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第六話「夜の静寂に」①

 ……昔、お父さんもタバコ吸ってたんだけど、クマさんの、お父さんが吸ってたのと同じ銘柄だった。

 ちょっと面白い箱のデザインで、箱に砂漠の風景とラクダの絵が書いてある……外国製っぽいタバコ。


 昔は、定番タバコのひとつで、どこでも売ってたらしいんだけど、今のはデザイン変わっちゃったみたい……クマさんが持ってるのも見覚えあるラクダのシルエットだけの味気ない感じ……。

 

 でも、煙の匂いとかは一緒……煙たいんだけど、この香ばしい香り……懐かしいな。

 

 タバコも側で吸われると煙たかったけど、器用に煙で輪っか作って見せてくれたり……。

 ヤニ臭さも……それがお父さんの匂いって、刷り込まれてたから、そんなに嫌じゃなかったし、ベランダで寂しそうにしてるところに行くと、頭なでてもらえたりして、自然とお父さんとのおしゃべりタイムになってた。

 

 ……お父さんとの、何となくいい思い出として記憶に残ってる。

 

 もっとも、お父さん……一度肺ガンで入院してから、強制禁煙ってなって、タバコもそれっきり。


 一度癌になると再発の危険もあるし、肺の一部を切除しちゃったから、もう一生タバコは吸えないし、激しい運動も出来ないって、悲しそうに言ってたんだけど。


 実際は結構、進行してて、お医者さんは、根治したのは奇跡だとか言ってた……。

 なんにせよ、無事生き伸びてくれたから、娘としては言う事ない。


 お姉ちゃんが居なくなってから、一年もしないうちだったから、もしもお父さんが死んじゃってたら、お母さんも耐えられなかったと思う。


 お母さんは、お姉ちゃんが守ってくれたとか言ってたけど、当の本人は驚いてたんで、あんま関係なさそうだけど……なんとなく、心当たりもあるっぽかった。


 本人曰く……どっかの泉の精霊に、残してきた家族皆が健康で長生きできますようにってお願いしたとかなんとか。


 なるほど……お医者さんも奇跡だとか言ってたけど、案外御利益あったのかも。

 機会があったら、お礼参りくらいしたいところだね。


 わたしがそんな風に、お父さんのことを思い出しながら、ぼんやりとクマさんの横顔を見てると、申し訳なさそうに火を消して、頭を掻く。

 

「ゴメン……。気が利かなくて、子供の前でタバコは無いよね……。昔、嫁さんにもよく怒られたもんだよ」


 衝撃の告白……クマさん、まさかの妻帯者だった!

 あー、でもそう言う事なら、話も繋がってくるな……。


「あ、あれ? 結婚してたんですか……なら、ご家族残してって……大変じゃないですか?」


 うん……一家の大黒柱が異世界転移して行方不明とか、えらいこっちゃです。

 そんな呑気にしてていい訳? って思わずにはいられなかった。


「してたと言うべきかな。今は独り身だよ……。色々あって、離婚されちゃったからね……。一人娘もいたんだけど、もう居ないしね……。会社もつい先日、倒産して残務処理の毎日……向こうには、もう何も無い……な」


 そう言って、寂しそうに遠い目をする。

 

 ……ああ、これはコレ以上聞いちゃいけない奴だ。

 会社の話もヘビーだけど、何より娘さん……もう会えないとかじゃなく、もう居ないと言う表現……。

 

 ああ、そうか……。

 だから、あんなにわたしを守ろうと、必死だったんだ。

 

 多分、わたしと同じかもっと年下の娘さんがいて、何かあって、守れなかったから。


 きっと、そんなところなんだろう……。


 呑気に頼もしそうだの、守って貰えそうとか、そんな風に思ってたけど。

 正直、無神経だったなぁ……と反省することしきり。

 

 人にそれぞれ、人生ありき……か。

 

 他の勇者の人達にも、それぞれいろんな人生があって……。

 当たり前なんだけど……こんな事に巻き込まれちゃって……皆、不安な夜を過ごしているんだろうな。

 

 これは、頑張って、全員生還、ハッピーエンドってやりたいもんだよ。

 

 とにかく、ここはクマさんに謝ろう。

 調子に乗って、言いたくないこと言わせちゃって……デリカシーなさすぎだ……わたし。


「ごめんなさい……です。あ、タバコは全然いいですよ。お父さんが吸ってたから慣れてます。しかも同じ銘柄……むしろ、なんか懐かしいって思っちゃって……デザイン変わっちゃったんですね。昔のが可愛くて好きだったのに」


 なんか、空き箱貰っては、喜んでた記憶もある。

 

