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第七話「戦闘開始!」②

 チラッと緑色の変なのが見えたので、スポットライトを集中的に照らして、光を絞っていくと、直接見て、目を焼かれたのか、ゴブリンが悲鳴みたいなのを上げて、顔を押さえながら、足元に張られた釣り糸に足を取られてすっ転ぶのが見えた。

 

 ランタンの光に緑色の肌で、トカゲみたいな目をした乱杭歯の異形が照らし出される……思わず、息を呑む。


 けど、あれこれ考える間もなく、すかさず、ユウキくんが狙撃。


 光の矢が頭に命中すると、頭の半分くらいが無くなって、そのまま頭を地面にぶつけると、ビクビクと痙攣してすぐに動かなくなる……。

 

 血とか出ると思ったら、黒っぽいススみたいなのを撒き散らしてるのが解る。


 ……なんか、頭でっかちでヒョロヒョロの手足で、目ばっかり大きくて、宇宙人みたい……キモっ!

 もはや、生理的嫌悪しか沸かない……え? あんなのにエロいことされたりとか……ありえないっ!

 

 更に、ガサガサと正面の茂みが蠢く。

 ドタバタと倒れ込むような音やジタバタと暴れてるような音が聞こえてくる。

 

 どうやら、先頭にいた奴等が、まとめて釣り糸トラップにかかったらしかった。

 釣り糸も二本だけじゃなく、何本も張り巡らしてあったから、ドンドン引っかかってるらしい。

 

 後続も、うじゃうじゃいるみたいだけど、先頭がコケたせいで、渋滞状態になって詰まっちゃって、後ろの方は状況もわからず、揉み合いになってる様子……。

 

 もちろん、藪に入ってショートカットしようとしてるのもいるんだけど、お姉ちゃんが言うように、そう簡単には進めないらしい……。

 

 ……今がチャンス! でも、ここで焦ったりはしない。

 ユウキくんには、私がスポットライトで照らして止めた場所を狙うように言ってある。


 もっとも、止める場所は、お姉ちゃんがそこで止めてとか言って、指示してくれてる。

 

 お姉ちゃんの予知能力……ここでも威力を発揮してる。

 

 撃てば当たる未来が見えたところを撃つ……何ともシンプルなんだけど、ユウキくんの技量と組み合わせれば、その命中率は、ほとんど百発百中と言う恐るべきモノ。

 

 ユウキくんも無言で、次々と光の矢を放つ。

 

 どうもお姉ちゃんは、音や気配で矢が当たったかどうか分かるみたいで、当たると次の目標を指示してくれて、外れたら微調整の上で再射撃の指示を出してくれる。

 

 相手も、飛び道具で撃たれてることに気づいて、木の幹や茂みに隠れようとしたり、伏せて匍匐前進しようとしてるみたいなんだけど、ユウキくんも索敵スキルでおおよその居場所が解るみたいだし、ちょっと隠れたくらいじゃお姉ちゃんの目は誤魔化せない。

 

 ユウキくんが矢を撃つたびに、微かに短い悲鳴やうめき声が聞こえてくるのだけど……それもドンドン静かになっていく。

 

 一匹茂みから勢いよく飛び出してきたんだけど、釣り糸が足に絡まってて、無様にコケる。

 丸見えの目標なんて、指示するまでもなく、ユウキくんが頭を撃ち抜いて終わりだ。

 

 更に、撃つ……お姉ちゃんのポインター指示。

 ユウキくんは無言で更に撃つ。


 唐突に、右手側でズゥンって感じの鈍い音。

 見ると、クマさんの盾に取り付いたゴブリンが盾諸共地面に叩きつけられる所だった。

 

 盾の下から、枯れ木みたいな手が伸びて宙をつかみ、黒いススみたいなのが吹き出すのを見て……思わず目を背ける。

 どうも、ゴブリンとかみたいな魔物って、怪我したり、死ぬとこのススみたいなのになるらしい。

 

 成り立ち自体が普通の動物とかと違って、瘴気が物質化したものだとかで、厳密には生き物と言うよりも、純粋に人間を殺すために作られた兵器みたいなもの……そんな風に聞いてるんだけど……。

 

 あんな風にぺしゃんこにされてるのを見ると、さすがにドン引き……。

 

 でも、殺らなきゃ殺られる……ここはそう言う世界。

 殺すのが嫌だとかヌルい事言ってたら、生き残れない。

 

