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第四話「落日の王国」①

「ヒゲの社長さん……偉い人の相手って慣れてるのです?」


 隣りにいたヒゲオジサンに、話を振ってみる。

 社長さんなんてやってるくらいだから、この手の偉い人の対応も慣れてるんじゃないかって気がする。


「ん……ああ、そうだな。こう見えても、俺は総理と一緒に食事会をしたことだってあるからな。うん、ここは俺が代表として対応しよう……こう言う事なら、むしろ任せてくれ」

 

 ……うん、やっぱりこう言う場面では、年長者に頑張ってもらうに限る。

 私みたいなお子様がでしゃばっちゃ駄目でしょ。


 オジサンも私と話しただけで、そんな大事な事を決めるつもりもないみたいで、グルリとあたりを見渡して、異論はないかと無言で確認してるようだった。

 

 他の人も同意してくれてるようで、誰も口を挟んだりもしないみたい。

 

 ここはもう、社長さんにお任せっ!

 社長さんに、視線を送ると、私もどうぞどうぞって仕草を送る。

 

 社長さんもニカッと笑うと、すぐさまその表情をキリッとした真剣なものに変える。

 おおお、社長モードって感じだっ! ホントかよって内心思ってたけど……こりゃ、本物っぽいね。


「国王陛下……私は、高田重造と申します。いささか、ご体調が優れないようですが……大丈夫ですかな?」


「よい、気にするな。……君は礼儀を弁えているようだな。所作も如何にも手慣れているようだ。もしかすると、王族か貴族に連なるものなのかな?」


「似たようなものですな。日本の企業の社長業をしておりましたので、このような場での礼儀程度は弁えております。日本人は高貴な身分の方と、直に言葉を交わすような機会がないものが多いので、ご無礼がありましたら、ご容赦ください」


 さすがだ……へりくだる事もなく、無礼でもなく、落ち着いた対応。

 うーん、なんと言うか年の功ってヤツかな。


「おお、これぞ定番の王様イベント。一応、跪いたりとかすべきかにゃー。うひひ……」


 リナさん、女の子なんだし引き笑いはどうかと思うな。

 引き笑いはモテないってお姉ちゃんが言ってた!

 

 けど、まどかさんが、わたしのローブの裾を引っ張って耳に口を寄せると、小声で囁く。


「ねぇ……シズルちゃん、あの人……」


「……解ってる……もう長くない。でしょ?」


「うん……病院で仕事してると、よく見かけるんだけど。もう駄目な人ってあんな風になるのよ……。人間の姿してるのに、そこにいる気配がほとんどしない。このコスプレの力? なんか、そう言う死の気配を感じる力って言うのかな? そう言うのが、敏感になってるみたい。あの人……もう一日も持たないかも。でも、王様って偉い人なのよね? このまま死んじゃったら、ちょっと不味いことにならない?」


 良く解らないけど、召喚に命をかけたのは、倒れてる人達だけじゃなくて、王様もって事らしかった。

 同時に、そこまでやるのかと空恐ろしくもなる。

 

 けど、まどかさんの言いたいこともなんとなく解った。

 今は、王様の責任と権限ってのがあるからこそ、わたし達は無事に済んでいる。

 

 王様が死んでしまったら、そう言ったものが無くなってしまう。

 もちろん、王様も自分が死んだ後の事くらいは考えてくれてると思うけど……。


 逆を言うと、後継者のことも全然解らないし、お姉ちゃんも王国の家臣とか将軍ってクズ揃いって言ってなかったけ?

 こんな状況で王様に死なれたら、わたし達かなりヤバイのでは?

 

 社長さんがチラッとこっち見て、すっと跪く。

 なんとなく、真似した方がいいような気がして、わたしもそれに習うと、他の人達も見習ったのか、同じようにする。

 

 ヨウジさんも、空気を読んだのか同様跪く。

 死に行く人の言葉……それは聞いておくべきだろうし、敬意だって示すに値するだろう。

 

「……そう、畏まらないで欲しい。皆、楽にしてくれ……どうせ、私は長くない。自業自得だがな」

 

「長くないとは? 何か、ご病気でも……体調が優れないようであれば、ご挨拶や詳細な話は、後程と言うことでも構いませんよ。もちろん、聞きたいことはいくらでもありますが……。我々にも事情に詳しい者がいるので、急ぎはしません。もっとも、こんな窓も入り口もないような部屋、正直なところ、あまり長くは居たくないですがね」


 事情に詳しいって、わたしのことかな?

