第五話「飛翔の時」③
――空を見上げる。
見たこと無いくらいの満天の星空。
……でも、星の並びもなんだか、とっても見覚えない感じで違和感たっぷり。
北斗七星もオリオン座も見えない……。
と言うか、星が多すぎて良く解らない……。
けど、チラチラしないのが惑星……なら、それがやたらめったらいっぱいあるってのは、どう言うことなんだろう?
もう、この星空の時点で異世界って感じで、もうお腹いっぱい。
あたりを見渡すと……なんだか森の中っぽい。
木の香りとカビっぽい匂い、地面は苔むしてる感じで、じっとりしてて、おしりが冷やっこい。
と言うか、湿ったスポンジの上に寝てるような感じ……夜なのに、ムワッとしてて蒸し暑いけど、地面で寝てると程よくひんやりしてて気持ちいい。
草とかも生えてるけど、別に葉っぱが紫だったり、トゲトゲしてたり、黒い瘴気で霧がかってるとかそんな事はない……なんとなく、葉っぱとかイチイチでっかいけど、山とか行くと大抵こんなもん。
隣でまどかさんが乱暴に地面に降ろされた感じになってて、抗議するようにウンウンと唸ってる。
見た感じ、怪我とかもしてないみたいだけど、相変わらず意識はないみたい。
「……この感じだと、王国の南のジャングル地帯かな。確か王都からは数百キロくらいは離れてるはずだし、このジャングルは更に南の獣人達の国との緩衝地帯でもあるから、ひとまず追手の心配は要らないと思うわよ……。少し休憩すれば? 私が見張ってるから、一眠りしたっていいよ」
お姉ちゃんは、何事もなかったように隣りにいて、地理情報を教えてくれる。
うん、お姉ちゃんは何があっても一緒……この安心感は異常。
この世界のことも、良く解ってるみたいだから、お姉ちゃんがそう言う事なら、そう言う事なんだろう。
「そっか……ありがと。とりあえず、どうしたもんかな……?」
王都の修羅場から、脱出は出来たものの、まどかさんは相変わらず前後不覚。
チビちゃんもすっかり目を回しちゃったみたいで、反応ない。
クマさんも大立ち回りした直後で、さすがに気が抜けたらしく、大の字になって、空を見上げてる。
この星空は、やっぱり相当違和感あるんだろうね。
食い入るように星空を見つめてるようだった。
何はともあれ、ここは、まずお姉ちゃんとの相談タイム。
こう言うときは、とにかく現在地の把握と、行動方針の制定。
現在地は、方角とか地図上でどの辺とか目安が解ればいいんだけど……。
星の配置とか全然解んないから、こりゃ方位すら解んない……。
地理情報っても、お姉ちゃんの記憶を頼りに作ったいい加減なスケールの地図しかないし。
これは向こうにいるときに、ノートの切れっ端にお姉ちゃんとあーでもない、こうでもないとお喋りしながら、わたしが描いたもの……なんか、落書きとか丸文字だらけで、人様に見せられるようなものじゃないなぁ。
まぁ、王国の南の森って事なら、この森を抜けたら、砂漠があってオアシスに街があってって……そんな感じだったから、目指すはその辺……かな。
問題は、距離とかどんなもんなのかって事だけど……。
食料も何もない状況からスタートだから、いきなりの試練っぽい感じ。
他の人達は、大丈夫なんだろうか……? 転移先が石の中とかそんな事は無いみたいだけど、一体何を基準にバラ撒いてくれたんだか。
とは言え、人の心配より自分の心配。
わたしも寝っ転がりたいけど、二人が気絶してるし、クマさんめっちゃ頑張った!
ここは、わたしが周辺警戒しつつ、行動方針を考えなきゃいけない……休んでる暇なんてない!
幸い月明かりが明るいし、ランタンの光で真っ暗ってわけじゃないから、思ったより怖くはない。
「とにかく、バラけちゃった勇者達と合流するべきなんだけど……。夜の森で移動とか考えちゃ駄目。まどかさんは動けないし、ちびっ子ちゃんも目を回しちゃってるから、今は動ける状況じゃない。ここはちょっと開けてるし、水たまりもあるから、野営には打って付けね。一旦、態勢を立て直すためにも、焚き火でも焚いて、朝まで動かない方が良いね」
「はぇえ……動くなってのは、納得。今、何時なんだろ……朝までどれくらい? 深夜だってのは何となく解るんだけど」
「そうねぇ、導きの星……北の空に一個だけ動かない大きめの星あるの解る?」
言われて、空を見る……なるほど、解らん!
