第六話「夜の静寂に」⑤
うーん? あんま自信ないけど、お色気作戦でその気にさせたりとかやってみるか……。
男子を誘惑とか、そんな経験ないけど……女は度胸っ!
「大丈夫……。君は勇者の武器に選ばれたくらいなんだから、君はきっと強い子だよ。お姉さんがそばに居てあげるから、頑張って! やれば出来るって!」
そう言って、気安い感じで少年の隣に行って、ギュッと抱きついてみる。
腕に胸とか、ムギュッと押し付けたりとかしてみるんだけど、なんか真面目そうな子だし、こんなん効くのかな?
なんかの漫画で、男が落ち込んでる時とかに、こうすると効くとかなんとか言って、色っぽいおねーさんが、純朴青年を奮い立たせたりとかしてたけど……。
と言うか、我ながら、モノすご~く恥ずかしい事やってるような……。
「そ、そう言えば、お礼がまだでしたね! ありがとうございました! あ、あと……そ、その……腕に、当たってるんですけどぉ……」
最後の方は、消え入りそうな感じで、顔真っ赤になって、スススっと腕をひかれる。
……なにこれ、か、かわいいっ!
この子から見たら、わたしは年上のおねーさん……普段周りにいるお子様ガールズとは訳が違うだろう。
何より、こんな風に異性として意識されるってのは、気持ち悪いとかよりも、むしろ、思った以上に、テンション上がる。
年上のおねーさんに頼られる……少年目線だと、もうドキマギとか、そんななのかもしれない。
今ので、すっかり意識されてしまったのが解る……豊満なバストもこんな風に役に立つなら、ちょっと得した気分かも。
ちらっとお姉ちゃんの方を見ると、ショボーンと自分の胸を撫で回してる。
すまぬ、姉よ……こればっかりは、わたしの専売特許なんだ。
……ちょっとした優越感。
「あ、ゴ、ゴメンね……。あ、そうだ……名前っ! 少年とかじゃ呼びにくいしねっ!」
そう言って、一歩離れる。
正直言って、超恥ずかしい……クマさん、なんか呆れてるっぽいし……。
なんか、困ったように苦笑いされてる。
「そ、そうですよねっ! ボ、ボクは西治優希って言います。勇気ある男になれって事で、こんな名前付けてくれたらしいんですけど、全然駄目ですね。いつも、肝心な所で逃げちゃって……臆病なんですよ。ボク……弱々しいって、良くいじめられるし……」
なんか、クマさんと似たようなこと言ってる。
でも、ヘタレっぷりならわたしも、あんまり人のことは言えないし……。
お馬鹿で乱暴なんて、キッズ男子のテンプレよりは、よほど好感持てる。
と言うか、仕草がなんと言うか……むしろ、女の子っぽいんですけど……。
「ユウキ君かぁ……わたしも自他ともに認めるヘタレだからね。けど、臆病だからって、何も出来ない訳じゃないよ。ここで逃げたら駄目ってところで、踏ん張れれば、それでいいと思う。そこのクマさんだって、こんなデッカイのに結構、怖がりみたいだしね。でも、ちゃんとここぞって所で、カッコいい所を見せてくれた。やっぱり、イイ男ってのはこうでなくちゃね!」
そう言って、チラッとクマさんを見ると、ブホッて感じで吹き出される。
ちょっ! 何その反応っ! あー、もうっ! せっかくイケてるお姉さんを気取ってたのに、色々台無しっ!
「ははっ! 持ち上げてくれてありがとう。でも臆病なのは……否定しないね。でも、大丈夫! 君達のことは、僕がこの身に変えても必ず守ると誓うよ。そこの看護師さんもね! とにかく、もうすぐモンスターが襲ってくるんだよね? 坊や……ユウキくんは戦えるのかい? と言うか、無理に戦う必要なんてないと思う……。子供を戦わせるとか、絶対間違ってる。僕はこのメンツでも最年長だからね! ここは僕に任せてくれ!」
クマさんもそれなりに考えてたみたいで、そこら辺の太めの木の枝を拾ってきて、片手で軽々と振り回してる。
でも、クマさんはそう言うけど。
ユウキ少年が使い物になるかどうかで、ゴブリン襲撃の際の攻略難易度が変わってくる。
ゴブリンの攻め込んでるルートは割れてるけど、相手は数で押すタイプ。
接近戦で相手が何匹も居たら、いくらクマさんがパワフルでも押し負けかねない。
ゴブリンも自分達の非力さは解ってるから、毒を塗った武器とかで攻撃してくるから、かすり傷ですら致命傷になりかねない。
だからこそ、トラップで足止めした上で、弩で一方的に仕留める……安全かつ、堅実な対応。
間違いなく、これが今の戦力でのベスト対応……。
はっきり言って、ユウキ君が戦えるかどうかが、死活問題なのだ……。
どうしよう、勝ったら好きなだけ、胸を触らせてあげるとか言ったら、やる気になってくれるかな?
ユ、ユウキくんなら、乱暴もしなさそうだし……きっと優しくしてくれるかも?
「んっと……ユウキくんは、遠距離攻撃型の弩の勇者だからね。君が戦ってくれると、全員生き残れる確率が高くなるのは、確かなんだよ……」
「ボ、ボク次第って事なんですか……。あ、あの……ボクなんかが、モンスターなんかと戦えるんでしょうか?」
「……その弩、小さいけど、多分拳銃くらいの威力はあると思う。君だって、その弩が選んだ勇者である以上、素質はあるはず。つまり、戦う術はある……けど、君が戦えないって思ってるなら、しょうがないし、強制もできない……決めるのは、君だよ」
……でも、実を言うと、ユウキ君が最終的にどうするかってのは、もう解ってる。
お姉ちゃんは、ユウキ君が、わたしと一緒に戦ってるって言う未来を見てるそうな。
この場では、断られるかも知れないけど、彼はちゃんとやってくれるのは間違いない。
なんかズルっこいけど……とにかく、頑張れ男の子っ!