 ちゃっかり、交渉材料に組み込んでる辺り、さすがだった。


 まぁ、確かにこの部屋……見た所、入り口が一つしか無いし、地下なのか窓すらも無い。

 確かに、こんな逃げ場もないような所にいつまで居たくない……。


 退路の確保は基本って、お姉ちゃんも言ってた!


「……いや、今すぐに話すべきだろう。先も言ったが、私はもう長く持たない。生きている間に、お前達に謝罪と頼みたいことがあるのだ」


 弱々しくもそれでも、身体を起こそうとする王様。

 お姉ちゃんの話だと、王国の人達はまともな支援もしてくれなかったって話だけど。

 

 この王様本人は、そんな悪い人じゃないって気がする。

 

 実際に会うまでは、お姉ちゃんの仇みたいに思ってたけど……自分も命を捨てる覚悟でわたし達を召喚し、死にゆくことを悟りながら、それでも自らの責務を果たそうとしている姿を見ていると……。

 

 お姉ちゃんの仇とか、そんな気持ちが無くなってしまった。

 

 何より、王様に死なれると、もうグッダグダになるんじゃないかって感じがしてならない。

 せめて、道筋くらいきっちり示して欲しいし、最低限自由と安全を担保してくれないと……。

 

 なにせ、王様の隣に控えてるデブデブなのと、悪人顔で痩せぎすな骨格標本の骸骨みたいな感じの人……どっちもなんとなく、ヤバイ雰囲気をプンプンに漂わせている。

 

 一人は多分、大臣とかそんな感じ……。

 骸骨さんは服装がなんとなく、神父さんとかを装飾過多にしてるような感じから、神官長とかそんなかも?

 

 でも、神様がいない世界で、何を信仰してるんだか。

 この人達さっきから、わたし達のことを値踏みするようにジロジロ眺めては、後ろに向かってあれこれ囁いてるし。

 

 デブい大臣も何が嬉しいのか、ずっとニヤニヤしてる。

 

 後ろにも何人もローブ姿の人達がゾロゾロと並んでるけど、一様に無表情でインク壺みたいなのを後生大事に抱えてる。

 

 やっぱり、これ……ダメなパターンの異世界転移だ。

 こいつらに後を託されても、ろくでも無いことになるに決まってる。


 このままだと、わたし達全員、拘束されて無理やり戦わされたり、奴隷同然に扱われるとか……。

 ……全く明るい未来が見えない。

 

 わたしには、お姉ちゃんみたいに未来を識る力なんて無いけど、解っていることを組み合わせていくだけで、この程度のことは解る。

 

「お姉ちゃん……これって、あんまり良くないのでは?」


「そうだね……。王様は召喚魔法の余波で、生命力が極端に低下してる状態になってるみたい……死相も出ちゃってるし、もう長くない。後ろの連中の持ってるのって、あれって確か、奴隷拘束用の拘束陣を刻むための魔道具だと思った」


「まさか……王様が死んじゃったら、わたし達にそれを使って、拘束するとか、そんな感じ?」


「……多分。あの大臣もゲスを絵に描いたようなヤツ。まだ生きてたなんて……神官長もインチキ宗教のボスだし、騎士長も私達勇者をずっと目の敵にしてたようなヤツだから、味方だなんて思わないで……この王国、相変わらずロクな奴がいないね……。死んでる人達も、おそらく奴隷紋で強制的に召喚術を使わせたとか、そんな可能性が高いと思う……」


 うわぁ……やっぱり駄目な異世界転移パターン!

 

 しかも、召喚魔法も自主的にとかじゃなくて、強制とか……騙されたって、可能性もあるけど、こいつら、もうめっちゃくちゃじゃない!

 

 ……そりゃ、お姉ちゃんも死んでも死にきれなくもなるよ!


