第七話「戦闘開始!」①
「……どうやら、本当に来たみたいです。右と左側から赤い点が接近中……これが敵かな。それと正面風下側からたくさん来て、固まった状態で動かなくなりました。シズルさんの読み……凄いですね。攻めてくる場所もだけど、タイミングも風がやんだ瞬間って言ってましたけど、ドンピシャだ……」
案の定、索敵スキル持ちのユウキくんが真っ先に敵を察したようだった。
一応、お姉ちゃんからは、風が止む瞬間があるから、その直後くらいと言う風に目安を教えてもらってた。
ユウキ君の索敵スキルのレーダーには、味方は青い点、敵は赤い点として映るようになってるらしい。
すでにユウキくんは、勇者モードに変身した上で、地面に伏せた姿勢で、そこら辺の枯れ草や枝葉を身体に乗せて、カモフラージュしてる。
この辺は例によって、お姉ちゃんアドバイス。
ちなみに、ユウキくんの勇者モードのコスチュームは、濃い緑の膝丈キュロット風の半ズボンに、ボーイスカウトみたいなオリーブカラーのワイシャツと、ポケットいっぱいのベストにベレー帽、カモフラージュの緑のマントを纏って、ファンタジーと言うよリ、なんだっけ……ボーイスカウト?
上だけ見ると、軍人さんって感じだけど、その膝丈ズボンがイイッ!
おまけに、美形……こりゃ、お姉さんたちに大人気! ……と言いたいんだけど。
なんだかボーイッシュな女の子にも見えなくもない……ユウキくん、自称男の子なんだけど、ホントは女の子じゃないのって気がしてくるよ。
うーん……服装も半ズボンって感じじゃなくて、ギャザー入ったふんわりしたデザインで……ミニスカみたいに見える。
でも……これはこれで、アリだね。
可愛い男の子っては、可愛いんだよ。
可愛いは正義……うん、そう言うこと!
……ユウキくん可愛さ談義は、さておき。
わたしとクマさんは、如何にも無警戒って感じで焚き火の側にいる……。
まどかさんは、結局目を覚まさなかったので、クマさんが付きっきりでガードして、イザとなったら肩に担いでもらう事になってる。
一応、ユウキくん同様に枯れ草や木の枝を被せて、目立たないようにしてはしてる。
まるでごみの山に埋まってるみたいだけど……戦闘になったら、一番危なっかしいんだから、もう埋まっててもらった。
見つからなきゃ、狙われもしないから多分、これで正解。
わたしの役目は、ユウキくんの近接ガード役兼、攻撃指示役。
一応、武器は先程の折りたたみシャベル……。
クマさんみたいに、棒きれとかで戦うってのも考えたんだけど。
変に長い獲物を使っても、むしろ振り回されるような感じで、この短くてゴツいスコップの方が、小回りが効くからむしろマシ……そんな訳で、こうなった。
ユウキくんは、超集中力の持ち主なんだけど。
集中すると周りが見えなくなるってのは、利点でもあるけど、欠点でもある。
万が一、リロード中にゴブリンに肉薄されたら、為す術無く倒されてしまうかもしれないし、ゴブリンも石とか投げてくることもあるらしい。
だから、付きっきりで周辺を警戒したり、攻撃目標を指定したりする役目のサポート要員が必要不可欠。
軍隊でも、スナイパーをサポートする要員ってのが必ずいて……スポッターって言うらしい。
そう言う事なら、わたしなんかでも、それなりに役目を果たせそうだった。
ちなみに、開幕と同時に私は強化魔法を片っ端から付与する予定。
クマさんには、筋力強化と鋼の守り。
自分にも同じヤツを付与。
前者は、名前の通り腕力を強化、後者は汎用タイプの防御魔法。
実は、倍加速って言うスピードアップの強化魔法もあるんだけど、自分の動きが倍速になるとか、そんなのぶっつけ本番で使いこなせる訳がないから、今回はパス。
と言うか、なんなの……そのチート魔法……? 倍速ってなにそれ……。
錬金術の勇者、不遇職どころか、相当強いんじゃ?
