第九話「ゆるゆる神、降臨?」③
「神様じゃ……ないの? もしかして」
神様的な存在ならって、期待したけど……なんか違うっぽい。
急激にテンションが下がるのが解る……我ながら、現金な話だった。
「ご、ごめんなさい。世間的に思われてる全知全能の存在とは、程遠いかな……。ご覧の通り、実体ってもんがないから、派手な干渉は出来ない立場なの。……本来のこの世界の管理者たる神性存在は、神狩りの魔王様の逆鱗に触れて、消滅させられたってのは、知ってるよね?」
「うん、お姉ちゃんから聞いてるから、その辺は……ね。でも、ずいぶん昔の話で昔話の言い伝えみたいな感じだから、誰も確証は得てないって、聞いてるけど」
「まぁ、実際そうなんですよ……この世界は、神様の居ない世界。だけど、管理者の居ない世界とか、ランダムイベントの目白押しで、遠くないうちに勝手に滅びちゃう……そんなもんなんですよ。なので、その代役として、世界の監視役兼バランサーとして、神狩りの魔王によって、作られた存在……それが私、ライブラ……そう言う事なのですよ!」
「ライブラって……まさか、調停者ライブラ? ホ、ホントに居たんだっ!」
……知ってるのかお姉ちゃんっ!
って言いたくなったけど、ソレ言うと、なんかお姉ちゃんが解説役に格下げされそうな気がするので、敢えて言わない。
けど、思った以上に御大層な存在らしかった。
世界の監視者、バランサー……でも、干渉できないってなると、どうやってその役目を果たすのやら。
「ああ、その調停者って呼び名が私の役目としては、近いかもですね……。とは言っても、こんな風に力ある者達の前に現れて、助言とか忠告をして、ほんの少し道を正すとか、危機回避に頑張ってもらうとか、そんなもんかな。元々戦闘とか想定されてないから、強い弱いって基準からすると、ものすごーく、か弱い存在……。だから、そこのお姉さまは、暴力とか止めてくださいましー」
……御大層じゃなかった。
思いっきり他力本願……と言うか、はた迷惑な煽り屋って可能性もあるよ……コイツ。
「……要するに、他力本願なガガンボみたいなもんかしらね。そりゃ確かに狩る価値もないわね……ちなみに、私はまだ本気を出してない。君が戦闘力8のゴミだとすれば、私の戦闘力は32万ってところかしらね」
ガ、ガガンボ……戦闘力8のゴミ……。
姉の酷い例えに、ライブラさん……とやらは、じんわりと涙ぐむ。
けど、反論したら、姉ペースって解ってるみたいだし、おまけに弱者ってことも解ってるみたいで、反論すらせずに、涙目のままウルウルしながら、こっち見てる。
だから、なんでこっち見るの?
けど、さすがにこの扱い……なんか可哀想になってきたなぁ。
「……ライブラさん。そこまで話したんですから、本題をお願いします。こんな時間を止めて、人払いした上でってなると、わたしに何か大きな話を、持ってきたってことなんですよね?」
「ああ、やっぱり妹ちゃんはとっても話しやすい……。嬉しいなぁ……もうっ! 大好きになりそうっ!」
涙目で笑顔……普通に、可愛い。
なんだか良く解んない存在なんだけど、女子力は無駄に高いらしい……不覚にも今の笑顔、ちょっとキュンと来た。
ぴょーんと、こっち来てキュッと抱きしめられて、わたしもなんだかドキドキする。
一応、同性なんだよね?
と言うか、神様的な存在って割には、威厳も何もない……。
お姉ちゃんじゃないけど、むしろ、真っ先に殺される村娘Aとか、ゴブリンにかっ攫われる犠牲者とか、そんな感じの雑魚キャラ臭が漂ってる……。
「ああ、はいはい。そう言うの良いから、さっさと本題、本題! 姉が大人しく、黙ってるうちにお願いします」
とりあえず、抱きつかれても困るので、グイグイと引き剥がす。
ちらっと見ると、姉はビーチチェアに座ったままで、モノすご~く面白く無さそうな感じで、わたし達を見てる。
確かに、ライブラさん……いきなり抱きつきとか、馴れ馴れしすぎ。
「あーん、妹ちゃんいけずぅ……」
「良いから、本題っ! ……こんな時間停止状態とか、長々と続けらんないでしょ? 普通に考えて……」
「確かにそうなんですけど……本題ですか……。確かにお姉ちゃんのイライラゲージがどんどん増えていってるような……。んっとですねぇ……具体的に言うと、この世界のバランスが、しっちゃかめっちゃかになってるんでー。その元凶たる君達、バランスブレイカーさんに、責任とってもらう形で、対応をお願いをしたい……そんな感じなのですよ!」
んっんー? このワンコ耳ガール……何言ってんのかなー?
責任がどうのって、なんでそうなるの?
「……面白いことを言う……なるほどな。だが、断るッ!」
空気を読まないことに定評あるお姉ちゃんが、ノータイムで一言の元に却下した。
……でも、却下されても話進まないし、もうちょっと話聞きたいんだけどさ。
ライブラさんも、即答一刀両断にされて、涙目になってるんだけど……。
「ふええええん……い、妹ちゃあん……。お姉ちゃん、意地悪すぎませぇん? 私、泣いてしまいますぅっ!」
……泣いたっ! 世界の調停者が泣いてる……。
それも、ガチ泣き……鼻水とかで顔ベチャベチャにして泣いてる。
その顔で、胸に飛び込むとかやろうとしてるので、さすがのわたしもデコを押さえてブローック!