そもそも、北ってどっちだ。
「星多すぎて解んないです……北ってどっち?」
「あっち、一際大きな瞬かない星があるでしょ? あれって、どこに居ても年中同じ場所に見える……北極星みたいなもんね。で……その星の周りを巡る、小さな星。あれが一日かけてその周りをぐるぐる回ってるから、それがどこにあるかで時間が解る。ちなみに、昼間も見えるから、この世界では、あの星が時間と方位の基準になってるから、時告星とも言われてる」
お姉ちゃんが空を指差す、なるほど……確かに、星の海に浮かんだ、やたらと目立つ、白く輝く星が見える。
瞬かないから、惑星っぽいんだけど……。
惑星の自転と同期してて、どこからでも見えるとなると、人工天体の可能性もあるような……?
「なるほど……面白いね。となると、夜明けまではどれくらい? 少し寝るくらいの余裕はあるかなぁ」
「時星が真横に来てるから、夜中の二時三時ってとこかな。もう2、3時間もすれば、夜明けになると思うよ。残念だけど、寝てられるような余裕はないかな……。食料なんかもそこに蔦みたいなのがあるでしょ? それ辿って地面掘れば、山芋みたいなのが出て来るから、それに塩でも振って齧れば、一応お腹は満たせる。南の方の森の中って、意外と食べ物は豊富なんだよ。探せば、美味しいフルーツなんてのもあるよ?」
……さすが、お姉ちゃん。
異世界野宿とか普通にやってたみたいで、めっちゃ詳しい。
山芋ってあれか……とろろご飯? 確かにあれって生で食べられるね。
お塩と醤油なら持参してるから、それで食べれるかな。
南国フルーツがあるってのは、いい情報……明るくなったら頑張って探してみよう。
「焚き火かぁ……。一応、ライターとテッシュくらい持ってきてるから、まずは焚き木でも集める……かな? まったく、色々準備しといて正解だったね」
もっとも、一人で焚き火なんて、経験ない。
焚き火って言えば、キャンプ場とかでするもんだと思ってたけど、お父さんの話だと、昔は割とそこら中でゴミを焼いたりとかしてたし、小学校なんかでも焼却炉までに、ゴミ箱持っていって、バンバン燃やすのが当たり前だったらしい。
そういや、小学校の校舎の裏に、煙突付いた変なのがあったなぁ……懐かしい。
当然ながら、火の粉が飛んで火事になったとか、ゴミ捨て行った子供が、火箸で火傷とか事故も結構あったらしい。
今は……公園とか河原ですら、無許可で焚き火なんてやろうものなら、速攻消防車呼ばれるし、ベランダでタバコ吸ってて、文句言われるような時代。
もっとも、異世界でそんなの遠慮は無用……焚き火、焚き火。
明かりにもなるし、暖も取れるし、食事も作れる……確かにそれは、必要不可欠!
もうね、この真っ暗のジャングル見てると、納得……暗がりから今にも何かが出てきそうで、超怖い! わたし、泣きそう……。
なんだかんだで、お姉ちゃんの勧めで、ライターとか、火口になるようなティッシュとかは、しっかり持ってきてる。
「文字通り、カラッケツで放り出されちゃったからねぇ。私の時のほうがまだマシだったかも。ごめん……私の読みが甘かった。もうちょっと、王国のバカどもの動きを深読みすべきだった……。あいつら、あそこまで無茶するなんて……正直、アレキサのことも読み違えてた……あれでも、アイツは王様の一番の忠臣だったんだけどね……」
完璧超人のお姉ちゃんでも、人の心の中までは読めない。
別にお姉ちゃんのせいにするつもりもないし、あれでも結果自体は悪い方じゃなかっただろう。
少なくとも、逆らった死ぬとかそんな呪いをかけられて、あんな奴等の道具として使われるとか冗談じゃない。
「お姉ちゃんのせいじゃないよ。それに、あのアレキサって人の気持ちも解らないでもないし……」
妹さん……身内を死なせた挙げ句、その仇が死なずに、生きながらえることになった。
だから、反逆者の汚名を承知で王様を自分の手で殺した。
……あの凶行はそう言う話だった。
内心の葛藤だって、色々あったんだと思うし、何となくあの大臣が裏で何かやらかしたんじゃないかって気もする……。
アレキサだけが悪いかと言えば、そうでもないような気もする……。
けど、あれはまどかさんの善意を踏みにじったようなもの。
何より、せっかく穏便にすみそうだったのに、ブチ壊された。
おかげで、こんないきなり異世界野宿とかなってる訳でー!