「シズル、無理しなくてもいい。けど、戦いの最中に目を瞑っちゃ駄目よ。クマさんはシズル達を守るために戦ってる。ユウキくんもそう……。どのみち、こいつら魔物は人と見れば、問答無用で殺しにかかってくる。ゴキブリみたいなもんだから、躊躇ったり同情なんてしてたら、自分や仲間が死ぬ。だから、容赦なんてしなくていいんだよ」


 まるで、私の躊躇を見透かしたようなお姉ちゃんの言葉。

 

 うん……大丈夫。

 お姉ちゃんの言葉は常に正しい……その言葉に疑問を挟む余地はない。

 

 ……生き物はあんな風に死んで、煙になったりとかはしない。

 あれは、ゲームの敵キャラみたいなもの。

 

 と言うか、なんだかすごく不自然なものを感じたのも事実なんだよね。


 ……なんなんだろ? すっきりしないな。

 

「……オールクリア。ごめん、数匹まだ生きてるみたいだ。けど、ボク……もう動けそうもないです……」


 ユウキくんが伏せたまま、顔を地面に突っ伏したまま、グッタリしてる。

 弩の難点……一発ごとに割とMPをガッツリ消費する事なんだとか。


 練習でもそこそこ撃ったし、なんだかんだで30発くらい撃ってた。

 矢玉を自力で生成して撃てる代わりに、MPがガンガン消費される……なるほど、無限の矢玉って訳にはいかないってことか。

 

 そうなると、ランタンのMP回復の光って、かなり重宝するかも。

 なんせ、ランタンの光を加減すれば、消費MPより、回復量の方が大きくなるくらい。


 もちろん、ガンガン回復するようにすると、消費MPが増えて、追っつかなくなるんだけどね。

 

 けど、弱めにして、回復が上回るようにすれば、点けっぱなしでも、むしろ回復する……。

 これって、実質MP無限に近いよねぇ……魔法使い放題?

 

 ……なんだかんだで、ランタンってチートだ。

 

 支援職だって嘆いてたけど、要するにパーティの戦力を大幅に底上げする……そう言う役割なんだ。

 なんだかんだで、戦力的には相当なものだって、実感する。


 この調子だと、まだまだ色々隠された能力があるのかもしれない……ちょっと、盛り上がってきたよ?

 

 そんな訳で、最初の試練。

 ゴブリンの襲撃はクリア出来たっぽい。

 

 こっちの被害は、ユウキくんがダウンしちゃったくらいで、かすり傷も負わなかった。

 クマさんも一匹仕留めるのに、随分苦戦してたけど。


 大盾に攻撃力なんて無いんだから、それはしょうがない。

 ホントは、足止めしてる間にユウキくんが仕留めるってのが早かったんだけど。

 クマさんも一匹くらいは自力で倒すって言ってたから、お任せしちゃった。


 まぁ、なんだかんだでノーダメージで倒したから、良し。

 

 相手は、結局15匹位はいたんだけど……あっという間に全滅してしまった。

 

 様子を見に行ったら、もう茂みの中はゴブリンの死骸の山状態で、物凄く気持ち悪かったけど、死骸は例の黒いススになって、すぐに消えてなくなってしまった……。


 唯一、名残としては魔石と呼ばれるクリスタルのような石だけ。


 これは、瘴気を集めて、魔物の身体を形作ってるコアのようなものらしい。

 

 瘴気を集める以外にも、魔力の乾電池みたいなものになるらしく、簡単な加工だけで、簡易MP増量アイテムになったり、魔道具に組み込んで動力源にしたり出来るので、街で売れば良いお値段で買い取ってくれるらしい。

 

 魔物を倒すことで得られる数少ない戦利品なので、拾っとけってお姉ちゃんも言ってたんで、せっせと集めとく。

 

 ゴブリンの残党や生き残りが居ないか、見てみたんだけど。

 

 中には撃たれて、逃げようとして力尽きたのも居たようなのだけど、勇者の弩の威力はとんでもなくて、どれもほぼ一発で致命傷……。


 結局、逃げ延びたものすら、居ないような有様だった……文字通りの全滅。

 

 一番うしろに控えてたらしい、少し大柄のホブゴブリンってのも居たけど、隠れてた木の幹ごと、身体のド真ん中を撃ち抜かれて死んでた。


 そういや、ユウキくんがちょっと強めのを撃ちます……とか言って、大きめの矢を撃ってたけど、多分コイツを狙ったんだね。

 

 いきなり、使いこなしてる辺り、ユウキくん凄い!


