第七話「戦闘開始!」③
「うん、カッコいいよ! ユウキ君、頑張ったね! おつかれ~!」
まぁ、ここは軽く流すに限るよねー。
……容赦なさすぎって思ったのは、事実だけど、守ってもらって、文句言うとかそんな馬鹿な話はない。
そもそも、わたしだってトラップ仕込んで、ターゲッティングと思いっきり、片棒担いでる。
そんな綺麗事言う資格もないし、そんな気もサラッサラない。
わたしは……そんなどこぞの異世界ウザヒロインみたいに争いは止めてだの、敵がかわいそうだとか、そんな事を言う気なんて無い。
何故なら、お姉ちゃんはわたしにこう言った。
「敵に容赦するな」と……。
お姉ちゃんの言葉は、いつ何時も正しい。
これは、わたしにとっては、世の摂理に等しいのですよ。
だから、この場で思うことがあるとすれば……。
「ユウキくん、グッジョブ!」
これだね! これ。
ユウキくんも、そこら辺は気にもとめてないらしく、照れくさそうに笑ってる。
「あはは……ボクみたいなのでもお役に立てて、嬉しいです!」
うん、いい子だね……ユウキくん。
はにかんだ笑顔もまたキュートなのですよ。
「あ、そうだクマさん……このでっかい木の実、そこで拾ったんだけど、食べれるかな? 甘そうな匂いしてたんだけど」
ついでに、ゴブリンの魔石を集めに行ったとき、地面に落ちてた果物っぽい木の実を見つけたんで、それを二人に見せてみる。
……手の平サイズくらいはある、割と大きなトゲトゲした木の実?
お姉ちゃんもこの辺はあまり詳しくないみたいで、良く解んないみたいなんだけど、植物に詳しいクマさんなら解るかもって思って持ってきた。
……なんと言うか、緑色のトゲトゲ卵みたいな感じでかなり大きいんだけど、近くで割れてた似たようなのから、フルーツガムみたいな甘い匂いがする黄色い果肉が見えてたから、割れて無くて小さめのを拾ってきた。
有毒植物かもしれないから、味見とかはしてないんだけど、鑑定スキルでは「メテオスター」とか意味不明な名前が出ただけで、全然判らん。
割れてるのには、アリンコみたいなのがたかってたから、毒はないと思うんだけど……毒キノコや有毒植物を平気で食べる虫ってのもいるから、その辺はあんまり当てにならないって、話も聞く。
もっとも、鑑定結果では「食べられます。美味」とか、ざっくりした説明はあったんで、食べ物だってことは確かだった。
「……これって、ジャックフルーツに似てるね。日本じゃまずお目にかかれないけど、東南アジアじゃ結構メジャーな果物なんだ……とにかく、大きくて食べごたえがある。味は普通に美味しいんだけど、これは見た感じ、まだ熟してないから、食べてもイマイチかもね。もっと大きくて熟れてそうなのなかったかな? 木の幹から直にぶら下がってたと思うんだけど」
おお、やっぱり知ってた。
クマさん、頼りになるのですよ……。
と言うか、木の幹から直に?
それって、どんな状態……木の実って、枝になるとかそんなんじゃないの?
「んじゃ、一緒に来てほしいのですよ。お腹空いたのですよ」
「そうだね……。じゃあ、ユウキくん、ちょっと留守番頼んでもいいかな?」
「はい、何かあったら僕が一番に解ると思うんで、敵が来たら警告しますよ。その場合、すぐに戻ってきてくださいね」
「うん、頼りにしてるよ……あ、シズルちゃん、どの辺かな?」
「ジャングル入ってすぐなのですよ」
クマさんと一緒にジャングルの奥に入る。
ユウキくんなら、周辺の索敵役も出来るから、警戒役としては一番頼もしい。
さっき木の実を拾ったところに来ると、フルーツガムみたいな匂いがするから、すぐ解る。
上の方を照らして欲しいとリクエストされたので、照らすと太めの樹に人の顔くらいの大きな玉子みたいなのがぶらーんとなってるのが見えた。
中には1mくらいありそうなのもある……なんだこれ!
なんと言うか、物凄くシュール!