わたしもなんだか集中砲火されて、とっても目の敵にされてる感いっぱいだったし……。
少なくとも、あのスカシ野郎のせいで、攻略難易度がガッと引き上げられたのも事実。
ただでさえ、無理ゲー感いっぱいなのに、余計ややこしくしやがって……。
なによりも……本当なら、生き延びれるはずだった人を、あんな無残に殺すなんて……。
アレキサって奴には、同情もするし、その行動は理解も出来るけど……。
だからと言って、許されるような話じゃなかった。
それにお姉ちゃんの話だと、なんかすっごくいけ好かないヤツなのは、解ってる。
それに、変な触手モンスター使って、人にエロエロな事しようとしやがって……。
結論……絶対に許さん。
アイツがお姉ちゃん達を手伝ってくれたなら、先代の勇者達だって、もっと多く生き残れただろうし、お姉ちゃんもたった一人で魔王に挑むなんて事にならずに、無事に生還してた可能性だってあった。
王様が亡くなってしまった以上、もうアイツはわたしの敵ってことでいいよね?
何とか大臣も骸骨に皮付いた感じのなんとか司教もどっちも敵!
そのうち、殺す……。
やつ当たりっぽいけど、因果応報……やったら、やられる。
好き勝手やってたら、自分もいつかやられるって覚悟くらいしてろって話。
下手すると、王国そのものが敵に回るとか、本末転倒な事になりかねないけど、わたしは、お姉ちゃんが愛したこの世界を救うのだから、別に王国だけに拘る必要もなかった。
まぁ、わたしらを召喚したのは王国なんだけど、その王国がゴミなんじゃ、別に見捨ててもいいんじゃないかなぁ……と。
「それにしても、夜の森とか想像以上にヤバイ感じだね……。ここは、たまたま空き地になってたみたいだけど、ジャングルの奥なんて、もう何がなんだかって感じ。こりゃ確かに夜が明けるまで動けないよ」
多少、目が慣れてきたみたいで、ジャングルの奥の様子も見えてきたけど。
ごちゃごちゃしてて、真っ暗で……もう何がなんだかって感じだった。
夜の公園の茂みとか、あんなん比較にならない。
例え、明かりがあっても、あんな訳の解らない所、進むなんて冗談じゃない……。
それに……虫の声だの、鳥だか獣の鳴き声が微かに聞こえてくる。
おぉう……ホラーだ……ホラー!
そ、そう言えば……トイレとかどうしよう。
コンビニとか公衆トイレとか、ある訳ないし……その辺の話って、お姉ちゃんからも聞いてないし……。
ううっ、この調子だとそこら辺で……事になりそう。
まぁ、山とかで緊急事態になったら、もうそこらの茂みの影でとかなるし、そう言う経験もあるんだけど。
女子としては……辛い。
「なるほど、結構解ってるみたいだね。……僕は趣味で、休日に山登りとか森の散策とかやるんだけど。明かりもなしで、当て所もなく夜の森を歩くなんて、普通に自殺行為だよ。一応、明かりはあるけど、こんなの……いつまで持つか解らないからねぇ」
クマさん……変身解けちゃったらしく、スーツ姿になってて、自分に話しかけられたと思ったらしく、すっと隣に座ると話に加わってきた。
「ふわぁっ! って、あ……うん! そうですよねっ!」
めっちゃ驚いたっ! けど、邪魔そうに上着を脱いで、ネクタイ解いて、上着のポケットからタバコを取り出すと、気分転換らしく、火を付けて、プッカァと燻らせる。
隣で体育座りでちょこーんと座ってるお姉ちゃんに話しかけてたつもりだったんだけど、なんか思わず声に出ちゃってたみたい。
クマさん、タバコを吹かしながら、鍵束に付けてた小さなキーホルダー型懐中電灯で暗がりを照らしてくれてる。
大きさの割に意外とハイパワーで結構明るい……懐中電灯常備とか、なかなか用意がいい人だった。
それに、話からするとアウトドア趣味の人っぽい……なし崩し的に一緒に行動しちゃってたけど、色々頼りになる人みたい。
でもタバコ……あ、この匂い……懐かしいな。




