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第六話「夜の静寂に」②

「ははは、改めて言われると照れるね。けど、ここは……植生からすると、東南アジアのジャングルとかそんな感じみたいだね。ヘゴ、モンテスラ、パーム……シダ植物や低木ばっかりだ。枯れ葉や枯れ草が目立たないのは、南の方って冬がそもそもないからね……だから、植物も一年草以外はあんまり枯れたりもしない。となると、緯度的には赤道が近いのかもしれないね……。ひとまず、凍死の危険はないのは、安心材料かな。屋外で寝泊まりするに当たって、一番危ないのは寒さによる低体温症……凍死なんだ。暑いのは水と塩分さえしっかり取ってれば、割と何とかなるんだけど、寒いのは、ホントどうしょうもない……」


「……く、詳しいのですね」


 驚きの知識量。

 わたしもアウトドアで寝泊まりすることとかも想定して、色々勉強したけど。

 所詮は、実践を伴わないにわか知識に過ぎないのですよ……やれたことは、実際、寝袋で寝てみたとかそんな程度。

 

 だって、向こうは思いっきり冬だったから、キャンプのマネごととか、寒くて普通に心折れた。

 自転車で河原まで行って、寝袋入って寝っ転がってみたりとか、そんなもんでした。


「一応、地方暮らしで農家育ち……趣味でソロキャンプとか山登りやってたからね。それに大学では植物学を専攻してたから、植物に関しては、かなり詳しいと思う。けど、異世界だけにやっぱり見たことも無い植物も多いね……。でも、熱帯系の植物の特徴があるものばかりだから、気候的には熱帯雨林気候ってところだろうね。コケが多いってことは、湿度は高め……。昼間は暑さがヤバイかもしれないし、この分だと雨が降る時は、ハンパないだろうね……」


 ……大柄でがっしりしてるから、てっきり体育会系の人かと思ったら、クマさん、思いっきりインテリ系だった。


 しかも、植物学とか……どんな学問なのか、よく知らないけど。

 こんなパッと見渡すだけで、気候帯まで見当付けるって、なにそれ、凄くない?

 

 確かに、植物の感じが、わたしが住んでた横浜辺りとかとは、ぜんぜん違うのは解る。

 横浜もちょっと奥に行くと、山とか田園風景とか広がってるから、緑に縁のない生活送ってたわけじゃないんだけど。

 確かに言われてみると、南国っぽい感じがする。


「東南アジアとか……外国に行ったことあるのです?」


 わたしは……と言うと海外どころか、沖縄とか九州すら行ったことない。


 江ノ島くらいなら、連れて行ってもらったことあるけど……思いっきり、橋で地続きになってるから、本州から出たこともない。


 学生……それも女子中学生に、そんな豊富な人生経験とか求めちゃいかんのですよ。


「うん、何度かあるよ。仕事でベトナムに何度か行ったんだ。サイゴン近郊に道路作るってんで、現地調査……下見で行ったんだけどね。虫とか凄かったし、とにかく、どこ行っても蒸し暑くてさ。もっとも、冬のロシアとか行った身の上としては、寒いより暑い方が断然いいと思う……。人間に限らず、寒い方が危険なんだよ……どんなに装備を充実させても氷点下行くような寒い所では、凍死の危険は常に付きまとうからね」


 ベトナム……サイゴン。

 怒りの脱出……だっけ? 外国のことは映画とか、TVでしか見たこと無いなぁ。


 寒いなら、上着とか重ね着すれば大丈夫だけど、暑いのは服を脱ぐっても限度あるから、夏よりも冬のほうが過ごしやすいって思うんだけど……。

 そう言うものでもないんだ……。


「そ、そう言うものなんですね……。寒くても着込めばなんとかなるって思うんだけど……」


「もちろん、極地用の重装備ならそれなりになんとかなるけど。限度ってもんがあるからねぇ……冬山なんてホント、一寸先は死……そう言う世界なんだ。逆に、暑さで死ぬ人なんてまず居ない……そこらで適当にごろ寝したって、別に死にゃしないだろうからね。雨も派手に降るけど、濡れてもすぐ乾いちゃうから、むしろ飲み水には困らないし、食べ物も豊富だからね……。自給自足サバイバルの難易度は、暑いところの方が断然低い……そう言うものなんだよ。寒いところだと、のどが渇いたからって、雪や氷を食べるなんて自殺行為だし、川ですら凍るから、水も飲めない……食べ物なんてまず見つからない……それを考えると、ここは悪い場所じゃないね」

