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第六話「夜の静寂に」③

 むぅ……気配とか、そんなの良く解らない。

 直接的な戦闘力がない以上、せめてレーダー役って思ったけど、やっぱりわたしは経験ってもんが全然足りてないね。


「お姉ちゃん……野生動物とかモンスターって、ここ出てくる?」


 ……でも、わたしにはお姉ちゃんが付いてる!

 困った時はお姉ちゃん、ヘルプっ!


「いやぁ、クマさん凄いわねぇ……サバイバル知識あり過ぎ……登山とか言ってるけど、冬山アタックとかやってたようなガチ勢っぽいね。私らの時も野外生活とか最初大変だったよ……。そんなサバイバル知識とか私含めて、誰も知らないもんで、色々試行錯誤や失敗しまくって、現地の人に教えてもらったりとかそんな調子。こんな凄い人と一緒になれたの、絶対ラッキーだよ? って……森で、向こうから、襲いかかってくるようなモンスターにどんなのがいるか……だよね?」


「そそ……本題はそっち。普通の動物なら、焚き火焚いてれば、あんまり来ないみたいだけど。普通の動物だけじゃないんだよね……当然ながら」


「そうね……モンスター……人を襲ってくるとなると、昼間の森だと、知能が足りない巨大昆虫タイプのとか、歩くキノコとか待ち伏せタイプの植物系がメインだけど。ゴブリン辺りは、どこへ行っても大抵出食わす定番モンスター。なにせ、ゴブリンってどこにでも湧くからね。アイツら火も恐れないし、夜目も利く。夜の森のなかで光源なんて、格好の目印だから、すでにマークされてるかも……。一応、未来さきを観てみるから、チョット待ってね……」


 お姉ちゃんがそう言って一旦言葉を切る。

 未来視……目が青くなって、遠くを見てるような感じになって、なんと言うか神々しい感じ……。


 お姉ちゃんのチート能力、発動中。

 唐突に、遠く離れた場所での未来のビジョンが降りてくることもあるし、その気になれば、こんな風にその場所で未来に起きることも見える。

 

 戦いとかだと、数秒先を先読みとかも出来るって話だし、そりゃ剣王とかものすごい二つ名が付く訳だよ。


「あちゃ……シズル当たりよ。多分、30分くらいしたら、風下の方からダース単位でゴブリンが襲ってくる。……今のうちに、あの辺りの獣道に警戒兼足止めのブービートラップでも設置しとくといい。それとそこのちびっ子をすぐにでも起こして……多分、その子が勝利の鍵になるから。その子、弩の勇者……索敵能力と遠距離攻撃力はトップクラスの強クラスだから、この状況では、物凄く頼りになるはずよ」


 やっぱ、お姉ちゃんって、チートだよなぁ……。

 ダース単位のゴブリンの奇襲……危なかった。


 まともに、そんなの食らってたら、あっという間にやられてたかもしれない。

 

 しかも、風下からとか……風上なら匂いや音も伝わりやすいけど、こんなジャングルみたいな所、それも夜間、風下に回られると、気配も音も伝わりにくいし、匂いもしない……森での戦いに慣れてる相手ってのは、タチ悪いな。


 それに、ゴブリンがどう言う生き物かってのも、大体知ってる。

 万が一、生け捕りなんかされたら、死んだほうがマシ……みたいな目に遭うだろう。


 情けや容赦なんてかけていい相手じゃない。

 

 すぐさま、バッグから釣り糸を取り出す……500m分と結構ある。

 お姉ちゃんとホムセン行った時に多分役に立つと言われて買っておいたけど、早速役に立ちそうだった。

 

 と言うか、チビちゃん……弩の勇者だったんだ。

 良かった……このメンツだと唯一のアタッカー……とっさに拾ってもらったんだけど、拾って正解だった。

 

 けど、弩とか遠距離戦特化だから、懐に飛び込まれたら、間違いなく脆い。

 わたしより、小さいんじゃ白兵戦とか論外。

 

 となると、接近戦や乱戦になった時のフォローも考えないと……。

 

 場合によっては、わたしも戦うことを考えないとだね……。

 武器になりそうなものもいくつか持ってきてはいるから、準備だけでもしておこう。

 

「ど、どうかしたのかい?」


 慌てて、立ち上がってランタンの光を絞ると、クマさんも立ち上がる。


「……ゴブリンの襲撃があるって……数は10匹以上。風下から来るらしいから、そこにワイヤートラップ仕掛ける。それと……明るいほうが良いと思うので、松明とか篝火とかって作れませんかね?」


「……ゴブリンって言うと、確か雑魚キャラの代名詞みたいな奴だよね。強くはないの……かな?」


「毒を塗った竹槍とか、石斧で襲いかかってくるから、基本一発ももらっちゃ駄目。向こうは夜目が効く代わりに、光に弱いから、明かりが重要……ものすごく凶暴だから、手加減とかしちゃ駄目。あとチビちゃんも起こしておいてくださいね」


 事前に聞いてた異世界知識。

 

 ゴブリンって、そんな感じらしい……。

 男は皆殺し、女と見れば、生け捕りにして……これ以上は説明不要だと思う。

 

 ぶっちゃけ女の敵……見かけ次第、問答無用ぶっ殺しでOKってお姉ちゃんも言ってた。


「ああ、解った……こっちは任せて! そうか、野生動物じゃなくて、モンスターってのはむしろ、積極的に襲いかかってくるからモンスターなんだね……。そりゃ、盲点だったね」


「……少しも、疑わないんですね。モンスターとか、出くわしても居ないのに」


「いやぁ、君の言うことを聞いて正解だった事はあっても、失敗だったことは、今の所ないからね。この状況で嘘なんて言う訳無いでしょ? 確かに君は子供だけど、びっくりするほど決断力もあって、知識も豊富だ……。君の言葉を信じる……多分、それが皆、生き残れる道だと思うんだ」