「……なにこれ? デカっ! さ、さすが異世界の植物だね……スイカくらいあるんじゃない?」
いや、むしろスイカより大きい……ホント、なにこれ。
こんなの……食べて良いものなの? 鑑定スキルだと食べれるって出てたけど、どうなの?
「ジャックフルーツって、世界最大のフルーツなんだけどね。本場のもこれくらいある……と言うか、ジャックフルーツそのもののような……。さすがに、これは一個持ってけば、十分だよね? うわわっ……さすがに重たいな! っとと……」
クマさんがデッカイのを、片手に持ったナイフで木の幹から切り離してくれる。
うん、デッカいクマさんが持っても、やっぱり大きい。
……こんなのわたしじゃ、持ちきれないっ!
なんでも、軽く4-50kgくらいあるんだとか……これ、ホントに現実世界にもあるの?
どう見ても異世界の食べ物なんですけど……。
「うわっ! なんですか……それっ!」
ユウキくんも驚いてる。
どうも、クマさんは知ってるだけに、実物を食べたことあるみたいで、手慣れた感じで殻を割ってくれる。
プワーンと甘い香りがして、ピーマンみたいな形の房みたいなのがいっぱい詰まってるのが解る。
うん、やっぱり……フルーツガムの匂いだ……これ。
普通に美味しそう。
「ベトナムじゃ、ミッって呼んでたっけ。あ、毒とかないよね? 異世界産の果物だから、見た目が一緒でも毒とかあるかもしれない……」
「鑑定スキルで見てみた感じだと、食べ物ってなってたのですよ。とりあえず、試しに食べてみる!」
……もうお腹空きまくり。
とりあえず、黄色いピーマンみたいなのを一口かじる。
「めっちゃ甘いっ! なにこれ……超美味しいんだけど。あ、お姉ちゃんも食べる?」
お姉ちゃんが私も食べたいよーみたいな感じで、指くわえてたんで、一個だけ手のひらに置いて、差し出すとお姉ちゃんもひょいと摘んでかじる。
「なにこれ……こんな甘いのがあったんだ! おいしーいっ!」
ちなみに、幽霊お姉ちゃんに食べられた食べ物や飲み物は、形はそのまま残るんだけど、味が薄くなって、食感なんかもスッカスカになる。
理屈は本人もよく解ってないけど、基本食べられたものじゃなくなるから、潔く捨てる。
何か、食べ物の美味しい部分だけ、吸い取ってとかそんな感じっぽい。
でも、幽霊さんと一緒のものが食べられるってなんか、嬉しいよね。
ユウキくんやクマさんもお腹空いてたみたいで、夢中で食べてる。
「思ったより、美味しいですね。こんなの初めて食べました」
「あ、一つだけ注意なんだけど、これって、食べる時には、水を一緒に飲まないと、後で胃が痛くなるから、食べすぎないようにしてね」
な、なるほど、パインみたいなもんかな?
……ちょっと違うかもしれないけど。
「……なぁに……なんか甘い匂いがするんだけど……。って言うか、ここどこ? 外?」
……匂いにつられたのか、まどかさんが目を覚まして、ムクリと起き上がる。
体の上に葉っぱとか木の枝を乗せてたせいで、頭の上に葉っぱ乗ってるし、色々手荒に扱ったから、服なんかもドロドロ……真っ白い看護師さんの制服だったんだけど、黒かったり茶色かったり……ああ。
「あ、まどかさん! 気がついた!」
「シズルちゃん……ごめんっ! もしかして、寝てた? ど、どれくらい経った?」
「あれから、2時間位ですかね……。とりあえず、色々あってお城から、このジャングルまで飛ばされたって感じです。つい先程、ゴブリンってモンスターに襲われてたんですけど、そこの少年……ユウキくんと、大きい人……クマさんがやっつけてくれました」
半日は起きないって言ってたのに、二時間で復活。
やっぱ、ランタンのMP回復が地味に効いたっぽい……イイね! これ。
……でも、王様が殺されちゃった事をまどかさんに、伝えるべきかどうか。
これは、ちょっと言う方もキツイ……うーん、先送りにしよう。
「はい? わ、私が寝てる間に何があったのよっ! って言うか、あんな状況で意識不明とか……我ながら、大迷惑だったでしょ……容赦なく、叩き起こしてくれれば良かったのに……。昨日は急患入って、人都合がつかなくなって、日勤明けで夜勤突入とか、無茶なことになってたから、思いっきり爆睡してた……」
な、なんか……変なこと言ってない? お昼に仕事して、そのまま夜勤って……。
……病院の看護師さんって、めっちゃハードかつブラックって聞いてたけど、そんななんだ……。
看護師さんって、割と女子あこがれの職業のひとつなんだけど……これは、さすがに遠慮したいな。
「まどかさんは、よくやったと思いますよ。確かに気絶しちゃってましたけど、クマさんがまどかさんを担いできてくれたんですよ」
「……うぉ、まじですか……。す、すみません……すっかりお世話になったとか? と言うか、随分人数少なくなったし、ここどこ? なんか森の中っぽいけど……ゴメン、状況が全然読めない」
「うん、とりあえず分かってることを説明するよ。あ、これ食べる? 日本じゃ珍しい果物だけど、結構美味しいよ」
そう言って、クマさんがわたしに目配せする。
ここは任せろってことか……おまかせしたっ! さすが最年長っ!