 ちなみに、如何にも外国製って感じなんだけど、実はメイド・イン・ジャパンって言ってた。

 今も一応残ってはいるみたいだけど、デザインは、なんか真っ白箱にラクダマークだけで味気ない感じ……。


「ああ、そういやそうだね。確かに昔の方が箱のデザインに味があったし、美味かった……。一時期は廃盤になってたんだけどね。最近、復活したんだけど、コンビニとか自販機には、あんまり置いて無くてねぇ……。何より、タバコってどこ行っても目の敵にされてるんで、喫煙者としては肩身が狭いよ。もっとも、こんな異世界じゃ切らしちゃったら、そこまで……だよなぁ。タバコ代わりになるものとか、あったりしないかなぁ……」


 わたしの謝罪はサラッと流されたようだった。

 まぁ、半ば自己満足だしね……聞いててくれてたんだろうけど、気にするなって感じでスルーしてくれたのかも。

 

 うん、大人だ……オトナな対応ってやつだ。

 やっぱり、女の目線だと男ってのは、大人に限ると思うのですよ。


「ふーん、お姉ちゃん、タバコみたいなのってあるのかなぁ……」


 そう言う話なら、お姉ちゃんに聞くのが一番だね。


「タバコならあったよ? 煙草けむりぐさって呼んでて、葉っぱ乾かして、刻んだのに火を付けて、煙管みたいなので吸うやつ。私はタバコとか嫌いだったけど、アンタは何故かお父さんがタバコ吸ってると、わざわざ好き好んで隣に行ってたよね。お父さんは喜んでたけど、アレばかりは気がしれなかったね。こっちじゃ、子供がタバコ吸ってても別に怒られないけど、間違っても手を出すんじゃないぞー」


「あはは……この匂い、なんか好きでね……。けど、自分で吸おうとなんて、思わないってば!」


 ……うん、お父さんのタバコタイムに付き合うと、決まってお姉ちゃんからはヤニ臭いから近づくなって、文句言われてた。


 酷いときには、消臭スプレー直かけとか食らってた……あれ、目がシバシバするんだよね……。

 間違った使い方……取説くらいちゃんと読んでくれ。


「シ、シズルちゃん……君は、誰と話ししてるのかな? お姉ちゃんって……そこに誰かいるのかい?」


 ……クマさんが怪訝そうな顔で、ポカーンとしてる。

 

 しまった、当たり前のように、隣りにいたお姉ちゃんと話ししちゃったけど。

 お姉ちゃんは、わたしにしか見えないし、声も聞こえないんだった……。

 

「え、えっと。例のチュートリアル精霊さん、お姉ちゃんって呼んでるんだけど、他の人には見えないみたいね。あははっ!」


 一応、私はチュートリアル精霊付きって話にはなってるから、適当に合わせちゃおう。

 死別したお姉ちゃんの幽霊とか、流石に重すぎるし、第三者にとっては、完全にホラー……。

 

「そっか、そんな話してたね……そう言えば。でもまぁ、僕も異世界転移モノの漫画や小説くらい読んだことあるし、君の話もちゃんと聞いてたから、どんな状況なのかっては、大体解ってるよ。要するに、その精霊さんにタバコのこと聞いてくれたんだね」


「そ、そうなのですよ。一応、タバコ、あるみたいですよ。昔の人が使ってた煙管とかパイプみたいな感じみたいですけど」


「へぇ、タバコがあるんだ……異世界なのに面白いね。別にタバコ吸わなくても、平気なんだけどね。たまに無性に吸いたくなるんだ。けど、ホント大変だったよねぇ……。最近、運動不足気味だったんだけど、人間必死になると、結構動けるもんなんだね。我ながら、良くやったなぁって思うよ……ははっ!」


 ……三人抱えて、一人だけ狙い撃ちされての大立ち回り。

 他の人達も頑張ってくれたけど、一番頑張ってたのはたぶん、クマさんだと思う。


 結果的に、あの場に居た全員が逃げ切れた……わたし達を都合のいい手駒として使いたがってたデブデブ大臣達は涙目だっただろう。

 

 お姉ちゃんのアドバイスで使った支援魔法がハマったのもあるけど、さすが、守りの勇者だけの事はある……まさに鉄壁の守りだった!

 

 クマさんが居てくれてほんと助かった。

 おまけに、アウトドア知識もあって、お父さんみたいに頼もしいっ!

 

「凄かったのですよ。とっても助かったのです! ありがとーっ!」


 そう言って、そのごっつい腕にもたれ掛かってみる。

 若干、焦げ臭いタバコの匂いが染み付いた……お父さんと同じ匂いがして、むしろコレ安心するかも。

 

 向こうにとっては、文字通りの子供みたいなもんだろうけど。


 わたしだって、女の子……男の人に、甘えたい年頃なのですよ……?

ラクダのタバコってのは、「キャメル」の事ですね。


昔は、F1のボディカラーになったり、大抵どこでも置いてるようなタバコで、

私も昔吸ってましたね。


ちなみに、シズルは年上と話す時は、敬語使おうとしてるんですが、

元々ガチャガチャした性格なので、とっても怪しげな「なのです調」みたいになってます。

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