「……ありがとなのですよ」


 そう言い残して、わたしはひとり風下の茂みへと入り込む。

 

 一応、ホームセンターで売ってた折りたたみ式のシャベルを取り出して、目の前のヤブを薙ぎ払ってみる。

 

 先端とか、お父さんが倉庫にしまいこんでたグラインダーでガリガリ削って、薄くして刃を作ってみたんだけど、バッサバッサと簡単に小枝とか草のツルを薙ぎ払える。

 

 ……これなら、十分武器にもなりそうだった。

 

 実際、第一次世界大戦の塹壕戦なんかだと、このシャベルが一番、有効な武器だった……なんて話もあるみたいだし、持ってきた荷物の中で一番重たかった。


 ナタとか斧は、未成年には売れないって話だったんだけど、折りたたみシャベル買うくらいは問題なかったってのもある。


 なんか、普通にこっちのが凶悪な気もするよ?

 

 でも……なんか、家で試しに使った時よりも軽いような。

 元の世界にいた頃より、腕力とか上がってるような気がする。

 

 これが勇者補正? ジャンプ力とか、足の速さも上がってるかも知れない。

 変身して無くても、それなりにクラス補正とか付いてるのかも。


 ドーピングで筋力強化とかも出来るらしいし、錬金術師は身体能力の強化魔法も使えるみたいだから、基礎能力を底上げすることで、わたしでも十分戦力になるかも……と言うか、人頼みとかありえないし、わたしだって戦えないと……だよね。

 

 けど、そんな事をやってると、ガサガサと何かが遠ざかっていく音がした……。

 

「案の定……斥候が来てたみたいね。鉢合わせしなくてよかったね……けど、これで少し未来が変わったかも。ちなみにあのまま何もしなかった場合は、奇襲されてまどかさんとチビちゃんが殺されてた。連中、一斉に襲いかかって、動けない人とか弱ってる人を集中的に狙ってくる……。それに女子供と見るともう目の色変えてくるからね」

 

 危うし危うし……多分、敢えて黙っててくれたんだろうけど、なんて怖い事を言うんだろう。

 と言うか、女子供って……思いっきり、わたしもなんだけど。

 

 ……随分慌てて、逃げていった様子から、多分わたしが気づいて、追い払いに来たとか思ってそう。

 

 こっちは切れ味確認くらいの感じで、藪を払ってたんだけど、向こうからしたら問答無用で斬りかかってきたって感じだったんだろうね。

 

 向こうからしたら、隠れてた所に、頭の上を掠めるくらいしたのかもしれない……見つかってないと思ってる中で、いきなりそんなの……そりゃ、ビビるでしょ。


 まぁ、なんと言うか……怪我の功名?

 

 相手は、知恵ある生き物……緒戦の相手としては、ゴブリン相手って、ありがちだけど……。

 実際にやり合うとなると、かなり嫌な相手だなぁ。

 

「お姉ちゃん、ゴブリン側はどう出ると思う? 今ので向こうもすんなり奇襲とか出来そうにないって、思うんじゃないかな」

 

「そうね……斥候も見つかったとなると、戻って本隊と合流。現状、こっちが何やってても、向こうは解らないはずだけど、コレくらい諦めるような可愛げのある奴等じゃない。この森って、風向きは一定してるみたいだから、少なくとも風上からは来ない。この空き地の外周部を見た限りだと、5箇所くらい獣道があったから、とりあえず、釣り糸で全部封鎖しちゃいましょう。侵攻ルートが限定されて、飛び道具ありってことなら、かなり有利になる」


 ……あんな真っ暗で、獣道とかって、解るようなものなんだ。

 わたしには、ここに獣道があるってのも、近くに来ても良く解らない。


 水場なんて普通に動物たちの人気スポットだろうし、獣道がいっぱいつながってるのも解る。

 けど、この獣道が侵攻ルートになるってのは、実際どうなんだろう。

 

「でもさ、そんなゴブリンもご丁寧に獣道なんて使うの? そんなの使わなくても、藪かき分けていけば済むんだから、変なところから、飛び出してくるとかもあり得るんじゃないかな?」

 

「それが、獣道って動物だけじゃなくて、モンスターや人間もめっちゃ活用するんだよね……。なにせ、獣道以外となると、このぎっしり茂った藪を踏み分けて、通らないといけない。こんな藪、無理に通ろうとしたら、ガサガサ言うし、進みも遅い……だから、空飛んだりでもしない限り、基本的にモンスターだろうが、獣だろうが、森の中では、こう言う獣道に沿って動くもんなのよ」


「な、なるほど……逆を言うと、こう言う視界の悪い森のなかでも、予め獣道を調べておけば、敵の動きが読みやすいってことね」


「そそ、連中はとにかく数頼みだから、基本は兵力一点集中……一人相手に5-6匹とかまとめて群がるような感じで襲いかかってくる。兵力小分けにして、波状攻撃とか仕掛けてくるような知恵なんて持ってない。まぁ、ベスト対応としては、罠とかで足止めすれば、勝手にグダるからゴチャゴチャやってる間に、遠距離攻撃で一方的に潰す。言っとくけど、可哀想とか言ってたら、自分達が死ぬから、情けは無用! まぁ、最初はキツイけど実戦で戦う以上、躊躇っちゃ駄目、解った?」

 

 ……容赦ない姉の言葉。

 現代人なんてやってて、そんな凶暴な生き物と殺し合うような機会なんて無い。

 

 実戦とか言われても、どこまで出来るか解らないけど……死にたくなきゃ、やるしか無い。

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