「……と言う訳なんだ。正直言って、僕も何が何だかって感じだったんだけどね。ひとまず、今は安心して良い状況だよ。今もユウキくんが見張ってくれてるしね」
……とりあえず、クマさんが、まどかさんが気絶してから、ここまでの事を大雑把に説明してくれた。
王様の件は……クマさんも言いづらかったみたいで、何となくボカしてた。
大筋としては、大臣たちが王様の命令を無視して、わたし達を捕縛しようとしたから、転移魔法で皆、まとめて逃された……そんな話になった。
「ええ、なにか来てもボクなら、索敵スキルですぐに解るし、追い払えます。お姉さんは、看護師さんなんですか? ボクも昔はよく病院のお世話になってたから、看護師さん達には感謝してますよ。大変な仕事なんですってね」
「そうよ。本職看護師って奴よ……。まぁ、キツイのはどこも一緒だけど、やりがいはあるからね。君も、このクマさんに助けられたんだってね! って言うか、君、めっちゃ可愛いね! いくつ?」
「ボ、ボクは、たまたま拾ってもらったって感じだったんですけどね……か、可愛い……ですか?」
「うん、てっきり女の子だとばかり思ってたけど。男の子なんだよね? 見た感じ小学生かな?」
「そ、そうですね……5年なんですけど、小3? とか、良く言われますよ……その……女の子みたいに、可愛いっていわれるのもしょっちゅうで……。たまにお姉さんのお下がりとか、クラスの女の子に女物の服とか着せられることとか、あるんですよね……」
……女装少年とか。
ガチで男の娘じゃないですか。
ああ、でもありかなー。
確かに、フリフリなスカートとかすっごい似合いそう。
「いいね! 少年……お姉さん的には、男の娘とか十分守備範囲よ?」
まどかさんの目が怪しく光る。
確かに、女子的観点からだと、女の子みたいな美形男子とか全然OK。
女装とかも、ゴツいのとかデブいのがスカート履いたりとかは流石に、気持ち悪いけど。
ユウキくんみたいに、女装したら女の子と見分け付きそうもないような子なら、全然構わないと思う。
この感覚が一般的かどうかは、知らないけど。
お姉ちゃんも、男の娘は、アリだって言ってたし、まどかさんみたいに、20代後半のおねーさんでもその辺は一緒らしい。
「まどかさん……解ってますね。あ、クマさんはどう思います?」
「え? うん……男の子で女装……。確かに、君なら似合いそうだね! まぁ、いいんじゃないかな、人それぞれって奴だ。あははっ!」
クマさん、奥さんいたくらいだから、性癖はノーマルっぽいけど、そんな人でも男の娘は許容範囲。
ユウキ君……むしろ、照れてる。
本人的にはまんざらじゃないみたい。
女子ウケよし、男性からもある程度は受け入れられる。
男の娘……もしかして、無敵なんじゃ?