 

 なるほど、寒いところでサバイバルとか、無茶ってのは何となく解る。

 冬の山とか確かに何もなさそう。


 でも、水の代わりに雪食べるのって、駄目なんだ……寒くても雪が積もってれば、水なんていくらでもあるって思ってたけど、まさに素人考えなんだね。

 

 うーん、ためになるなぁ……。


 ……でも、土の上なんかで、寝れるもんなのかなぁ。

 ここの地面、苔の上に座ると、お尻がビチョッとなるからあんまり座りたくない……。

 

 自給自足サバイバルって……そうか、人里からどれくらい離れてるか解らないから、当面はそうなるのか。


 でも、クマさんもそんなに深刻に思ってないみたいだから、ここは頼りにしちゃっていいのかな?

 

 ちなみに、クマさんは話をしながら、苔の上に葉っぱやら何やら積み重ねて、森の方に行っては枝とか枯れ葉をジャンジャン持ってきて積み重ねていってる。

 

 如何にも手慣れてる感じで、見る間に焚き火の準備が出来ていく。


「焚き火の準備……なのですか? 手伝いますよ」


「御名答、焚き火はアウトドアの基本、手慣れたものだから、任せてよ。こう言うときは、まず焚き火をするのがセオリーなんだ……。ライトは節約しないとだし……大抵の獣が火を恐れるからね。それにもしも、近くに飛ばされてる人達がいたら、煙を目印に合流できるかも知れないし、近くの人里から誰か様子見に来てくれるかも知れない。まぁ、とりあえず明るくなるのを待ってから、近くを散策してみるよ。ジャングルってのは、食べられるものも意外と多いから、そこら辺は任せてよ」

 

 わたし、鑑定スキルあるけど……植物とかみんな一緒に見えるよ?

 

 ギザギザしたのとか、丸っこいのとか……。

 わらびのオバケみたいなのもニョキニョキ生えてる……。


 よく見ると、苔の隙間にもちっちゃい虫とかうじゃうじゃしてるけど……。

 

 あんまり、じっと見てたくない……。

 

 この調子だと、植物の鑑定はクマさんに任せてもいいかも知んない。

 あ、そう言えば、明かりならあるじゃん。


「一応、これがあるから明かりは、心配要らないのですよ」


 そう言って、ランタンの正面の覆いを開くと、ぼんやりとした青白い光で、辺りが照らされる。


 まぁ、コレくらい役に立たないと……頼り切りとか申し訳ない。

 

 変身はもう解けちゃったけど、ランタンは謎の光源で熱くもならないし、煙も出ない。

 この光って、浴びてるとMP回復とかしたり、魔物がよってこないとかないかなぁ……。

 

「へぇ、用意がいいね。それって、LEDランタンか何かなのかい? だとしたら、電池は節約しないと」


「一応、これも勇者の武器なのですよ……。武器にはならなさそうだけど、多分、無限ランプとかそんな感じっぽいのです……なんと言うか、微妙なのですよ……」


 ちなみに勇者の武器の特徴の一つに、絶対に壊れないってのがあるらしい。

 

 クマさんの盾とか、要するに絶対防壁って事。

 そりゃ確かに強いわ。

 

 ランタンは……壊れないのは、雑に扱っても平気って事ではあるんだけど……。

 ……微妙。


「……いや、無限の光源とか普通に便利だと思うよ? でも、僕もこんな大きな盾しかないからね。とは言え、さっきみたいに、戦いになっても、動く壁にしかなりそうもないなぁ……」


「その勇者の大盾、絶対壊れないんだそうですよ。だから、遠慮なくガンガン受けちゃって平気なのです。だから、イザとなったら、守りはおまかせするのですよ。それに盾っても壊れないなら、それでガツンとぶん殴ったりするのもアリだと思うのですよ」


