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第九話「ゆるゆる神、降臨?」①

「ふふふ、いい感じで錬金術のレシピも増えていってますしね。それにこの自給自足生活も思ったより、快適じゃありますね。まどかさんのおかげですよ」


 まどかさんに褒められたので、わたしも褒め返す。

 女子同士、最近は一緒にいる時間も多いんで、すっかり仲良しだ。


 いわゆるお花摘みで森に入る時も、お互い見張り役として、付いていってるんで、文字通り四六時中一緒にいるような……こればっかりは、男性陣には頼めないからね!


 なんかもう、こうなってくると仲間と言うよリ、家族って感じ……まどかさん、大好き!


「いやいや、シズルちゃんの錬金術が便利過ぎんのよ。でもまぁ、こんな事してて良いのかなぁって、思うんだけどねぇ……。とは言え、闇雲に動いても遭難するだけだし……もう、ここを拠点にダラダラ暮らすってのでも良いような気がしてきたよ」


 なんとも怠惰な話ではあった……明日から本気出すって言ってんのとあまり違わない気もする。


 でもぶっちゃけ、遭難してるようなものだと言う自覚はあるし、実際そんな気もする。

 わたし的には、この生活にさしたる不満もない。

 

 なにせ、それなりに快適なんだもん……。

 それに、ランタンの勇者って、どうも地面に魔力を張り巡らせることで、土地そのものを自分の領域化するって、能力もあるみたいで、なんと言うか……一箇所にとどまって、引き篭もるのに物凄く向いてる。

 

 ……けど、わたし達はどこへ向かってるんだろ?

 

 とりあえず、このジャングル広すぎる……初っ端からハマったようなもん。

 こんな出だしのRPGとかあったら、クソゲー認定待ったなし!


 ……2階建ての屋上から見ても、地平線の果てまでジャングルが続いてるのが解る……もしかして、この世界ってジャングルしか無いんじゃって気もしてくる。

 

「そうですよねぇ……。とりあえず、クマさん達が会った現地人のケモミミ商人さん達も、準備の上で救援隊を組織して、また来るって言ったし、気長に待つのが一番って気もしますね」


 要するに、救援もこのだだっ広い森の中まで来るとなると、普通に過酷。

 向こうも、森の中に住んでるって言ったら、びっくりして、出直さないと無理……とか言われたらしい。


 なにせ、普通に一ヶ月もかかるような道のりだから、救援に向かうと言っても、相応の物資を持って、相当数の人数と機材がないと厳しいっては、想像に難くない。


「現地人……かぁ。この辺って、普通の人間じゃなくて、蛮族とか亜人って呼ばれてる人達の領域なんだよね? そんな人達に救援頼んじゃって、ホントに、大丈夫なのかしらね……」


「そこら辺は、あんまり情報無いんだけど、立場的には中立らしいから、いきなり徒党を組んで、襲ってくるとかは無いと思いますよ。けど、どうせなら人里とか行って、ちゃんとした所で寝泊まりしたいもんですね。お風呂入れなくても、浄化魔法で何とかなってますけど、女子的には、雨降った時に水浴びーってやるくらいしか出来ないのは辛いです。と言うか、昼間とか、ちょっと出歩くだけで汗、すっごいかきますからね。岩塩見つからなかったから、普通にヤバかったですよね」


「そうね……。クマさん達にも、お塩、最優先で見つけて来てって言った甲斐があったわ。でも、お風呂とか、普通に贅沢だと思うよ。薪とか水、どれだけいるのやら。それにしても、今日はクマさんとユウキ君遅いね。いつもなら夕方前には帰ってくるのに」


「ちょっと今日は、人里があるっぽい、南の方へ遠征するって言ってました。夜になる前に戻ってくるとは思うんですけどね」


「そうなると、晩ご飯は、軽く温めるだけの方がいいかな? 確か、カレーの作りおき……例の四次元バッグにしまってもらってたよね?」


「あれ、結構美味しく出来たからって、ストックにするんじゃなかったんですか? 一昨日頑張って、作ったばかりじゃないですか」


「そうなんだけどね。今日はもうこのまんまダラダラとサボりたい気分なのよ……。シズルちゃーん、一緒にサボろうよぉ!」


 まぁ、気持ちは解る。

 この屋上でビーチチェアでくつろぎタイム……。


 遮熱フィールドのおかげで、気温も低め……そよ風も気持ちいい。 

 高いところだから、敵襲も気にしないでいいし、眺めもよくって、マジで根っこ生えそうになる。

 

「そうですよね……。うん、わたしもサボろっとっ!」


 そんな話をしながら、ジャックフルーツジュースを一口飲む。

 うん、味はミックスフルーツって感じ……やっぱ美味しいっ!

