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プロローグ「帰ってきたお姉ちゃん」②

「……ふむ、三年振り? シズルも中学生……やっぱり、あちこち成長してるねー。体つきも大分女っぽくなったし……てか、胸……私よりデカくない? これ、どう言う事? 私なんて全然なのに……」


 言いながら、悲しそうにスンッと自分の胸を撫で下ろす姉。

 ブレストプレートって言うのかな? 胸の辺りだけを覆った中世の鎧みたいなの。

 

 それは、ものの見事に絶壁状態だった。

 

 確かに、姉は……貧しかった。

 完璧超人だった姉の唯一の人並み平均以下の項目でもあった。

 

 対照的に、わたしは中学二年だと言うのに、Dカップとかなってしまった。

 そりゃもう、バインバインなのだ。

 

 なお、背は140cm台と小学生並み……とってもアンバランスと言う自覚はある。

 思わず立ち上がってたのだけど、無言で湯船の中にしゃがみ込む。

 

「……ほっといてよ。ところで、なんで壁抜けとかやってんのよ……。もしかして、やっぱり……化けて出たってヤツ?」


 姉のことは、正直言ってほぼ諦めてた……。

 三年も音沙汰なしって時点で、生きて会える可能性は少ない……そんな風に考えてた。

 

 だからこそ、ああ、やっぱりって思いと、もう一度話ができて嬉しいって気持ちがごっちゃになって、もう訳が解らなくなってる。

 

「あはは……。実はその通り、お姉ちゃん異世界に転移して、死んじゃったから、シズルの所に化けて出たんだ。うらめしやーって」


 ……こんな風に明るくサラッと言われると、お化けだって、別に怖くない。


 と言うか、異世界転移とか……なんだそれ?

 むむむー、説明を求める! 色々いっぺんに来すぎて、もう、頭がふっとーしそうだっ!


「死んじゃったって……んなこと、サラッと言うなし! そもそも、異世界とか意味わかんないし……。お姉ちゃん、説明の順番がめちゃくちゃ! それで理解しろとか無理ゲーっ!」


「あはは、ゴメンね。何処から説明すべきか、さすがの私も困ってるのだよ。とりあえず、いい加減お風呂上がらない? アンタ、昔から長風呂過ぎ……。ホントはお風呂場の外で、出待ちしてたんだけど、いつまで経っても出て来ないから、ちょっとしたサプライズって感じで、フライングしちゃった! ごめんね、もうちょっと感動の再会って感じにすればよかったね!」


 ……お化けになるってのは、どんな気分なんだろう?

 三年前、行方不明になった姉は、もうこの世の人じゃなくなってる……それはもう、理解できたし納得した。

 

 科学的にとか、理屈とかそんなの抜きでこんなん、納得するしかないよ。


 もちろん、わたしの頭がおかしくなったって可能性もあるんだけど……。

 

 その可能性は、とりあえず否定しておこう。

 それ言い出したら、話が進まない。

 

「解ったから……とりあえず、出てってよ……。どうせ勝手知ったる我が家なんだから、先に部屋にでも行ってて。あ、お父さんやお母さん起こそうか? 二人共お化けだっていいから、お姉ちゃんにひと目会いたいって言ってたし、お父さんが入院しちゃったり、こっちも色々大変だったんだよ?」


 わたしがそう言うと、お姉ちゃんは少しだけ寂しそうに微笑む。

 

「お父さんとお母さんか……会いたいのは山々だし、せめて一言、先立つ不幸を許してくださいって、言いたいところだけど。二人には多分、私の声は聞こえないし、姿も見えないと思う。シズルが頭おかしくなったって思われちゃうのが、オチだと思うわ」


 わたしにしか認識できないって……それって、わたしの中だけのリアルって奴じゃん。

 やっぱり、自分の正気を疑うべきなのかも知れない。


 精神病か何かで、こんな風にリアルな幻覚見えるようになるってあったよね。

 お姉ちゃんが恋しすぎて、いよいよ本格的に病んできたのかも知れない。


「……わたし、明日病院行くわ……」


 昔、頭のおかしくなった人を連れてってくれる黄色い救急車って都市伝説があったなぁ……とか。

 益体もないことを考えてみたりもする。


「それは、あまりお勧め出来ないかなぁ……。強制入院させられて、変な薬飲まされてとか、イヤじゃない? それと私、どうもシズルの側からあまり、離れられないみたいなのよね……。だから、離れろとか、どっか行けって、言われても出来ないの……ゴメンね」


「……わ、わたしのプライバシーはどうなるのよ……。せっかく一人部屋になったのに……」


 お姉ちゃんが居た頃は、二人で一部屋状態で、いつも領土争いが耐えなかったんだけど。 

 居なくなってからは、一人部屋状態……でも、お姉ちゃんの服とか私物とかは、そのままになってる。


 ……いつ帰ってきても良いようにって。


「まぁ、シズルもお年頃だもんね。んっとね……一度目をつぶって、お姉ちゃんは居ないって思えば消えちゃうと思うよ。逆にお姉ちゃんは、そこにいるってシズルが思えば、お姉ちゃんはいつだってそばにいるから。ちょっとだけ試してみ?」


 ……言われた通り、目をつぶって、お姉ちゃんはいないって念じてみる。

 目を開けると、そこに始めから何も居なかったような薄暗い浴室だけが見える。

 

「お姉ちゃん? 嘘……やだよっ! ホントに、消えちゃわないでよ! 居るなら戻ってきて! お願いっつ!」


 大慌てで、もう一度目をつぶって、お姉ちゃんがいるって念じて、目を開けるとお姉ちゃんはそこに居た。

 

「ほら、いるでしょ? まぁ、落ち着きたまえ……愛しの我が妹よ」


 ……ああ、良かったって心底思ってしまう……このどこか芝居がかったような口調すらも懐かしい。

 だって、まだまだ話したいことはいっぱいある……。

 

 そう思ったら、自然に視界がじんわり曇ってきた。

 

 お姉ちゃん……わたし、寂しかったんだよぉ……。

 ずっとずっと一緒にいて、そばにいるのが当たり前だと思ってたのに……。

 

 何でも知ってて、黙って付いてこいとばかりにいつも前を行っていた姉がいなくなる。


 ……わたしにとって、それは、まるで道標を見失った旅人のようなものだった。

 

 だから、お姉ちゃんが戻ってきた……また、一緒にお話が出来る。

 そう思っただけで、嬉しくって……今頃になって、涙がボロボロ出てしまう。

 

「あわわわっ! シズルちゃん……泣かない、泣かない。言ったじゃない……お姉ちゃんはいつだって、そばにいるって!」


 ……なんかもう、3年間我慢してた涙が一気にこぼれて……大変な事に……。

 お風呂最後でよかった……わたしの鼻水入りのお風呂とか汚すぎる。

 

「シズルちゃん、泣かなーい! えいっ!」


 お姉ちゃんが駆け寄ってくると頭を撫でて、ギュッとしてくれる。

 

 ……半分透けてるのに、ちゃんと触れた……知らなかった、幽霊って触れるんだ。

 それに、お姉ちゃんの匂い……あ、懐かしい。

 

 でも、触れられたその手はちょっと冷くて、それが少しだけ悲しかった。

 

 

 とにかく……!

 そんな調子で、行方不明になってた姉は、わたしの所に帰ってきた。

 

 お化けだって、お姉ちゃんなら別に怖くなんかない。

 

 ……わたしは納得した。

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