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第六話「夜の静寂に」④

 改めて、周囲をランタンで照らしながら、じっくりと観察してみる。

 確かにパッと見、鬱蒼とした茂みって思ってたけど、良く見ると地面に植物が生えてない狭い道みたいなのがある。

 ああ、こう言うのが獣道なんだ……。

 

 ゴブリンの背丈は1mくらいしか無いらしいので、10cmくらいの足元スレスレと、50cmくらいの位置に釣り糸を張り巡らせておく。

 

 釣り糸も6号ってサイズで、1mmも無い太さだけど、こんなのでも10kgくらいの荷重に耐えられるって言うから、凄い。

 錬金術のレベルが上がれば、コピー錬成って言うそっくり同じものを複製する事も出来るみたいだから、そのうちこれ、いっぱいコピーしようっと。

 

 釣り糸を適当な枝に結んで、あちこちに張り巡らせる……即席ながら、トラップの完成。

 

 コレくらいの太さだと、ハサミとか使わないとまず切れないって、ホムセンの店員さんも言ってた。

 実際、10徳ナイフの小さなハサミだと中々切れない……。

 

 引っ張っても釣り糸自体が伸びるし、枝も動くから、刃物使ってもそう簡単には切られないはず。

 

 ……しかも、この釣り糸トラップ。

 半透明だから、ちょっと離れるともう全然、見えない……。

 

 そこにあるって知ってて、じっと見てると月明かりでキラッと光って解る程度。

 足元に張ったのになると、もう絶対解らない。

 

 お姉ちゃんから、目立つ位置と目立たない位置の二段構えにすると効果的って言われたから、こうしたんだけど。

 なるほど、こんなん余裕で引っかかる。

  

 作戦としてはシンプル。

 トラップにかかって、足止めされたところを遠距離攻撃で一方的に仕留める。


 取りこぼしは、クマさんとわたしがなんとかするしかないけど、一対一なら子供でも仕留められるような魔物だから、わたしでも十分なんとかなるそうな。

 

 けど、魔物とは言え、殺し合いになって、問答無用で相手を殺せるかってなると、かなり不安。

 

 お姉ちゃんアドバイスだと、剣を無心で振り下ろす……素振りやってる時の感覚で戦えばいいって言われてる。

 剣術の入り口は、最初はとにかくひたすら素振りって言うけど、アレにはちゃんと意味がある。

 

 型を体に覚え込ませておけば、イザって時も反射的にそのとおりの動きができる。

 

 イザとなると考える暇なんて無いから、体に覚え込ませた動きでオートマチックに対応する。

 なんだかんだで、それが一番いいんだって。

 

 体に染み付いた動きは、何も考えなくても出来る……そんな調子なんで、思った以上になんとかなるんだそうな。

 

 でも、ホントなのかな……? 昔ちょっと、お姉ちゃんと一緒に剣道場通って、この三週間、毎日素振り100回とかやってただけなんだけど。

 

 ちなみに、わたしにはお姉ちゃんと違って、剣術の才能なんて無かった……道場通ってる間は、試合では結局誰一人勝てずに終わった。


 背も人並み以下だし、体力ある方でもない……使えないなぁ……我ながら。

 

 即席釣り糸トラップを設置して、クマさん達のところに、戻ってくると、ちびっ子がもう起きてた。

 ぽやーんとしてる感じで、長袖のパジャマ姿。

 

 ……ボサボサ頭でおかっぱ頭……なんだけど、まつげの長い端正な顔立ちの男の子だった。

 体つきも華奢だから、てっきり、女の子……とか思ってたけど、まさかの美少年だった!

 

 ちなみに、どう見てもパッと見女の子なんだけど、パジャマのボタンが右で男物で、本人も男の子だと主張したので判明したと言う……。

 

 思いっきり小学生……感じからして、4、5年生くらいかな? 背丈はわたしより、ちょっと小さいくらい。

 まぁ、わたしが小さいんだけどね!

 

「……お、おはよ。しょ、少年……でいいんだよね? えっと、目は覚めた?」


 初対面なんだし、こっちは年上なんだし、年上のお姉さんぶってもいいよね?

 男の子と話とかって慣れてないけど、普通にハンサムなコだから、ついつい顔がニヤけてしまう。


「あ、はい……。あ、あの、ここは……? 大きなオジサンが言うには、熱帯のジャングルって話でしたけど……」


 見るからに不安そうで、思いっきりキョドってる。

 ……そりゃそうだろうね。


 でも、年が近いのと女の子相手だからなのか、少しだけ安心したような様子。


「……異世界のって付くけどね。少年、かなりパニクってたみたいだったから、とりあえず一人にするよりマシだろうって、一緒に連れてきちゃった。わたしはシズル……君、小学生くらいっぽいから一応年上だと思う。こっちのおっきい人はクマさん。そこで寝てるナース服のおねーさんは、まどかさん」


「やぁ、ははは。どうも……さっきは驚かせちゃって悪かったね」


 そう言って、ペコリと頭を下げるクマさん。

 そういや、後ろの方でウワァとか、なんとかやってたなぁ……いきなり、起きて目の前にこんなデッカイ人いたら、びっくりするだろうね。

 

 まどかさんは、まだ目を覚ます様子はない。

 MP切れで昏倒しちゃったら、半日は休ませないと駄目って、お姉ちゃんも言ってたから、とりあえず朝まで寝かせておくしか無い。

 

「えっと、状況は解ってる? 一応、君は弩の勇者なんだけど……。うん、武器は手放してなかったみたいだね」


 つり革みたいなので、首にかけてたみたいでちゃんと勇者の弩を身につけてた。

 割とコンパクトで、弦は折りたたみ式になってて、拳銃の引き金みたいなのが付いてる様子から、ピストルクロスボウってヤツっぽい。

 

 威力はなさそうだけど、割と現代風なデザインで、携帯性重視って感じ。

 他に見かけた弩の勇者が持ってたのは、もっと大きめだったんだけど……。

 

 もしかしたら、この子に体格に合わせてるのかも知れない……。


「ボ、ボクなんかが、勇者なんて……そんな……」


「んー、説明いる? ファンタジー系漫画とか小説とか知ってるなら、話は早いんだけど」


「は、はい……大体、解りますよ。お、お姉さんも……勇者、なんですよね?」


 お、お姉さん!