 

 けど、不意にお姉ちゃんがクイクイっと服を引っ張る感触。

 

「シズル……ちょっとまずい。なんだか良く解んないのが来る……」


 お姉ちゃんアラート。

 すっかり緩みかけてたんでけど、気持ちをビシッと引き締める。


「……ゴブリン程度なら、いつもどおり釣り糸トラップでハマってる間に、投石機でレンガの雨振らせれば、それで終わるでしょ? とりあえず、罠は朝のうちに張り直したし、投石機の準備もよし……もう下に降りるまでもなく、オートマチック対応で十分でしょ?」


 ……ゴブリンアタック。

 これがまた大体、一日おきくらいにやってくる。

 

 この一ヶ月で駆除したのは、もはや数百匹とかそんな感じ。

 ……はっきり言って、多すぎ。

 

 こんな訳のわかんないジャングルの奥地にまで、そんな勢いでゴブリンがいるとか、この世界……ヤバイんと違う?

 

 もっとも、毎回毎回、北側から団体で押し寄せてくるのが常なので、釣り糸トラップでハメて、投石機でレンガボコボコ投げ込んで、殲滅と言うパターンで、ハメ殺してる。

 

 なお、投石機でレンガすっ飛ばす作業は、クレイゴーレム君達にお任せ。


 投石機にレンガ乗せて、その反対側に紐でクレイゴーレムくくりつけて、ゴーレム君がばったり倒れると、シーソーの要領で打ち出されたレンガがピューンと飛んで行く。

 

 落ちる場所もアームの長さとか色々調整したので、ばっちりトラップ地帯一帯に落ちるようになってる。

 10機ほど用意して、クレイゴーレムくんも反復動作するようにしてあるので、合図するだけで、フルオートでレンガの雨を降らす……これが対ゴブリン用の仕掛け。

 

 例によっての、釣り糸トラップで足止めした上で、このレンガ爆撃を10分ほど続けるだけで、大抵全滅してる。

 

 オークなんてのたまに来て、ゴブリンより大きいし、ちょっとしぶといんだけど。

 侵攻ルートはゴブリンと一緒だし、釣り糸トラップを見抜けないってのは一緒。

 

 釣り糸も木の樹脂から、錬成できるようになったので、いくらでも作れるって事でもう出し惜しみせず、縦横無尽に張り巡らせてあるので、ちょっとハイパワーなオークでも、為す術無くハマってくれる。

 

 もはや、その手の魔物は、ルーチンワークで片付けてるような感じ。

 

 毎回きっちり全滅させてるせいで、戦訓も何もって状態なのが効いてるらしく、最近はユウキ君なしでも余裕対処出来てる。

 

 むしろ、トラップとか無視して、空から襲ってくる虫モンスターの方が厄介なんだけど、そっちは単独で出て来るケースが多いので、まどかさん任せでも、割となんとかなってる。

 

 まぁ、わたしはあんまり戦ってないんだけどね。

 でっかいカナブンとか、見ただけで泣きそうになった。

 

 まどかさんとかに言わせると、わたしが戦うとか、危なっかしすぎて、論外……なんだそうな。


 まどかさんに、空手の基礎とか、少しは鍛えてもらってるんだけど、元々身体が小さい上に基本的に非力だから、戦いには全然向いてない……だそうな。

 

「今日のは、ゴブリンとかじゃなくて……もっとこう、人間っぽいのだけど……。未来視でも、なんだかぼんやりしてて、ちゃんと見えない。得体の知らない相手としか……つか、マジでなんなのこいつ?」


 ……お姉ちゃんの説明が良く解らない。

 

 未来視モードで未来の光景を見てるみたいなんだけど、説明がいつになく、意味不明。


 なにごと?