「そうなんだ……確かに、凄くしっくり来るし、物凄く軽いんだよね。誰かを守る力……か。あの時もこれがあればなぁ……。でも、あの時は、僕に勇気が無かったから……何も……」


 そう言って、なんだかズーンと落ち込まれてしまう。

 

 事情は想像するしかないけど、勝手に隣で落ち込まれても困る……。

 こう言う時って、どうすりゃいいんだか……困ったね。

 

 うーん、ここは何も解ってないフリして、よく解んないけど元気だせーって、励ます? とにかく、話の方向を変えないとだねー。

 

「と、ところで! ここってどんな感じのところだと思います? どうも南の方らしいってのは、クマさんの話で、解りましたけど。こんな目立つ所で野営とか大丈夫なんですかね」


 お姉ちゃんから、大体の位置は聞いてるけど、クマさんの見解も聞いておきたいし、話を逸らすのが第一なのですよ!


 ちなみに、今いる場所は20m四方くらいの丸い感じの空き地。

 すり鉢状になってて、一番低い所には水たまりみたいなのがあって、その側にまどかさんとチビちゃんを寝かせてる感じ。

 

 溜まってる水はどうも、苔に含まれた水がゆっくり流れこんで水たまりになってるみたいで、天然のフィルターで濾されてるようなものらしく、意外と綺麗……携帯浄水器や消毒用の塩素錠剤なんかもあるから、当面、水の心配はなさそうだった。

 

 携帯浄水器って、泥水でも飲めるくらいに綺麗にしてくれるんだけど、汚い水を濾すとすぐ詰まっちゃう……。

 元が綺麗な水なら、フィルターも長持ちするから、ここの水を濾したやつを出来るだけたくさん持っていきたい。

 でも、いれものがない……ビニール袋のロールとかあるけど、数に限りあるしなぁ……。

 

「とりあえず、ここは開けてるから、野営には向いてると思うよ。……ジャングルって、雷が落ちて樹が燃えたりして、こんな感じの空き地が割とあちこちに出来るんだよ……ただ、すり鉢状になってるから、案外隕石とかが落ちた跡かもしれないね。けど、森に何がいるかまでは解らない……。当然、野生動物とかいるだろうし、ファンタジー世界って事なら、怪物だって出るかもしれない。こう言う水場って動物たちも使うんだけど、大人しい動物なら警戒して寄ってないと思う。むしろ、肉食動物とかが、寄ってきそうなんだけど……火を怖がってくれると良いんだけどなぁ」


「流石に詳しいですね。けど、こんな広い場所で野生動物に襲われて、対応とか出来るのです? 動物って皆、足速いじゃないですか」


 昔、野良犬に追いかけられたけど。

 アレって、メッチャクチャ足速い……鎖もなくて、吠えながら突っ込んできたから、思わず背中を向けて逃げたら、ものすごい勢いで追いかけられた。

 

 危ういところだったけど、たまたまお姉ちゃんが迎えに来てくれてて、リコーダーで鼻っ面ガツンとやって返り討ちにしてくれた。


 当時、姉は小6……わたしは小1。 

 あの時は、お姉ちゃんが神様に見えた……けど、わたしって人に頼ってばっかりだよなぁ……。


「こう言う開けた場所は、向こうからもよく見えるけど、いきなり至近距離で襲われるってこともないから、ちゃんと見張り立ててれば、むしろ対応しやすいと思うよ。それに大抵の動物が人間を見ると逃げていくからね。山や森を歩く時は、むしろ、人間は存在をアピールした方が動物達との余計な接触は避けられる……そう言うものなんだよ」


 なるほど、確かにジャングルの茂みまで、軽く10mくらい離れてるから、茂みから敵が飛び出してきても対応する時間くらいはある。


 コレが森の中とかだったら、いきなり目の前に敵ってなるから、そんなになったらどうしょうもない。

 それに、動物が人間を見ると逃げるってのもよく解る……野良猫ちゃんとか、おいで~ってやってもむしろ、逃げちゃうもんなぁ……。


 ちょっと、聞き耳立てて、風の匂いなんかでも嗅いで見る。

 微かに風に乗って、動物園とか犬小屋の匂い……獣臭みたいなのがする……近くになんかいる?

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