第八話「異世界サバイバル始まった!」①
……わたし達が異世界に来てから、軽く一ヶ月ほどが経った。
そう、あれから一ヶ月も経ってるのに、未だに絶賛異世界ジャングル自給自足生活中……なのですよ、これが。
意味もなく、腰に手を当てて立ち上がってみる。
足元には、最初に降り立った広場と緑の茂みのようなジャングルが延々と果てしなく続いているのが見える。
ここから脱出するとか、無理ゲーじゃん。
そう思わずには居られない。
車とか飛行機とか言わない、せめて自転車、いやオフロードバイクとかあればなぁ……。
でも、ここからの眺めは、悪くない……ちょっとだけ、自分が大きな存在になった気がする。
「シズルちゃん、どうかしたのぉ? あんま、端っこに立つと危ないんじゃない?」
ここは、レンガ作りの建物の二階の更に上の屋上。
まどかさんと二人、葉っぱと木の枝で組んだビーチチェアみたいなので、くつろいでたところだった。
側には、藤のツルっぽいのと、適当な木の枝で作ったテーブルが置いてあって、ジャングルの果実を絞って作ったあまーい飲み物みたいなのもあって、わたしもまどかさんも水着みたいなカッコ。
……なんかもう、すっかり夏を堪能って感じだけど。
これら、全て自給自足で賄ったのだから、我ながら凄い!
この一ヶ月、ゴブリン、オーク、虫シリーズと言ったモンスターの襲撃はあったけれど。
全員、欠けることもなく、異世界サバイバルは順調だった。
行動方針は、最初に決めたとおり、拠点作って、近辺探索しながら食料を備蓄しつつ、勇者の武器を鍛えて、スキルの練度も上げてくって感じだったんだけど、そこら辺は順調だった。
探索や食料集めについては、サバイバル知識のあるクマさんや、索敵スキル持ちのユウキ君が大活躍中。
4人が飢えない程度には、食料も潤沢で、近辺の地図のようなものも順調に出来つつあった。
まどかさんも、割と体育会系の人で体力もあって、医療知識もあるのは良いんだけど。
体力が無いと、この先生きのこれないとか言って、私やユウキ君なんかも、筋トレとか森の中を走り込みとかやらされてる。
……そう、有名なこの先生きのこれるか状態なのだ。
それじゃ、しょうがないよね。
ちなみに、腕立ては20回くらい、出来るようになったよ?
10回持たなかった頃に比べたら、進歩、進歩。
ちなみに、まどかさんはお料理も出来るし、割と世話焼きな感じで、年少組のわたしとユウキ君にとっては、いいお姉さんって感じ。
実際、まどかさんの治癒魔法で、軽く命拾いもしてる。
巨大ハチの毒針……たまたま、奇襲受けて、生身の状態で、腕に軽くかすった程度だったのに、腕が紫色になって、高熱も出て、意識も飛んで、危うく死ぬところだったんだけど。
まどかさんの治癒魔法であっさり回復。
引き換えに、まどかさんがまたMP枯渇でダウンしちゃったけど。
この辺は、命に関わるケースで、良く解んない症例や未知の毒とかに関しては、半端なのを使うんじゃなくて、一番強力なの一択で使う……とか何とか言って、そんなオーバークオリティなのを使ってくれた。
確かに、死にかけてたのが嘘みたいに、ガッツリ治った!
けど、その理屈だと、まどかさんに頼まないとどうしょうもないケースだと、もれなくまどかさんは力尽きるって事で……。
どうなんだろね、それ?
ちなみに、至高の癒しは、メイスの勇者のユニーク魔術で、死んでない限り、どんな怪我や病気、中毒症状なんかも、問答無用でケロッと直る最強回復魔法。
不治の病や致死の毒、致命傷だって一発回復の超スゴ回復……心臓停まってたり、脳みそはみ出てても、即死してないなら、蘇らせると言う……。
なお、消費MPは脅威の2000MP。
まどかさんが勇者モードになっても、最大MPは1200MPくらいなので、思いっきり赤字。
最大MP超えてても、使えるもんなのかについては、普通の人には出来ないんだけど……。
勇者モードの場合、変身解除と長時間の昏倒と言うリスクを許容した上でなら可能……。
ホントは、気軽に使って良いもんじゃない。
お姉ちゃんと一緒に戦ってた先代メイスの勇者ですら、使えばMPの大半を消耗するからって、これを使うのは余程の事が無い限り使わなかったと言う、言わばメイスの勇者の切り札的なもの。
けど、半端なのを使って、効かなかった場合のリスクを考えると、最強一択ってのも納得は出来るけど、ゲーマー感覚だと、そんなのとても使う気にならない。
生きるか死ぬかの局面では、ケチらずその場で出来る最高の治療を施すってのは、医療の現場の理想だとかで、まどかさんは、何かと言うと最強治癒を使おうとするので、周りから見るととっても危なっかしい。
ヒーラーって、本来パーティーの命綱って感じなんだから、そんなイチかバチかみたいな一発屋である必然性、無いと思う。
だけど、そこら辺は何度言っても、聞いてくれないので、わたしらも諦めた。
戦闘中とかで、まどかさんダウンってのは、もう織り込んだ上で考える……そう言う事になった。
ちなみに、昏倒状態になってても、ランタンの最大パワーだと30分位で復活する……この辺も、まどかさんが気軽に最強治癒使っちゃう理由でもあるんだよねー。
当てにされてるってのは、解ってるんだけど……まぁ、しょうがないか。
ちなみに、昼間は、主にクマさんとユウキ君が地図とか植生マップを作りながら、周囲を散策して、食料を調達。
