をこよなく愛する姉だから……ってのじゃ駄目かな? そもそも、なんなんだよ……アイツ。あんなとんでもないの生かしてたら、現実世界にだって、そのうち何かしらの干渉してきたって不思議じゃない……だから、私はあれを封じることにしたんだ……命を捨ててね」


 ……やっぱり、そんなだった。

 お姉ちゃん……少しは我が身を省みてほしかったよ……。


「は、はぁ……。き、気持ちは解りますけどね。そんな他次元への干渉なんてやったら、私達の創造者……神狩りに消されるだけですよ。だから、その心配は杞憂だったんです……」


「そんな事情……こっちが知る訳ないでしょ。お前みたいな取るに足らない雑魚なら、見逃してただろうけど、あれは別格だ……だからこそ、封印したんだ。だったら、始めからちゃんと説明位すればよかったんだ。それこそライブラ……お前が知らせてくれても良かったんじゃないか?」


「む、無理ですよ……あの時のユズル様、どれだけ自分が無茶苦茶なそんざいになってたお解りで? と言うか、魂だけで異世界転移ってそんな真似やってのけた時点でもうデタラメなんですけど……どうやったのです?」


「そ、そうだね……夢中だったから、良く覚えてないけど。最期の瞬間にシズルがこっちに召喚されるって未来が見えたんだ。それを見て、このまま死ねない……シズルを助けなきゃ、シズルに会いたいって思ってたら、現実世界のシズルのとこにいたって、そんな感じ……つまり、妹愛は時空を超えたっって訳さっ!」


 ……改めて聞くと、デタラメもいいところだった。

 さすが、お姉ちゃん!


 でも、私のために……か。

 うん……まさに愛の奇跡?


 さすが、お姉ちゃんだよ……なんか泣きそうになってきた。


「えええっ、そんな理由でとか……ひ、酷いチートを見たっ! って感じなんですけど! とにかくですね……あなた方、姉妹には、この世界をグッダグダにした責任取って欲しいんですよっ!」


 ビシッと両手を使って、クロスしながら二人同時に指さされる……スタイリッシュ指差し?


 って、わたしもかよっ!


「……待って、それだとわたし、全然悪くないんじゃ? わたし、巻き添えって感じ?」


「はい、確かにそうですね……。主に、そのお姉さんが色々とはっちゃけすぎたせいです。でも、その幽体の状態だと、物理的な干渉も出来ない。言わば、一方通行的な存在な訳ですよ。なので、お姉さんに責任とってなんとかしろっても、無理な相談だし、そんな事言ったら、罪もない人に憑依とかされて、チート勇者爆誕! そんな迷惑勘弁してー! なんてことにもなりかねない……これは、解りますね?」


 もう言ってることが支離滅裂……でも、解る。

 気持ちは、解るし、この姉ならそれくらいの無茶、やりかねない……。

 

 なにより、この姉の責任は結構重い。


 普通に大団円で終わってたはずだったのに、要らないことして、自分は死んで、魔王システム大暴走で、こっちの世界の人達に大迷惑!

 

 対抗手段で勇者システム無理やり起動で、47人の罪もない人が命を落として、同じ数の日本の普通の人達が勇者として召喚……。

 

 もうめっちゃくちゃ……何してんだよ……と言いたい。

 わたしが召喚された原因もお姉ちゃんが原因なんじゃ……どんなマッチポンプなんだか。


 うーん、うーん。

 そこまで理解してても、やっぱりこの一言が口をついて出そうになる。


 それでも、お姉ちゃんは正しいっ!

 

 でも……文句は言いたい。

 人がどんな思いで、三年間も延々帰りを待ち続けてたと、思ってんだ。


 散々流した悲しみの涙を返せっ!

 

 ただ、今の姉に責任能力は皆無……妹のわたしが泥をかぶる。

 もう、こっちに召喚されちゃったからには、そこら辺……ケジメは付けたい。


 うん、わたしなりの結論は出たかな……?


「して、返答は如何にっ!」


 ライブラさんがズズイッと迫る……なんか近い。


「な、納得は出来たよ……。でも、わたし……何も出来ないですよ? あんま強くもないし……それこそ、そう言うのは他の勇者にでも任せたほうが……」


 支援特化のクソ雑魚勇者。

 他力本願、一人じゃ、何も出来ない……そこら辺は、強く自覚してる。


 そんなのにどうしろってのよ……まったく。


「こんな物騒な、強くてニューゲーム状態のチートゴースト連れた支援職って時点で、相当やばい存在なんですよ? たった一ヶ月で、どれだけランタン使いこなしてるんですか? レベル30って、他の勇者達はやっとレベル10超えたーとかやってる人が、ほとんどなんですよ? こんな異世界ジャングルで孤立状態だったのに、自給自足で、あっという間に、拠点建設して快適ライフを堪能中! おまけに、超スピードレベルアップとか、どんなチートってやつですよ! この調子で、魔王城みたいなのをぶっ建てて、勇者達を招集して……異世界平定とかやるつもりなんですよね?」


 うん……この調子で日々レンガを量産して、この建物も徐々に大きくしていって、仲間も増えてー、生産レシピもてんこ盛り……そのうち、空とか海も制して……とか。


 色々、考えてた時期もありました……。

 

 やがて一国一城の主となって、軍勢揃えて、異世界群雄割拠を制する……それも一つの手かもしれない。

 ……斬新だけど。


 と言うか、他の人達はまだそんなだったんだ。

 もしかして、魔物と戦わないといけないとか、勘違いしてたりする?