ううっ、なんだろこの感覚……すっごく応援したくなる!
……クラスの男子とか相手には、絶対沸かなかった感覚だ。
「少しだけ、練習する時間はありますか? いきなり戦えって言われても、多分無理ですから。人間ってのは訓練してないことを本番で出来る……そんな事ありえませんからね」
うん、悪くない返事だった。
それに、さっきまでポヤーンとしてたのに、スイッチが入ったようにキリッとした顔になってる。
返事代わりに、笑顔で応えるとユウキくん、ちょっと照れ臭そう。
……ちょっと、お姉さんぶっちゃったけど。
実際、わたしは年上のお姉さんなんだもん……弟とかって、こんなかな? なんて思ったりもする。
女性向けの恋愛小説やら漫画なんかで、ショタボーイってのも定番キャラなんだけど、その魅力が解ったような気がする。
外見は子供、中身は大人の名探偵とか、何十年も続いてるけど、あの人気も解るわー。
でも、ユウキ君……むしろ、女の子みたい……なんだよねぇ……。
なんか、女装趣味で女の子にしか見えない男の子……いわゆる男の娘キャラってのもいるみたいなんだけど。
どうなんだろ? これ。
ちなみに、弩の扱いは、お姉ちゃんが知ってたので、そのまんま聞いたとおりにレクチャーする。
なんでも、先代の弩の勇者って、結構長く生き延びた勇者の一人で、お姉ちゃんともパーティ組んでたらしく、色々と話を聞いてたり、側で一緒に戦ってたから、基本戦術とか武器としての性能なんかもよく知ってるらしい。
お姉ちゃん本人も市販品の弩で遠距離戦……なんかもやってたんだとか。
弩は弓矢と違って、連射とかは利かない代わりに、伏射……地面に伏せた状態で、撃てるってのが利点のひとつ。
伏せてれば、身体も動かないし、石とかの上に弩を置けば、照準も安定する。
何より、伏射姿勢の利点は、相手が飛び道具を使ってきても、目標が小さくなるから、当たりにくくなるし、カモフラージュとかしておけば、相手から見つけるのも難しいという点にある。
戦争映画なんかに出てくるスナイパーなんかに限らず、兵隊さんが伏せて射撃してるのは、その辺が理由なんだとか。
おまけに、弩の勇者は索敵スキル付き。
ユウキくんの話だと、視界にサークル状の周辺マップみたいなのが見えてて、2-30mくらいの範囲なら、視界が通って無くてもどこに敵がいるかとか、味方の位置もひと目で解るんだとか。
コレ持ってるのは、お姉ちゃんの話だと、弓と弩の遠距離アタッカー系、暗殺者や双剣士……この辺の斥候系のクラスだけなんだとか。
ちなみに、魔法職の水晶玉のクラスは別格で、km単位の索敵能力があって、視点自体を遠くに飛ばして、水晶玉に写すとか出来るらしいんだけど、お姉ちゃんもあんまり詳しくないみたい。
ついでに、弩には、狙撃スキルってのもあって、ここを狙うって決めたら、ほぼ確実に当たる。
狙ってから発動、撃つまでの時間が少々かかるのが難点だけど、弩自体、動き回ったり、手数で勝負するよりも、一箇所で動かずに、一発一発を確実に当てていくスタイルだから、慣れないうちは狙撃スキルで、確実に当てていくのがいいんじゃないかって、アドバイスしておいた。
……矢はどうするのかと思ったら、弦を引くと光が集まって、矢の形になって、引き金を引くとそれが飛んでいくような感じ。
当然ながら、連射は全然利かないんだけど、その威力は、太い木の枝をあっさり貫通して、粉々にするほど。
こんなジャングルの植物程度なら、遮蔽物にもならない恐るべき破壊力。
……弩、お姉ちゃんが強クラスって言うだけに、かなり強い。
攻撃間隔が長くなりがちで、隙が大きいって欠点があるけど、威力がとんでもないし、射程もかなり長い。
命中精度も高いし、ユウキ君のは小型だから、非力なユウキ君でも十分扱える。
弓の方は、飛び道具っても射程も短めで、割と手数で勝負って感じみたいなんだけど、こっちはホント、スナイパーって感じで、一撃必殺で仕留めていくスタイル。
接近戦に持ち込まれなければ、普通に強い上に、射程でも一般的な魔法よりも上だから、魔法使いタイプにとっては、もはや天敵に近いらしい。
何より、ユウキ君……。
この子なにげに、尋常じゃない集中力の持ち主だった。
集中すると、微動だにしなくなるし、声掛けても気づかないくらい入り込む。
本人によると、周囲の音や人の声も聞こえなくなるし、緊張とかプレッシャーも何も感じなくなるんだとか。
普段の生活でもそんな調子で、本とか読んでるうちに、いつの間にか夜が明けてたとか、勉強なんかも教科書読んでたら、いつにまにか授業終わって、誰も居なくなってたとか、よくあるんだそうな。
……なんか、スポーツ選手とかが、たまに言ってるゾーンってのに近いかも。
お姉ちゃんですら、関心するレベルなんだから、相当なもの。
凄いなぁ……ユウキくん。
もちろん、この超集中力ってのは、スナイパーとしては、抜群の素質。
やっぱり、伊達に勇者に選ばれたって訳じゃないみたい……。