「な、なんとかならない? これって、駄目なパターンの典型……このままじゃ、わたしら……奴隷にされて、鉄砲玉扱いとか……。女の子なんて、色々ドスケベぇな事とかされたり……そんなの最悪じゃない!」


「まぁ、落ち着いて……。多分、王様が生きてる間は、あいつらも何もしないと思う。王様は良識ある人だったし、まがりなりにも王様だから、生きてる限りは、無法は許さないと思う。でも、王様もあの様子だと、もう時間の問題。けど、回復職……癒し手の勇者ならギリギリセーフで助けられるかも……王様さえ、助けられれば、きっとなんとかなる。この場で拘束されずに済んで、時間稼げれば、皆で共謀して、逃げちゃえばいい。私の時はもうちょっと穏便だったんだけどね」


「……幸い目の前のまどかさんが、それっぽいよ?」


「ナイス……今は、初回のお試し勇者モードだし、メイスの勇者なら、クラスユニークスキルの「至高の癒し」が使えるかも。MPごっそり使うけど、死んでなきゃ完全回復するって、チート回復だからきっとなんとかなるよ!」


「使い方は? 長ったらしい呪文唱えろとかだったら、厳しいと思うよ」


「ステータス画面に出てるようなプリセット系の魔法や武技なら、スキル名のとこをタッチするだけでオッケ。本来魔法使う場合って、色々ややこしい手順が居るんだけど、そう言うのもシステムが勝手にやってくれる。なんだかんだで、チートなのよね。勇者システムって」


 お姉ちゃんアドバイスは、右から左なのだ。

 まどかさんにそろっと近づいて、小声でその旨伝えると、彼女も意を決したように頷く。

 

「解った! ならやってみる! 私だって本職だもん! 誰かを救えるなら、なんだってやってやるわ!」


 まどかさん、二つ返事だった。

 お姉ちゃんが横から指示してくれるので、私は右から左で、画面と操作を説明。

 ヒール系魔法のツリー、5段くらいすっ飛ばして、最上級ヒールを選択。


 なんか赤字で警告が出てる……MP最大値を超える消耗につき、術者虚脱状態になりますとかなんとか。

 

(お姉ちゃん……警告出てるんだけど、やっちゃっていいの?)


(死にゃしないから、大丈夫よ……もっとも、しばらく気絶して、身体も動かせなくなるから、まどかさんをなんとかしないといけないけどね……)


「いいのね? これやっちゃうよ! は、発動っ! 至高の癒やし(ハイエクステンション)!!」


 ……まどかさん、こっちが躊躇してるのも構わず、最終承認を押して、最上級回復魔法を発動する。

 まどかさんの持つメイスから、虹色に輝く光の奔流が飛び出して、王様のベッドを包み込むっ!


「な、なんと……これは、まさか「至高の癒やし」か……! 神去しこの地では、もはや誰も使い手が居なくなったはずの最上級回復魔法……。き、君は私を救う気でいるのか? 何故だ……私は、君達を身勝手な理由で召喚したと言うのに……」


 少しは楽になったのか、王様の顔色が若干良くなっていた。

 目にも光が戻ってきて、土気色の肌も赤みがさしてきて、傍目にも良くなっているのが解る。

 

「おいおい、看護師さん……すげぇな、いきなりそんな真似をするなんて……。王様とやら……ヤバそうな感じだったのに、すっかり、顔色良くなっちまったじゃねぇか!」


 社長さんがビックリしたように、呆然と呟く。

 あんな、今にも死にそうだった人が、すっかり元気そうになってる……本職回復術士の最上級回復魔法……。

 

 死んでさえ居なければ、どんな重傷でも回復するって、言ってたけど、やっぱり尋常じゃないな。

 

 けど、案の定、相応に酷く消耗したらしく、まどかさんががっくりと膝をつく。

 慌てて、駆け寄って、背中から抱きとめる。

 

 MPを限界まで浪費すると、虚脱状態と言う重度の貧血みたいな状態になるらしい。

 警告も出てたけど、この分だと、根こそぎMP使い切ってとか、そんな感じみたいだった。

 

 ホント、無茶するなぁ……でも、これならっ!

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