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第四話「落日の王国」③

 デブの大臣とガリの司教って感じの二人が、傍目に動揺してるのが解る。

 騎士長って人も、驚愕したような顔をしてる。

 

「馬鹿な! 話が違うではないか! 貴様ら、何故王を救った! あの状態から、ここまで持ち直すなど、正真正銘の奇跡ではないか!」


 震える声で大臣が怒鳴る。


「……助けられる人がいるなら、助ける。まどかさんはそう言う人だから……。勇者ってのは、思いひとつで奇跡くらい起こせるのですよ! だいたい、王様を救って何が悪かったの?」


 普通に考えて、称賛こそされても、非難されるいわれはなかった。

 

 前後不覚になるリスクを承知で、今、出来る全力を尽くして、王様を救ったまどかさんは、立派だと思う。

 正真正銘……聖者と讃えられていいくらいの気概の持ち主だった。


「おのれ……いったい、何のために貴様らを召喚したと思っているのだ! もういい、これより貴様ら全員、拘束した上で奴隷紋を刻ませてもらう。貴様ら勇者は、成長すると手に負えなくなるからな。今のうちに貴様らの生殺与奪権は我々が握っておかねばならん……。勇者ユズルのように、誰にも制御出来ない存在になられては、我々が困るのだ! まったく、あの女が魔王と相打ちになって、清々したと思っていたのに、その身内だと? 冗談ではない! 騎士長アレキサ……貴様も解っておるだろうな?」


 大臣がそう言うと、騎士長の人がこっちに向き直ると、スラリと剣を抜く。

 やっぱりそう言う事なんだね……コイツらっ! 


「お前ら、動くなよ……。お前ら勇者共は簡単には死なないが、手足でも切り落とせば、さすがにおとなしくなるだろう? いいか、妙な気を起こすんじゃないぞ? 大人しくしてれば、痛い思いをせずに済む。おい、そこの小さいヤツ!」


 騎士長がそう言いながら、わたしを指差す。

 って、思いっきりご指名ですかっ!

 

「な、なによ……こっちに来いとか言われたって、聞かないよっ! んな、問答無用で人に剣を向けるような野蛮なヤツ……何するか解らないじゃないの! いい? 人と話したいなら、そんなモノしまいなさいよっ!」


「ふん……貴様もあの剣王の妹と言うことなら、相応の使い手なのだろう? つまり一番、油断ならんと言うことだ! 悪いが、しばらく大人しくしていてもらうぞ! いでよ……這い寄るものよ! この小娘を縛りつけろ!」


 騎士長がそう言うと、唐突に金縛りになったように身体が動かなくなる。

 ……思いっきり目をつけられてたっ! って言うか、なにこれっ! 身体がピクリとも動かない……魔術か何か?

 

 両足が引っ張られるように、足を開いた姿勢で地面に張り付けられたようになって、腕の方はグイグイ上から引っ張り上げられて、バンザイのカッコで固まってしまう。

 

 見えない鎖か何かで縛られてる……そんな感じ。

 ……これって、ピンチっ!

 

 けど、クマさんがわたしの前に、立ち塞がって、ヨウジさんもその前に出て騎士長と真正面から向き合う。

 

「……盾と斧の勇者か? ……貴様らは、関係あるまい。このランタンの勇者を庇い立てするつもりか? その気概は称賛に値するが、怪我をしたくなければ、引っ込んでいるがいい」

 

「んだとコラッ! テメェ……舐めてんじゃねーぞ? スカした面して上から目線ってか? おい、オッサン! アンタは、ちっとばかり、根性あるみてぇだな……図体ばっかで、ヘタれた奴かと思ってたけど、そうでもねぇんだな」


 ヨウジさんが、不敵な笑みを浮かべながら、アレキサに啖呵を切ると隣に立つクマさんに声を掛ける。


「僕には、僕なりに、この子を守ってあげたい……理由があるんだ! 君こそ、なんなんだい? さっきまで先頭に立って因縁付けてたのに、手のひら返しってやつかい?」


「……そうさな。俺もちっとばかり、ダセェ所を見せちまったからな。ここらで、少しばかりカッコでも、つけてやろうと思っただけさ。つか、あの野郎……かなり、ヤベェな……。最悪、時間稼ぎしか出来ねぇかもな」