 

「まどかさん、ちょっといい?」


 とにかく、まどかさんに警戒を促そう。

 まどかさんも、わたしが突然、敵襲を知らせると、100%襲撃ありって事はもう分かってるんで、スイッチが入ったように真面目な顔になる。


「ん? なぁに……シズルちゃ……」

 

 けど、その返事が不意に途切れる。

 何かとと思う間もなく、わたしは異変に気付く。

 

 まどかさん……起き上がろうとした体勢のまま、固まったように動かなくなってる。

 

 それだけじゃない。

 風の音も木々のざわめきも止んで、異常な静寂が広がってる……。

 

 外を見ても、風に舞う落ち葉や、揺れる木の枝もそのままで、ピタッと停まってる。

 

 動いてるのはわたしと、お姉ちゃんだけ。

 

「……これ? なに?」


「まさか、時間停止!? 冗談でしょ……そんな真似のできるヤツがいるなんて!」


 お姉ちゃんが狼狽してる……それほどの相手?

 

 ……それは、音もなく不意にやってきた。

 

 黒いローブで顔を隠した得体の知れないヤツが、唐突に目の前……ほんの5mほどの場所にふわっと降りてきていた。


 どこから出て来たとか、考える暇もない。


 この距離まで接近されたのすら解らなかった……これがお姉ちゃんの言ってた、訳の解らないヤツ!

 

 ……いつも持ち歩いてる、錬成術で作ったナイフを抜く。

 まどかさんは、こっちに顔を向けて、立ち上がりかけて、お尻を少し浮かせたままと言う器用な姿勢で固まってる。

 

 時間停止とか、お姉ちゃんは言ってたけど、こんな姿勢で動くなって方が無理な話。

 葉っぱとかだって、さっきから微動だにしてない。

 

 となると、今の状況。

 問答無用で、この得体の知れない相手と、一対一……。


 助けてくれる人が居ないと言う現実に、嫌が応にも緊張を強いられる。

 

 ……心の準備もなにもないまま、こんな得体の知れない相手と戦う?

 冗談じゃないっ!

 

 周囲を見渡す……飲み物が乗ったテーブルとビーチチェアみたいな椅子と日除け。

 武器は、ナイフがひとつあるだけ。

 

 テーブルを蹴り上げて、怯んだ隙に突っ込んでナイフを突き刺す……捨て身の一撃なら、あるいは……。

 クレイゴーレムもまどかさん同様、動いてない以上、わたしが身を守るには、もう自分でやるしかない……。

 

 ナイフを腰だめに構えるのだけど、手の震えが止まらない。

 怖い……でも、殺らなくきゃ殺られる。

 

「……タイムタイム、そんな物騒な真似はやめようっ! こっちはやる気ないんで、まずは話し合い! ね? 邪魔が入らないようにって、時止ときとめの結界張ったってだけなんだからさ! ほら、私……素手だし、怖くなーい! 怖くなーいよ!」


 ……そんな軽い調子の第一声に、思わず拍子抜け。

 

 こっちは、色々覚悟決めてたのに……。

 やる気ないよーと来たもんだ。

 

 訳の解んないやつ……なんだけど、別に好戦的って訳でも、ないらしい。

 

 よく見ると、結構、小柄……。

 わたしとそう大差ない感じのヤツ……声の感じからして女の子? 

 

 目元はフードで隠れてるんだけど、口元は安心してーとでも言いたげに、ぎこちない感じの笑みを浮かべてる。

 

 思わずわたしも片手を上げて、笑いかけた……つもりなんだけど、多分、向こうと大差無さそう。


 向こうも、ビクッとして、ワタワタしてる。

 

 お互い、相手にビビりまくり……。

 そう思ったら、なんか肩の力が抜けた……。

 

「……コイツ、相当ヤバいよ。シズル……油断しないで」


 一瞬、気が緩んだんだけど、お姉ちゃんの言葉に気を引き締める。

 

 ……お姉ちゃんが警戒するような相手。

 それに、周囲の時間停止現象……こんな超常の技の使い手、半端な相手の訳がない。

 

 時止の結界って言ってたけど、どんだけなんだこれ?

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