「まぁ、それはともかく……。となると、ここは訳の解らない異世界、それもどことも、知れないジャングルの真っ只中。皆、さぁ、これからどうしようって、そんなところね? うん、状況は理解したわ」
「まぁ、そうだね。一応、食べ物や水は、当面はなんとかなるかな。あ、山芋焼いたの食べる?」
ジャックフルーツ以外にも、クマさん目ざとく山芋見つけて、手際よく掘り出して、焚き火で焼いてくれてた。
山芋って、生でもイケるんだけど、焼くとホコホコになって、美味しい。
クマさんもジャングルって、意外と食べ物は豊富って言ってたけど、ホントらしい。
「……水や食料が早々と、調達されてるってのも凄い話よね。もしかして、魔法とかそんなの?」
「いや、クマさんが色々知ってたのと、わたしも色々準備してたからね……それに場所も良かった。綺麗な水たまりが目の前にあるとか、かなりラッキーだと思うよ」
実際、水たまりもそのまま飲んでも大丈夫そうなくらいには綺麗。
もっとも、水や食料が十分かと言えば、そうでもない。
特に、塩は持参したアジシオが一瓶あるだけ。
サバイバルの本なんかでも、塩だけは持参しないとキツイから必需品って書いてあったし、自給自足キャンプとかやってる人も、これだけは絶対持ち込みしないと無理……なんて言ってた。
特に、暑い所だと汗もかくから、塩分は必須。
ここは、熱帯ってことなら、昼間の暑さとか相当やばいだろうから、早急に岩塩でも何でも見つけないと。
海とか塩湖が近いなら、話は早いんだけど……。
と言うか、人里っ! お姉ちゃんの話だと、森のなかに蛮族の国の人達が砦やら開拓村を作ってるみたいなんだけど。
軍隊ですら、迂回するようなだだっ広い森だから、どっちに行けば良いのやら……ちょっと厳しい状況かもしれない。
「なるほど……熱帯なら凍死の危険性もないし、雨だって多いから、水も困らない。今は夜だから動けないけど、明るくなったら周辺探索しつつ、ここを拠点に地道に行動範囲を広げていくって感じかしらね。幸いそこの水たまりの水も見た感じ清潔みたいだし、煮沸消毒すれば問題なさそうね。……となると、当て所もなくウロウロしたりする方がかえって危険よね」
「そうだね。異世界と言っても、こんな森の中で孤立してるとなると、まずは、衣食住の確保が最優先だと思うんだ。高台でもあれば、煙とかで人里の場所とか解るかも知れないけど。こう言うところって、割と平坦な上に樹高も低め……。地道に歩いて、探索していくしか無いかもしれないね」
「ここ、見た感じジメッとしてそうだし、熱帯って蒸し暑いんだよね……? なら、熱中症の危険もあるから、暑さ対策とかも考えないとだね。皆、生水とか飲んでないよね? こんな所でお腹なんて壊したら、命にかかわるよ? 暑さで人は死なないけど、脱水とか熱中症は命に関わるからね。それと南の方って、蚊に刺されたとかでも、病気になるし、寄生虫なんかもヤバイのいっぱいだから、その辺も気をつけないと……いい? 感染症対策は手洗いと消毒が基本……生水も厳禁。あと藪の中とかも入らないように……ダニとかに噛まれると結構ヤバいわよ?」
……さすが、医療関係者。
なんだか、クマさんと似たようなこと言ってる。
精神的にもタフだし、体力だって人並み以上。
おまけに、治癒術とか色々使えるから、超頼もしいっ!
言ってることも至ってまっとう。
拠点を作って、食料とか備蓄しつつ、周辺探索。
衛生関係もしっかりしないとだし……。
イチかバチかで森からの脱出とか考えるよりも、近くの村の人とか現地の人が接触してくるのを待つって方が、現実的。
追手とか来るかも知れないけど。
微妙な緩衝地域って事なら、大軍勢とか派手な事も出来ないだろうし……。
そんな訳で、とりあえず……。
ここを拠点にして、異世界自給自足サバイバルって方針に決まった。
なんと言うか地味だけど。
奴隷ルート回避って考えると、全然マシ!
……とにかく、このわたし……シズルと仲間達の異世界生活が始まるのだった!