 確かにそうなんだけど、年下の子に言われると、なんだかぐっと来るものがあるね!


 しかも、内股でモジモジしながらとか。

 なんだか、むやみに可愛いぞ……この子。


「わたしは、ランタンの勇者……思いっきり、戦闘向きじゃない非戦闘系。そっちのクマさんは大盾の勇者で守り専門、まどかお姉さんは、メイスの勇者……ヒーラーって言えば解るかな?」


 ……つくづく、バランスって面で見ると、微妙なパーティだった。

 少年も、むしろ全然戦闘向けじゃないように見える。

 

 でも、彼は勇者の武器でもかなり強力な弩の勇者……どこまで戦えるんだろう?

 

 コウさんとかも、武器を手にした時点でどう見てもインドア派の普通のヲタクだったのに、一端の剣士みたいになってたし……。

 この子も見た目からすると、戦えるようには見えないけど、案外普通に戦えるのかもしれない。

 

「なんだか、ゲーム……RPGみたいな感じですね……。でも、戦士とか魔法使いは? こう言うのって、そう言う人達が前に出て、メインで戦うんじゃないですか? 盾役と回復役……支援って感じなんですよね。となると攻撃役は?」


 さすが、今日日の小学生。

 ゲームとか詳しいみたいだった……確かに、MMOなんかでも小学生プレイヤーなんてのが、結構、紛れてたりするしねー。

 それに、公園とかで集まって、皆で携帯ゲームで対戦したり、協力プレイってのが最近の子達の遊びの定番。

 

 もっとも、ネトゲなんかだと、キッズ共って総じて、お子様思考でウザがられたりする……。


 わたしもキッズ扱いされても文句言えないんだけど、お姉ちゃんにネットマナーとか叩き込まれてたから、そこまで迷惑はかけてなかったと思う。

 

 この子は割と、礼儀正しいみたいだし、男の子にしては、かなり大人しめに見える……。

 小学4、5年の男子とか、馬鹿ばっかりだった事を考えると、全然イイ。


「……とっさに連れてこれたのが、君とまどかさんだけだったからね。お察しの通り、パーティーバランスとしては良くない。だからこそ、君が頼りなんだよ。選り好みしてるような状況じゃなかったからね……」


「そうなんですか……ごめんなさい。ボクも怖くて震えてることしか出来なくて……」


「うん、それはいいよ。でも、クマさん、三人も抱えて凄かったねー」


「僕も必死だったからね。けど、シズルちゃんが色々指示してくれたから、なんとか動けた。ああ言うときって、自分ひとりで判断するんじゃなくて、全体を見て指示を出してもらった方が動きやすいんだ。ほら、火事なんかでも自分一人だとどうしていいか解らなくて、動けなくなっちゃいがちなんだけど、下へ逃げろ! とか言ってくれる人がいたら、皆、従っちゃうもんなんだよ。もちろん、その言葉が正しいってのが前提なんだけど、君はあの時点で皆に、チュートリアル役として、信頼される程度には重要な情報を色々教えてくれてたってのは、大きいだろうね。まだ小学生くらいなのに、よくやったね」


「へぇ、そんなもんなんだ……。確かに、とっさに叫んじゃったけど、結構皆、わたしの言う事聞いてくれてたみたいだよね。そっか……少しは信頼されてたんだ。皆、無事だといいんだけどね……。と言うか、クマさんっ! わたし、これでも中学生! こんな立派なお胸の小学生とか流石に居ないでしょっ!」


 わたしは、お姉ちゃんと言うアドバイザーがいるから、まだマシだけど。

 ……他の人達はどうなったのやら。

 

 この調子だと、わたし達みたいに森の中とか山奥へ飛ばされたケースも多そうだし……。

 とは言え、現状どうしょうもない……あのまま、まとめて一網打尽で捕まって、奴隷にされるとかより、全然マシだったとは思うけど……。

 

「あ、そうだったんだ……確かに、小学生にしては巨乳……いや! なんでもないっ! け、けど……坊やも危なかったよ。拾っていかなかったら、今頃一人で訳の解らない所で、途方に暮れてたんじゃないかな……。怖かったでしょ? ああ言う時は、近くの大人を頼るのが一番なんだよ」


「ごめんなさい。もう何が何だかだったし、人がバタバタ倒れて、王様みたいな人が刺されて血がいっぱい出て……」


 思い出してしまったのか、蒼白な顔でガタガタと震えてる少年。

 

 思いっきり、通り魔殺人を目の前で見せられたようなもんだよね……あれ。

 PTSDとかなっても、全然おかしくない。

 

 ううっ、これで戦えとかやっぱり酷な話だよ……。

 でも、今のメンバーで唯一のアタッカーであり、遠距離から一方的に敵を倒せる弩の勇者は、これから起きる戦いでは、必要不可欠と思っていい。

 

 彼をメインアタッカーにして、彼を守りつつ、戦う……今のメンツだと、それしか考えられない。

 

 なんとか、やる気にさせないとだね……こりゃ。

ユウキ君は……シズルも察してる通り、いわゆる男の娘です。(笑)

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