「二人がかりなら、少しくらい頑張れるんじゃないかな? 君こそ、ちょっとは、根性見せようよ」


「へへっ! 言ってくれるな! おっさん、気に入ったぜ……おい、チビ助! ここは俺達に任せときな! つか……何、固まってんだ? なんだか知らんが、妙な触手みたいなので、ガッツリ縛られてるみてぇだが、どう言う趣味してんだ?」


「……へ? しょ、触手って……」


 言われてみれば、なんかヌメヌメしてきてるような……。

 手足の先を、見えないなにかが舐め回してるような気持ち悪さがさっきからしてならなかった。


「シズルちゃん……ランタンに魔力を注ぐ。勇者のランタンの光は見えないものを照らし出す力もある。斧の勇者の人は多分、魔眼持ちなんじゃないかな? たまにいるのよね……人外の血を引く人ってのが。そう言うのに限って、やっぱり勇者の武器の適合者になりがちな訳よ」


 勇者の武器の適合者に人外が選ばれる……その人外が目の前にいるから、解る。


 相変わらず、お姉ちゃんのアドバイスは的確だった。

 ……目を閉じて、ランタンに自分の身体の周りに広がるオーラを注ぎ込むようにイメージ。


 勇者の武器の使い方については、半ば無意識に刷り込まれるって話だったけど、実際すぐに解った。


 このランタン……魔力をべる事で、様々な力を発揮する……そう言う代物らしい。

 

 腰に下げたランタンが少し暖かくなるのを感じる。

 再度目を開けると、ランタンの輝きが増していて、手足と胴体に地面から伸びたタコの足みたいなウネウネしたものが巻き付いている事に気づいた。


 腕の方は……なにもない空間から、やっぱり黒っぽいタコ足が……。


 ……なにこれ? これがこの金縛りの正体? キモっ! キモいーっ!

 けど、見えたからと言って、動けない状態に変わりはなかった。

 

 いかんせん、ガッツリ固まってるから、指先とかしか動かない。

 多少、力が強くなってても、タコ足をぶっ千切るようなパワーは、さすがに無いようだった。

 

 ランタンの光もこのタコ足を打ち消すような効果はないようだけど、多少は嫌がってるみたいで、ランタンから逃れるような動きをしてる……。


 うーむ、困った……こんなの割とどうしょうもないぞ? と言うか、ヌルヌルしてるし、足のとか段々伸びてきてる。


 膝くらいの場所までだったのが、太ももに到達……これは、ちょっと! 

 腕に巻き付いてるのも……ちょっ! 脇の下とかやーめーてーっ!


 それに身体の方に巻き付いてるのも、スパッツの中にニュルッと……って、こんな薄い本な感じに、自分がされるとか、冗談でしょっ!

 

 ひとまず、ジタバタとあがきながら、ヨウジさんに涙目になって訴える……このまんまだと、なんかエロエロな感じに、なりそうなんですけどっ!


「よ、ヨウジさんっ! 見えてるなら、助けてっ! これ、これっ! なんとかしてーっ!」


 このアレキサとか言うヤツ……なんで、よりによってこんなゲスな魔法で、女の子をフン縛るんだよっ! 事案だ、事案ーっ! こんにゃろーっ!

 

「……ったく、世話が焼けるな……。オラァッ!」

 

 ヨウジさんが斧で触手に斬りつけると、たちまち縛り付けてた触手が千切れて、溶けるように消えていく……身体の自由も戻ってきた。

 

 ううっ、よかった……エロエロな事になってから、助けようとか、スケベな事考えられてたら、今頃18禁なことになってたかも……。

 

「あ、ありがと……危うく、気持ち悪いこと、されそうになってましたぁ……ううっ」


 色々想像して、思わず涙目……。


「ん? ああ、そうだったんだ……すまねぇ、もっと早く助けれやればよかったな。つか、そこのスカシ……そんな、こんなチンチクリンが怖えのか? ガキ相手にビビって、狡いことやってんじゃねぇぞ! このクソ野郎がっ!」

 

 そうだそうだっ! こんなエロエロモンスターの足だけ召喚とか、スカシた顔して、変態さんとかありえないっ!