攻撃力強化の手段も解ってるだけで、この筋力強化魔法に、武器自体を重く固くさせる攻撃力強化「重兵装」、各種属性付与に、筋力強化薬……4つ位、盛れる。
錬金術師がいるだけで、近接系勇者とか攻撃力が半端じゃなく向上できる。
お姉ちゃんとかむしろ、無しでよく戦えてたよなぁ……。
クマさんとか、防御系なのにフル強化重ねがけ状態だと、パンチ一発で生木が折れちゃった程だったし。
一応、ユウキくんにも、筋力強化と鋼の守りをかけるつもり。
筋力強化は、次弾装填を少しでも早くするため。
まどかさんにも保険って事で、鋼の守りを付与する予定でいる。
ちなみに、鋼の守り……この魔法、ゴツい名前とは裏腹に、身体の周りにビニールみたいな透明バリアーが張られて、攻撃とか受けた際に威力を減衰させるって代物。
あくまで減衰程度なんで、攻撃を跳ね返したりはしないけど、投石とかなら狙いが逸れるとか、防具で止められたりとか、そのくらいの効果は期待できる……無いよりは多分、マシ。
強化魔法の持続時間は、5分位……試しにクマさんにかけてみたら、かけられた側の視界に付与された魔法名がカウントダウンと共に表示されるって言ってた……。
戦いにおいて、5分が長いのか、短いのかはなんとも言えない。
うーん、この持続時間とか、ものすごーくゲームだよねぇ……。
勇者システムとか、言うだけあって、何もかもインチキ臭い。
ちなみに、私はまだ勇者モードにはまだ変身してない。
この辺は、気づいてないよアピールとしてなんだけど、勇者モードは強化魔法同様、時間制限付きだからってのもある。
レベル1だと、15分程度しか持たないらしいんだけど、武器がレベルアップすれば、持続時間も伸びるし、変身回数も増えるらしい。
なので、戦闘になったら出し惜しみ無用の短期決戦ってのが、基本らしい。
短期決戦で勝てなさそうな時は……むしろ、さっさと撤退した方がいいんだとか。
そこら辺はよく解る……どうみても、この勇者の力って長丁場には向いてない。
ちなみに、武器は敵を倒して、経験値って訳じゃなく、基本的に使い込めば使い込むほど、勝手に上がる。
盾とかだと、攻撃を受けるだけで上がるし、ランタンとかは……強化魔法とか使ったり、アイテム生成とかやると上がるらしい。
仲間内で、ボコスカ殴り合って、武器を鍛えるってのも普通にありなんだとか。
ちなみに、お姉ちゃんの使ってた大剣は、素振りだけで微量ながら経験値入ってたらしい。
なんで、いつでもどこでも暇さえあれば、素振り、素振り!
修行マニアの姉にとっては美味しい話だっただろうと言うのは想像に難くない。
ひとまず、ゴブリンも、まだこっちに気付かれてないって思ってるみたいで、すぐには突っ込んでこずに出るタイミングを計ってるらしい。
なので……ここはお姉ちゃんの状況判断待ち。
作戦は私が指示することになってるけど、実際はお姉ちゃん頼みだった。
「ゴブリンにしては珍しく、知恵を使ってきたみたいだね。斥候が見つかったから、正面からゴリ押しじゃなくて、最初に左右から飛び出して、揺さぶりをかけるつもりみたい。左右の奴等は、陽動役……姿だけ見せて、すぐに引っ込むと思うけど。ほっとくと後々面倒くさいし、居場所割れてるなら、もう出てくる前にやっちゃいましょう。左はユウキくんに任せる……ヘッドショットキルで一撃必殺。右のはクマさんにやらせる……要は練習台ってとこね。二人共、実戦は初めてなんだから、ファーストキルには手頃な相手……ちょうどいいんじゃないかな?」
お姉ちゃんの指示をユウキくんとクマさんに伝える。
二人共、無言で頷いてくれる。
緊張してるみたいだけど、確かに一匹づつなら、練習にはちょうどいい。
相手は陽動のつもりなんだろうけど、すでにユウキ君が見つけてるから、もはや陽動でも何でもない……お馬鹿……と言いたいけど、事前情報があったからこそ、準備万端で迎え撃つことが出来てる。
これも、お姉ちゃんって言うチートのおかげ……。
……慢心はしないぞっと。
「正面はランタンの光で牽制して、上手くトラップにかかったら、間髪入れずユウキくんが片っ端から撃つ……ターゲッティングのやり方は、シズルが言ってたやり方でいいと思う。とりあえず、これを乗り切らないと先も何もないから、ゴリ押し短期決戦で一気にやっちゃってっ!」
さすがお姉ちゃん。
判断に迷いってもんがない……直接、皆にお姉ちゃんの言葉が伝われば、いいんだけど、そうも行かないから、私がお姉ちゃんの言葉を伝えて、指折りしてカウントダウン。
「……3、2、1……今っ! ユウキ君っ!」
まずは、勇者モードを発動して、立ち上がる。
予め、立ち上げておいたステータス画面から、強化魔法「鋼の守り」を全員対象で発動っ!
体にまとった空気がズシッと言った感じで重くなる。
ちなみに、全員同時発動だとMP消費が激しくなるんだけど、勇者モード中のMPは軽く1000オーバーだから、20とか30程度の消費……問題にならない。
続いて、ユウキくんの第一射。
左側の茂みに隠れてるヤツ……暗がりの中で相手の姿もロクに見えてないんだけど、躊躇い一つない容赦ない一撃。
音もなく放たれた光の矢が茂みに飛び込み、一瞬だけガサッと草が鳴って、続いてドサッと言う音。
けど、それっきり沈黙。
「……クリア」
短く一言。
それは索敵スキルから、敵が消えた事を意味していた。
凄い……一撃必殺。
……ゴブリンがどうなったのかとか、確かめるまでもない。
「筋力強化ッ! クマさんっ!」
つづいて、筋力強化をクマさんへ付与。
クマさんが右側に潜んでるゴブリンの方へ走っていくのを見送りながら、今度は、正面の獣道をランタンの光でスポットで照らす。
実は、このランタン……正面部分はスリットの入った窓みたいな感じなんだけど、レンズみたいなのを入れて、光を絞ることも出来て、そうすると強い光になって、遠くまで届く上に、ピンスポットを照らせるようになる。
単なるライト代わりとか思ってたけど、今みたいに10cmくらいまで絞れば、ポインターにも使えるって気づいた。
ランタンの点灯中は、私のMPがじわじわ減るんだけど、この光にはMP回復の効果もあるって事も解ってる。
その辺は、ユウキ君の弩の射撃練習中に判明……。
……ヤバイ、私ちょっと始まった!