「……わたし、勇者ランタンの経験値稼ぎしてただけだしー。そもそも、非戦闘員の生産系NPCみたいなもんだしー。そんなんで世界を救えとか無理でーす!」


 この犬耳ゴーストに対抗して、わたしも腕をバッテンにして、全身で拒絶アピール!


「べ、別に世界を救えってとか、そんな大それた事。お願いしてる訳じゃないですよ? このややこしくなりすぎた状況を、少しは大人しくしてくれたらなーって感じで……。ああ、そうそう! この砦みたいなのが突然出現したせいで、南のラギニアス獣王国は、すでにこの森に派兵……あと3日くらいでここに3000くらいの軍勢が来ます。もっとも、王国軍もすでに追手として、王国子飼の勇者と辺境警備隊の軍勢をこの森に出してるんで、このままだと軍勢同士の激突になります……。これが現実なので、そこらへん、ご理解くださいね」


「……マジですか? なんでそんな事に……」


「ラギニアス獣王国には、この私があなた達の事を教えてあげたんですよ。……放置しておくと、間違いなく獣王国にとって、良くない未来が待っていると」


 ちょっ! なにしてんのっ! こいつっ!

 ゆるふわ風ポンコツのくせに、いきなりやらかしてくれてた!


「……なんで、そんな要らないことするかなぁ……」


「だってだって! 遭難してるみたいだったから、助け船出してあげようと思ったんだもんっ! そしたら、獣王の奴が軍勢山盛り出動とかやっちゃうんだもん……所詮はけだものだものっ! しかも、まずは一戦交えて、捕虜にしてーとか、物騒なこと言い出したしで、こりゃマズいってんで、こっちに忠告しに来たのー!」


 ああ、うん。

 解った……このライブラさんって、善意で地獄への道をせっせと舗装するタイプなんだ。


 しかも、その行動や判断は、割と行き当たりばったり……全然、深く考えてない。

 浅慮って言葉がしっくり来る……かなり、いや……ものすごーく、ぽんこつ臭漂ってる。


 要するに、ダメダメだ。

 こんなのが管理者みたいになってる時点で、この世界は間違いなく不幸せな世界なんだと思う。


「味方につけられたら心強いけど、敵に回したら私ら勇者って、死ぬほど厄介だからね。少人数の救援隊を差し向けるよりも、王国への牽制も込めて、大軍の動員……そんなところなのかもね。ただ大軍を動かされちゃったのは、問題ありねー。軍隊……それも大軍ってのは、一度動かすと融通聞かないから、ここで一騒ぎ起きるのは、もう確実じゃない……。けど、ラギニアスの獣王って言えば、私の舎弟……そんな浅慮なヤツでもなかったはずなんだけどなぁ……。」


 さすが、お姉ちゃんの説明はわかりやすいし、よく解ってる。


 ライブラさん……へぇ、みたいな感心した顔してるんだけど、そんな顔してる時点で、解ってなかったって事がバレバレ。


 むしろ、何もしないほうがマシなんじゃないかな、この子。

 

 実際のところ、この森もこの辺は、これでも割と安全な方なんだけど……。

 ちょっと行くとキマイラとかワイバーンとか、ヤバイのが出てくるって、クマさんたちも言ってた……。

 

 そう言う危険地帯となると、大所帯で……とかも解る。


「なるほど、そう言うことだったんですね……。救援隊のはずが、人数めっちゃ多いし、やたら殺気立ってたから、おかしいと思ってたんですけど……納得です」


「そういうことだったんですねーじゃないよ。そんな大軍が動いてるとなると、手荒な手段で拘束とかされかねないし、現場の兵隊とか、何しでかすか解んないじゃない……。と言うか、こっちは少人数なんだし、普通に救援に駆けつけてくれるなら、空飛ぶドラゴンとかそんなんで助けに来るでいいのに、わざわざ徒歩の軍勢を使う……やる気満々って事じゃない」


 獣王様とやらも、魔物退治とか一緒に考えてんじゃないのかな?

 あるいは、面倒くさいから、始末してしまえとか考えた可能性だってある。


 と言うか、お姉ちゃん……そんなの舎弟にしてたんだ。

 確かにそんな話してたよ……。

 

「やる気満々って……も、もしかして……マズいことになる? ですかね……でも、私……。困ってるみたいだから、助けてあげてって、ちゃんとお願いして、向こうも快諾してくれたんですよ?」


「そうね……。多分、獣王様は保護すべきか、殲滅するべきかで迷って、どう転んでもいいようにしたんじゃないかな? アンタの悪名……混沌の魔王ライブラって、この世界の君主とか国王クラスは皆知ってるから、アンタの言葉はまず疑ってかかる……そんな感じなんじゃない? やっぱ、殴っといた方がいいかしら?」


 むしろ、悪名の方が有名……っぽい。

 混沌の魔王って、なんだそれ。


 そんなのが忠告とかして来たら、裏読みしたり、どう転んでもいいように、堅実な方法を選ぶってのも納得。

 

 結論として、やっぱこいつが悪いんじゃないかっ!

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