「……ば、馬鹿な。這い寄るものの触手を簡単に破壊しただと? それは古き神の一部なのだぞ……それを、そんな簡単に……おのれっ! 非常識なっ!」

 

 変態触手かと思ったら、そんなだったのね……。


「知るかボケッ! グダグダ言ってねぇで、かかってこいやっ! このダボ助がっ!」

 

 ヨウジさん……中指立てて、ちょっとお下品。

 

 あと、チンチクリンとか、ガキだとか……まぁ、否定は出来ないんだけど。 

 一応、女の子なんだから、言葉くらいは選んでほしい……しまいにゃ、泣くよ?

 

「シズルちゃん、動けるようなら、僕の後ろに隠れて!」

 

 クマさんもちらりとこっちを見て、盾を構えて姿勢を低くして、わたしの前に立ちはだかってくれる。

 

 男の人二人がかりで、かばってもらえるなんて……あ、なんかこれって、守られヒロインみたい。

 なんて言ってる場合じゃないんだけど……これって思った以上に嬉しいな。


 でも、そこのデブ大臣は許せない。

 ……コイツは、絶対に言っちゃいけないセリフを口にした。


 お姉ちゃんが死んで清々しただと? そんな言葉で姉を語るな……このクズがっ!

 

 ……堰を切ったように、どす黒い感情が湧いてくる。

 

 奴隷紋とか……その気になれば、死を命じることすら出来る。

 そんなので、人を好きにしようとするなんて……ふざけるなっ!

 

 死んでいった名も知らぬ人々……志願した人もいると言うけれど、そうじゃない人の方が多いんじゃないのか?

 

 この世界の人類は、滅ぼされかけてるんじゃないのか……だからこそ、普通に向こうで生活してた私達を召喚した……そのはずなのに、自分に都合のいい手駒……奴隷紋? 人を何だと思ってるの……?

 

 ああ……自分に力がないのがもどかしい。

 勇者の武器なら、こいつらを焼き払う力くらい見せてみろっ!

 

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ……。

 

 どこからともなく、物騒なささやき声が聞こえてくる……そうだ。

 敵を殺すのに、躊躇いなんて要らない……こいつらを……。

 

「シズル! 落ち着いて……! 私はここにいる! 勇者の武器の……咎の囁きに……耳を傾けないでっ!」


 ……お姉ちゃんの言葉に、正気に帰る。

 

 わたし……今、何を考えた? 今のはなんだったの? 自分の中で、黒い闇が広がっていく感触。

 お姉ちゃんもなにか知ってるのかな? 咎の囁きって……?


「……よさぬか! お前達! 私はそのようなことをしてはならないと固く命じたはずだ! オデット大臣、キケロニア司教! お前達はもう下がっておれっ! これは王としての命令だ! アレキサ……お前もこの場から出て行け! 何をやっておるのだ……その者達を手荒に扱うことは、この私が許さんぞ!」


 こっちがワタワタやってる間に、王様が一喝……兵士達もその力強い言葉に、顔を見合わせて呆然として、王様と目が合うとたちまち背筋を伸ばして、静まり返る。

 

 先程までの弱々しさが嘘のような雷鳴のような怒声と、力強い視線。

 

 ……きっとこれが、この王様の本来の姿。

 相対するものをただの一言で萎縮させ、自然に跪かせる圧倒的な威厳とカリスマ。

 

 ああ、これが……国を背負って立つ王様ってものなのかと。

 そう思ったら、半ば反射的に跪いていた。

 

 誰もが同じように、跪いている……あの大臣や神官ですらも。


 けれど、さっきのアレキサという人の視線だけは、王様に全く向いていなかった。

 彼の目線は、折り重なるように倒れた人々……その中のひとりの若い女性に釘付けになっていた。

「咎の囁き」……まぁ、フォースの暗黒面みたいな? 

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