 ……お姉ちゃんの話だと、中ボスくらいの戦闘力があって、普通に戦うとかなり手強かったみたいだけど、その実力を発揮することもなく、まさに一撃必殺!

 

 ……ユウキくん、むしろヤバイな。

 

「……ふぅ、なんだか良く解らないうちに、勝てたみたいだったね。ユウキくん、やるねぇ! 僕が一匹倒す間に一人で全滅させちゃうなんて……凄いね!」


 色々戦利品を回収して、戻ってくるとクマさんがユウキ君を持ち上げて、高い高いみたいなことやってた。


「わっ! わっ! クマさん、ボク浮いてますってっ!」


 なんだか、とっても楽しそう。


 クマさんからしたら、一匹でもそれなりに手こずってたのに、トラップで足止めして、飛び道具での一方的な殲滅。


 相手は茂みから出ることもままならず、ほとんど為す術無く全滅。

 そんなの見たら、さすがにじっとしてられなかったらしい。


「とりあえず、ざっと見た感じだとゴブリンは全滅してたよ。ボスっぽいのもね! 凄いね……ここまで、一方的になるなんて……さすが、強クラスの弩の勇者だね!」


 いやはや、お姉ちゃんがユウキくんが戦えるかどうかで、戦いの勝率が変わるって言ってたのも納得!


 もしも、ユウキくん無しで戦ってたら、大苦戦間違いなしだった。

 なんて言うか……ユウキくん様々だよっ!


「シズルお姉さんの指示が、物凄く的確だったんですよ。ボクは言われた通り、光を照らしてもらった所をひたすら狙い撃ってただけ。……なんで、ああも的確な指示を出せたんです? あんな真っ暗の中、当たったかどうかなんて、ボクでもよく解らなかったのに……索敵スキルもあれだけ重なると、当たったかどうか良く解らなくなるんですよ」


 ユウキくんも完全にガス欠ってほどまで、行ってなかったみたいで、ギリギリセーフ。

 

 とりあえず、ランタンの光でMP回復するって解ってるから、ランタンの光をユウキくんに浴びせておく。

 

 そう言う事ならってんで、まどかさんにもランタンの光を浴びせてるんだけど、さっきまで眉間にシワ寄せてたのが、楽そうな表情になってて、この分だともうすぐ復活しそうだった。


 これ……もっと早く気づいてれば、良かった。

 

 とりあえず、変身も解けちゃってるんで、ランタンの消費と回復のバランスは、消費少なめにして、時々回復上げる感じでこまめに調整しつつ、まどかさんとユウキくんを回復。

 

 黒字モードだと、回復の時間が気持ち早くなる程度だけど、たまに火力を上げると一気に回復量も増えるから割といい感じかな?

 

 お姉ちゃんが何も言ってこないから、連戦の可能性は低そうだし……色々試そうっと。

 けど、この初めての戦い……やっぱ、MVPはユウキくんだよなぁ……。


「いやいや、初めての実戦で、あんなゴルゴみたいな勢いでほとんど外さずに撃てるとか、ユウキくんも大概だと思うよ? 弓道かなんかやってたの? それに生き物撃つって普通は少しは躊躇うと思うんだけど……大丈夫だったの?」


「……集中すると、余計な考えとかもなくなるんですよ。確かに生き物を撃つとか怖いって、最初思ってましたけど……。姿もよく見えなかったし……皆を守るって一心で夢中でしたよ」


 あ……超集中ってそんなもんなんだ。


 戦いの怖さや、プレッシャー、敵への情けとか、そんなのも全部、置いてけぼりにして、目の前の作業にひたすら打ち込む。


 スポーツ選手なんかにとっては、ある意味理想と言える精神状態。

 

 ……戦場とかに新米兵士を送り込んで、躊躇いなく敵兵を撃てるのは全体の二割程度。

 昔、そんな話をお姉ちゃんから聞いたけど、逆を言えば、世の中には二割の確率で、戦場で殺し合いになっても躊躇いなく相手を撃てる人間がいる。


 それもまた、事実って事。

 

 たぶん、ユウキくんは、その二割……その並外れた集中力で、情緒や感情を抑え込んで戦える……戦士としては、極めて優れた才覚の持ち主と言える……。

 

 ……こんな世界では、むしろ頼もしいと思うべきなのですよ。

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