あ、触れるんだ……お姉ちゃんも認識さえ出来れば、霊体だろうが普通に触れるって言ってたんだけど。
その辺も一緒らしい。
もっとも、お姉ちゃんもさすがに泣かせたのは、悪いと思ってるみたいで、明後日の方を見ながら、口笛とか吹いてるし……。
これは、わたしかっ! わたしが、収拾すんのかっ!
「ああもうっ! 泣くなっつーのっ! あと、その顔で飛び込んでくるな! 汚いっ!」
とりあえず、顔拭けって感じでお手製手ぬぐいをほおり投げると、ビターンと顔に張り付く……。
なんで、顔に直撃食らうかな? 投げ渡そうとしたつもりだったのに……
「す、すびばせーん……」
言いながら、鼻かんでるし……。
それ……用途としては、むしろ雑巾みたいな感じで、手についたベタベタを拭ったり、汗拭きとかしまくったヤツなんだけど……。
……黙っとけば解んないよね?
「とりあえず、話進まないから、お姉ちゃんは口出し無用。助言が欲しい時は、聞くから、基本黙ってる! ……これでいい?」
わたしがそう告げると、そうだそうだと、言いたげにライブラさんが拳を突き上げてる。
あ、解ったこの子……すっごいお調子者なんだ。
でも、なんか憎めないんだよね……。
「はいはい、そうさせていただきますよ。でも、変な方向に誘導とかしてるって気づいたら、強制介入するからね……解ったら返事っ!」
「はいっ! ですっ!」
あう、思わず返事しちゃった……悲しいくらいの条件反射。
「あ、はいっ! 解りました! 妹ちゃんはとってもいい子なんで、そんな騙したりとかしませんからっ!」
「お、お姉ちゃん……わたしもさすがに、こんなのに手玉に取られるほど、チョロくないよ?」
「自分でチョロいって自覚ある? シズルはすぐに人に騙される……そう言うところも心配でならないよ。……なんか思ったんだけど。アンタとライブラってどっか似てない? いじられやすいとことか、打たれ弱いところとか……。そこはかとなく漂う弱者思考なんかもそうよね」
……あんまり、否定できないのが悲しい。
弱者思考……そうだね、昔からそんなだよ……わたし。
向こうも、そう思ってたみたいで、こっち見てウィンク……。
やめろ、こっち見んな……何アピールなんだそれ。
「まぁ、要するに、私って……この世界では、実体も無ければ、物理的干渉も出来ないんで、基本的にこの世界を観察して、こんな風に時間を止めて、力ある人の前に現れて、このままじゃヤバイんで、ちょっとお願いしますーとかしか、出来ないんですよ。いやぁ、我ながら使えないですよね?」
何という他力本願……使えそうな人に世界の危機だ、頑張れって煽るだけとか、どうなんだ……それ。
おまけに、自分から、使えないやつだとアピールっ!
もはや、恥も外聞もないって感じ。
神様の代役とか言ってたけど、かなーりショボい存在らしい。
けど、お姉ちゃんの評するように、どこか似た者同士ってのは認める。
なんか、妙なシンパシー感じるのは、事実だった。
「それは解ったからさ。けど、バランスブレイカーって、なんなの? その……ゲームのバグとかチートキャラみたいな感じの言い草って、どうかと思うよ。少なくともわたしは、そこまでインチキしてないでしょ?」
わたしらもこんな辺境のジャングルで、何と戦うんだって感じの砦作って、イマイチ何したいんだか、よく解んない感じなんだけど。
実際、このジャングルから脱出しようにも、情報も準備もなにもないから、拠点作って武器のレベルアップだの準備しつつ、ジャングル脱出大冒険に備えて、食料備蓄に励んでる……そんな感じ。
現時点で、解ってること……ここは、数百キロ単位の広さがある、めちゃくちゃ広くて深い森。
準備もなしに無理に脱出しようとなんてしたら、間違いなく遭難して全滅する。
だから、この一ヶ月……まずは生き抜いて、ジャングルを脱出する準備に努めてたんだよ……。
異世界チートには、程遠いくっそ地味な展開。
こんなんで、いきなりバランスブレイカー認定とかそりゃない。
「そうだねぇ……。どこから説明すべきか……長くなるけどいいかな?」
「うん、長くてもいいから、まともな説明お願い……お姉ちゃんも、いいね?」
「はいはい。まったく、私の時は全然、干渉なんてしてこなかったクセにね……」
「……私だって、怖い人には関わり合いたくないんですーっ! お姉ちゃんさん、とっても凄い人なのは認めますけど、何かとおっかなすぎです! その点、妹ちゃんはソフトだし、なんだかとっても優しい子じゃないですか……」
言いながら、隣にスイーとやってきて、頭を撫でられる。
尻尾が生足をサワサワと撫でていく……思ったとおり、めっちゃ肌触りいい。
「お前、シズルに馴れ馴れしくするなよ……。シズルが可愛いのは認めるけど! シズルは私のものなんだっ!」
……お姉ちゃんがわたしの頭をぎゅっと抱きしめて、ライブラさんをシッシと言った仕草で追っ払う。
「お姉ちゃん……いいから、静かにしてよーねっ! って言うか、いいから、話を始めてよねー!」
「あ、はいっ! ただちにーっ!」
とにかく……そんな前置きと共に、ライブラさんのお話が始まった。