そっちは、割と順調で日帰り圏内はあらかた踏破して、森のマッピングは順調に進んでる。
それと自給自足って事で、畑なんかも作ってる。
この辺は、クマさん発案……クマさん、農家育ちだから、農業の知識あり。
クワとか木を削って自前で作って、毎日せっせと耕したり、水やりとかとっても楽しそう。
わたしもちょっとやらせてもらったけど、10mくらい掘り返した所で腰に来て、ダウン。
……貧弱過ぎる、我ながら。
もっとも、畑と言っても人力で作るとなるとこじんまりとしたもので、家庭菜園程度の代物。
そんなんで間尺に合うのかと言うと、植物を急成長させる怪しげな薬が薬物調合実験を繰り返すうちに、出来上がったので、フル活用している。
山芋で試したら、種芋みたいなムカゴから一週間で収穫可能になった……はっきり言って、チートなんだけど、扱いを間違えると大変な事になりかねない超危険な薬物でもある。
うん? そんな一週間で収穫可能まで育つような成長促進薬なんて、うっかりバラ撒いただけでもこの辺が雑草で埋まりかねない。
慎重に扱わないとガチでバイオハザード……。
街道らしきものを見つけて、現地人の商人と接触もすでに果たしていて……色々便利アイテムを物々交換でゲット。
集落とか街からは、かなり離れてるそうなので、そこまで辿り着くのに相応の準備が必要そうではある。
森を抜けるには、歩きで軽く一ヶ月の長旅……なんて言ってたらしいので、この森……半端じゃない。
軽く数百キロはあると思う……辛い。
なお、女子二人は拠点でお留守番ってのがもう定番……。
留守番組もそれなりにやることもあるんだけど……最近は、二人共手慣れてきたので、今日は早々にやることもなくなって、屋上が使えるようになったからって、風に吹かれて、涼んでようって、寛いでたところだった。
男の目がないからって、まどかさんは皮のブラと腰巻きオンリーって凄いカッコで、わたしも付き合いで似たようなカッコ。
なお、あくまで腰巻きなので、限りなくノーパンミニスカ状態。
下から見られたら、色々危険だし、足開いて座るのもアウト。
でも、涼しいし、凄く楽だし、開放的。
膝丈くらいはあるから、そこまで防御力も低くない。
……まどかさんは、すっかりお気に入りで、二人で留守番の時は、もう定番。
ちなみに探索は、まどかさんとクマさんとか、まどかさんとユウキ君って組み合わせのこともある。
要するに、わたし……基本、お留守番要員。
……クマさんは、もう探索と畑仕事が主な仕事みたいになってる。
植物とかサバイバル系の知識は凄いし、とにかくタフなので、探索要員としては最適。
ただ、攻撃力は微妙過ぎるので、攻撃役兼レーダー役のユウキくんとのコンビってのが一番……。
ちなみに、クマさん、勇者モードならもはや、ゴブリン程度の攻撃では、かすり傷すら負わないって事が解ってる。
わたしと二人で、お留守番中に昼間っからゴブリンの襲撃があって、6匹くらいにたかられて、棍棒でボコボコに殴られて、ナイフみたいなのでドスドス刺されて、ピンチーって思ってたんだけど。
勇者モードのクマさんの甲冑は、隙間やむき出しの頭部にも見えないシールドがあるみたいで、まさかのノーダメージ。
結局、ゴブリン纏わり付いたまま、木に向かってドーンとかやって、なんとか撃破は出来たんだけど……。
何というか……力技のゴリ押し。
……大盾の勇者って半端なかった。
まどかさんは……と言うと、回復特化のように見えて、実は結構強い……。
回復ができるってのもあるけど、強化魔法をかけた上でなら、ゴブリン辺りなら、ワンパンで殴り倒してしまう程。
メイスの勇者は、本来回復特化ではあるんだけど、防御魔法も使えるし、本人が空手の有段者……。
ちょっとくらいの怪我やダメージなら、即回復しちゃうんで、実は普通に強かった。
……そんな訳で、戦闘力に関しては、わたしがぶっちぎりの雑魚。
先のクマさんピンチの時も、結局オロオロしながら、シャベル振り回して、フリーの奴らを自分に近づかせないのがやっとだった。
まぁ、探索に出るとモンスターやら獣との戦いが起きないことのほうが珍しいので、戦えないって時点でお荷物確定。
なので、すっかりお留守番要員として定着してしまった。
わたしも探検とかしたーいって言ったんだけど……大人二人は、とにかく何かと慎重派なので、問答無用で却下。
何より、この異世界ジャングルでの自給自足生活が成立してるのは、わたしの存在が大きいので、探索なんてハイリスクな行動……皆、望んでない。
図らずも守られ役なのが、わたしの実情……。
同じくお子様のユウキ君は、戦闘力も索敵能力もこのメンツだと、問答無用のトップエース。
モンスターの撃破数に関しては、ダントツな上に、お姉ちゃんによると、相当な強豪モンスターのオークキングすらも撃破してる。
もっとも、相手が油断してる所をヘッドショットで一撃……だったから、相手がそんな上級モンスターだったなんて、倒してから知った……なんて有様だったんだけど。
……むしろ、探索要員としては外せないって事で、相方にはユウキ君をフォロー出来る事って条件が付いたんで、必然的にこうなった。
ついでに、基本は最低二人で行動……となると、一人をお留守番専任にするってのは、正解。
どの組み合わせでも、戦闘力が皆無に近い私では、足手まといにしかならない。
……以上っ!
とりあえず、続きの目処が立ったので、連載再開です!
明日も更新するよー!




